第11話
《完全鑑定》を使用します
《完全鑑定》を使用します
《完全鑑定》を使用します
《完全鑑定》を使用します
《完全鑑定》を使用します
《完全鑑定》を使用します
《完全鑑定》を使用します……
そこらにゴミや何かの死体が落ちていて、それを喰うためにスライムが這い回り、所々に赤黒いシミがついた薄暗い裏通りを《完全鑑定》を連続発動させながら進む。
入り組んだ道の陰に、みずぼらしい人影が見えるが無視する。
わざわざ貴族に絡んでくる奴なんてそういない。
顔は、念のため化粧技術で印象を変えてから白い仮面を被っている。
端から見ればただの変人に見えるであろう。
ただし転生、転移者から見ればただの厨二病か。
なぜこんなところでこんなことをしているかというと、アレックスに教えられたタルキス商会への道順が罠だらけだからである。
きっと、さっき見かけたような裏通りの人間が仕掛けた、裏通りにのこのこ迷い混んだ一般人の身ぐるみを剥がすための罠に違いない。でなければこんなに巧妙にも関わらず、殺傷能力の低い捕縛用の罠である理由がない。(そもそも街中に罠がある時点でおかしいのたが。)
他に殺傷能力の低い捕縛用の罠しかないことから、裏通りとで何かの条約があると推測も出来る。
まぁ裏通りとのコネが無い以上、ただの推測でしかないのだが。
アレックスがこの道順を教えたのは嫌がらせか、それともコネが無かったのか。
もし前者だったのなら、霊薬を大量に用意して俺と100回ほど戦ってもらおう。
きっととてもタノシイコトになるだろう。
◇◇◇◇◇◇
門の近くの小屋
「…っ!?なんだこの悪寒は!?」
とアレックスが悪いわけでも無いのに、突然の悪寒に恐怖していた。
実に不思議である。
◇◇◇◇◇◇
そんな物騒なことを考えていると、《完全鑑定》にタルキス商会という文字が表示された。
そこを見てみると、裏通りにあるには小綺麗な建物があった。
汚れきった裏通りでかなり浮いた、見た限り汚れが1つもないような白い石壁で出来た建物である。
商会というには入り口が狭く、また建物も小さい。
場所としては街の東端にある物資を保管する倉の建ち並ぶ、倉通りと呼ばれる大通りに繋がる大きな道の裏である。
確かにここなら沢山の品を運びこんでも怪しまれないし、保管もしやすい。
そして、倉通りは奴隷なども一緒に運び込むための道なので、闘技場も近くにある。
違法な品を運び込むには、かなり良い立地であると言えるだろう。
軽く立地について考察をしていると、俺のことを客とみたのか、タルキス商会の中からスーツを着た従業員らしき細身の男性が出てきた。
俺が手に持った濃紺のチケットを見ると、目を細める。
「こちらへどうぞ」
手で白い建物の中に入るように誘う。
俺の3歩まえを従業員の男が歩く。
男と俺の革靴が、石の床にあたりコツコツと音をたてる。
全てが白い石でできた通路には、一定間隔でランタンが吊るされていて閉鎖空間の割には明るい。
短い通路と長い螺旋階段を降りると、明らかに武器を隠し持った筋骨粒々のスーツを着た二人の男が両脇に立った、豪奢な扉が見えた。
二人の男はこちらをギロリと睨み付けている。
右側の男が口を開く。
「我等が紋章は」
細身の男が返す。
「金色の竜」
「よし、通れ。」
左側の男が鍵を取りだし、豪奢な扉の鍵を開ける。
どうやら合言葉のようなものだったらしい。
というか、金色の竜はヤマト王家の象徴だったはずなのだが。
王家も関わっているのか?
