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16邪悪を滅する光


「ああ待った待った」


 改めて聖剣に向かおうとしたビッグマーをベリルは横から杖を出して止めた。危うく足を引っ掛けそうになったビッグマーは気合で持ちこたえた。無様に転ぶような姿をこの性悪魔人王に見せてなるものか。こういった細かい積み重ねが大魔王の威厳を左右するのだ。修行や勉強は平気でサボるが、妙な所で見栄を張っていた。


「さっきも言ったが止めとけ。お前には無理だ」


「結局邪魔するのかよ!」


 やはりこのガキは信用ならない。元々してもいなかったが。

 睨まれたベリルは心外だといった表情で話を続けた。


「いや、本気でやるつもりなら止めないけどよ。お前、聖剣がどんな物なのか分かってるんだよな」


「あぁ?何言ってやがる。初代大魔王が持ってた聖剣だろ。大魔王の俺が頂いて何が悪い!」


 こちらを馬鹿にしたような言い方にビッグマーはますます腹が立った。普段ならとっくに殴りかかっているところだ。二人が争う様子にも気付かずマオールは聖剣をにこにこしながら見ている。二匹のまおー達はそんなマオールの周りをぱたぱたと走ったり、頭までよじ登って飛び降りたりとのん気なものだ。


「あー、そういう意味じゃなくてだな」


 ベリルはきちんと説明をしようと思っていたが、頭に血が上っているビッグマーには何を言っても無駄な様子だ。ふと足元をまおーが横切り、その動きを辿るとマオールに行き当たる。見せたほうが手っ取り早い。自分と同じ神魔属のマオールなら大丈夫だろう。


「まおー、ちょっとそいつを持ってみろ」


 声を掛けられたマオールは振り向くとはーい、と良い子の返事をした。


「おいコラ!魔人王なんかの言う事聞くんじゃねえ。つーかそれは俺のだ」


 勝手に触るなと言う前にマオールは剣に触れていた。途端に聖剣の刀身が輝きを増し、その光がマオールを包み込む。剣を持ったマオールは何が起こったのか分からず不思議そうな表情だ。まおー達は光に驚きベリルの後ろへと隠れた。 近くにいた自分より魔人王を頼りにされたビッグマーは何ともいえない気分だった。こんなマスコットに好かれたい訳ではないが、呼び出した者を差し置いてこういった行動を取られるのは腑に落ちない。自分が谷底に捨てた事がその態度に影響を与えているとは微塵も考えない大魔王だった。


 聖剣の光に包まれてもマオールには何も影響が無いように見える。だがしばらくすると剣を持った手から白い煙が上がり始めた。


「?」


 マオールの表情は変わらない。ベリルも口を出さないため見間違いかと勘違いしそうになるが、煙は止まらずシューシューという音まで聞こえてきた。


「お、おい!大丈夫か?」


 手が焼かれているのにも関わらず動じない息子に、さすがのビッグマーも心配になった。いくら頑丈でサジットの炎も平気だったとはいえ、自分の手が焼けているのに無頓着とはどういう事だ。本気で気付いていない程鈍いのか、それとも神魔属というのは痛覚が存在しないのか。


「もう戻してもいいぞ」


 ベリルの一声でマオールは頷き聖剣を元の位置に戻した。すると光は収まり何事も無かったかのように辺りは静寂を取り戻す。ビッグマーはその光景を唖然と眺めていた。


「と、いう訳だ」


「どんな訳だ!」


 平然と言い放つ魔人王にすかさずツッコミを入れた。いきなり訳の分からない物を見せられて、はいそうですかと納得できるはずもない。ようやく話を聞く体勢に入ったのを確認したベリルは平淡な口調でビッグマーの疑問に答えた。


「光の大魔王タロットの聖剣は文字通り悪を断つ剣だ。魔属や闇の者を滅する力がある。神の力を併せ持つ神魔属だからマオールはこの程度で済むが、魔王属のお前やリンバー、他の魔属なら触れただけで消滅するかもな」


 さらりと語られた恐ろしい事実にビッグマーは衝撃を受けた。父親であるリンバーまでもがあっさり殺されるような武器が存在するとは予想もしなかった。皆が止めるのも頷ける。ここに来たときの嫌な感じも邪を清める聖剣の力がホール全体を包んでいたためだったのだ。


「そんな危ねえ物を一体誰がここに置いたんだよ。というかてめえ、そんなのを俺の息子に持たせるんじゃねえ!」


 一つ間違えれば大惨事だ。もし自分があのまま剣に触れていたらと思うとぞっとする。いや、それよりも結果が分かっていてマオールに剣を握らせたベリルの行動が恐ろしいとビッグマーは思った。普段から息子にあまり関心を持っていなかった彼でも、小さな子供が目の前で傷付けられたら焦りもする。


