第9話
アマレルツ草原で、兵士(笑)アレックスと戦う事になってしまった。
《無魔法》系統 結界魔術『認識阻害結界』を使用します
念のため、魔法も掛けておいた
俺の前方20mほどの所には、アレックスが指や首をポキポキと鳴らしている。
剣等の武器は使わずに素手の勝負のようだ。
(どうしようかな?英雄の癖にエイボン伯爵家の私兵なので殺すわけにもいかず、手加減するにも魔の森の魔物を殴り慣れているから、ちゃんと手加減出来るか怪しい…。)
悩んでいる俺を無視するかのように、アレックスは構えをとった。
ピリピリと喧嘩には似合わない殺意が肌を刺す。
(駆け出し冒険者に向ける殺意じゃあないだろう、これは。)
思わず冷や汗が出る………なんてことはなかった。
「さぁ…やろうか。」
穏やかな口調とは裏腹に高速で向かってくる。
今までアレックスが踏みしめていた地面が30cmほど抉られたといえばどれ程の速度か理解できるだろう。
そんな速度で俺の顔に向かって、右手を振り抜いた。
Lv.128に相応しい速さと威力で、だ。
その顔は喜色満面。
余程戦うことが嬉しいのだろう。
と、余裕綽々で観察する。
俺は高速で振るわれた拳を首を動かして紙一重で回避し、彼の脇腹に強めにフックもどきを叩き込んだ。
まともに態勢を整えずに、スキルも使わずに放った一撃は、
彼が咄嗟に防御した左腕をへし折り、拳に何かが潰れる感触と砕ける感触を残してアレックスを吹き飛ばした。
これがLv.差というものである。
《手加減》を取得しました
スキルについても更新があったらしい、でなければこんなに長く生きてきて今さら取得するのはおかしいからだ。
(細身な割には重いな…、筋肉を圧縮する技術でもあるのか?)
なんてことを考えていると、50mほど先からドサリと草の上に落ちる音がした。
(ヤバい、死んでないだろうな!?)
「大丈夫ですか!?」
少し小走りで駆けつける。
《完全鑑定》を使用してみると状態が、内臓破裂 粉砕骨折 打ち身 etc.となっていた。
取り敢えず状態:死亡になっていなくてひと安心だ。
アレックスの近くに行くと、《完全鑑定》の表示が変化した。
状態が内臓損傷 骨折になっている。
(回復魔術を使ったか。)
そう思考すると同時に加速して、腹部を蹴りとばした。
情け容赦のない追撃である。
「がぁっ…!」
呻き声をあげ、また吹き飛んだ。
正真正銘の化け物の攻撃をうけてまだ体がバラバラになっていない事から、アレックスも十分に人外であることがよくわかる。
俺が更に追撃をしようと近付くと、
「まった…!降参する!」
両手を上にあげて降参のポーズをとる。
「わかりました。」
この人を殺したところで俺にメリットは無い。
「取り敢えず怪我を治しましょう。」
懐に手を突っ込む振りをしてこっそりと《無限の箱》から回復薬を取り出そうとした。
そこで少し思案する。
(今さら異常性を隠しても仕方ないか?
Lv.100以上に恩を売っておくのも悪くないし…。)
取りだしかけた回復薬を仕舞い、霊薬を取り出す。
「…っ! それは!」
俺の手にあるビンに入った紫色の液体を見たのだろう。
(ちなみにただの回復薬は緑色だ。)
アレックスがいるガバッと起き上がった。
「霊薬!?なんで持ってるんだよ!
