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18大魔王タロット


 台座の前に立っていたのは、白薔薇と白いタキシードを身に纏った端正な顔の男。花に囲まれ手を叩く優雅な姿はまるで一国の王子のようだ。台座にあった魔王の心臓からは炎が消え、聖剣は男が腰に差す鞘に納まっていた。男は側にある台座に触れ、その足で床の感触を確認する。


「ふむ、仮初だが肉体にも問題無い。ここまで完璧に私を呼び出せる者がいるとは思わなかった」


 穏やかな表情と声を持つこの男こそ、初代大魔王タロットだ。彼が現れてからホール全体の清浄な雰囲気が一層高まったようだ。対照的に魔属であるビッグマーは気分が悪くなってくるのを感じた。自慢げにこちらを見てくる魔人王に余計腹が立つ。ビッグマーは一人入り口に向かうと扉を塞いでいたバリケードを吹っ飛ばした。まおー二匹の悲鳴が聞こえたような気がするが気にしない。


「よし、少しは空気が良くなったぜ」


 今までの鬱憤と気分の悪さを解消したビッグマーはすっきりした表情で戻ってきた。


「では改めて名乗ろう。私は大魔王タロット、知っての通り光の大魔王だ」


 ビッグマーが戻ってくるまで律儀に待っていた初代大魔王は、名乗りを上げると優雅に一礼した。彼が纏う雰囲気はリンバーやビッグマーとはまるで違う。同じ大魔王でこうも違うものかとベリルは感心していた。


 貴族のような立ち振る舞いは彼の育ちの良さを物語っている。一般庶民の人間から大魔王になったリンバーはともかく、きちんと教育を受けたはずの息子とはえらい違いだ。自分とタロットとを見比べるベリルの視線に、ビッグマーは馬鹿にされているような錯覚をした。


「魔人王ベリルよ、どのような用件で私を呼び出したのかね?」


 タロットが残っていた台座に触れると、石はリボンのように解け豪華な玉座に早変わりした。そこに腰掛けるタロットはこのホールの雰囲気と相まって神々しさすら感じられる。優しい声と笑顔に人間は勿論、天使でさえも魅了してしまいそうだ。この場にいる三人は通常の魔属よりも上位の力を持っているため惑わされないが、初代大魔王の持つオーラはあらゆるものを誘惑する力があった。


 問い掛けられたベリルはその話し方が癇に障った。自分が一番偉いと疑わない物言いと優越感を持った態度がありありと伝わってくる。相手を尊重するような気配を見せながら本心では己以外を見下している。権力抗争の中で育ったベリルは優雅な男に隠された慢心を見抜いていた。


 そんな態度を見せられて黙っている魔人王ではない。自分は幼くとも魔人属の頂点に立つ王だ。自分が見下されるという事は同族全体を馬鹿にされるのと同じ事。相手が初代大魔王であってもそれは許されない。

 彼は思い上がった相手を打ちのめす鉄槌、悪巧みを実行すべく行動に移した。


「ビッグマー、お前からでいいぜ」


「は?どういう風の吹き回しだ」


 ビッグマーはベリルが話し始めたらすかさず、大魔王の心臓を用意したのは自分だと言って割り込むつもりだった。順番を素直に譲られるとは思っていなかったため、調子が狂い思わず聞き返す。思わせぶりな態度の魔人王が何かを企んでいるのは明白。まんまと騙されてしまうわけにはいかない。


「俺の用はすぐ済むからな。時間のかかりそうなお前からやれよ」


 ベリルの言い方からビッグマーは気付いた。自分がやろうとしていた事を見抜かれている。そのうえで順番を譲ってくるとはどういうつもりだ。疑惑の視線を送ってもベリルは知らん顔をしている。こちらの策に乗じて何かしでかそうというのか。だが無駄な争いをしている時間は無い。奴が何を考えていても邪魔をさせなければいいのだ。

 ビッグマーは自信たっぷりに一歩前へ進み出た。


「何だね?君は」


 自分を呼び出したベリル以外の者が前へ出た事にタロットは怪訝な表情を見せた。彼は目前の男をベリルの部下か何かだと思い込んでいた。


「俺こそが大魔王ビッグマー。この大魔王城の主だ!」


 大声で名乗りを上げたビッグマーに、マオールとまおー達は拍手を送った。瓦礫から這い出してきたまおー達は多少汚れていたが怪我は無いようだ。声援を受けたビッグマーは満足げに頷くとタロットの反応を伺った。彼は目をぱちくりさせて止まっている。きっと自分の威厳に驚いているのだとビッグマーは解釈した。

 しばらく停止していた初代大魔王は気を取り直すと、爽やかな笑顔で答えた。


「面白い冗談だ」


「事実だ」


 容赦無いベリルの一言にタロットは笑顔のまま固まった。その様子をベリルは面白そうに見ている。余裕ぶっていた表情が消えたタロットは玉座から立ち上がり、ビッグマーを指差した。


