新チーム始動
この作品に出現させるかどうか迷いましたが、冒険物だと私の作品では無いとうまく書けないので登場させることにしました。
「ニース、これ渡しておくニャ。」
翌日、お試しで10階層まで潜ろうと相談して、ダンジョンの手前に来た時にゲオルグからほいっと渡された一見ただの布袋。
しかしそれは…。
「ッ!!これはまさかマジカルバックパック!?」
「そんなびっくりするもんじゃないニャ。家で埃被ってたから勝手に持ってきただけニャ。遠慮なく使ってくれニャ。」
こんな代物が普通に埃被ってる段階でやはり彼の実家は並大抵の所じゃない。
「なぁ、ゲオルグさんの実家ってやっぱりサジタリウス・サバスの?」
「ゲオルグ、でいいニャ。いつ気づかれるかと思ったけど結構早かったニャ。」
「…そりゃ、こんな大それた代物ほいっと渡されたらね。これって500万オーロは下らないでしょ?」
マジカルバックパックとはその名の通り、魔術を込めて作られた背嚢の事であり、見掛けは普通のバックパックだが、中身は見掛けの50倍収納可能で荷重もかからないというお化けみたいな代物である。
光と闇の魔術を同時に施し、その反発から生まれる“混沌”の力で時空間を捻じ曲げているのである。中では時間が止まり、生鮮食品も保存可能という優れものだ。
「ほ、ほんとに貰っちゃって良いんですか?別にパーティ組んだからって個人の持ち物にあれこれ言いませんよ?」
「良いんニャ。僕はスカウトニャ。重い荷物持ってたら素早く動けないからバックパックは持ってないほうが良いんニャ。」
「そっか、そうですね。でもそれなら…。」
「ノアさん、これはノアさんが持ってて下さい。」
「え、私か??」
「エメスは治療も行うから彼女自身が傷を負うわけにはいかないんだ。最低限の荷物で可能な限り攻撃は避けて貰いたい。ゲオルグは今言った通りの理由で身軽な方が良い。」
「でもそれならニースが持てば良いのでは無いか?」
「忘れましたか?俺の特性を。」
「迷宮で生き返るというアレか?」
「そうです。俺は命がけの殿が出来るんです。でもその後は持ち物を全て失ってしまいます。貴重な荷物は出来る限り俺が持たないほうが良いんです。」
「…成程。しかし自分の命をそのように軽々しく考える事は私の好みではないな。以後、注意してくれ。」
「分かった。だが逆に俺はいざとなればみんなのためにいつでもこの命を懸ける覚悟があることは知っておいてくれ。」
◆ ◆ ◆
「楽だな。。」
「楽ね。。」
ニースとエメスは幾分、いや、かなりだらけて迷宮を進んでいた。
今は7階層。アーチャーゴブリンとファイアリザードが出現し、罠も初歩的とは言え幾つか張られているこの階層、普通なら少しは神経を尖らせて進まねばならない筈なのだが…。
「右手20m先、アーチャーゴブリン3体とファイアリザード3体のパーティニャ。回避するニャ?」
「少し数が多いな。回避して進める??」
「了解。…っと!左壁注意ニャ、毒矢の罠ニャ。」
スカウトのゲオルグが加入した事で迷宮の構造のマッピング、敵読み、罠解除が全て自分たちでやる必要がなくなったのである。
いざ戦闘になっても今までの半分の対応で済む。
更に…。
「ノアのシャドウ・大鬼、反則的な強さだな。棍棒一振りでアーチャーゴブリン3体ミンチって殆ど逆リンチじゃないか…。」
だが彼らはあくまで謙虚である。
「いやいや、そんな事はない。私の影術殺法は何といっても魔力燃費の悪さが欠点だったんだが、パーティを組めば使用頻度をかなり削れる上にニースが精霊魔術で魔力を循環回復させてくれるから魔力切れの心配もない。」
循環回復とは、精霊魔術の応用的方法で、体内の魔力と大気中に満ちたマナを循環させて取り込み回復させる方法である。回復に時間がかかるのが欠点だが、ノアは回復中も弓で応戦出来るだけの技量があるので回復中に狙われる危険性も低い。
「僕もこれまでは戦闘とスカウトの仕事、両方一人でやってたからそれが半分に減ってかなり楽ニャ。それにニースの精霊魔術剣、見ていて惚れ惚れする威力ニャ。魔物が紙切れみたいに見えるニャ。」
「自分たちの欠点を分かっていて、それを臆さず人に曝け出せるのは2人の長所だね。信用に値するよ。」
「ニースはどうなんだ?自分の弱点、分かってるか?」
「俺はまだ精霊魔術と剣術を完全に融合させられていないところだろうね。それと母さんにもよく言われるけど、ウィル・オ・ウィスプに頼りすぎるところかなぁ。その場にいる精霊にまだ臨機応変にマナを借りられていないよね。」
「アタシは回復役としての務めがあるのに突っ走って怪我しちゃう事ね。」
「お話し中悪いニャ。右通路からアーチャーゴブリン2体とブラッドウルフ2体来るニャ。」
チャキリ、と剣を構えなおすニース。他の2人も直ぐに臨戦態勢に入る。
「シャドウウルフよ、切り裂け!!」
ブラッドウルフに襲い掛かるノアのシャドウウルフ。
体格は互角だが、素早さ、攻撃力ともにシャドウウルフの方が上だ。
ニースは風の壁を召喚してアーチャーゴブリンの攻撃を無効化する事に専念している。
無駄矢を次々放つアーチャーゴブリンに接敵したエメスの拳がめり込む。
今回、ゲオルグはやる事が無く、見ているだけで戦闘が終わってしまった。
「…やっぱり楽だな。」
「楽ね。」
「楽だな。」
「楽ニャ。」
全員が同じ思いを抱いてチームは始動した。
短いですが、書いた分更新します。