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24大魔王帰還当日


 翌日。前大魔王リンバーの帰還は予定通り決行される事となった。前日のショックを引きずっていたビッグマーが妨害工作を仕掛けなかったため、パーティも滞りなく行われた。前大魔王に縁のある者達が訪れ彼との別れを惜しんだ。その中にはもちろん八人の魔王の生き残りである前魔人王と魚人王も含まれている。


 宴は一日中続けられ全ての催しが終了する頃には、魔界時計が次の日を指そうとしていた。パーティを取り仕切っていたサジットは時間通りに招待客を帰らせ、すぐに片付けの準備を命じた。リンバーに仕える最後の日。彼は全てを完璧にこなしてリンバーを気持ち良く送り出すつもりだった。前日のサボりが見つかったヘッジは特に厳しく見張られていた。


 その様子を大魔王の執務室から彼の敬愛する主が眺めていた。


「あいつ、張り切ってるなぁ」


 部屋の中にはリンバーと機人王チェンマー、帰還の手伝いのために残った前魔人王であるハーレルの三人がいた。現在の主であるビッグマーは執務室にはいなかった。いや、パーティに参加すらしていない。彼が城にいないのは別段珍しい事ではないので特に誰も気にしていなかった。ただサジットだけは最後の別れというためパーティが始まるまでビッグマーを探していたが、結局見つかりはしなかった。


「お前との最後の別れだからな。張り切らん方がおかしいだろ」


 褐色の肌と銀髪の女性ハーレルはそう言って一番豪華な椅子、玉座に堂々と腰掛けた。彼女の態度に慣れている二人は特に気にしていない。サジットがこの場にいても相手が相手なので苦笑いするしか無かっただろう。椅子の上で足を組む彼女はセクシーというよりその格好も相まっていっそ男らしかった。


 チェンマーは普段よりも豪華さを増した衣装に身を包み、リンバーはパーティで着ていた飾りとマントを脱ぎ捨て地味な格好に戻っていた。この格好で城内を歩いていたら元大魔王だと気付かれないかもしれない。


「そういえばさっきビッグマーが来てマオールを部屋から連れ出していたわよ」


 窓から離れたリンバーに腕を絡ませながらチェンマーが言った。彼女はようやく二人きりで帰れるとなって始終上機嫌だ。


「あいつの事だから何か最後に仕掛けて来るかもしれないな」


「大丈夫よ、リンバー。ハーレルもいるし邪魔なんてできっこないわ」


 確かにいくらビッグマーとマオールがいても、この面子をどうこうする事はできないだろう。息子が加われば分からないが、とハーレルは思っていた。


「うちのベリルが先日ここに来たと思うが、何か変わった事は無かったか?」


 ビッグマーを始末しないのは分かっていた。だが妙にがっかりしていた態度が気になった。一緒に城を出た部下はズタボロになっていたが、多分それは関係無いだろう。あるとしたらきっとビッグマーの息子であるマオールに関する事だ。母親の勘は鋭かった。


「さぁ?壊れてたのは外に張った結界だけよ。他に被害は無かったわ」


 チェンマーが留守にしていたため、城内の映像は残っていない。あの後また破壊されたホールはベリルが綺麗に修復していた。彼らが行ったとんでもない所業は誰にもばれていなかった。無論、マオールの性別の件も。


「そうか。迷惑を掛けたな」


 てっきり大魔王城を破壊し尽くしているとハーレルは思っていた。彼女は大魔王城が壊れていたら修復の手伝いをしようと、一番先に城を訪れていたのだった。


「いや、別に構わない。うちの息子もよく壊すからな」


 毎回大魔王城の修復にはハガとサジットが当たっていた。今回は急場凌ぎのために作られた結界と、その周辺が少し傷付いたくらいだったので大した事は無い。機人王が中にいれば警備システムがあるので結界は必要無く、外壁部分は簡単に修復できる。ビッグマーが普段しでかす被害の方が余程大きかった。


「あなたも大変よね。まあビッグマーと違って優秀な分いいでしょうけど」


「そうでもないさ。何か失敗してもうまく隠されてしまうからな。ビッグマーのように分かりやすい方がこちらとしては助かる」


 ベリルの場合は問題を起こしても自分で何とかしてしまうので、いつかとんでもない事をしでかすのではないかとハーレルは内心思っていた。同年代の知り合いがビッグマー一人しかいないのも原因かもしれない。他に友達でも作ってくれればいいのだが、魔人王を継承してからは子供と会う機会など全く無かった。


 今の所はビッグマーが一方的にベリルを毛嫌いしているため心配は無いが、二人が手を組んだりしたらそれはもう恐ろしい事が起こるのでは、と皆口を揃えていた。先日の大魔王城訪問も幹部達の反対は凄まじいものがあった。


「そういうものかしら?」


 チェンマーには理解できないようだ。彼女から見ればベリルの方がビッグマーよりずっといい。もしベリルがリンバーの後継者だったら、もっと早くに帰る事ができただろうに。


「リンバー、本当にお前達二人だけで帰るつもりか」


「ああ、そのつもりだ」


 リンバーも執務室の椅子に腰掛ける。チェンマーもその隣にべったりとくっついている。何のためらいも無く即答したリンバーにハーレルは少し考え、前々から言おうと思っていた事を口にした。


