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12魔人王と掃除夫


 部下が天使の恐ろしさに気付いたその頃、魔人王ベリルは大魔王城の側面から回り込もうと深い谷間を浮遊していた。四方を囲む塔に一定以上近付けば、外壁に使われた素材の効果で飛行魔法の効果が打ち消される。城に潜り込んだスパイからの情報では、この防御設備は機人王がこの場にいなくても作動するとの事。迂闊に近付けば谷底に一直線という罠は魔人王といえど油断は禁物だ。


 あの天使兵が相手では恐らく部下は本気を出しても負ける。幸い向こうも時間稼ぎが目的のため殺されはしないだろうが、うっかり手が滑ってという事もありえる。天使が自分の存在を思い出す前に目的を果たしたい所だ。ベリルはスパイから得た情報により、所定の位置まで辿り着くと城壁に向かって杖を振った。すると城壁の一部分がパズルのように分解し、鍵穴が出現した。


「キー・ボックス」


 ベリルの目の前に銀色のジュラルミンケースが現れ、中から無数の鍵が飛び出した。大きな円を描いて一周するとそのうちの一つがぴたりと止まり、ベリルの前にやってきた。鍵には金属のプレートが付いておりそこには非常口と印字されている。ベリルが再び杖を振ると鍵は自ら鍵穴へ飛んでいき、扉を開いた。奥には向かい合った椅子とテーブルが見える。多分応接室か何かだろう。役目を終えた鍵は全てケースに収まると空中で掻き消えた。


 そのまま中へ入ろうと近付いたベリルはふと、何かの気配を感じた。誰かに見つかったような感じではない。わずかな気配を追って視線を下へと向けると、すぐにその正体が分かった。


「きゃー」


 城壁より下の部分。谷の出っ張った岩肌に何か黄色い物がいた。それは狭い足場でぴょんぴょん跳ね必死に谷を登ろうとしているように見える。跳躍力とその位置から判断するとどう考えても登るのは無理だ。それが分かっていないのか黄色い物体は繰り返しジャンプを続けている。


 好奇心を惹かれたベリルはその物体の所へと近付いた。あのボケ大魔王の罠の可能性もあるがたとえ罠だとしても切り抜けられる自信はある。間近に来ても黄色い物体は同じ行動を繰り返している。


「おい」


 声をかけてみるとようやくそいつは動きを止めこちらをくるりと振り返った。


「何だ、お前」


 この物体、一見すると使い魔のように思えるがそうではないとベリルは確信していた。大魔王城の誰かの使い魔だとした場合魔力が僅かでも感じられるはずだ。それが無いのが理由の一つともう一つは魂が感じられないという事だ。命を扱う力を持つ血人王を父親に持つ彼にはそれが分かる。魔属が自ら生み出したものには必ず魂が宿る。それが実体を持たない幽霊だろうと例外ではない。無機質を組み立てて作った機人なども魂を与えなければ動かない。


「ぼく、まおー」


 黄色い物体は自ら思考し活動している。魔力による遠隔操作や立体映像でもない。魔人王はこのおかしな生き物に興味を持った。


「上に行きたいなら連れて行ってやろうか?」


 言葉の意味を理解したまおーは棒のような両手をバンザイの形にして飛び跳ねた。多分喜んでいるのだろう。ベリルが腕を伸ばすとぴょんと飛び移り、腕をよじ登って肩へと移動した。まおーがきちんとしがみついているのを確認したベリルは再び浮上し開かれた扉をくぐった。しばらくすると扉は自動的に閉まり、城壁は元の形へと戻った。


 応接室のソファーに着地したベリルは部屋を見渡した。大勢が大魔王城を留守にしているこの状態で一番使われないのがこの部屋だ。選択は正しく、周りに人の気配は無い。


「さて、まずはあの馬鹿にでも会いに行くか」


 大魔王ビッグマーが城内に残っているのは内部に潜入している部下の情報で確認済みだ。前大魔王の送別会準備は階下のホールで行われている。


 奴が手伝いをするとは到底思えない。自室でぼんやりしているか機人王が不在のこの機を狙って、普段入る事ができない秘密の場所でも探っているかだ。前者ならすぐに居場所を特定できるが、後者となるとやや難しい。神出鬼没の奴の事だ。常人では考えられないような行動を取るだろう。


 長引くとそれだけ部下の寿命が減ってしまう。ビッグマーが何かやらかして騒ぎを起こすのを悠長に待っている訳にもいかない。手っ取り早く城内で魔法を一つ二つぶちかませば奴の側近が呼びに向かうかもしれない。他の奴らにも気付かれるが城に残った戦力などたかが知れている。自分一人で撃退できるだろう。


 計画の方針を定めたベリルは廊下へと移動した。手始めにこの応接室から破壊しようと、そう思った矢先だった。廊下の角から人が来る気配がする。どうせなら先に奴の居場所を知っているか確認した方がいい。ベリルは魔法の矛先を向こうからやってくる者へと変えた。


「マジック・ボックス」


 ベリルの目の前に青い箱が出現。黄色い星模様が描かれた箱はくるくると回転しながらその場に浮いている。


「魔人石」


 ベリルがその名を呼ぶと箱が開き中から大きな薄紫色の石が飛び出した。小さな箱に収まるとは思えない程の大きさのそれは、杖を向けた方へ一直線に飛んでいく。廊下の突き当たりから相手が出てくるのと同時に魔人石はまばゆい光を放った。相手が驚きの声を上げる前にベリルは再び魔法を放った。