久しぶりに貴族の暗部を見た。3000年ほど前に皇帝をやっていた頃や200年ほど前に公爵家の次男をやっていたころと、何ら変わっていない。
げに恐ろしきは人の悪意である。
デルクール侯爵家は驚くほど暗いところが無かったのだが。
左側の男が扉を押し開く。
一切の音を立てないことから、上等なものである。
開かれた扉から中を覗き込むと、そこはかなりシンプルな部屋だった。
10m四方の正方形の部屋の中心に革張りのソファが向かい合わせに二つと、足と枠以外がガラスで出来た机が置いてあった。
奥側の革張りのソファには小太りの中年、という見た目の男が座っている。
そしてその右斜め後ろには執事が書類らしき紙を持って佇んでいる。
扉が閉められた。
細身の男と筋骨粒々の男達は部屋の外に残った。
扉が完全に閉められると。
小太りの中年は立ち上がり、
「はじめまして、お客様。私の名はリールニル・タルキス、以後お見知り置きを。」
と、丁寧な挨拶を述べた。
「ああ。」
とぶっきらぼうに返す。
こちらは素性を知られたくないのだ、これで十分だろう。
リールニル・タルキスは、俺の返答に満足したのか軽く微笑む。
リールニルは革張りのソファに座るように促す。
「紅茶は如何ですか?」
「結構だ。」
リールニルから少しショボンとした雰囲気が漂う。
「では早速本題に入ります。今日は何を御持ちになられたのでしょうか。」
リールニルの問いに、物品を出すことで応える。
このオークションで出品する品は、
量産型鋳造魔剣5本セット×5
霊薬×20
上級回復薬×200
ユグドラシルの葉×10
ユグドラシルの樹液×10
本気で鍛えた最上級魔剣×1
古代魔法で作り上げた葉の代わりに炎の生る木『生命の炎樹』×1
である。
明らかにやり過ぎだが、ステータスの偽装も完璧だし制作者の銘も最初に手に入れた空白の名前を使っているので、身元が割れる心配もない。
なので、好き勝手出来るのである。
ちなみに『生命の炎樹』は見た目だけのなんの効果もない芸術品である。
これらを《無限の箱》から取り出しガラスの机の上に置くと、机が軋んだ。
机のガラスはかなり分厚いらしい、これだけの物を乗せてもヒビ一つ入っていない。
机の上に乗せた品を見て、リールニルと執事が目を見開いている。
数秒の硬直のあと、リールニルは商人の必須技能の《物品鑑定》を駆使して、贋作ではないかと調べている。
リールニルの顔がひきつった。
それもそうだろう、下手すれば一生見ることの叶わないような代物まで揃えられているのだから。
「これはこれは…、素晴らしい品を御持ちですね。本当に出品なされるのですか?」
リールニルがこちらを見る。
瞳からは、これらの物を自分のものにしたい、という心情が見てとれる。
「ああ、早急に大金が欲しかったのでな。」
適当に誤魔化しておく。
「…承知いたしました、二日後の夜にまたここに御越しください。代金の受け渡しをします。」
「それと、三日後に同じ場所で奴隷オークションがございます。よろしければ御参加ください。」
商魂逞しい奴だ。
金を稼いだ分落としてゆけ、ということだろう。
俺の 早急に大金が必要 という言葉に配慮出来ていないことから、リールニルが一人前の商人でないことが伺える。
だが、こんな仕事をしている以上すくにでも経験を積み、一人前になるだろう。
まぁ、俺には関係のない話だけどな。
俺は話は終わったと言わんばかりに立ち上がる。
「では、また明日ここでお待ちしております。」
リールニルと後ろにいた執事が深く頭を下げる。
扉の近くに行くと、扉の向こう側にいた男が扉を開く。
リールニルか執事は解らないが、何かしらの合図があったのだろう。
来たときと同じように、数歩前に細身の男の案内をつけながら入り口に戻る
入り口に着くと、細身の男は横にどいてお辞儀をした。
裏通りを出る前に白い仮面を剥がし、そのまま朝焼け亭に帰ることにした。
◇◇◇◇◇◇
仕事帰りの人が多いのだろう、朝焼け亭への帰路はとても帰りにくいものとなった。
この世界は、現代日本のように電灯がなく蝋燭でも十分な灯りを得れないため、夕方には帰路につくのが常識である。
ただし門番など夜も仕事があったり、貴族の屋敷のように灯りをつける魔法道具があれば話は別だ。
朝焼け亭の扉を開けると、無愛想なおっさんがカウンターで出迎えた。
華がないよ、華が。
奥は食堂らしい、大きいわけではないが話し声が聞こえる。
「丁度良い時間に帰って来たな。メシの時間だ、早く行って食ってこい。俺がメシを食う時間が無くなるだろうが。」
相変わらずぶっきらぼうである。
このおっさんの言う通りに早く食堂に行くことにしよう。
夕食が逃げる訳ではないが、おっさんに恨みがましい目で見られるのもいやだ。
食堂は意外と広い場所で、長机に十数人が座っている。
商人らしき人が大部分を占め、ちらほらと冒険者らしき人がいる。
入り口付近にあるカウンターに行くと奥で寸胴鍋を温めている、優しいおばさんといった風貌の女性が声をかけてきた。
「今温めているからちょっとまってね。」
そして渡された盆には、季節の野菜らしきものがたくさん入ったスープと柔らかそうな白いパンが乗っていた。
人口が多く貴族も多く滞在するこの街は、税金が安いのだろう。パンも白いパンが出てくるしスープの具材も豊富だ。
王都や大貴族の街や迷宮都市を除けば、他の街ではこうはいかない。
固い黒パンと具材が少なく、場所によっては塩と胡椒と僅かな野菜というスープというのが一般的である。
《無限の箱》の中には数千食分の料理が入っているのだが、せっかく上等な(平民基準だが)料理が出てくるのだ、節約の意味も込めて食べない訳にはいかない。
冒険者らしき男が話しかけて来たが、この街に長居する気もないので適当にあしらっておいた。
明日はオークションだ。
金は無いが、見に行こう。見るだけなら無料だ。
ちょっと長いです。
どの程度を目安に書けば良いのかわからない…。