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19白薔薇と青い炎


 タロットが聖剣を上に向けたのを合図に、一面の床や壁から白薔薇が飛び出した。美しい花を付けた茎やツルには鋭利な棘が刃物のように光っている。何十、何百という本数の薔薇が天井を覆いつくす程伸びていく過程で、石柱はいとも簡単に切り裂かれ瓦礫となって落下した。美しい水晶も細かくスライスされ欠片がキラキラと振ってくる。


「儚く散りゆく華よ、刹那の刃となれ」


 魔力そのものを吸収する魔人石では物理的な攻撃を防ぐ事はできない。ベリルとビッグマーはタロットが呪文を唱え終わる前にファイア・ボックスを展開した。


「ローズ・ザ・リッパー」


 四方から刃物の薔薇が三人に襲い掛かる。ビッグマーが放った炎の矢は数十本の薔薇を消し炭にしたが、すぐに倍以上のツルが伸び再生する。石柱を容易く切り裂く威力ならロック・ボックスも意味を成さないだろう。魔王の閃光を当てたい所だがまた反射されでもしたら余計に面倒だ。


 ベリルが作り出した炎の竜は彼を中心に旋回しながら襲い掛かる植物を焼き払う。凶器の薔薇を寄せ付けない点はさすが魔人王といったところ。しかし無限に伸び続ける薔薇を根こそぎ炭にするまではいかない。全方向から襲い掛かる薔薇を滅ぼすだけの魔法を使えば、余波の熱量を魔人石一つでは防ぎきれない。自分一人なら何とかなるがマオールとビッグマーを見殺しにする訳にもいかない。マオールはともかく、面倒臭がりのビッグマーは防御魔法を習得していない可能性が高い。ならば役割を変えるまでだ。


「おいまおー、お前が焼け」


 マオールが魔法をマスターしているのは知っている。ここは経験の必要な防御魔法を使わせるより攻撃をさせた方が有効とベリルは判断した。


「古い方でやれ、思いっきりな」


「はーい」


 マオールが前に出るとベリルは炎の竜を維持したまま、瞬時に床へ白い魔法陣を出現させた。魔法陣の外にいたビッグマーは慌ててその中へと移動する。マオールと違い声を掛けない辺りが友情の希薄さを物語っていた。恨めしげな目で見られてもベリルは知らんふりをしている。


 彼が作り出した魔法陣はマジック・バリア。魔法を使う際、術者を守る魔力の壁が自動的に作られる。それを障壁に変換し魔法陣で効果を高め防御魔法として利用する。通常マジック・バリアを展開中は攻撃魔法を使えないのだが、魔人王の桁外れの魔力と反則的なテクニックにより攻守を両立させていた。


 ベリルの炎の竜とマジック・バリアに守られ、実戦経験の無いマオールでも呪文に専念できる。マオールは教科書を読み上げるようゆっくりと古代魔法を唱えた。


「燃え盛れ、我が命の灯火」


「もえさかれー、わがいのちのともしびー」


「もえさかれー、わがいのりのともしびー」


 なぜかまおー達も一緒に魔法を唱えている。しかも一匹は呪文を間違えていた。集中を乱す訳にもいかないため、ビッグマーは突っ込みたい気持ちを抑えた。


「ファイア・ボウル!」


 呪文を完成させたマオールの頭上に、燃え盛る青い球体が現れた。


 それも二つ。


「「そいつもできるのかよ!」」


 ビッグマーとベリルのツッコミが重なった。これには大魔王タロットも驚いた表情をしていた。魔法を使った当人のマオールも予想外の結果に目をぱちくりさせている。


 出現した二つの青い炎の球体が膨れ上がると、その高温により薔薇の花やツルは自然発火して燃え出した。新たに生まれる薔薇も花を咲かせる前に炭に変わる。ホールを覆っていた凶器の薔薇は次々と焼け崩れていく。

 タロットは聖剣を前に出しきらめくシールドを出現させる。その体を包み込み放射される熱を遮断した。防御魔法も無駄に美しい。ビッグマーはタロットと契約していれば自分もあの魔法を使えたのかと思うと、ほんの少しだけ後悔の気持ちが湧いてきた。


