私たちの未来
学校が始まって数日後、萌愛がやっと復帰しました。
智佳 「・・・・・・」
萌愛 「・・・・・・」
やっぱりあの出来事から話をしづらくなってしまいました。クラスにいても萌愛と話すことはありません。そんななか、私はいぶきさんの言葉を思い出しました。
『桜 萌愛も一度経験しているから大丈夫だと思うが、
あんたと桜 萌愛、二人の運命を決めるのはあんたにある。今後の展開によっては二人とも幸せになれるかもしれないし、あたしが目の当たりにした中学校のあの時よりも酷い結果になるかもしれない。さぁ、白百合 智佳、おそらくチャンスを作れるのは桜 萌愛が学校に来るときだろうな。猶予は何日あるかはわからない・・・早めに心を決めるんだ』
そうだ、私が何とかしないと、萌愛はいつまでたってもこのような状態が続いてしまう。
だから、私がその静寂を切って、
智佳 「ねぇ萌愛、放課後ちょっといいかな?」
萌愛 「うん」
と萌愛は一言だけで返し、それ以上は何も話そうとはしませんでした。
さぁ、本当に今日が勝負の日です。
まだ放課後までに時間はありますが、すでに心臓の鼓動が聞こえてくるほど緊張しきっているのがわかります。
そんななか、時間は刻々と進んでいき、放課後になってしまいました。
智佳 「それじゃあ萌愛、屋上に行こっか」
萌愛 「うん」
その日の気温は一段と冷え込んでいました。よって、屋上は私たち以外いませんでした。次に静寂を切ったのは萌愛の方でした。
萌愛 「こんなところに呼び出すってことは、この間の答えはもう決まったってことだね?」
智佳 「うん」
萌愛はインフルエンザのせいなのか、どうなのかは知りませんが、普段に比べ、やつれているように見え、目に光がともっていません。そして、萌愛はストレートに
萌愛 「ねぇ、わたしのこと好き?」
智佳 「もちろん、大好きだよ」
私も本心で返しました。
萌愛 「それじゃあ、わたしと付き合ってくれるんだね!」
声のトーンは普段通りに戻っていますが、やつれと目に光がともってないことから、多少恐怖を感じました。もしも、そのまま付き合うと言ってしまったら、萌愛は本当の愛情を知ることはできるのだろうか。この歪んだ愛情表現を修正することはできるのでしょうか。否、おそらく萌愛はこれまでの出来事のせいで他人を信頼するということを忘れてしまい、束縛して自分の管理下に無いと、愛と呼べないようになってしまっているのであろう。
だから私はこう切り出しました。
智佳 「その前に、萌愛の過去について聞かせてくれないかな?」
萌愛 「・・・え」
この展開は予想してなかったのか、明らかに萌愛に同様の色が見られます。説得力を上げるために、適当に理由をつけます。
智佳 「やっぱり付き合うんだったら過去も知っておかないといけないでしょ?」
萌愛 「わかった・・・智佳が言うならすべてを話すよ」
萌愛は全てを話してくれました。
中学の頃、一人の女の子を好きになったこと・・・その子に裏で悪口を言われていたこと・・・愛を伝えるために常にその女の子の行動が見える位置に陣取っていたこと・・・その子が不登校となった後、いじめられ始めたこと・・・いぶきさんが言っていたこととほとんど違いはありませんでしたが、本人から聞くことは、やっぱり重量感があります。ですが、萌愛は自分が悪いとは微塵も思っていませんでした。これは本当に価値観が狂っちゃっていると確信しました。
智佳 「うん、全部話してくれてありがとうね、つらい思い出も全部・・・」
萌愛 「でもこのことで、わたしのことを嫌いになったでしょ?」
萌愛の言うこのこととはは多分いじめられていることで、その被害が私にも及ぶ可能性があるということでしょう。
智佳 「そんなことないよ、正直に話してくれない方が嫌いになるよ」
萌愛 「そう・・・」
智佳 「だけどね、萌愛、本当に相手のことを好きになるってことは、自分のものにするんじゃなく、あいてを信じることが大切だと思うの」
萌愛 「・・・」
智佳 「本当に好きだったら、相手を見なくても信じて待つことができる。しばらく会えなくとも不安な気持ちは自然と浮かんでこないはずだよ。信じあうということは、相手も自分を信じてくれていないと成り立たないもので、信じあうことはそのままお互いの愛の象徴となっているって私は考えているんだ」
萌愛 「・・・・・・」
智佳 「萌愛の言っていた、その女の子といて萌愛は楽しかったかもしれないけど、その子は心からの笑顔を見せてくれたことはあった?」
萌愛 「あ・・・」
智佳 「一年近く萌愛と友達だった私ならわかる。最初のうちは学校に慣れていない萌愛に対しての親切心から始まったんだと思う。だけど、萌愛は親切にされたことに慣れてなくって、自分から他人と話すのも苦手だから初めて自分に話してくれたその子に執着するようになっていって、それが歪んだ愛情になっていったんじゃないかな?」
萌愛 「だって!そうでもしないとまたわたしを置いていなくなっちゃうかもしれないじゃん!!!」
萌愛は声を張り上げて反論しました。ですが、私は怯まずに萌愛を
ぎゅっ・・・
抱きしめました。
萌愛 「え・・・?」
萌愛もこのことは予想していなかったのか、驚きの色を表しました。
智佳 「私は、萌愛のことを信じているよ。今まで一緒に過ごした楽しかった思い出、心から笑っていた桜の満開のような萌愛の笑顔。その笑顔に私は何回も癒されて、私も萌愛のことが好きになっていったんだと思う。これらの出来事は全部、萌愛の本心じゃないとできないことだよね」
萌愛 「・・・どうして、人間って他人の行動も思考もよくわからないのに、智佳は信じることができるの?」
智佳 「それは、萌愛が好きだから」
萌愛 「智佳・・・ッ」
智佳 「私ね、最近萌愛に元気がなくって心配だったんだ。自分の感情を伝えられなくて辛かっただけなんだよね?」
そうして私は萌愛の背中を抱きしめたままポンポンと叩きました。
萌愛 「智佳ぁ・・・・・・」
萌愛は鼻声で言っていました。そして、私は萌愛の背中が小刻みに振動するのを感じました。泣いているのは確認するまでもありません。すると、萌愛のポケットからキラリと光る物体が落ちました。
それは、包丁でした。私はなぜかその時には恐怖を感じませんでした。なぜなら、萌愛を信じているから。すると、萌愛は泣きじゃくりながら
萌愛 「ごめんなさいッ・・・ごめんなさいッ!・・・わたしね・・・もしも智佳が告白を断ったら、この包丁で・・・智佳わたしだけのものにしようとしてた・・・だけど、それは智佳を信じ切れていなかったから・・・ずっとわかるところにいないと、どこかに行っちゃうと思ってたから・・・ごめんなさいッ!」
智佳 「そんなことしなくても大丈夫だよ。私は勝手にどこかへ行ったりなんかしない・・・だから萌愛もこれからはちゃんと私のことを信じてくれる?」
すると、鼻声ではありますがやっと戻った元気な声で
萌愛 「もちろん!」
そうして、萌愛は続けて言います。
萌愛 「わたしね、さっきも言ったように、本当の愛情をよく知らないんだ。だから智佳、わたしに絶対教えてよね!」
智佳 「まかせて!」
そんなこんなで打ち解けた私たちは久しぶりに二人そろって下校しました。その日の夕焼けはとても明るく、まるで私たちの明るい未来を象徴しているかのようでした。




