衝撃の事実
もう、日本中が火星人に支配されてて、わたしの居場所なんてどこにもないんだ。
わたしはこれから宇宙人に連れ去られて、ばらばらに解剖されちゃうんだ。
ちらちらとそんなことを思い、わたしは泣きながら家の帰り道を歩いていた。
「……だめだ」
しかしやっぱり宇宙人とか結局現実感がない。
今確かにわかるのは、もう、日常には戻れないということ。
もう、会社に戻れない。
やっと仕事が楽しくなってきたのに。
「何がいけないんだろう。セクハラよばわりしたことかなあ」
そう考えながら、アパートの郵便受けを素通りして、二階の部屋に上がる。
「いや、べつにそうじゃなくて」
独り言に返事が聞こえた。
部屋の扉の前に宮本くんが立っていた。
(わたしより、早くにわたしの家にいるってことは、駅ですれ違ったのかな)
それとも宇宙人だからUFOで飛んできたのかな。
もう、みんなが敵だと思うと、かえって腹が据わった。きっと睨みつけて、言ってやる。
「何しに来たの。誘拐? 解剖?」
「しない、しない、しない、しない」
宮本くんは両手と首をぶんぶん振って、全身で否定した。
その宮本くんの態度が、なんだかそれが本当のことに思えて、わたしの目からぼろ、っと涙が落ちた。
宮本くんは、ぎょっとして、固まって。
それからハンカチをすっと出してくれた。
「怖がらせて、ごめんさい」
「うーーー」
すみません、ごめんなさい、と宮本はくり返した。それに安心したせいか、わたしはかえって、泣きじゃくってしまった。
宮本くんは泣いてるわたしをしばらく見ていたが、ためらいがちに背中をさすってくれた。
泣きやむまで、ずっと。
「宮本くん、あのね」
だから、ようやく勇気をだしてわたしも言えた。
おとといみたいに宮本くんの手を持って、わたしは言った。
「宮本くんが、青い血でも、宇宙人でもなんでもよかったの。別にわたしはよかったの」
「……うん」
「見ないふりしてれば、宮本くんだって困らないでしょ。だからそうしようと思ってたのに」
「ごめんなさい」
もう一度、宮本くんは謝った。
そしておもむろに「気を悪くしないで聞いてほしいんだけど」とわたしの両肩に手を置いて、悩ましげに告白してきた。
衝撃の事実を。
「宇宙人サポートセンターから預かった書類があってさ。乾さんにそれを一筆書いてもらわないと、俺の方が誘拐っていうか、地球外追放される感じで」
「へ?」
「だから一刻も早く、ちゃんと話をしたくて、みんなに協力してもらいました! むしろ怖がらせて本当に申し訳ありませんでした!」
わたしは、もう。なんだかわかんなくなってて。
とりあえず、家で顔を洗わせてくれと宮本くんに頼んだ。