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23剣と告白と相棒


 タロットを倒した一行は焼け焦げたホールへと戻った。到着した魔人王はまず壊滅的になった聖域を魔法で修復した。聖剣の台座や天井の水晶は元通りに治ったが、ホールに流れていた水はすぐには戻せない。剣の聖なる力が水に宿るには時間が掛かる。とりあえずは普通の水を流す事で誤魔化した。


「ビッグマー、剣を台座に置け」


 初代大魔王を倒して上機嫌のビッグマーはおう、と返事をして素直に従った。マオールから渡された魔剣が台座に設置されるとベリルは杖を振って呪文を唱える。


「呪われし者に愛と祝福を。エンゼル・ティアーズ」


 杖から光る小さな水滴が落ちると聖なる光が剣全体を包み込んだ。神属の使う魔法のためビッグマーにとっては嫌な光だ。光は刃に付着した血の染みを綺麗に洗い流し、聖剣は元の輝きを取り戻した。


「よっしゃ!これでようやく聖剣が俺の手に」


「ちょっと待て」


「待ちたまえ」


 早速剣を掴もうとしたビッグマーの行動はいつものように魔人王に止められた。無視して剣を取ろうとしたビッグマーは、そこでもう一つ聞き覚えのある声に気付き振り向いた。


「いつ私が貴様に剣をやると言った」


 ベリルの横には先程倒したばかりのタロットが半透明で存在していた。やや不機嫌そうな表情でビッグマーを見ている。タロットを倒したといっても、魔人王が作った仮初の体が消滅しただけで魂は無事だ。初代大魔王の魂は聖剣の力で現世に留まっている。聖剣が壊されでもしない限り彼が完全に倒される事は無い。


 往生際の悪いタロットにビッグマーは抗議の声を上げた。


「倒されたんだから大人しく聖剣をよこせ!それでも大魔王かよ」


 ここで剣をもらえなければ今までの苦労が水の泡だ。一体何のために戦ったというのだ。タロットはビッグマーを無視してベリルとマオールの方を見た。


「二人共見事だったよ。特に幼いながらにあれ程の呪文を使いこなすのには感服した。君達がいれば魔界は安泰だろう」


 褒められたマオールは素直に喜んでいる。まおー達もきゃーきゃー言いながら周りを駆け回った。ベリルはわざとらしいタロットの振る舞いを他人事のように聞いている。彼は変わらず初代大魔王をあまり良く思ってはいなかった。それでも嬉しそうにしているマオールの前で、わざわざ嫌味を言う程大人気無くはない。


 タロットが聖剣に触れると、剣から発せられていた聖なる光は内部に収まった。魔属を蝕む程だった力が制御できるように手を加える。これで誰が触れても焼かれる事は無くなった。


「よし!それじゃあ俺が」


 今度こそ剣を取ろうとしたビッグマーだったが、タロットがひょいと剣を抜き二人の前へ出た。勢い余ったビッグマーは修復されたばかりの台座に突っ込み穴をあけた。


「魔人王ベリル、そしてマオールよ。君達に聖剣を使う許可を与えよう」


 華麗に宣言したタロット、そして名前を呼ばれた二人に天井から祝福の光が降り注いだ。


「俺は剣なんて使わねーからまおー、お前が持ってろよ」


「はーい」


 タロットはマオールに聖剣を手渡した。幼児が持つには大きい剣がマオールに触れた途端に形を変える。鋭い刃は細くて先の丸い棒に、装飾があった柄の部分はまおーの顔に変わり、まるでオモチャの様な剣が出来上がった。これは聖剣というよりまおーソードといった感じだ。


「聖剣は持つ者によってその形状を変える。魔人王、君が手にした場合は他の物に変わるだろう」


 剣を渡すとタロットは離れた位置で傍観しているハインラッドに視線を移した。


「ハインラッドといったね。人間でありながら健闘を見せた君にも何か褒美を取らせたいが」


「結構だ。俺は命令を受けただけなんでね」


 ハインラッドは素っ気無く答えた。彼は雇い主から報酬を貰えればそれでいいといった態度だ。


「それは残念だ。では私はこの辺で」


「コラァァァ!」


 勝手に話を進めて帰ろうとするタロットに渾身のツッコミが炸裂した。と言っても相手は透けているのでビッグマーの拳は届かず空を切っただけだった。そんな様子を初代大魔王は冷めた瞳で眺めていた。


「何だね騒々しい」


「お前に止めを刺したのは俺の力だろうが!何勝手に息子に渡してやがる」


 確かに最後に攻撃したのはビッグマーで、マオールはタロットの攻撃を跳ね返しただけだ。タロットが魔王の閃光を放った際に先に撃ったビッグマーの攻撃を巻き込んでいたのだから、跳ね返された攻撃に彼の力が含まれていたともいえる。


