表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

もうやだ

 会社から逃げだして、会社の最寄駅のホームのイスに座って、ぼんやりと空をみる。

 白い月が、今日はくっきり見える。

(夜でた月が残っている明け方の時間帯を、朝月夜(あさづくよ)っていうのよね)

 朝どころか、もうすぐお昼だ。昼月夜ってのは聞いたことがないから。今はただの昼なんだろうと、とりとめないことを思っていたら、お腹がぐう、と鳴った。

(会社、戻らなきゃ)

 とどこかで思うけど、どんな顔して戻っていいのやら、なかなか決心が定まらない。

(でも会社に行ったら、宮本くんや石垣社長に会っちゃう)

 何本目かの電車がガタンゴトンと近づいてくる。

 これに乗れば家に帰れる。

 でも今日はとりあえず帰った方がいいだろうか。

 でも、これで家にかえったら、もう会社には行けなくなっちゃう気がして、なんだか乗る気になれない。

 どうしよう、と迷っていると近くに立っていた駅員さんが声をかけてくれた。

「具合でも悪いんですか」

「いえ、大丈夫です」

「乗られますか?」

「……いえ」

 まだ、決心がつかない。

「乾里桜さんですよね」

「へ!?」

 見知らぬ駅員さんに名前を言い当てられて、わたしはあせった。

―― 扉が閉まります。

 アナウンスが聞こえる。

 駅長さんは言った。良い天気ですね、とでもいうように。自然に。

「あなた。われわれの正体を知ってしまったそうですね」

「……!」

(なんで。)

 なんでわたしのことをしってるんだろう。

 突然、にっこり笑う駅員さんの顔が恐ろしく見えて、とっさに電車に飛び乗った。

――ぷしゅ、とちょうど扉がしまる。

 駆け込み乗車はおやめください

 アナウンスが耳を通り過ぎる。

 いまの会話は夢じゃないだろうか、なんて思っていると、スマホが鳴った。

 満川先輩の個人携帯からだった。昼食休憩になり、かけてくれたのだろうとわたしは思った。

(満川先輩に、聞いてほしい)

 もう、電波だと言われても、変人だと言われても構わない。一人で抱え込むのは、たくさんだ。

 マナー違反は承知の上で電話に出る。

「満川先輩、わたし……」

『乾さん。宮本くんの正体のことで話があるんだけど』

 わたしの言葉にかぶさるように、満川先輩が言ってきた。

 宮本くんの正体?

 もうやだ。

「もう、やだあ」

 わたしは泣きながら、スマホの電源を切った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