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04魔界的面接会場


「それで、我が城で働きたいと」


 サジットは不信感を隠そうともせずヤマネコを凝視している。この男の話によれば、自分は天界で生まれた神属と魔属のハーフで、今まで天界に隠れ住んでいたのだそうだ。しかしその事が天使達にばれてしまい、両親は殺され自分は地上に追放されてしまった。そこで以前世話になっていたソーマが、ここ魔界で暮らしているという話を思い出し、彼女を頼って大魔王城を訪れたのだという。


 にわかに信じがたい話だが、現大魔王が採用した門番が天使なのは間違いない。彼女の紹介で大魔王城にやってきた事は紛れもない事実だ。外部の者が彼女の許し無く門を通る事はできない。


「どうも嘘くさいですね。あたしはそんな話聞いた事ありませんよ」


 サジットが面接のため同室させたのは、玉飾りを付けた褐色の肌の女性。魔人属であるハガも男の話を信じてはいなかった。噂好きの彼女は魔界の事なら何でも知っている。


「神魔属って事でしょう?魔人王のご子息様じゃあるまいし、そうそう同じようなのがいますかね。まあ、結構強そうなのは認めますけど」


 いるのか。ヤマネコは彼女の話を聞いてしくじったと思った。絶対に無さそうなテキトーな嘘を喋ったつもりだったのだ。そうすれば事実を確認しようがない。それにしても自分達双子以外に神魔属が存在しているとは知らなかった。それもここ魔界で。


 己が神魔属であるのは間違いないのだからそこは大丈夫だ。突拍子も無い話にちょっぴり真実を加えた方が嘘はばれにくい。ヤマネコは話の路線を変更しようか迷った。実は嘘でソーマの息子です、なんて冗談はどうだろう。いや、女性の方はともかく頭が固そうなこの男には逆効果を与えそうだ。


 一方サジットも迷っていた。どう見ても怪しい男だが、今は人手不足。戦力は多いに越した事はない。ただでさえ闇の力が多くなり、魔界は危険が増している。それなのに現大魔王である主の妙な実験や行動により、巻き込まれた部下達の多くは城を離れていく始末。このままでは前大魔王であるリンバー様に顔向けが出来ない。いや、今はそんな事よりこの怪しい男をどうするかだ。


 話の真偽はともかく、闇が蔓延する道を抜けてこの城まで辿り着けた点は評価しよう。大魔王様が作った馬鹿らしい罠に引っかからなかった事から、人並みの常識は持っているだろうと判断できる。あんな見え見えの仕掛けでも、立て札を鵜呑みにしてここまで来た者は信じてしまうのだ。現に部下にも一人、ギロチンの餌食になった者がいる。 城を攻めに来たのであれば、門番のソーマが始末しているはず。ああ見えて彼女は非常に優秀で、敵意には敏感だ。この男が天界からのスパイだった場合、裏切りともいえる行為をしている彼女を見逃すはずがない。

 何よりこんな怪しい格好の男が、規則と格式を重んじる天界の住人とは到底思えない。


 しばらく下働きでもさせて様子を見てみるか。機人王の監視があるうちに戦力の増強は済ませておきたい。結論を出したサジットはもう一度ヤマネコを見た。料理場の人手は足りている。残っているのは掃除夫ぐらいか。あの目つきも態度も悪い掃除夫は、いつも城の広さに文句を言っていた。丁度いいだろう。

 それにしても、この男の顔を見ていると何か違和感を覚える。どこかで会ったような、そんな気がしてくるのだ。


「で、どうするんです?」


 ハガの声でサジットは我に返った。随分長く思考していたため、彼女は痺れを切らしたようだ。そういえばこの間自分とあの男は一言も喋っていなかった。


「そうですね、ではあなたには」


「おい、ちょっといいか」


 早速雑用を命じようとした所に邪魔が入った。部屋の外から声を掛けたのは先程自分が連想した、浅黒い肌の掃除夫だった。手に持ったハタキをぶらぶらさせながら部屋の入り口に寄り掛かっている。サジットは男を注意した後、すぐにこの部屋にも扉を付けようと固く誓った。


「何か用?今取り込み中だけど」


 ハガは入ってきた同族の男を咎めたりはしなかった。実際神経質になっているのはサジットだけで、他の部下達は礼節など全く気にしていない。様々な魔属から選りすぐられた大魔王の部下達は、主義も主張もバラバラだ。真面目さが取り得のサジットにとって、そんな連中を相手にするのは非常に骨が折れる。


 中でも最近入ったこの男の事は気に食わなかった。魔法を得意とする魔人属でありながら、魔法を苦手としているため戦力として役に立たない。しかし現大魔王に気が合いそうだからという理由だけで採用されたのだ。それなのに態度は大きいし、仕事にも文句を言う。以来サジットは大魔王に部下のスカウトを禁止している。


