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ヒューマンドラマ

散った花びらは、また出会う

作者: たこす
掲載日:2017/02/26

「たーくん!」


 ある日のことだ。

 公園の砂場で遊んでいると、一人の女の子がやってきた。

 ボクよりも少し背の高い金髪の女の子。


「誰?」


 スコップを持ちながらボクは尋ねる。


「私よ、マリーよ。忘れちゃったの?」


 全然知らない子だった。


「知らない」


 そう言うとマリーは「えー」と言ってむくれた。

 その顔がちょっと可愛かった。

 でも、誰なのかまったくわからない。


「この辺りに住んでるの?」

「うん。アメリカから引っ越してきたの」


 あめりか?

 遠い遠いどこかの国というのは知っている。

 でも、だとしたらやっぱりボクの知らない子だ。


「ねえ、誰かと間違えてない?」

「ううん、たーくんだってすぐにわかった。日本に来るとき、絶対会えるって思ってたから」


 うーんと首をひねる。

 絶対、誰かと間違えてる。そうとしか思えない。

 全然思い出せないボクに、マリーは嫌な顔ひとつしないで言った。


「いいよ、思い出してくれるまで一緒にいる」


 そう言って、砂場で遊びはじめた。

 ボクはちょっと嫌な気持ちになった。せっかく一人で自分だけのお城を作ってたのに。


 ボクはブーとむくれながらお砂場セットを放り投げてブランコに向かった。

 すると、マリーもついてきた。


「ついてくんなよ」


 ちょっと怒り気味に言うとマリーは答えた。


「思い出してくれるまで一緒にいるもん」

「ちぇー」


 ボクはマリーを無視してブランコに乗った。

 ぎーこぎーこブランコをこいでいると、マリーも隣のブランコをこぎはじめる。


「懐かしいね。前はこうして二人でこいでたっけ」


 嘘だ。

 ボクはこんな子と一緒にブランコに乗った覚えはない。


「知らなーい」


 そう言って、めいっぱいブランコをこいだ。

 びゅんびゅん身体がふられて気持ちいい。

 勢いよくこいでいると、マリーは笑った。


「あははは、変わらないね、たーくん」


 そうして同じようにブランコに勢いをつけていく。

 本当に誰なんだろう。

 ボクは隣でブランコをこぐマリーを不思議そうに見つめた。


 何度見ても全然知らない子だった。それなのにむこうはボクを知っている。

 ちょっと腹がたってきた。

 ボクはからかってやろうと思った。


「じゃあ、こんなの出来る? 出来たら思い出してあげる」


 そう言って、こいでいるブランコにさらに勢いをつけた。

 びゅんびゅん身体が宙に浮く。


 そうして、ブランコが前にめいっぱいふられた瞬間、勢いよくジャンプした。

 ポーンと身体がはね飛ばされる。

 すごい高さで飛びながら地面にストンと着地する。


 どうだ、こんなのできないだろう。


 ニヤッとした顔を向けると、マリーは「できるもん」と言いながらびゅんびゅんブランコに勢いをつけ始めた。

 それはボクのよりも勢いがあって、ちょっと怖くなってくる。


「む、無理すんなよ」

「できるったら、できるもん」


 ブランコの勢いは増すばかり。

 ボクはすっごく怖くなった。


「い、いいよもう! やめろよ」


 止めようとした瞬間、「えーい」とマリーが飛んだ。

 それはまるで鳥のように天高く。


「あぶない!」


 あまりの高さに、慌てて受け止めようと手を差し伸べる。


「たーくん!」


 マリーの叫び声とともに、その身体がスローモーションのように一直線にボクに向かってきた。


 あれ?

 これって……。


 手を差し伸べない方がよかったと気づいた時はもう遅かった。


 避けられない──!