「そこまでは俺も知らねーよ。まおー、ちょっとこっちに来い」


 マオールを呼び寄せたベリルは治癒魔法を施した。赤くなっていた小さな手はあっという間に元通りになる。あんな目に遭わされておきながらベリルの言う事を聞くマオールをビッグマーは理解できなかった。本気で洗脳でもされているかと心配になる。サジットにばれないうちに、そういう事に詳しい首切りにでも調査させようと考えていた。


「これでよし」


「ありがとー、ベリルくん」


 元はと言えばそいつのせいだろ!礼を言うな礼を。


 のん気に笑うマオールにビッグマーは念波を送るが効果は無かった。ベリルに隠れていたまおー達もきゃーきゃー飛び跳ね喜んでいる。


「残念だったな。初代大魔王の力を手に入れるつもりだったろうが、お前の計画は無理だ。諦めろ。まあ死ぬ気でやれば剣は手に入るが対価が命じゃ割に合わないだろうな」


 にやにや笑うベリルの憎たらしさにビッグマーは怒りの火が再び灯るのを感じた。このままこいつの思い通りになるのだけは許せない。意地でもこの聖剣を手に入れてやる、と考えを巡らせた。絶対に何か手はあるはずだ。でなければ親父がわざわざここに使えもしない剣を収めている理由が無い。


 魔属に使えない剣という事は神属や天使、人間には使えるという事だ。門番の天使なら触れても影響は無いだろう。だがあいつは駄目だ。サジットと同じくらい真面目な奴だから絶対に断るに決まっている。大体天使の力を借りるなんて大魔王としてあってはならない。これは却下だ。


 ならば人間はどうだ。父親であるリンバーは元人間だ。魔王属になる前なら聖剣にも触れられただろう。この台座に設置したのも恐らく父親だ。どこかから適当に人間を連れてきて聖剣を持たせる。契約した人間なら魔界に呼び寄せられるだろうし命令もできる。そこまで考えてビッグマーは自分に契約した人間の配下がいない事に気付いた。魔人王や竜人王と違って、利益の無い自分と契約を結びたがる人間は皆無だ。一度も契約の呼び出しがあった試しが無い。


「・・・待てよ」


 ビッグマーの脳裏に一つのアイディアが閃いた。この手なら天使の力も人間の力も借りる事無く聖剣を手に入れられる。うまくいけば自分が剣を手にできるはず。だが、それを実行するには自分一人の力では無理だ。もっと強大な魔力を持ち、魔術に精通した者が必要。ビッグマーは視線をベリルに移す。魔人王のこのガキなら魔力、魔術の腕共に申し分ない。だが果たしてこいつが見返りも無く手助けをするだろうか。


 ここは大魔王らしい威厳を発揮してうまく話を持っていけば何とかなるかもしれない。相手は魔人王だが王としては経験が浅いしまだ子供。数々の計略(という名のイタズラ)を成功させた自分の手腕を見せつけてやるいいチャンスだ。


 彼はほんの少し前に見事に言い負かされた事も、ベリルが自分と変わりない年齢だという事も忘れて意気込んだ。


「なあ魔人王、さっきは悪かったな。謝るぜ」


 あからさまに表情と態度を変えたビッグマーに声を掛けられた魔人王が、何かを企んでいる事に気付かない訳が無い。不信感を表情には出さず何だ、と先を促す。


「お前のおかげで俺は命拾いした。それなのに怒鳴ったりして、自分の過ちに気付かせてくれたお前に何て事をしたんだと反省している」


 誠実さを演出しているビッグマーをベリルは無表情で見つめている。彼は気味の悪い相手の態度に警戒心を最大限にまで上げていた。二人の間に戦闘時とは違う妙に張り詰めた空気が流れる。マオールはそんな二人の顔を交互に見た後、首を傾げた。


「ぱぱ、ベリルくんとなかよくしたいの?」


「そうとも!こう見えて俺たちは昔からの友達なんだ」


「わーい、なかよしー」


 マオールの声援を受けたビッグマーはベリルの隣に並び、笑いながら肩を叩いた。本当は肩を組もうと思っていたが身長差があるために断念した。ベリルが迷惑そうな顔をしているのには気付いてない。ビッグマーの手を払いのけたベリルは一歩離れて距離を取る。さすがにその態度にはムッとしたビッグマーだったが顔には出さない。ここで怒ってしまえば計画は台無しだ。



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