「サジットも連れて行ってやったらどうだ?」


 その言葉を聞いて上機嫌でにこにこしていたチェンマーの表情が豹変した。


「ちょっと!何勝手な事言ってるのよ。あたしは二人で帰る日をずーっと待ってたの。だからリンバーが魔界を平和にするまで我慢してたし、大魔王城を守ってやったのよ。ここにいる奴らからようやく解放されるのに、連れて行ったら意味無いじゃないの!」


「そうだな。俺の部屋狭いからそんな余裕無いぞ」


 怒りをあらわにするチェンマーに対して、リンバーの方は至極真面目に話していた。二人の温度差と考えの食い違いに、どうしてこうも正反対の者達が一緒にいられるのかとハーレルは不思議に感じた。チェンマーの一方的な愛情表現に付き合っていながら、その感情を全く理解していないというのもおかしい。


 昔からリンバーが恋愛方面に鈍感なのは気付いていたが、ここまでくるとわざとやっているようにしか思えない。これが住む世界の違いというものだろうか。ハーレルは呆れるのを通り越して感心した。


 そういう彼女もパーティ会場で魚人王のアプローチを受けながら、全く気付いていなかったという鈍感ぶりなので人の事は言えない。


「いや、そんな現実的な話ではなくてだな」


 リンバーに伝わるようにハーレルはできるだけ簡潔な言葉を選んだ。


「サジットはお前の事が好きだ。尊敬する以上にな」


 チェンマーの目が余計な事を言うな!という殺気にまみれていたが気にしない。サジットはリンバーと同じく、魔界を立て直すために戦った仲間だ。八人の魔王達が共に協力できたのも初代大魔王の後継者を探すため、危険を冒して異世界へと旅立った彼の働きがあってこそ。


 このままではきっと、サジットは自分の気持ちを隠したまま別れる事になる。彼がお気に入りのビッグマーには悪いが、ここは友人として言ってやるべきだと彼女は思った。


「もし連れて行かないのなら理由をきちんと言ってやるべきだ。諦めさせてやるのもお前の勤めだろう」


 ハーレルに言われ、リンバーは考えた。彼としては先程述べた以外の理由が無い。向こうで世界のために厳しい戦いに参加し、チームで集団生活を行っている彼に与えられているのは狭い一部屋だけ。とても他人を招き入れるだけの余裕も蓄えも無い。


 闇に支配されたリンバーの住む世界、ウィンターナイトでは魔法もほとんど使えない。魔属であっても身を守るのは難しいだろう。現に魔界から送られたほとんどの魔属が闇に食われてその身を滅ぼした。チェンマーは別だ。彼女は元からそこに住まう闇の者なので、感情を吸われる事も外で襲われる心配も無い。


 ウィンターナイトの生物が滅ぶのも時間の問題だ。それでも最期まで抗いたいという自分達のような物好きに他世界の者を付き合わせたいとは思わない。リンバーは元の世界で戦い、死ぬつもりだった。死んだ後の魂はチェンマーにやると約束している。それをサジットも知っているはずだ。


 生まれた時から闇の世界で暮らし、感情を搾取され続けたリンバーには恋愛感情という物が無かった。むしろそういった者達しか生き残れない世界だった。


「ついて行きたいと思うか?俺もそう長く持たないと思うぞ」


「それは本人に直接聞くんだな。私だったら帰還ゲートを跡形も無く破壊して帰れない状況を作るか、そんな感情も起こさせないくらい惚れさせるがな」


 元は神属だった血人王を伴侶にしたハーレルの言葉には説得力があった。


「大丈夫、ゲートは向こうからあたしが壊すから」


 同じく自信たっぷりに笑うチェンマーを見て、女は怖いものだとリンバーはほんの少しだけ思った。






「何か用ですか」


 たまたま執務室の前を通りかかったハガは、入るタイミングを逃して扉の前で立ち尽くす魚人王を見つけた。恐らく別れの挨拶という名目で中に入りハーレルを口説くつもりだったのだろう。元からの青い肌がさらに青くなっているような気がする。彼はしばらく沈黙すると、そのまま無言で立ち去っていった。


「?」


 その姿をしばらく眺めていたハガは気が済むと、用事を伝えるべく扉を開き中に入った。見ると何やらリンバーを挟んで女性陣二人が睨み合っているような構図だ。うちの主も一体何をやっているのやら。とりあえず彼女は与えられた仕事を全うすべく声を掛けた。


「リンバー様、帰還ゲートの準備ができました」


「さあ帰るわよ!リンバー」


 無駄に張り切っているチェンマーはリンバーを部屋の外へと引きずっていった。彼は文句も言わずされるがままだ。部屋に残されたスパイと上司はその様子を黙って見送った。


「何ですか?一体」


「さあな」


 妙な雰囲気の中、ハーレルも部屋を後にした。残されたハガは意味が分からず首を傾げるしかなかった。



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