ダンジョンでも殆ど出ないし、市場にまわるのだって稀のはずだろ!?」
怪我人の癖に元気なものである。
「調達するツテがあるんですよ。」
大嘘である。
実際は錬金術で量産していて、回復薬の方が作るのは稀というのは秘密だ。
(ユグ爺の葉で出来るから沢山あるんだよなぁ。)
霊薬を一息で飲み干しだ。
「…お前絶対に駆け出し冒険者じゃないだろう。」
傷が治るのを感じて、本物だと理解したらしい。
アレックスがこちらをジト目でみてくる。
かわいくも何ともないのでやめてほしい。
「取り敢えずあの小屋までいきましょう。」
最初にアレックスが出てきた小屋を指差した。
ついでに結界魔術も解除しておいた。
アレックスの怪我は完璧に治ったらしい、グラつくことなく立ち上がり小屋に向かって歩いていった。
(霊薬、量産してる俺が言うのも何だが凄いチート性能だな…。)
◇◇◇◇◇◇
小屋に到着した。
遠くから見たときは綺麗だったがいざ近づいてみると、切り傷や強い力で殴られた痕があり結構ボロボロだった。
アレックスが厚い木の板でできた扉を開けた。
内装はかなりシンプルで装飾というものが見当たらない。
どこかの部屋に通じているであろう扉と、イスとテーブル、ランプ、窓、暖炉位しかない。
部屋の真ん中にある木で出来たイスにアレックスは腰かけた。
「相棒が帰ってくるまで時間はある、ゆっくり話し合おうか。」
アレックスが自分の向かい側にあるイスに座るように促す。
「いいですよ。」
「俺の名前はアレックス・グリンフォードだ、エイボン伯爵家の兵士をしている。」
「僕の名前はウル・ヴァニック・デルクールです。」
「勝者の特権だ、何でも聞いてくれ。」
半ば諦めたような声だ。
「では、あの街で手っ取り早く大金を稼ぐ方法を教えてください。冒険者業以外で。」
何事にも必要なのは金だ。
人間社会で生きる以上、どうあっても金は必要不可欠なものである。
街中で完全な自給自足など出来るはずもない。
「なぜ冒険者業以外なんだ?お前だったらあっという間に大金を稼げるだろう。」
確かに上級ドラゴンでも適当に狩れば名声も大金も転がってくるだろう、しかしその代わりにいろんな人間に目をつけられるのはいただけないし、下手に冒険者として大成すると冒険者ギルドに良いようにこきつかわれるのは経験でわかっている。
「僕の目的は観光なんですよ、そのために身分証明として冒険者ギルドに入るだけです。僕の安全な旅路の為にも目立つのは好ましくないんですよ。」
「なるほどな…。」
アレックスは腕を組み、思案する。
「それなら非合法のオークションなんてどうだ?
出品しても名前は明かされないし、霊薬とかを売ればかなりの値段になる。
しかも丁度チケットが伯爵経由で回ってきているんだ。俺は行く気はないしな。」
伯爵からまわってきたって言って良いのかよ。
しかも非合法なのに、こいつに警戒心はないのか。
「本当ですか?」
アレックスは濃紺の金で装飾された、チケットをテーブルの上に出した。
「ああ、明日にオークション、3日後には奴隷のオークションが闘技場の地下で行われる。入る方法は、東地区の闘技場の近くにあるタルキス商会の商会長にこのチケットを渡せ、出品するなら一緒に品を持っていけばいい。素顔を隠していってもいいぞ、このチケット自体に信用があるからな。
他に質問はあるか?」
「出品に制限は?」
「基本的にはない。ただ、贋作を持っていくのは止めとけ直ぐに見破られるからな。」
「わかりました、ありがとうございます。」
丁寧に頭を下げておく。
「礼なんて別にいいよ、俺も処分に困ってたからな。」
チケットをもらい話を終えたあと街の大雑把な地図を書いてもらい、エイボンの街に入った。
説明です。
ドラゴン
生物の生態系の頂点に立つ種族。
原則として4本足である。
その中の分類として
最上級ドラゴン
上級ドラゴン
中級ドラゴン
下級ドラゴン
と分かれておりさらに、そこに老竜や若竜で分けられる。
最上級 上級ドラゴンの老竜は人に化けることも可能とされる。
亜種として翼竜なども存在する。
《手加減》
殴打の威力等を好きなだけ下げることができる。
もちろんもとに戻すことも可能。
このスキルが発動している間は、いくら攻撃しても状態が死亡にならない。