「私は正当な評価を下したまでだ。貴様が貢献していたとは到底思えないがね。むしろ足を引っ張っていただけではないか」


「うるせえ!てめえ俺に負けた事を認めたくないだけだろ」


「何を言う。私がいつ貴様に後れを取った?」


 言い争いを続ける二人を放置しベリルはハインラッドの帰還用の魔法陣を呼び出した。普段は魔界の門を通って勝手に帰ってもらうところだが、大魔王城を出る際に部下を回収するため正面から出て行かなくてはならない。そこであの天使に彼が見つかってはまたややこしい事になるだろう。わざわざ面倒を増やす必要は無い。


「金は後で届ける。自宅でいいよな?」


「それでいい。じゃあな」


 ハインラッドはとにかく早く帰りたいようだ。ビッグマーに気付かれないようにと小声で話す徹底ぶりだ。恐らく今度呼び出す時にビッグマーがいたのなら、彼は召喚を全力で拒否するだろう。


「ばいばーい」


 にこにこ手を振るマオールの声が聞こえた時には、既にハインラッドの姿は消えていた。それに気付いたビッグマーがお前のせいで俺の部下候補が帰っちまったじゃねえか、などとタロットに八つ当たりしていた。まだ勧誘を諦めていなかったらしい。雇い主の目の前で堂々と引き抜きをしようとはいい度胸だ。


「ベリルくんも帰っちゃうの?」


「そうだな。目的も果たしたし、一旦帰るか」


 ベリルが大魔王城に来た目的は大魔王ビッグマーの息子を見物する事と、再開の挨拶という名の襲撃で一対一の決闘をする事だった。以前からビッグマーがどれほど成長したかの確認をするのと同時に、あまりにひどいようなら倒して王位を奪ってこいとの母親の言葉で大魔王城にやってきたのだった。


 ビッグマーが王位を継いでからというもの、魔界には再び混乱が起ころうとしていた。前大魔王が封印していた闇の力を面白半分で解放。魔界全土で戦闘が起き魔属ほぼ全員が闇の者と戦う大戦争に。この時に開放された闇の力の半分以上は倒されたものの、残党は魔界全土に散らばってしまって今も行方が分からない。


 地上に魔界の門を大量に設置したと思えば翌日に壊してみたり、人間に恐れられていた食人王を復活させようとしてみたりと、その行動は支離滅裂、しっちゃかめっちゃかだ。反乱が起きなかったのが不思議なくらい、と言っても今は大魔王を中心にしている訳でもないので実際は皆手も出さず傍観していた。苦労したのは大魔王城で仕えていた者くらいだろう。


 ベリルはビッグマーに会ったら攻撃魔法で大魔王城を破壊して、その反応を見ようと思っていた。しかしビッグマーの目的が同じだった事と、意外に手ごわい部下が残っていたため目的を変更。奴を思う存分からかいつつ、息子の実力を計る事にした。この様子ではすぐに王位は次へ継承される。それならわざわざビッグマーを倒す必要も無い。ベリルも相手がいくら馬鹿で自分勝手だったとしても、進んで幼馴染を手に掛けようとは思わなかった。


 そして、彼が導き出した結論は現状維持だ。マオールの優秀さと思ったよりも人徳があった大魔王。まだ魔界がどうこうなる状態でもない。もし何か起こっても自分なら解決できる自信もある。幹部達は魔人王の自分が大魔王になる事に期待しているようだったが、しばらくは我慢してもらおう。うちの部下にも、大魔王の側近にも。


