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第15話

奴隷オークションが終わった次の日、またタルキス商会へ向うことにした。

大金を使って落札した奴隷の受け取りをするのである。


翔夏に受け取りに行くと話すと、行きたいとごねたのでケーキを使って宿に残らせた。

初対面の印象が、女好きの貴族なんて堪ったもんじゃない。

しかも子孫に変態だなんて思われるとなると、精神へのダメージはかなり大きなものとなるだろう。


ケーキを与えられた翔夏は、目をキラキラさせながら幸せそうにイチゴのショートケーキをぱくついていた。

翔夏のこれまでの状況を鑑みると、前世の食べ物に類似したものを食べれる事などそうなかったはずだ。

甘いショートケーキだが、中身は卵粥と同じく無味無臭の栄養剤が粉末にして、スポンジやクリームに混ぜこんである。

カロリーや栄養バランスを考えながら、色々たべさせよう

早く状態の欄にある 栄養失調を消してしまいたいのだ。

年頃の女の子が栄養失調で痩せほそっているのは、見ているだけで不憫でならないからな。




◇◇◇◇◇◇


仮面を被り裏通りを通ってタルキス商会へ向かう。

何度も来た場所なので、慣れたものだ。


タルキス商会の入り口付近に行くと、いつもの通り細身の男が白い建物の前で立っていた。

こいつの顔も見慣れたものだ。


そして、オークションの品を渡した部屋に入るとソファの、奥の方にリールニル、手前の方に二人の少女が座っていた。

二人の少女は奴隷オークションの時とは、違ったドレスを着ている。


「立て、二人とも。」


リールニルが二人の少女に向けて言葉を放った。

奴隷には人権も格差も存在しないため、売るために丁重に扱う必要はあれど、いくら元貴族でも礼儀を払う必要はない。


二人の少女が立ち上がり、こちらを値踏みするように見つめる。


少女達は髪の色がカラフルなこの世界では珍しい白髪で、片方は緋色、片方は藍色の瞳をしている。

二人とも背は小さく、身体の起伏も少ないようだ。

綺麗なドレスと相まって、人形のような雰囲気を感じられる。

《完全鑑定》をかけてみる。


まずは緋色の瞳の少女からだ


名前:ルサ・ニヴェルシュタイン 14歳 女 Lv.14

称号:『元フルール王国貴族ニヴェルシュタイン公爵家長女』『共有者』

状態:良好

スキル:《共有》

《無魔法》Lv.4

《氷魔法》Lv.9

《社交》Lv.6

《舞踏》Lv.4


…次に藍色の瞳の少女だ。


名前:ルナ・ニヴェルシュタイン 14歳 女 Lv.14

称号:『元フルール王国貴族ニヴェルシュタイン公爵家次女』『共有者』

状態:良好

スキル:《共有》

《無魔法》Lv.4

《氷魔法》Lv.9

《社交》Lv.6

《舞踏》Lv.4


一目で分かる、異常だ。

まず、まともな人間ならたった14歳で魔法をLv.9まで上げることは不可能だ。長い寿命を誇るエルフや、人間を辞めて魔法に対して極めて高い適性を得た魔女や噂に聞く魔王、人間でいえば勇者や英雄なら分からないでもないが、ただの貴族の少女がここまで高いのはあまりにもおかしい。

才能と言ってしまえばそれまでだが、それでも稀有な才能である。


次にスキル《共有》だ。

このスキルはただのスキルではなく転生者や転移者が持つべきユニークスキルだ。俺が転生者や転移者以外で、ユニークスキル持ちを見た回数は100に満たないと言えばその稀少さが分かるだろう。しかも姉妹が両方とも持っている、これが問題である。ユニークスキルとは本来世界に1つしかないからこそ、ユニークスキルと呼ばれるのだ。考えられる原因として神のミスか、この姉妹が何らかの異常な何かを内包している、といったところである。


何が言いたいかといえば、この買い物は大当たりどころではなく、天文学的確率のもとに巡りあった最早必然といっても差し支えがないほどの現象なのだ。


俺があまりの偶然に硬直していると、リールニルが説明を始める。


「では奴隷についての説明をさせて頂きます。」


例え何度も奴隷を買っていたとしても、伝統として受け取りの際には奴隷の扱いの説明を受けることになっている。

これはヤマト王国の建国者、ヤマト・ヒシザキが推奨していたために広まった伝統だ。

歴史家は、例え奴隷でも一人の人間には変わりないという建国者ヤマト・ヒシザキの慈愛の心が感じられる、と言っていて、事実の程は定かではないがこれが常識として通っている。


数分が経った。

リールニルの奴隷についての説明が終わり、所有者譲渡の契約が行われる。


所有者譲渡の契約というのは、その名の通り物品や奴隷の所有権を譲渡するための強力な契約である。

契約といっても、口約束やただの書類で出来るものではなくれっきとした魔法を使用したもので、これで仮の主人から購入した本当の主人に譲渡されるのだ。

そして奴隷契約という発動条件が相手が了承すればいいだけという簡単な魔法だが、魔法の中でも十指に入るほど強力な魔法に干渉するのだ、その魔法を行使するだけでもかなりの技量を必要とする。その所有者譲渡の契約を一人で行えるリールニルは、商人としては半人前でも魔法使いとしては優秀な人物らしい。