「別に放っておいてもよかったけどよ、一応あんたに知らせた方がいいかと思ってな」


 男はにやにやしながらサジットの反応をうかがっている。


「一体何の用ですか。もったいぶっていないで言ったらどうです」


 人の仕事を中断させておいてこの男は。下らない話をしにやってきたのであれば、迷う事無く攻撃魔法を食らわせようとサジットは思った。ここにいる新入りにもいい教訓になるだろう。相手が防御魔法も使えない男だろうと容赦しない。

 そんなサジットの感情も知らず、掃除夫の男は軽い調子で話しだす。


「さっき東の塔の辺りでビッグマーを見かけたぜ。何だかキョロキョロして怪しかったんで、声掛けたら大げさに驚きやがった。よく見るとでかい花が咲いた植木鉢持って歩いてんだ。似合わないったらありゃしねえ」


「まあ確かに似合いそうにないわね、それ」


 ハガの同意を受けて、そうだろ?笑えるよな!と掃除夫は一人で盛り上がっている。一方話を聞いたサジットは、とてつもなく嫌な予感がしていた。心当たりがある。だが考えたくない。脳内で数十秒の葛藤を経て、彼は意を決し男に質問した。


「その花、黄色でしたか?」


「あぁ?別に色なんかどーでもいいだろ。いちいち細かい奴だな」


「黄色い花かと聞いているんです!」


 面倒そうに答えていた掃除夫の男は、いきなり凄い剣幕で怒鳴られ面食らっていた。小言を言われるくらいにしか思っていなかったのだろう。普段声を荒げる事の無いサジットの態度に、ハガも何事かと驚いている。先程から存在を忘れ去られているヤマネコは、仕方が無いのでぼーっと窓の外を眺めていた。


「何だよ、花がどうかしたのか」


「早く質問に答えて下さい、三度目はありませんよ」


 静かだが殺気のこもったサジットの言葉に、男は渋々答える。


「確かに黄色だったな。でも地上にもあるような花だぜ」


「ヒマワリの花、ですよね」


「ああ、多分そんな名前だな」


 二人のやりとりを聞いていたハガも、ヒマワリの花という単語で理解した。同時にサジットがこうも焦っている理由も。彼は素早く席を立ち、部屋を出て行く。彼女もその後を追った。


「ハガ、手分けして探します!私は下の階から、あなたは頂上からお願いします」


「了解。間に合うといいんですけど」


「ヘッジ、お客様には残念ですが今日は帰ってもらうよう言って下さい」


 部屋に一人残された掃除夫ヘッジは、何が起こっているのかさっぱり分からなかった。彼は応接室をぐるりと見回しぽつりと言った。


「客って、誰もいねーじゃねえか」





 塔へ向かうサジットはただひたすら急いでいた。すれ違う者に事情を説明する間も惜しい。こんな時に限って大魔王城を支配、監視している機人王は留守だ。彼女の力をもってすれば一瞬で見つけられるものを。いない者を頼っても仕方が無い。今はとにかく急がなくては。


 それなのに。


「あのー、ちょっといいですかー?」


 我々の後ろには先程応接室で待たせていたはずの、ヤマネコと名乗った男がいた。一体いつの間に部屋を抜け出したのか。相手をしている暇は無いというのに、しつこく追ってくる。こちらが無視しているのを分かっているだろうに、すみませーん、もしもーし、などと呼びかけている。


 それでもしばらく放っておいたところ、今度は急に走る速度を上げ追いついてきた。何をしたいのだこの男は。広げた巻物に乗って空中を進んでいるハガは、先に行きますよと一言残して飛び去った。こんな怪しげな男と二人きりにしないでほしい。仕方なくサジットは男の方を向いた。視線を受けたヤマネコは呼びかけをやめ、本題に入った。


「手伝いますよ、人手が多い方がいいでしょ」


「ありがたい申し出ですが、今日来たばかりのあなたには無理です。大体探している相手の顔を知らなくては話になりませんよ」


 長年仕えているサジットでさえ、この広い大魔王城の全てを把握している訳ではない。別館の塔だけでも数十部屋が存在し、多数の罠も仕掛けられている。それこそ入り口の仕掛けがオモチャに見えるような恐ろしい物が。構造も定期的に変化し、城内で遭難する者さえいるのだ。


「こう見えて人探しは得意なんですよ。ちょっと試してみませんか」


 それでも男は食い下がってくる。余程自信があるらしい。


「もし見つけられたら、採用してくれません?」


「勝手にして下さい」


「じゃ」


 そう言い残すとヤマネコは反対方向に走り去った。まさか人探しを理由に城内を探りに来たのか。だとしたら放ってはおけないが、今は彼を見つける事が先決だ。あんな男一人に構っている余裕は無い。もしスパイだとしても、一度入ったこの城からはそう簡単に出られない。そちらは後回しだ。


 サジットは東の塔を目指した。



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