死んでも蘇る
ローグダンジョンという設定上、彼等には幾度となく死んで貰う事になるのですが、バリエーションのある死に方を言うのを想像すると難しいですね。
「ニース!!」
息を切らして帰宅したニースの姿を見てローラは息を飲んだ。
腹から背にかけて刃物で貫かれた傷があり、バックパックから装備品に至るまで全てのアイテムを失っている。
こうなる相手はモンスターではない。
人間の、しかも盗賊と言われる人種を相手にしない限りこのような事態に陥らない事を長い冒険者稼業でローラは知っていた。
しかし辛うじて生き延びたにしては傷 – 否、それは既に傷跡だったが – は大きすぎる気もした。
「何があったか聞くのは家に入ってからにしましょう。」
◆ ◆ ◆
「10階層でモンスターハウスに捕まっている男が居たんだ。」
ローラの出してくれた温かいスープを啜りながら湯上がりのニースは語り始めた。
「そいつは今考えるとわざと捕まっていたんだろうけど、冒険者なら助け合いは当然だと思ったし、助けに入ったんだが、助けたところで真後ろを取られて、剣で一突きに刺された。」
ニースは自分の腹の傷跡を指差しながら説明を続けた。
「そのままモンスターハウスに放り投げ入れられて、死んだと思ったら身ぐるみ全部はがれた状態で洞窟の外に横たわっていた。」
「ちょっと待って。バックパックと装備は盗賊に取られたんじゃないの?」
「バックパックは盗賊に取られた。でも装備までは取られてない。」
何より、鎧や盾まで剥ぎ取ろうと思うとかなりの時間を要するしその間に他の冒険者に見付かる可能性も高い。その程度には頭の回る盗賊だったんだろう。
「って事は何?死んだかと思ったら身包み剥がれて外に捨てられてた、こう言うこと?」
「それしか考えられないんだ。」
2人の間に重い沈黙が訪れる。
それしか考えられないが、そんな話聞いた事も無い。
ニースが言う事を纏めると、「死んだ後で迷宮に身包み剥がれて生き返った」と言う事になる。
その時だった。
ドン ドン!!
戸口を叩く音がする。
◆ ◆ ◆
「はーい、だぁれ??」
ローラが扉を開くとハチミツ色の髪の毛の男が立っていた。
「こちらの少年の遺品を届けに参りました。」
「あら、有難う。貴方の冒険者カードを見せて貰っても良いかしら?」
「アルダ・ロガルタ19歳、男。冒険者ランクC、間違いない?ニース。」
ローラは後ろに立つニースに向かって確認をした。
「ああ。間違いないよ、母さん。こいつだ。」
一瞬で間合いを詰めるとニースは男の腕を斬り飛ばし、剣を奪った。
「な!き、貴様は!?」
「亡霊じゃないぜ?足もちゃんと付いている。お前に殺されかけた、否、殺されたと言っても良い、ニース・コルテス16歳に間違いないぜ?」
「な、何のことだ!!行き成りこんな事をして無事で済むと思ってるんだろうな。」
「お前の方こそこの剣の剣先と俺の傷跡が俺を襲った証拠として成立するという事実、分かって話しているんだろうな。」
強がりを言いながら男の顔からどんどん血の気が引いていく。
「何なら契約神ミスラの前で証言しても良いんだぜ?」
契約神ミスラへの証言 – それは即ち神の前で行う絶対的な証言で、それを謀った者には等しく裁きが降り注ぐ。つまりは絶対に嘘を吐けない証言と同値とされており、それを行うと言う事はつまり100%真実と証言する前から証言しているのと等しい。
「く、くそぉっ!!」
踵を返して逃げの一手を打った男だが、ニースもローラも追わなかった。
男が勝機を見いだしたその時、男の体が投げ技で軽く宙を舞ってニースの足下へ返って来た。
「ぷぎゃぁぁぁぁっっ!?」
「何者なの?こいつ。ニース、何だか貴方の家、賑やかいわよ?」
血飛沫をハンカチで拭きながらニースより10cm程身長の低い少女が歩いてくる。
「そいつは俺を殺そうとした男だよ、エメス。」
それを聞いたエメスはアルダの上をぷちぷちと踏み付けて家に入っていった。
「話は中で聞くわね?」
◆ ◆ ◆
エメスが回復魔術でアルダの手を接ぎ、庭の木に体ごと縛り上げた。
エメスの前でもう一度同じ話をニースがする。
一度死んだ、と言う件で流石にエメスが眉を顰めたが、その先の死んだ後生き返ったと言う話で更に驚きの表情を見せた。
何よりも驚いたのは、ニースがこう言う時に冗談などを言う性格ではない、と知っているからだ。
つまり彼は真実を話している事に為り、庭で簀巻きにされているアルダとか言う盗賊の事と統合して考えると、死んだ後生き返ったと言うのが事実以外の何物でもない、と言う事に為るのだ。
「信じられないけど、信じて話を進めるしかないわね。」
「そうね、問題は・・・。」
ローラが話し始める。
「これが今回1度だけなのか、この後も続くのか。」
ニースが後を継ぐ。流石に分かっているらしい。
「そうね。原因が分からない以上どちらにしろ死なない様に冒険を進めるのが良いのは当たり前だけど、今回だけじゃないとしたらかなり冒険のやり方が変わってくるわ。」
「死ぬとこを他の冒険者に見られない様にした方が良いだろうし、この事は知られない方が良いわね。」
「下手をしたら毎回鉄砲玉をさせられるわね。」
ローラとエメスが嫌な想像を次々話す。この点に関してはニースも考えていたので異論はない。
毎回生き返ると知っていたら毎回命がけのアタックが出来ると言う事であり、その様な状況に放り込まれる可能性もあると言う事だ。
逆を言えば命がけで逆らう事もできるが、実力差があればその抵抗すら難しいかも知れない。
「取り敢えず今日は庭で転がってる盗賊を突き出しに行きましょう。明日はアタシも付いて行くから10階層まで地道にアタックして帰って来ましょう?OK?」
エメスの提案に否やがあろう筈も無く、ニースは盗賊を冒険者ギルドに突き出しに行った。
◆ ◆ ◆
盗賊はギルドで自白剤を飲ませられ、余罪を追及されていた。
迷宮という死人に口なしの状況で起こした完全犯罪であり、これまで明るみに出なかったが、今回の事で一気に全ての罪状を追求させられ、その結果、前科10犯と言う驚きの数字が出て来た。
結果として褒賞金が25万オーロ(一般家庭の年収が300万オーロ)と言う高額に達したので、その半額をローラに預けて2人は初級者装備を整えた。
白銀の装備に身を包まれた2人は一端の冒険者然としていた。
白銀はブレスにも或る程度の耐性を持ち、軽くて防御力もそこそこ有るので中階層までアタックする冒険者に人気の装備だ。
傷んでも地金として買い取って貰える為、買い換えにも手間や金が必要以上に掛からないのもこのランクからの装備に共通する特徴である。
「ほぉ・・・、ニースにエメス、銀の装備とは中々奮発したな。初級冒険者はそうでなくちゃいかん。今日もくれぐれも無茶せずに行く事だ。」
迷宮の入り口でギルド職員にカードを見せて、2人は中へと入っていった。
パーティメンバーはまだまだ考え中です。どんなメンバーが欲しいですか?