「馬鹿な、このような低俗な輩が大魔王のはずがない」


「おいコラ!」


 初代大魔王から低俗呼ばわりされたビッグマーは抗議の声を上げたが、タロットには届かなかった。


「私の力を授けた人間の男は平和を願う崇高な精神を持っていた。その男がこんな者を後継者として選ぶ訳が無い。大魔王とは世の平和を担い、人々から崇拝される存在でなくてはならないのだ」


 芝居がかった動作で大魔王を説くタロット。あまりの価値観の違いにビッグマーは突っ込む事もできず、ただ呆然と眺めていた。確かに初代大魔王は愛と平和を説いて信仰心を集め、強力な権力と魔力を手に入れていた。悪党や魔物の討伐を行い地上各国の王までも惑わし人間の王女を后としたという。その行いはあくまで世界征服のためのものだった。


 だが本人を目の前にすると、こいつは本当に世界を平和にする事しか考えてなかったんじゃないかと思えてくる。大魔王を倒す存在の初代勇者が人間から迫害されていたという噂も、まんざら嘘でも無さそうな気がしてきた。


「まあ今は結構平和だからな。闇の勢力も衰えているし、こいつでもいいと思ったんだろ」


 ベリルにまで指差されたビッグマーははっとした。これではまるで自分が能無しのようではないか。残念そうに溜息をつくタロットにも怒りが湧いてきた。どう考えても奴の価値観の方がおかしい。大魔王というものは世を掻き乱すのが真髄だ。奴や親父より自分の方がよほど大魔王として相応しいではないか。他の魔属の連中も同じ事を考えるはず。危うく騙されるところだった。


「それで、ビッグマーといったか。私に何の用だね」


 魔人王に話し掛けた時と違い、視線と表情はこちらを見下した態度を隠そうともしない。ビッグマーは作戦の変更を決定した。タロットを呼び出す前までは聖剣の力を得るために契約を考えていた。契約をすれば相手の力を一部受け継ぐ事ができる。光の大魔王の力を得れば聖剣に触れても問題なく、魔属の自分でも使えるだろうと思ったのだ。


 だがしかし、ここまで馬鹿にされて契約を乞うようなビッグマーではない。彼には彼なりに大魔王としてのプライドがある。


「てめえをぶっ倒して聖剣を頂いてやろうと思ってたのさ。エセ大魔王」


 奴を屈服させて無理矢理力を奪ってやる。


 導き出された答えはシンプルで彼らしいものだった。不適に笑うビッグマーを見るベリルの顔も笑っている。望み通りの展開に魔人王はいかにも楽しそうだ。仲の良い二人の様子をマオールも嬉しそうに見ている。

 反対にタロットの目は細められ周囲の空気は冷えていった。咲き乱れていた花は凍り花弁が砕け散る音が辺りに響く。


「面白い冗談だよ」


 口調は穏やかなままだがその目には殺気が宿っている。普段からサジットの殺気で慣れているビッグマーには大したプレッシャーにはならない。初代大魔王がやる気になったのを確認すると、彼は既に手の中に用意していた魔法を炸裂させた。


「ロック・ボックス!」


 両手を突き出すとタロットの頭上に立方体の大岩が出現。ビッグマーが魔力による制御を放棄すると岩は重力に従い落下する。質量重量共に人一人を押し潰すには十分すぎる程だ。


「ほう。魔力の溜めも無しにそれだけの大きさの物を形成するとは、便利な魔法だな」


 タロットは自分に落ちてくる岩を慌てる素振りも見せず観察していた。彼にとってボックス魔法を見るのは初めての体験だ。興味深げにしている男に追い打ちとばかりにビッグマーは次の攻撃を放った。無論、こちらが本命。彼の十八番である魔王の閃光だ。


「油断してると痛い目見るぜ!旧型大魔王」


 気合も狙いも十分。当たれば大魔王といえどもただでは済まない。初代大魔王が使う古代魔法は発動に時間が掛かる。正面と上からの同時攻撃を発動の遅い古代魔法では防ぐのは難しい。そう確信しての戦法だ。もしこの攻撃を避けられたとしても今度はその隙を突いて魔王の閃光を撃ってやる、とビッグマーは敵の挙動を見逃すまいとしていた。


 ビッグマーの視線を受けたタロットは微笑んだ。


「油断?これは余裕というのだよ」


 白衣の大魔王が優雅にターンして指を鳴らす。すると目の前に金色の鏡が現れた。宝石を散りばめた美しい鏡には純白の羽が生えている。


「我が手に加護と祝福を。エンゼル・ドーム」


 鏡が大きく翼を広げると大岩が、魔王の閃光が、金色の鏡面にみるみる吸い込まれていく。羽が散らばる中に立つタロットを中心に、白い粒子に変換された魔力が雪のように降り注ぐ。あまりに美しく幻想的な光景に皆が目を奪われていた。 全ての魔法が吸い込まれたところで、ビッグマーはようやく自分が攻撃の手を止めていた事に気付いた。大魔王タロットの魔法は美しいだけではなく相手を魅了する効果もあるのだ。慌てて攻撃態勢を取ろうとするがもう遅い。