忘れずに金貨200枚が入った袋をテーブルの上に置く。

それを見たリールニルが、金貨の確認をするように執事に指示を出す。

袋を持っていく代わりに、リールニルが執事から紙のようなものを受け取る。


「こちらに判を押してください。」


リールニルが二枚の羊皮紙を差し出す

魔道具作成にも使われる魔力伝導率の良いインク、魔滴で書かれた羊皮紙の契約用紙である。

素性を明かさない俺に配慮して、名前の記入欄の無い判を押すだけの契約用紙だ。

その契約用紙に親指で血判を押す。契約が魔法である以上血液だけでも個人を判別するとこは可能なのである。


「これで彼女らは貴方のモノになりました。」


リールニルが羊皮紙の片方を回収する。


「ああ、このまま連れいてく。」


俺も羊皮紙を丸めて封をし、懐に仕舞う。


「取り敢えず着替えて貰おう。その場所位はあるな?」


リールニルが細身の男に合図をすると、細身の男が隠し扉を開いた。

何故そんなどうでも良いような部屋まで隠す意味はあるのだろうか、謎だ。

部屋の中はせいぜい木製のイスがあるくらいの、簡素な部屋だった。


流石に街中をドレスを着たまま歩くのは目立ちすぎる。

別に厄介な奴に目をつけられたいわけではないので、白いワンピースを二人の少女に渡して、


「着替えろ。」


と、一言つけてから部屋に押し込んだ。


「ドレスについてはサービスですので、お持ち帰り頂くことも出来ますがどうしますか?」


「そうか、貰っておこう。」


貰えるものは貰っておこう。

例え、《無限の箱》の中にこれより良いドレスが何百着と仕舞われているとしても、貧乏性というやつである。


数分後、二人がワンピースを着て部屋から出てきた。

太股には隷属の魔法印がチラチラと見える。

二人は俺に目線を合わせず、ムスッとした顔で明後日の方向を向いている。

何が気に食わないのかは分からないが、取り敢えず朝焼け亭に連れていくことにした。


裏通りを抜ける前に仮面を剥がすと、視線を感じる。

軽く周りを見回すとそれは、二人の少女のものであった。

俺の顔を見て驚いているらしい。

それと、ろくでもない貴族に買われたと思っていたらしく、安心もしているらしい。


全く同じ顔をした二人の表情から読み取れる。


「驚いたか?金貨200枚を出せるような貴族が、自分達と同じくらいの年齢で。」


少しからかいを混ぜたように話すと、二人の少女は更にムスッとした。

それまであった不安感や不信感が霞のように消えている、それと図星なのか少し顔を赤くしている。

俺が軽くクスリと笑うと、頬をプクーと膨らませた。

年齢以上の幼さである。


裏通りを抜けて朝焼け亭に向かう。


道中では、それなりに注目された。

ドレスを着ていなくても、二人とも十分に美少女と呼ばれるような容姿である。目立たないも言うのも無理があったらしい。


少し驚いたような朝焼け亭のおっさんの顔を見てから、自分の部屋に戻った。


「ああ…私のウルはハーレム願望があったのですね…。この浮気者が!」


「やめろ!勘違いされるだろうが!」


「何が勘違いよ!」


完全に遊んでいる。


「そもそも俺はお前の夫じゃ無いし、アルクも俺の妻じゃな「酷い!私のことは遊びだったのね!」話が進まねぇ!黙っとけ!」


二人の少女は話に付いていけず、ポカーンとした顔で固まっている。


翔夏のことは人前ではアルクと呼ぶことにした。

日本語の名前を呼ぶのは転生者だとアピールするようなものだからな。


「はぁ…、疲れた。」


まさか翔夏がこんな事をしてくるとは…、予想外にも程がある。


「俺の名前はウル・ヴァニック・デルクール。デルクール伯爵家11男だ。」

「そこの騒がしいのがアルクシュッド・エルヴェナン。没落貴族で「ウルの愛妻です!」違う!俺が保護した孤児だろうが!」

「…取り敢えず自己紹介をしてくれ。」


二人の少女はコクコクと首を縦に振る。


「…私の名前はルサ・ニヴェルシュタイン、元フルール王国貴族ニヴェルシュタイン公爵家長女。」

「…私の名前はルナ・ニヴェルシュタイン、元フルール王国貴族ニヴェルシュタイン公爵家次女。」

「「これから、宜しくお願いします。御主人様。」」


「ウル…御主人様なんて呼ばせてるのか?」


翔夏が少し引いている。


「奴隷としては普通だからな!?」

「御主人様と呼ばれるのも悪くはないが、少し距離があるな…。」


翔夏が何か思い付いたように、ルナとルサに近寄る。


「ルナ、ルサ、ウルの事は『お兄様』って呼んであげてくれ。」


「おい何てことを吹き込んでくれやがった。アルク。」


実の妹でもないのにその呼び方は、何処かむず痒い。

そんな風に呼ばないでくれという、思いを込めてルサとルナの方を見ると、ルサとルナはとても良い笑顔で、


「「お兄様、何を御奉仕しましょうか?」」


と言った。

ルナとルサもこの空気に慣れてきたらしい。悪のりをしてきた。

馴染んだのは喜ばしいが、もう少しどうにかならないのだろうか。


この後は、おっさんに夕食は要らないと伝えてから、《無限の箱》から取り出した再現版地球の料理で歓迎パーティーをした。

見たことも無いような料理の数々に、ルサとルナは目を見開いていた。


翔夏も久しぶりに食べる地球の料理に、舌鼓をうっていた。


残りは『象牙の書』の回収だ。

ほかに厄介事が起こらなければいいのだが…。





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