第10話
エイボンの街は、大通りはアスファルトのように土が魔法で固められ上水道も 整備された、かなり近代的な街だ。
周りが安全だからか、貴族と思われる人達やその使用人らしき人、雰囲気からしてかなり儲けてそうな商人、中流階級の市民などが多く見られる。
建物もほとんどがしっかりした造りで、地震(異世界に来て1度も遭遇していない)が来ても大丈夫だろう。
きっと、というか確実に転生者が関わっているだろう、こんな近代的な街並み。転移者じゃ、政治や街の工事には関わりにくいしな。
他の街もこうあって欲しいという願いを心の隅に抱きながら、歩みを進めた。
暫く歩いていると、異世界の言葉で冒険者ギルドと書かれた看板が見えてきた。
自分の記憶では大陸をまたにかけるような組織のはずなのだが、周りにまともな魔物が出ないためか、建物が小さい。
横開きのドアをあける。
少しこえを大きくして
「こんにちは、冒険者登録にきま「ふぇ!?」!?」
カウンターで昼寝をしていたらしい受付嬢が飛び起きる。
短く切られた美しい黒髪が大きく揺れる。
書類をキチンと片付けて枕まで持ってきてきて寝ていたらしい、可愛らしい枕を慌ててカウンターの下に隠している。
アレックスは高位冒険者が来るとか言っていたが、ここのギルドは大丈夫なのだろうか。
「ぼぼぼぼ冒険者のかたでるか!?」
かみかみだ。
青と白を主として着色された制服のところどころに皺が出来ている。
あ、帽子が落ちた。
ギルドの受付嬢というのは、高給、可愛い制服が支給される、事務仕事主体であまりつかれない、と若い女性の羨望の的で全員が美人なため、男どもの恋人にしたい人ナンバーワンのはずなのだが…。
ここでは受付嬢以上の高給取りや貴族が多くいるので、あまり人気がないのだろうか?
「冒険者ギルドへようこそ。何か御用ですか?」
今さら可愛らしい声で取り繕っても無駄である。
少しからかってみるとしよう。
「すでに撮ってありますし、取り繕わなくても大丈夫ですよ?」
使ってもいない映像保存の魔道具をちらつかせる。
受付嬢の顔がサァーっと青くなる。
「にゃっ!…何が目的ですか?取り引きには応じますよ!?」
すごい慌てようだ。
それもそうだ、勤務中に昼寝をするなど受付嬢としては致命的だ。
というか、俺が何を要求すると思っているのだろう。
かなり本気で怯えている。
そろそろからかうのも止めにしよう。
映像保存の魔道具を握力で握り潰す。
その握り潰した残骸を受付嬢に放り投げる。
「は?えっ!?」
握り潰され、圧縮されてただの鉄の塊になった魔道具を慌ててうけとる。
「冒険者登録に来ました。してくれますよね?」
「はっはい。でもこの魔道具…。」
潰した鉄の塊を、手のひらに乗せながら少し高いカウンターから見下ろしてくる。
「幾らでも手に入りますから大丈夫です。」
事実、適当な鉄からでもつくれる。
「はぁ…。」
てきぱきと、登録用の書類らしきものを用意する。
ここは受付嬢らしく素早いようだ。
「では、ここにある必要事項を記入してください。」
公私混同はしないらしい、淡々としている。
まぁ、からかった俺が悪いのだけどな。
カウンターの手前にある、段差のような机で用意された書類に必要事項を記入する。
書き終えた書類を受付嬢に手渡す。
どうやら俺がからかっていたと理解したらしく、こちらをジト目でみてくる。
それを笑顔で返してやると、頬を染めて目を逸らした。
可愛いものである。
受付嬢が書類を確認する。
すると、こちらを見て目を見開いた。
「貴族の方でしたか、これまでの無礼誠に申し訳ありません!」
受付嬢がカウンターに頭を付けて謝罪する。
「謝らなくていいですよ、貴族といっても継承権はありませんから。」
「そうですか…。
それでは少しお待ち下さい。」
受付嬢がカウンターの奥に入っていって暫くすると、受付嬢が青銅色のカードを持ってきた。
あれが冒険者であるという証明になる、冒険者カード、通称ギルドカードだ。
(商業ギルド、探索者ギルド、盗賊ギルド等のカードもギルドカードと呼ばれる。)
ちなみにギルドカードにはランクというものがあり、したから
青銅 新人
鉄 若輩者
黒鉄 ベテラン
銀 実力者
金 一流
ミスリル 超一流
となっている。
殆どの人が鉄か黒鉄で止まっていて、それよりは上は多くない。
手に取り、内容を確認する。
名前:ウル・ヴァニック・デルクール Lv.30
職業:冒険者 青銅
二つ名:無し
所属パーティー:無し
問題無しだ。
ちゃんと改竄した情報が載っている。
「ありがとうございました。」
受付嬢の顔からは『何を向かってだ』という思いが読み取れる。
(わかっていても顔に出すべきじゃあないだろう。)
ギルドカードを懐に入れると身を翻し、がらがらの依頼掲示板を無視して冒険者ギルドから退出した。
◇◇◇◇◇◇
アレックスに教えてもらった事を思い出しつつ、東地区を進む。
まずは拠点となる宿探しだ、アレックスに教えてもらった朝焼け亭をさがす。
暫く大通りを歩いていると、小綺麗な木製の建物が見えてきた。
看板を見る限りここが朝焼け亭で間違いないだろう。
シンプルなドアを押し開ける。
蝶番がギィと音を立てる。
あまり新しくは無いらしい。
ドアを開けると、髭のおっさんがカウンターに肘をついて暇そうにしている。
魔道具によって照らされたスキンヘッドが眩しい。
客が来たことに気付いたようで、目線をこちらに傾けて口を開く。
「いらっしゃい、何名だ?って聞くまでもないか。」
「その通りだ、一人部屋の鍵を寄越せ。」
無愛想には無愛想で返してやるとしよう。
「そらよ」
おっさんが鍵を放り投げる。
「一泊大銅貨1枚だ払いな。」
俺は銀貨10枚をお返しにとばかりに投げ返す。
ここの世界の通貨の解説をしよう。
一番うえから
晶貨 金貨1000枚
大金貨 金貨500枚
金貨 銀貨100枚
大銀貨 銀貨50枚
銀貨 銅貨100枚
大銅貨 銅貨50枚
銅貨 賤貨10枚
賤貨
といった具合だ。
晶貨なんて国同士の取引か、大商人の商売の際に数枚出てくるくらいで、賤貨はほぼ貧民やスラムの住人しか使わない。
この宿の大銅貨1枚というのは、平民向けの宿屋の中では高い方だったりする。
下から3番目と言われれば安く感じるかもしれないが、平民向けの平均的な宿屋は銅貨10枚といったところで、平均的な宿屋の5倍の値段なのだ。
ちなみに貴族向けの宿屋は、金貨数十枚とかがザラである。
「一人部屋は三階で、31の部屋は三階の一番奥だ。」
渡された金属製の鍵を見ると、31と彫られている。
木製じゃあないところから、それなりに上等な宿らしい。
「軽い障壁や侵入防止用の結界は張ってあるが、戸締まりには気をつけろ。」
(あれ、このおっさん意外と優しい?)
軽く失礼なことを思ってしまった。
気持ちを切り替えて、オークションのためにタルキス商会に行くことにした。