 役目を終えた球体が消えるとホールは真っ黒に染まっていた。天井を支える石柱がわずかに残っていたおかげで辛うじて倒壊を免れている。室内に流れていた人口の川や泉の水もすっかり干上がってしまった。もしもう一匹のまおーが呪文を成功させていたらこの場は完全に消し飛んでいただろう。


「アイス・ボックス」


 ベリルは魔法で大きな氷の箱を作り粉々に砕いた。細かい氷の粒が降り注ぎ熱せられたホールの温度を下げる。白い魔法陣が消えるのを合図に、今度はこちらの番だとビッグマーが飛び出した。魔法は使わず至近距離から素手での攻撃。これなら先程のように反射される心配も無い。おまけに大魔王の通常攻撃にはクリティカル効果があり、シールドなど意味を成さない。欠点は当たらなければ意味が無いのと、殴りかかる形になるため格好が悪い事だ。


「これ以上私に見苦しい姿を晒さないでくれ」


 タロットはキラキラシールドを解除すると、くるりと背を向け跳躍し距離を取る。走ってくるビッグマーが間合いに入る前に呪文を完成させ、振り向きざまに魔法を放つ。光の大魔王はあくまで余裕と優雅さを突き通す。


「我が栄光の道への追従は許されぬ。ゴールド・ラッシュ」


 タロットの足元からビッグマーへ向けて金の道が引かれる。焼け焦げた床は一面金の石畳へ変わり黄金の石柱が飛び出した。宙に浮かぶ巨大な金塊が一斉に襲い掛かる。


「オラァ!」


 ビッグマーは己の拳で石柱の一つを殴り飛ばした。魔法はいまいちのビッグマーだが腕力には自信がある。その実力は力を司る獣人属と殴り合いの喧嘩が出来る程だ。ひしゃげた柱は壁にめり込んで動きを止めた。他の柱も次々と弾かれホールに穴を開けていく。タロットに飛んでいった金の柱は直前で砂金になり飛散した。ビッグマーとは違い防御対策は万全の様子だ。


 味方にも跳ね返した柱が飛んでいくが、いちいち気にしないのはお互い様だ。どうせ魔人王が何とかするだろうとビッグマーは攻撃に専念した。彼の予想通り飛ばされた柱はベリルが杖で軌道を逸らして避けている。文句も言わずにやる所が魔人王らしく、ビッグマーに言わせれば可愛げが無いといったところだろう。マオールは余計な手出しをせずベリルの後ろに隠れてじっとしている。


 柱を殴り飛ばしながら距離を詰めたビッグマーはいよいよタロットに迫った。


「その余裕ぶったツラが気に食わねえんだよ。食らえ、魔王拳!」


 彼は技名を叫び渾身の一撃を放った。実はノリで言っただけでただのパンチだが、その威力は本物だ。タロットが受け流そうと剣を構える。相手が武器を持っていようが関係ない。その剣ごとぶっ飛ばしてやると意気込むビッグマーは、一つ大事な事を忘れていた。ベリルは声を掛けても遅いと気付き行動で示した。


「アイス・ボックス」


「どわああああああぁ!」


 ベリルは魔法でビッグマーの足元を凍らせた。当然勢いよく足を滑らせたビッグマーはあらぬ方向へ突っ込んでいった。丁度降り積もっていた薔薇の灰に飛び込んだおかげで衝撃は吸収された。


「何しやがる!このクソ魔人王」


 頭から灰に突っ込んだビッグマーは真っ黒に汚れていた。自分の見せ場を思い切り邪魔されたのを許せるはずが無い。それが小生意気で憎たらしい魔人王なら怒りも倍増だ。掴みかかろうと詰め寄るビッグマーをベリルは手を前に出し制止する。


「触るな、服が汚れる」


「誰のせいだ!」


 平然とするベリルにそこの初代大魔王を連想しビッグマーは余計に怒りを爆発させた。


「いいから落ち着け。お前、自分の目的を忘れてないか?」


「あぁ?そこの偽大魔王とてめえをぶっ飛ばす以外の目的があるかよ」


 完全に頭に血が上っている。今にもベリルに殴りかかろうとする勢いだ。二人が言い争っている間にも金の柱が再び飛んで来る。舌打ちをしたビッグマーは仕方なく魔人王から柱へと向き直り応戦する。ベリルも攻撃を防ぎながら話を続ける。


