第7話
まだ昼頃であるにも関わらず薄暗く少しジメッとしている。
そんな魔の森を少年が歩いている。
普通に考えればこんなところを軽装で、それも手ぶらで歩くなんて自殺行為である。
しかしその少年は襲われない。
意思を持つかのように奇襲を掛けてくるべき樹木は沈黙し、人間が近くに居ると知れば我先にと襲いかかる、A級ハンターですら容易に殺しかねない魔物はその少年を恐れるように迂回する。
少年は
「にしても、たった数年でここまで魔の森の魔物に恐れられるとはなぁ…。」
と、言葉を漏らす。
話す相手が少ないと、自然に独り言が増えるものである。
その数少ない話し相手は、人ですらないのだが。
魔の森に入って1週間は、それこそひっきりなしに魔物が襲ってきたのだ。
そんな魔物の襲撃も1ヶ月たつころには数えられる位にまで減り、1年経てば全く襲われなくなったのである。
樹木型魔物はユグ爺の支配下だから仕方ないとして、鍛えるために来たと言うのに相手になるはずの魔物が襲ってこなくなったのには、溜め息がでた。
それについては、自分から喧嘩を売りにいくことで解決した。
そんなこんなでだだっ広い魔の森を魔の森を抜けると、心地のよい風が頬を撫でた。
魔の森を抜けた先にあったのは、草原だった。
ヤマト王国の辺境にある魔の森、その周りを囲むようにある広い草原、アマレルツ草原である。
《完全鑑定》を使用します
アマレルツ草原
解説:魔の森を囲むようにある草原。
なぜか一年中背の低い草が育つことも枯れるもことなく風に揺れる草原、原因は解っていないが魔の森が近くに在るにも関わらず、魔物が出てくることがない。
その為、魔物に襲われることのない安全な場所としてしられている。
アマレルツ草原の北の方には、大きな澄んだ湖がありその周辺は観光地として有名である。
遠くに建物が見える、街なんだろうか?
そう期待を胸に秘めなながら歩みを進める。
久しぶりに人に会えるとなると、心が踊る。何せ話す相手など、そこらの精霊かユグ爺位しか居なかったのだ。
逸る気持ちを、街が逃げる訳じゃないと自分に言い聞かせゆっくりした足取りにかえる。
が、途中で歩くのが面倒になったので魔導二輪を《無限の箱》から引っ張り出した。
《完全鑑定》を使用します
名前:魔導二輪
解説:魔力を消費し稼働するバイク。使用者の魔力の代わりに、魔力が固形化したものである魔結晶を入れることでも動かせる。
最高速度は時速300km、身体に《無魔法》系統の強化魔術を掛ければ発進してから3秒で最高速度に達することができる。
動く際に殆ど音がせず、《無魔法》系統の消音魔術とタイヤの跡を消す為の《土魔法》の整地魔術を併用することで、痕跡を残さない無音移動が可能になる。
俺は魔導二輪に跨がり、一気に最高速度に加速する――――――。
なんて馬鹿みたいに目立ちそうなことをするわけもなく、時速60kmほどの
速さで移動した。
魔の森から街までは案外遠いらしく、なかなか街をおおう壁が近付いてこない。
それから数分後…。
壁がよく見える位置まで近付くと、魔導二輪から降りながら《完全鑑定》を使用した。
《完全鑑定》を使用します
名前:エイボンの街
解説:大昔の大魔法使い、エイボンによって作り上げられたとされる街。
アマレルツ草原という大貴族御用達の観光地があるため、高級料理店や高級服飾店、宝石店や貴族用の宿屋が多く並んでいる。
貴族用の魔法学院の1つがあり、魔法研究も盛んな街である。
その魔法や魔法技術を求め、高名な冒険者もよく、訪れる。
現在は大魔法使いエイボンの子孫とされる、ヤマト王国貴族エイボン伯爵が治めている。
名前:エイボン伯爵家
解説:大魔法使いエイボンの子孫。
現在は読めるものはいないが、エイボンが最も得意としながらもひた隠しにした邪なる魔法を収めた書物『象牙の書』を家宝としている。
現在のエイボン伯爵家で、『象牙の書』の内容を知る者は存在しない。
明らかに危なそうな文章が表示されたので、詳細を知るために『象牙の書』というところをタップした。
名前:象牙の書
解説:大魔法使いエイボンによって記された書物。
その本質は、転生者ゼノム・デリンジャー(前世の名前はハワード・フィリップス・ラヴクラフト)によって書かれた魔導書『ネクロノミコン』の補完。
『ネクロノミコン』の足りない部分を補う為に創られたため、単体としての内容は十分なものではない。しかしそれでも、邪神召喚の儀や『ネクロノミコン』にも記されていない禁術や呪術が使用できる。
………。
……………やばくね?
まだ街に入ってすらいないのに、嫌な予感しかしない。
こんなことなら調べなければよかった、と後悔しても後の祭りというやつである。
主人公に厄介事を押し付けるためにクトゥルフ神話あたりのを突っ込みました。
「ここがおかしい」というのがあれば感想にでも書いてください