新たな仲間
余り一度に大量の登場人物を増やさない様に心掛けています。
「有難う。2人とも素晴らしい腕だった。人格についても疑うつもりではないが、俺は迷宮内で2度背後から襲われている。形式だけでも契約神ミスラに誓いを立てて貰いたいのだがそれに異存は無いか?」
「僕は気にしないニャ。信用を得る為ならそれぐらい安いもんニャ。手数料までそちらで払って貰えるって言うんだから異存は無いニャ。」
ゲオルグが即答した。
「私も異存は無い。信用を金で買う様で心苦しいが必要事項だと思っておく。」
ノアも異存は無い様だ。
「それなら少しエメスと母さん – ローラと相談させてくれ。余り時間は取らせないつもりだ。」
エメスの方を向き直り、話し声が聞こえない様に風の精霊に声を掛けるニース。3人を風の壁が包み込み少々の騒音ぐらいなら紛れさせてしまう。
「エメス、2人を見ていてどう思った?」
「腕については何の問題もないわ。良くあれだけの腕のルーキーが何処にも所属せずに居た物ね。」
エメスの言葉にローラが口を開く。
「2人とも気付いてないの?サバスの姓に猫人族、ゲオルグは恐らく・・・。」
「――!!ひょっとして近衛騎士団長のサジタリウス・サバス!?」
「息子か、孫か。何れにしろその系譜に連なるものと見て間違いないでしょうね。」
サジタリウス・サバスは今年で御年60歳になろうという偉丈夫である。細身な肉付きの多い猫人族に有って190cmを超える長身とそれに見合った素晴らしい肉付きで、年齢を感じさせない引き締まった筋肉を全身に身に纏っている。戦闘スタイルも剣などではなく身の丈を超えるハルバードを軽々振り回し戦場を駆け巡る。
「マジか・・・。近衛騎士団長の子供とかって言えば殆ど貴族扱いじゃないか・・・。」
「下手なチームに所属する事は出来なかったんでしょうね。選ばれた事を逆に光栄に思わなきゃいけないぐらいよ。」
「で、でも、ノアの方はそんなじゃないだろう?どうしてあそこまでの才能が埋もれてたんだろう?」
「それは彼女がダークエルフだからじゃないかしら?彼女の顔の彫り物、気付いてるでしょ?」
「ああ。でも俺は母さん程博学じゃないからあれの意味迄は知らないよ?」
「神に誓って喜び以外の涙を流さない、そう言う意味合いだった筈よ。あの歳でそこまでの覚悟をしなきゃいけない生活、ダークエルフはやっぱりまだまだ偏見が強い種族なんじゃないかしら?」
ダークエルフは闇属性に属する種族だ。先程ノアが影を操った魔術もその類に入る。その他にも闇の精霊術や死霊術師など一般人からは忌避されやすい特技を持つ者が多く、フランクな性質の者が多い冒険者の間でも毛嫌いする者は多数存在する。
しかし。
ニースもエメスもそう言った事には良く言えばおおらか、ぶっちゃけてしまえば無頓着である。
実力と為人がしっかりしていれば他の要素などは些末事である。
エメスと二、三点確認した後、風の障壁を解除してゲオルグ達の下に戻って来た。
◆ ◆ ◆
「・・・私達2人とも仲間にしたいと??」
ノアが驚いた表情を見せる。
それはそうだ。仲間募集は1人の触れ込みだったのだから。
「ああ。お二人の実力、為人、短い時間対しただけですがこちらとしては何の問題もありません。寧ろこうして出会えた事に感謝しなければならないぐらいの逸材でした。ここでどちらかを逃すのは余りに勿体無いですので。」
「僕は問題無いニャ。ノアちゃんの影術殺法も弓の腕も見事だったニャ。長命なダークエルフには年を経て技を磨いてる人は何人か会った事有るけどこの年齢では見た事無いニャ。お見事ニャ。」
「私も異存は無い。ゲオルグさんのナイフ二刀流は変幻自在で3太刀目からは全く読む事が出来なかった。懐に入られたら勝てる気がしない。」
「いやいや、それを言うならあの影術殺法、蝙蝠とか飛龍とかも実体化出来るんニャ?デカブツ召喚したところも見てみたいニャ。」
「いえいえいえ、それを言うなら貴方のスカウトとしての実力も気になるところです。罠解除などもお得意なのでは?」
「・・・どうやらお互い問題なしの様ですね。ではミスラ神殿に参りましょうか。」
ミスラ神殿は誓約の他に神聖魔法による治癒なども行っている為ギルドの隣にある。
「文面はこちらでご用意させて頂きました。異存なければこれでお願いします。」
「「私は非道徳な行為を迷宮内で行わず、また知り得た秘密を他者に漏らさない事を誓います。契約神ミスラに誓って。」」
2人がミスラ像に手を置き、各々神父の前で唱和した。
「ようこそ、私達のチームへ。良いパーティにしましょう。」
◆ ◆ ◆
「戦闘スタイルについては特に相談する程の事でもないけど、一応確認しておきます。ゲオルグさんとエメスが前衛、但し、エメスは治療も担う為最前線ではなく一歩引いて戦う事を念頭に置いてくれ。」
エメスが深手を負うと治療する人員が居なくなる為だ。
「僕の事は呼び捨てで良いニャ。固ッ苦しいのは苦手ニャ。」
「了解、じゃあ俺達の事も呼び捨てにしてくれ。」
「俺は遠近両方の攻撃方法を持っているので中衛で遊撃を行う。ノアは懐に入られるとシャドウに戦わせる以外の戦術が取れないから常に後衛で。以上で良いかな?」
「了解した。」
「了解ニャ。」
ノアとゲオルグが唱和する。
さて。
「聞いて貰いたい事がある。」
◆ ◆ ◆
「迷宮で、死なないだと?」
珍しく猫語じゃなくなるゲオルグ。それ程驚いたと言う事か。いや、信じられないと言った方が正しいだろうか?
「信じられないかも知れない。でも事実なんだ。」
「それについては私達も証人よ。」
ローラとエメスが話に割り込んできた。
「ローラ母さん、本当ニャ?」
「まぁ、母さんだなんて可愛い子ね。私のことは気軽にローラって呼んでくれて良いわよ?」
「じゃぁローラさん、本当ニャ?」
「私は直接見た訳じゃ無いけど本当よ。エメスちゃんも証人だし2人共そんな大事な事で嘘は吐かないわ。」
「これは…随分なパーティに加入しちゃったニャ。」
「加入を考え直すなら今の内にお願いしたいんだ。そう思って最初に話したんだから。」
「あ、いやいやそう言う意味じゃないニャ。加入はニャンの問題も無いニャ。こんな面白そうなパーティ、逃したら罰が当たるニャ。」
「私も異存は無い。口は堅いほうだと自認しているし信用してもらって良い。」
彼女の為人は短い間だが何となくニースも把握している。契約神ミスラへの誓いも有るが、それなしでも信用に値すると判断したからこそ話したのである。彼女の性質は一言で言えば朴訥。ダークエルフらしい竹を割ったような性格だ。
「では改めて。ゲオルグさん、ノアさん、ルーキーばかりのチームへようこそ!楽しい冒険にしよう!!」
本当はもう一人仲間候補はいました。でもただでさえチームが倍加しているのにこれ以上増やすと読みづらいと思い泣く泣く削りました。私の小説は一気に登場人物が増えて把握できない、という指摘をいつも受けていましたので。ただやっぱり彼にもいつか日の目を見せてやりたいです