 名残惜しそうなマオールの顔を見て、ベリルは何か引っかかる物を感じた。そういえばビッグマーに会ったら聞こうと思っていたのだ。


「おいビッグマー」


「何だよ、今こっちは忙しいんだ。後にしろ」


 彼はまだタロットと言い争っていた。それに付き合う初代大魔王も案外馬鹿なんじゃないかとベリルは思い、無視して話を続けた。


「まおーの性別を男に決めたのってお前か?」


「は?」


 ビッグマーには質問の意味が分からなかった。


「だから、神魔属は生まれた時性別が無いだろ。自分で決めるか親が決める事になってるけどお前が決めたのか?それとも相手か?俺は自分で男に決めたけど」


 ビッグマーは無言でマオールを見た。息子は変わらずにこにこ笑っている。そう、息子だ。大魔王の後継者といえば息子に決まっている。


「ヒマワリの花を使ったんだよな。だったら呪文に織り込んだのか?」


 ベリルに言われビッグマーはマオールを呼び出す呪文の全文を思い出していた。






 大魔王の力を引き継ぐ者、マオール。


 その名にふさわしく力と魔力を兼ね備え、


 俺に似て美しく可愛く格好良く頭もよく誰からも愛され、


 魔法も完璧で殴られようが燃やされようが傷一つ付かない丈夫な体で、


 笑顔で誘惑できるほど魅力的かつ清純派アイドルで、


 性格も良く大魔王を尊敬し褒め称え仲間思いの良い子で、


 優しい心と度胸と根性と王の風格を併せ持ち、


 誰にも負けない真の力を隠し持っている最強の戦士を今ここに呼び出す。


 魔界最強の大魔王ビッグマー=ルイカンの名の下に!






 結論。性別に関する言葉は一切入っていなかった。そもそも神魔属なんて想定外の事態を予測できたはずもないし、神魔属が無性別だと彼や城の者達も知らなかった。恐らく機人王やリンバーでさえも知る由は無かっただろう。その知識を唯一得ていたのが魔人王直属のスパイであるハガだ。


 しかし彼女はビッグマーの呪文を聞いていない。そのためマオールを息子と呼んでいる彼から大魔王の継承者は男だと判断したのだ。もしかしたらビッグマーの間違いを見抜いていたかもしれないが、それをわざわざ指摘する程彼女はお節介では無かった。


「そうか、まだ決まっていないのか」


 ビッグマーの顔色からベリルは疑問を確信へと変えた。どうりで男の割に可愛すぎると思ったのだ。ベリルは再びマオールに視線を向けた。彼は大魔王の息子を将来下僕にしようと密かに考えていた。今のうちに懐かせておいて成長した暁には自分の手足として働かせようと。だが性別が決まっていないのなら話は別だ。


 ベリルはマオールの両肩に手を置き、その顔を見据えた。マオールはきょとんとした表情でベリルを見つめる。


「まおー、お前女になって俺の嫁にならないか」


「よめ?」


 可愛く首を傾げる仕草も男だと思えば抵抗感があるが、女の子だと思えば遠慮なく受け入れられる。ベリルは自分のパートナーは絶対に女と決めていた。それも自分と渡り合える実力と知性を持った者を。生まれて間も無いながら魔法をマスターしたマオールはそのどちらも兼ね備えている。おまけに魔界では非常に珍しい神魔属で大魔王の子供。親に問題はあるが家柄も文句無しだ。これならうるさい幹部達も納得させられる。


「ベリルくん、よめってなーに?」


 魔法に関しては完璧な成績を収めたマオールも、一般教養はまだ幼児レベルだった。


「嫁っていうのはあれだ。一緒に遊んだり仲良くする事だ」


「わーい。なかよしー」


「そうだな。俺とまおーは仲良しだ。だから俺の嫁に」


「嘘教えてんじゃねえ!誰がてめえの嫁にやるか!つーか息子だ、男だ!」


 何食わぬ顔でマオールを騙そうとするベリルに、ビッグマーは今世紀最大のツッコミを入れた。もちろん魔王の閃光で。ベリルは振り下ろした杖に込めた魔力で軌道を変えた。渾身の魔王の閃光は何本もの石柱や聖剣の台座に命中。せっかく直したばかりのホールは無残に破壊された。


「男なんてつまらないじゃねーか。下僕以外に使い道ねえし」


「そうだ。若い二人を祝福しようという気が君には無いのかね」


 いつの間にか初代大魔王まで賛同している。今まで抑えられていたビッグマーの苛立ちと怒りは頂点に達した。


「誰がてめえらの言う事なんて聞くか!だったらこのままだ。男も女も無しだー!」


 ビッグマーは二人の思い通りにならないようにと勢いで言ってしまった。そう、勢いながら本気で言ってしまった。彼の叫びがホール内に響き渡る。


「?」


 直後、マオールからピンポーンという効果音が流れた。ビッグマーは聞き覚えの無い音に、ベリルは自分が聞いた事のある音に動きを止めた。


「わーい」


「わーい」


 まおー二匹がそれまで以上の勢いでマオールの周りを走って喜んでいる。まるで何かを祝福するかのように。ビッグマーはぎぎぎと音が出そうなくらいにぎこちなくマオールを見た。ベリルは少しがっかりしたような様子で。タロットは自分には関係ないとばかりにそそくさと姿を消し、この場からいなくなった。


 まおー達の声だけが響く中で、ベリルは自分に何が起こっているのか全く気付いていないマオールに声を掛けた。


「しょうがねーな。相棒で我慢してやるか」






 今ここに歴史上初、無性別の大魔王(予定)が誕生した。



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