「聖剣を手に入れるために初代大魔王を呼び出したんだ。剣を壊したら意味ねーだろ」


「う」


 よくよく考えればそうだ。元はと言えば聖剣を手に入れるためにタロットを倒すつもりだった。タロットの攻撃で気を散らされたため、ビッグマーは少し冷静さを取り戻した。


「それにあのまま剣に触れてたらやばかったのはお前だぞ。まあ死んでもいいから奴を倒したいと思ってたなら止めなかったけどよ」


 ビッグマーはベリルの台詞に既視感を覚えた。確か台座にある聖剣に触れようとした時も似たようなやりとりがあった気がする。ふとマオールを見ると目が合う。こちらを見る息子は聖剣に視線を向け、こちらを振り返る。もう一回持てばいい?と言いたげな顔だ。まおー達もこちらをじっと見ている。


「いや、いい」


 息子の健気な瞳と黄色いマスコットの妙な威圧感に、ビッグマーは頭に上った血が引いていくのを感じた。


「それじゃあ俺が指示を出す。言う通りにしろ」


 ベリルの言葉にせっかく下がったビッグマーの血の気が一気に沸点に達した。それでも先程の事もあり怒るに怒れない。ビッグマーは怒りの矛先を金の柱に向け、残っていた柱を全て粉々に粉砕した。魔法の効果が切れたところでようやく落ち着いて話ができるようになった。体に舞った金粉と灰を払い落としたビッグマーは視線を敵に向けたまま会話を続ける。


「冗談じゃねえ。誰がてめえの言う事なんか聞くか」


 大魔王である自分が他人に指図を受ける必要は無い。例えどんな状況であろうと自分一人の力で切り抜けるのが魔属の王というものだ。相手が危ない武器を持っていようがやたらと派手な魔法を使おうが関係無い。


 マオールを盾にしたり魔人王の作った魔法陣に避難したりした事は、使える物は何でも利用するという悪役精神だから大魔王として問題無いと彼は思っている。ベリルにはビッグマーが簡単に言う事を聞かないのは最初から分かっていた。こういった相手は無理に説得しようとすればする程意固地になってしまうものだ。


「止めはお前にやらせる。それなら文句ねーだろ」


 ならばこちらが妥協すれば良い。ビッグマーも一人では手に余る相手だと分かっているはず。助け舟を出されれば建前では否定しても誘いに乗ってくる。


「・・・てめえの言う事なんぞ信用できるか」


 ベリルの狙い通りビッグマーは一瞬迷った表情を見せた。ここまでくればあともう一押しだ。


ベリルは近くにいるマオールの肩をぽんと叩いた。顔を上げるマオールに彼は無言でビッグマーを指す。ベリルの意図を汲み取った大魔王の息子は頷くと父親の服の裾を掴み注意を引いた。ビッグマーが視線を移すとマオールはとびきりの笑顔でこう言った。


「ぱぱー、なかよくしよーよ」


 ね?と微笑むマオールは最近慣れてきた者をも魅了する程の力があった。慌てて目を逸らすが息子は笑顔のまま視線の先へと入り込んでくる。ベリルは影響を受けないよう明後日の方向を見ている。


 そんなやり取りをタロットは手出しせずに見守っている。正々堂々をモットーに掲げる初代大魔王が、隙を突いて不意打ちなどするはずが無かった。それが分かっていてベリルは戦闘を中断してビッグマーを説得する事にしたのだ。


「分かった、分かったから離れろ」


 息子に魅了攻撃を仕掛けられたビッグマーは乱暴にマオールを振り払った。それをベリルが魔法で受け止める。この短期間に何度も無駄に感情を爆発させたため、魔人王の澄まし顔を見ても彼には怒る気力が残っていなかった。もしかしてこいつはそれを狙って自分を挑発してたんじゃないかと思うと、反応するのも馬鹿らしくなってきた。


「いいと言うまで攻撃はするなよ。三度も助けてやるほど俺はお人好しじゃないからな」


 黙っているビッグマーの態度を肯定と取ったベリルはマオールを床に降ろし、耳打ちをすると初代大魔王に向き直った。



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