やっぱり蘇る
伏線その1、的な回です。
2人はパーティを組むに当たって役割を考えていた。
基本はニースが精霊魔術で先制を掛け、エメスがそれに続く。そこにニースが剣で続く。
弱点属性を突ける相手ならば精霊魔術で数を減らして有利に戦闘を進める事も出来るし、何より先に魔術で攻撃しないとエメスの背中を魔術で焦がしてしまう可能性もあるからだ。
6階層までは以前までと構造も同じで何ら苦労する事もなく連携を確かめながら進む余裕すら有った。
否、余裕が無い状態ならば進んではいけないのが迷宮の鉄則だ。
2人とも実力としては中級の下位に属する程であり、実際ならば20階層程度まで行っても大丈夫だろうというのがローラの見立てであった。
本当ならばもっと先に進んでいてもおかしくないのだが、現在は仲間が他に居ない為、3人~4人パーティになるまではその許しが降りていない。2人もたった一つしかない命を無駄にしたくない為、それを守ってここまで来ている。
たった一つの命。
誰しもに平等な命の重さ。
その筈であった。
◆ ◆ ◆
「つぅっ!くそっ!!キリがない!!」
ニース達は追われていた。
その相手はモンスターではない。
「初心者狩り、噂には聞いてたけどこんなに居たとはね!!」
エメスは左手の死角から降り降りてきた剣撃を籠手でいなし、掌底打を繰り出す。
と、同時に足払いを掛けて首筋を踏み抜く。
ごきり、と嫌な感触が伝わるが気にしている暇もない。
7階層から彼等は誘われる様に深部へと追い立てられていた。
現在の階層は既に18階層。2人だけのアタックではそろそろ苦しくなってくる階層だ。
彼等を追っている相手は初心者狩りと呼ばれる盗賊の一群である。
彼等には縦の繋がりなどは特になく、有るのは横の連携のみ。
今回はニースを狙ったアルダが捕まった事により、彼の口から漏れた情報により自分達にまで累が及ぶのを恐れた連中が徒党を組みニースの口を塞ぎに来たのだ。
ニースは何も聞いては居ないのだが、そんな事は関係ないだろうし、第一主張したところで信用してくれる様な相手ではない。
迷宮の中では死人に口なし、そもそも死体すら残らない。
誰が怪しもうが地上で紳士然としていれば誰にも怪しまれる事は無いのである。
ニースもエメスもルーキーとしては破格の実力を持っている。
1対1や2対2ならば到底後れを取る相手ではない。
しかし相手は8人で隊を組んできていた。
しかも一息に狙って報復を喰らわない様に少しずつ疲れを誘い、数の有利に任せてダメージを受けた者は後衛に回りじっくり体力と傷を癒してからまた襲い来ると言う始末である。
切れ目の無い攻撃にニースが足を縺れさせた時・・・。
「――ッ!!しまった!!」
洞窟に張られたピアノ線の罠。
最も初級にして数の多いその罠に足を引っ掛けてしまった。
マズい、と考える間もなく初心者狩りはチャンス過たず襲い来る。
「エメス、逃げろ!」
バックパックをエメスに投げつけながらニースが叫ぶ。
一瞬の逡巡。
しかしその瞬間に2人の脳裏にある可能性が閃いた。
「どっちにしろこれじゃジリ貧だ!あの可能性にかけよう。」
「・・・!!分かった。貴方の家で待ってるわ。」
「ひゃはははははっっ!そんな訳ねぇだろ。こいつはここで迷宮に喰われる運命なんだよ!!」
盗賊の一人が剣を振るいながら嘲笑を飛ばす。
ニースに気を取られた盗賊達に隙が出来た内に、エメスは帰還水晶を発動した。
エメスが無事帰還したのを見届けるとニースは目の前の盗賊に特攻を掛けた。
首筋を銀の剣が深々と切り裂いて盗賊の命をこの世からあの世へと誘う。
「さて。死ぬにしてもアンタらを後1人ぐらい殺してからでないとな。」
エメスはこの時、生きて帰ると言う手段を捨てる事により、今の自分に打てる選択肢を増やすと言う手を選んだ。
1人でも多くの盗賊に永遠の死を。
決死の覚悟で振るわれたその剣は彼が死ぬまでにもう2人の命を死出の旅へと誘った。
◆ ◆ ◆
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
(あの程度で死なれては困るなぁ。)
(・・・誰だ??)
声は問いかけに応えず、只自分の話を進めた。
(アタシはアンタがここまで来るのをずっと待ってるんだから。)
(・・・誰だ??)
彼はもう一度問いかける。
(何れ会えるさ。その為にアンタに祝福迄施してやったんだから。)
(祝福・・・??)
(まだ気付かないのかい?意外とお馬鹿だねぇ。)
(・・・アンタ誰だ??)
声は少し困った様な気配を見せる。
(何れ分かるさ。それまでアンタには楽しいアタックを繰り返して貰う。今日の所はおうちへお帰り。)
(あ、おい!!)
◆ ◆ ◆
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「痛ゥッ・・・。」
体中に嫌な感触が蘇る。
全身を切り裂かれ、打ち捨てられ、モンスターに食い破られた感触。
しかしそれ以外は体には傷一つ無い。
「気が付いたか?」
迷宮管理のギルド職員が声を掛けて来る。
やはりここは迷宮の入り口で間違いないらしい。
「と言う事は・・・。」
やはり自分は蘇ってきたらしい。
しかし、何か夢を見た様な気がするが良く思い出せない。
ニースはぶるぶると頭を振ると家路を急いだ。
タグにハーレムを張っていますが、これは私のファンタジーに対する考えからです。女性複数居るパーティならかっこいい主人公にメロメロのポーに為るのはごく自然な流れだと思います。