6 飛びます
「落ち込むくらいなら飛んでみようとか思わないのか? 俺だったら、せっかくだから飛んでみたいと思うけど」
いきなり人外と人間のキメラだと知った衝撃はオヌシにはわかるまい。
迷惑千万といわれ、外国に強制輸送されるかもしれないのに、落ち込むなといわれても無理だ。
そう思ったけれど、やることもないし、確かに飛んでみる価値はありそうだ。
「広い空地があるから、そこでちょっと空を飛ばせてみよう」
ワクワクした感じで武尊がいい、そっと私の手をとる。
その、ちょっと凧あげしてこよう、みたいな響きが気にくわない。
武尊に連れられて行った場所は広い空地になっていて、しかも周りは木々に囲まれている。ここなら誰にみつかることもなく、思い切り飛べそうだ。武尊は空地の四隅みに何かを立ててぶつぶつ言っている。結界とか、そういうヤツだろうか。
「じゃ、風呂敷とって。羽をのばして」
そういわれたが、羽ののばし方がよくわからない。
ウンともスンとも動かない。
暫く試行錯誤していたが、どうにもならなかった。
「ツバメさんでも、すぐに飛べるようになるのに…」
家のそばに巣を作っていたツバメを思い出す。
「すぐとは限らないだろ。巣の中で一週間、イメージトレーニングしていたかもしれないじゃないか」
そうだけど、ってそうなの? なんか、野生の本能で、バーッと飛べちゃう気がするんですけど。
「それに、結局飛べずに地に落ちて、猫のエサになったツバメさんもいるかもしれない」
武尊は不吉なことをいって合掌している。
合掌ポーズが妙にサマになっていてむかつく。
うんうんと力を入れてみるが、どこの筋力で羽が動いているのかよくわからない。
背筋?
胸筋?
腹筋?
「うーむむむむ」
一生懸命力を入れていたとき。
武尊が見守る静寂の中、小さな破裂音がした。
ぷ。
「…ぷ?」
武尊が怪訝な顔をして私を見た。
むぎゃぁあぁぁ。
お な ら が !!
力入れる場所がまずかったのでしょうか。
腸の調子はいい方なんですけどっ。
あたあたわたわたしていると、武尊が体を折り曲げ、爆笑しだした。
「空、羽、動いてる! うくく、笑いすぎて苦しい」
武尊が指差す通り、わたわたあたあたしている私にあわせ、羽がバサバサ動いていた。
おおおお。
動いた………。
コツをつかんでからは、バサバサと羽を動かすことだけはできるようになった。
「うん、動くようになったな。じゃあ、羽を動かしながら、高い所から飛び降りて見ろ」
武尊に言われるまま、木に登り、枝にぶら下がってみる。
大空にむかって自由に羽ばたけ!るといいんだけれど、実際は、ぶらーんと高い木の枝からぶら下がり、ジタバタしているだけ。
「どうでもいいけれど、空、ぱんつみえてるぞ」
上を見あげながら平然と武尊がいった。
「ちょっと、早くそれを言ってよ。ぎゃあ、変態」
スカートのすそを押さえようと、手を離したら落下した。
「お前、アホか」
落下する私を受け止めながら、白い目で武尊がいう。
「だって、ぱんつなんていうから…」
「そう言えば焦って飛ぶかと思ったんだが、スカート押さえたまま落下するなんて、間抜けすぎる。それより飛べよ」
冷たく言い放つ鬼教官。
人のぱんつ見た挙句、アホとか間抜けとか、ヒドイ。
絶対飛べるようになって飛び蹴りしてやる。
ほの暗い決意を胸に、頑張って練習した。