 そう思った直後、目の前が真っ暗になった……。



     ※



「残念ですが、もう……」


 気が付けば、僕は病室にいた。

 目の前には白いベッドに横たわる金髪の女性がいる。そして、枕元で脈をとりながら診察する医師。


 金髪の女性はうつろな目で僕に言う。


「たーくん……」

「マリー」

「ごめんね……。本当にごめんね……」

「何を謝るんだ。君は何も悪くない」


 手をしっかりと握りしめて僕は言う。


「悪いのは、君の異変に気付かなかった僕だ」

「たーくん、自分を責めないで」

「マリー、君がいなくなったら僕はどうやって……」


 涙を流す僕の目を、彼女は拭った。その力ない手で。


「たーくん、約束して。私の分まで生きるって。私の分まで幸せになるって」

「そんな……、出来ないよ。出来るはずがない」

「お願い……」


 か細く、絞り出すような声に、僕はただただ頷くしかなかった。


「わかった。わかったから。生きてくれ。少しでも長く」

「ふふ……」


 ホッとした表情を見せる彼女。

 そして、僕を元気づけるかのように言った。


「たーくん。これはお別れじゃないわ。しばらく、会えなくなるだけ。また……会いましょ」


 僕は一生懸命、笑顔を作った。


「またって……いつだい?」

「お互いに、生まれ変わったら……」

「生まれ変わったら? ずいぶん先だね」

「きっと会えるわ。絶対……」

「そうだね……。絶対だ。だから、生まれ変わっても忘れないでいてくれよ」

「あなたこそ忘れないでね……。忘れっぽいんだから」

「忘れるもんか。約束する」

「ふふ……またそれ。135回目の『約束する』……」

「よく覚えてるね」


 握りしめた手の力が、徐々に弱くなっていくのが感じられた。

 うつろな目がさらにうつろになっていく。


「マリー? マリー!?」

「……」


 必死に叫ぶ。

 けれどもマリーはもう答えなかった。

 

「マリー……マリー……!」


 嗚咽と共に彼女の名前を呼んだ。

 呼びながら僕は泣き崩れた。

 マリー。

 僕の最愛の、そして生涯唯一の妻。


 彼女の死に顔はまるで安らかに眠っているかのようだった……。



    ※



 ハッと目が覚めると、マリーがボクの顔を覗き込んでいた。


「たーくん、大丈夫!?」


 青い瞳を潤ませながら、おろおろと心配そうな顔をしている。

 どうやらブランコで飛んだマリーとぶつかって、気を失ったらしい。


「大丈夫」


 ボクは立ち上がると、彼女に顔を向けた。


「ああ、よかった」


 ホッとする彼女の顔を見て、ようやくすべてを思い出した。


 マリー。

 そうだ、彼女はボクの……。


「マリー」


 ボクはつぶやいた。

 今は可愛らしい女の子だけど。

 ボクもちっちゃな男の子だけど。


 小さくつぶやくボクに、マリーは目を丸くする。


「たーくん?」

「やっと会えたね」

「た、たーくん!?」

「思い出した。ぜんぶ思い出したよ」


 ブルブルと震えるマリー。

 そうか、彼女は覚えていてくれたんだ。

 ボクは忘れていたけど、彼女の方はずっと覚えてて、こうして会いにきてくれたんだ。


「本当に、久しぶり」


 そう言った直後、マリーはボクに抱きついてきた。


「たーくん!」


 あまりの勢いに、ドテンと倒れ込む。


「いて!」

「たーくん、たーくん、たーくん!」


 マリーは地面に頭を打ちつけて痛がるボクを気にすることなく、ぐりぐりと頭をうずめてくる。

 ボクはその頭をなでながら言った。


「ごめんね、さっきまで忘れてたみたい」


 マリーは身体を放して泣いた顔をボクに向けた。


「本当、たーくんって忘れっぽいんだから」

「ごめんね」



 もう一度謝るボクに、彼女は笑顔を見せた。

 それはとても懐かしい、本当に懐かしい笑顔だった。


「これからもよろしくね、たーくん」

「こちらこそ、マリー」



 公園で再会したボクらの時計の針は、いま再び動き出した。




お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃ良かったです! 感動しました! たーくんがマリーのことを思い出せて良かったです。 『135回目の約束する』のところがあまりにも面白くて吹き出してしまいました。 [気になる点] …
[気になる点] ある意味王道なので、展開が読めなくもないですし、読めていなくとも最後まで読んだ時に。あー、そういう話ねとなってしまうところがあると思います。 でもそれで、話の筋書き自体が否定されたと…
[良い点] タイトルが好きです! [一言] 王道的ストーリーですが、やはり王道にはそれだけの力があるのだと再認識させられました。 転生しても再会できたら、とても幸せですよね。 二人の子供を抱きしめて「…
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