「それではお返ししよう。受け取りたまえ」


 芝居がかった動作でぴんと伸ばした指先がビッグマーに向けられる。輝く鏡面が溜め込んだ魔力を白い雷に変え一挙に放出した。魔王の閃光一発では押し返す事はできず、ビッグマーの魔力では瞬時に防御魔法を使えない。突発的に打開策を思いついた彼はとっさにある行動をとった。


 電撃が到達する直前、何かが割り込んだ。大きな束になった雷は何かにぶつかり多方向に拡散された。分散された雷が天井の水晶を砕き、床を抉る。そこに現れたのは太陽のような形をした水晶だった。攻撃を防ぎ終えた水晶は展開していた形を元の形に戻す。大きな薄紫色の水晶は魔人王がヘッジにけしかけた魔人石と呼ばれるものだ。杖を向けタロットと視線を合わせたベリルは不適に笑った。


 一方ビッグマーは呪文を防ごうとマオールを盾にしていた。サジットの灼熱の炎も物ともしなかった息子ならタロットの雷も防げると思ったのだろう。


「おい、お前本当にそいつの親かよ」


 呆れた様子の魔人王の声にビッグマーは緊急時だから大目に見ろよ、と目で訴えていた。首根っこを掴まれ盾にされたマオールは良く分かっていないらしく、ゆらゆら揺れてまおー達と遊んでいる。


「見事だ、さすがは私を呼び出しただけの事はある。差し支えなければそれが何なのか教えてもらえないだろうか」


 雷撃を防がれたタロットは悔しがるでもなく、余裕の態度を崩さない。金色の鏡を消し一旦攻撃の手を止める。あくまで紳士的に事を進めようとするタロットに、ベリルも杖を下ろした。愛と正義を謳うこの男が不意打ちを狙うとは思えない。それは自らが語った大魔王の存在意義を否定するのと同じだ。


「こいつは先代魔人王が作り出した魔人属の秘宝、魔人石だ。魔力を蓄積または封じ込める力がある。製法は企業秘密だ」


 ベリルは秘密兵器ともいえる魔人石の力をあっさりとばらした。たとえ知られても問題無い。それだけの自信と実力が彼にはある。


「なるほど。魔法に特化した魔属の王が君という訳か。魔界に君のような者がいるのであれば、私も初代大魔王として嬉しい限りだよ」


 賞賛するタロットは穏やかな笑顔だがベリルには白々しく聞こえた。確かにこの男が前大魔王のリンバーに力を与えたため、八人の魔王による魔界統一は成功したといえる。だからといってベリルはタロットを尊敬しようとは思えなかった。平和を願うのは悪くは無い。だがこの男がこだわったのは地上の平和だ。魔属のためを思ってした事ではない。


 この男を魔界の頂点である大魔王にするくらいなら、そこのビッグマーの方がまだましだ。行動は馬鹿だが少なくとも魔界の事は考えている。この瞬間、ベリルのタロットに対する敵意は決定的なものになった。


「魔人王は素晴らしい。が、貴様は別だ。ビッグマー」


「てめえに呼び捨てにされる覚えはねえよ、偽大魔王」


 名指しで否定されたビッグマーはタロットを睨みつけた。腕にはマオールとまおー達がぶら下がったままなので幾分間抜けなのは仕方無い。


「黙れ卑怯者!己の子を盾に取るとは言語道断。指導者にあるまじき行為だ。貴様に大魔王を名乗る資格は無い」


「うるせえ!大魔王が卑怯なのは当然だろーが。いざとなれば親兄弟だって利用するに決まってんだろ。てめえは正義の味方かボケ!」


 どちらの主張も正しいが賛同はしたくはないと魔人王は思った。格下の相手にボケ呼ばわりされた光の大魔王はさすがに頭にきたらしい。腰の聖剣を抜くとその切っ先をビッグマーに向けた。聖剣の輝きは魔属が本能的に忌み嫌う光を放っている。タロットの殺気も相まってこの場の空気が凍りつくような寒さへと変わる。


「君の考えは分かった」


 タロットの口調は相変わらず穏やかだ。しかし冷たい瞳と笑顔のアンバランスが逆に恐怖を感じさせる。今までにこにこしていたマオールもその雰囲気を察し大人しくなった。まおー達だけは空気を読まずわいわい騒いでいる。


「実は私も常日頃思っていたのだよ。自分が大魔王らしくないのではとね」


 微笑むタロットの背後で凍りついた花や植物が音を立てる。嫌な予感がしたビッグマーはマオールを離し構える。ベリルは魔人石を消しマオールを自分の背へと移動させた。音を立てるのは床だけではない。周囲の壁や天井からも軋むような響きが伝わり、ホール全体を振動させる。


「では君の望み通り、大魔王らしく戦わせてもらおう。罪の無い者を巻き込んでしまうかもしれないがね」



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