「ストーン・ボックス」


 周囲の壁にある二本の石柱が立方体に変化。うねりを上げ、床を削りながら向こう側へ伸びてゆく。魔人石を左右に避け対象を囲むとそのまま壁へと縫い付けた。


 いきなり攻撃を受け身動きが取れなくなった人物は、自分の身に何が起きたかをすぐには判断できなかっただろう。


「なっ、何だ?」


 数秒経ってからようやく男は声を上げた。送別会の準備を抜け出し応接室で昼寝でもしようと企んでいた者の名はヘッジ。見つかった際の言い訳として持っていたホウキがカランと音をたてて床に落ちた。


 拘束を抜け出そうと力を込めるがびくともしない。大魔王城を支える特注の石だ。魔人属の力如きではどうにもならない。これが獣人属のイッサなら素手で砕くくらいはできただろうに。それでは魔法で何とかすればいいと思い直すが、この男は魔人属でありながら壁を破壊するだけの魔法を使えない。


「よう、お前ビッグマーがどこにいるか知らないか」


 声に反応し前を向くと大きな杖が目に入った。持ち主は見えない。視線を下に移動させると生意気そうな子供がこちらを見上げていた。


「何だてめえは!ぶっとばすぞクソガキ」


 とても反撃の出来る状態ではないが舐められてたまるかとヘッジは悪態をついた。実力が無いのなら気合でカバーするしかない。隙を見て顔面に魔法を叩き込めば威力が無くても効果はあるはず。ヘッジは相手を誰とも知らずに闘う気満々だった。


 ガキなんぞビビらせれば何とでもなる。そう思い彼は自分ができる凶悪な表情を最大限に発揮した。殺気を散らすのも忘れない。しかし相手のガキは怖がるどころか不思議そうな顔をしている。


「魔人属だよな?」


「あぁ?だったらどうした!」


 ベリルは大魔王城に自分を知らない者がいるとは思わなかった。門番の天使はともかく城内で働きながら他の魔王の顔も知らないとは、一体この城の部下への教育はどうなっているのか。いや、魔人属でありながら王を知らないのは長である自分の責任か。王位継承したのは最近だ。末端の者は知らない可能性もある。特にスパイ目的でもなく大魔王城で働こうというような者などは目に触れる機会も無かっただろう。


「よし、だったら魔法を使って俺を倒してみろ」


 ベリルが杖を振ると側に浮いていた魔人石と石柱の拘束は掻き消えた。ヘッジは相手が拘束をあっさり解いた事に疑問を持ったが、これは絶好の機会とその場から飛び退き体勢を立て直した。落ちていたホウキを拾い槍のように投げる。当然かわされるのは計算のうち。ベリルはその大きな杖を前に出し木製のホウキを弾いた。その隙を突いて魔法を放つ。


「食らえ、ファイア・ボックス!」


 ヘッジの右手から小さな赤い箱が出現し炎の塊になる。その形を矢に変えると一直線に敵に襲い掛かる、はずだった。 なぜか炎の矢は空中に浮いたまま前に進もうとしない。いくらヘッジが魔法を苦手としていても、こんな初歩的な魔法を失敗するはずがない。現にきちんと炎の矢は発現している。


「どうした?撃たないのか」


 ベリルはその様子をにやにや笑いながら見ている。まるでこうなるのが最初から分かっていたかのように。普通の者ならここで他の魔法を続けて唱えたりするだろうが、魔力の少ないヘッジでは一つの術を操るだけで精一杯。無駄撃ちはできない。だがここで子供に馬鹿にされるのは彼のプライドが許さない。魔人属として、大魔王城に仕える戦闘要員の一人として。


 ヘッジは一歩下がると、宙に浮かぶ炎の矢を無理矢理蹴り飛ばした。


「オラァ!」


 今時人間でも使わないような原始的な方法だが、そんな事はどうでもいい。今は目の前の生意気なガキに一撃食らわせてやるのが最優先だ。なりふり構っていられない。物理的な力を加えられた炎の矢は今度こそ飛んで行きベリルに襲い掛かった。


 ヘッジの行動が予想外だったのか、彼は意外そうな顔をしたままで魔法を防ぐ気配を見せない。魔法が炸裂したらその隙にこの場を離れ、調理場にいるイッサを呼びに行こうとヘッジは思った。今日大魔王城に残る幹部は人形使いの彼一人。侵入者の報告をすれば飛んでくるはずだ。彼は大魔王であるビッグマーを戦力にカウントしていなかった。


 だが炎の矢が着弾しようとするその刹那、ベリルの直前で炎は音も立てず消滅した。ヘッジもこれには驚き、走り出そうとしていた動きを止めた。


「うちのお抱え魔法使い以外に俺に魔法を打ち込むなんてな。門番の天使といいビッグマーも案外部下に恵まれてるじゃねーか」


 固まるヘッジをベリルは感心したような表情で見ていた。


「俺の所にも有能な部下がもっと欲しいぜ、全く」


 ちなみに大魔王城にスパイとして潜入し内部情報を提供しているのは、幹部でありリャシーマンを連れ出したハガだ。彼女は元々前魔人王の部下で古くから大魔王城に潜入している。ベリルの命令にも従うが忠実な部下という訳ではない。彼の命令に従うのは忠誠を誓う主の息子だからという理由に過ぎない。ベリルのために命を賭けて闘おうなどというのはまずありえない。他の部下も皆似たようなもの。


 そのため前魔人王は彼自身が一人でも生き抜けるよう徹底的に鍛え上げた。おかげでベリル様一人いれば何とかなるだろうと部下達は安心し、ますます距離が開いたようだった。実際に敵対勢力や侵入者なども彼一人で一掃できるため、魔人王の城で部下達がする仕事はあまり無かった。


 彼に忠誠を誓うのは今回共に大魔王城にやってきたシーバと、魔法の契約をしている人間達ぐらいだ。



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