第5話
暖かい水のようなものに包まれている感覚。
狭い道を通ると、寒いとさえ思える空気が肌を刺す。
重い瞼を開けると、ぼやけてうまく見えない視界と、フィルターのかかったような声がそこに誰かが居る、と伝えてくる。
久しぶりに五感が刺激された。
思わず声が出る。
「オギャアオギャア」
歯の無い口を通って出るのは、言葉にならない声ばかりだった。
そう、俺は産まれたのだ。
これまでに6回、過ごしてきた異世界に。
産まれてから5年の月日が経った。
漸くこの身体に慣れきって、他の子供と一緒に元気に外を走り回っている。
そろそろ、これからの長い人生を過ごすための目標を発表しようと思う。
それは・・・・
『異世界を存分に楽しむ!!!』
え?
これまで散々転生してきたじゃないかって?
ところがどっこい、そうではないのです。
1回目は言うまでもなく。
2回目のハイエルフは、そもそも里の外に出るのが禁止されていて。
3回目のドワーフは若いときはともかく、いざ腕が上がると注文が次から次へと来るし、いざ老いてみたら腰が痛くて動けない。
4回目の錬金術師は、異端と呼ばれて聖騎士どもに追いかけ回されて。
5回目の王族は、皇位継承権第1位や皇帝がホイホイ出掛けられる筈もなく。
6回目の貴族は、戦ってばっかりだった。
というわけで、この世界をまともに観光したことは1度も無かったというわけだ。
それと、俺のステータスを開示しよう、
名前:ウル・ヴァニック・デルクール 5歳 男 Lv.5
ルーヴェン・ニヴェルシュタイン
ウィリアム・ルクセンシェルナ
アルケイム
ガンコウ
シェルゼ・アグニート
称号:『ヤマト王国貴族 デルクール侯爵家11男』
『7度目の転生者』
『人生経験・極』
『天才発明家』
『伝説の名工』
『元ルクセンシェルナ帝国第16代皇帝』
『元フルーニ王国貴族 ニヴェルシュタイン公爵家次男』
『ニヴェルシュタイン流戦闘術開祖』
状態:良好
スキル:(設定をご覧下さい)
7回目にして新しく称号というのが追加された。
称号にはそれぞれボーナスがあって、貴族系の称号なら社交Lv.1と舞踏Lv.1がついてきて、転生者系の称号はLv.UP時のステータス追加上昇などお得な効果がいっぱいついている。
あと神からメールが来て、すでに俺がいた世界から転移者や転生者が送られて来ているらしい。これは是非とも接触せねば。
というか神なんだから、メールで連絡するんじゃない。神託とか他にも方法は沢山あるだろうが。
名前が沢山あるのは7回も転生して、本人が完全に忘れるか異世界に転生か転移しないと変えれない、《無魔法》系統の命名魔術『命名』を何度も施されたからだ。
(捨て子などで名前がない場合、1度だけ自分でつけることが出来る。)
そして空白があるのは、1度だけ命名されずに転生したからだろう。
ちなみに、俺の容姿は黒髪黒目のイケメンだ。
イケメンといっても、この世界の顔面偏差値はかなり高い方だと思う。
逆にブサイクとなると、かなりのものになる。
上のステータスの通り、俺はヤマトさんが建国したであろうヤマト王国のデルクール侯爵家の11男だ。
親父頑張り過ぎだろ。一人も妾の子がいないんだぜ?
家族構成
当主 アルフレッド
妻 アニエル
長男 オルトラ
次男 ガブル
3男 ルーゼンベルク
4男 パルフリック
5男 エーミール
6男 エマニエル
7男 クリミル
8男 アランス
9男 ジル
10男 コルセル
11男 俺
見事なまでに女子がいない。
ここまできたら大体わかるだろう。
貴族家の11男というのは、当主にもなれず親のコネもつきて斡旋できる職が全く無いため、出ていって自分で職を探さなければならなくなるのだ。
しかし、今の俺にとって放逐される予定の貴族というのはかなり都合がよかった。
何故なら、平民のように早死にする心配がなく、それでいて貴族は多くの場合かなり裕福で、出ていく際に金や武具を持たせられるからだ。その上、侯爵家の子息という肩書きは貴族を相手にする際にとても役に立つのだ。
更に5年の月日が経ち…。
俺が家を出る日がきた。
10歳で家を出るのは早すぎると思うかもしれない。
その通りだ。
俺が早く家を出て冒険をしたいがために、親父のアルフレッドに頼み込んだのだ。
頑固だけど有能な親父と、過保護な母親を説得するのはほねが折れた。
《交渉》を使っても3日掛かるとかどういうことだよ!
「頑張れよ」
と親父が、
「怪我しないでね」
と母親が見送ってくれた。
別れの時とは悲しいものだ。
これまで幾度となく経験してきたが、未だになれることがない。
両親の心配そうな目を振り切って、歩みを進めた。
これから俺の旅は始まるのだ。