2 なんじゃこりゃあ
「なんじゃこりゃあ……」
私は、がっくりと膝をつき、茫然としていた。
テレビをみていたら、突然、部屋中に白い羽毛が舞い散った。
テレビの中ではプニョンが旨そうにチキンラーメンの汁を飲みほしていたが、それどころじゃない。
背中がズキズキと痛む。
何が……起こったの?
バサリという大きな羽音に振り向くと、巨大な翼が迫っていた。
ひぃぃ何コレ……って、私の背中から羽が生えているの??
慌てて鏡を見ると、背中から白い大きな羽がにょっきり生えていた。
……何じゃこれ?
嘘でしょ……?
ペタリと座ったまま動けない。
着ていたTシャツは無残に背中で破れている。
お気に入りTシャツが……。
そういえば、ここ最近、妙に背中がかゆいと思っていた。
かゆいというか、熱いというか。
部屋の掃除をさぼっていたし、まさかダニー発生??
慌てて布団を干して、掃除機をかけてみたけれど、背中のかゆみは治らない。それどころか、背中が痛い。熱が出るときに体の節々が痛くなるような、あんな感じだった。
ダニーの仕業ではないらしい。
これは病院に行った方がいいかも、と思ったけれど、健康優良児の私は病院なんて歯医者に五年前に行ったきりだ。内科に行くべきか、外科に行くべきか、はたまた皮膚科に行けばいいのか。どこにしようかな。迷っているうちに、今日にいたる。
まさか、これは、いや、しかし、なぜ、どうしてこうなった?
混乱しながらも考える。
……更に考える。
1.自分は鳥と人間のキメラだった。
2.先祖代々鳥に呪いをかけられていた。
3.神様から天使に選ばれた。
うーむむむむ……。
3はロマンチックだけれど、自分が神だったら、もっとピュアな子供を選ぶと思う。2の鳥の呪いなら、鳥をずっと食べずに頑張ってきた私よりも、カーネ○おじさんが呪われるべきではないだろうか。では…1? 怖い。怖すぎる。
そういえば昔、母にきいたことがあった。
どうして空にはパパがいないの? と。
「パパは遠いお空に飛んでいっちゃったのよ」
母は遠い眼をしてそう答えた。
パパは死んじゃって天国にいったんだ。
幼いながらにそう解釈していたが……まさか、本当にお空に飛んでいったとか??
そして、鶏肉禁止の理由は……?
お母様。
もしや、私のお父様は鳥なのでしょうか。
だから、あんなに鶏肉を食べるのを嫌がったのですね。
って、まさかそんなワケないよね?
考えたところでわかるわけがない。
「どういうことなの、お母さん!!!」
母に国際電話をかけた。
『なにが? 空、元気にしてた~?』
陽気で呑気な声が聞こえてくる。
おのれ、自分だけは楽しく海外生活満喫しちゃって。しかも、旦那とラブラブで。
「羽が。羽が生えてきたのよ。いきなり!! 背中に!!」
私がどなると、呑気な声が返ってきた。
『あらー。パパに似ちゃったのね。成人オメデトー!』
なんですとー?
「ぱ、パパって? まさか鳥じゃないよね? 鶏肉食べちゃダメっていってたけど、それって…」
『はあ? すっごくかっこいい天使だったわよ。なんとなく翼の生えている生き物食べさせると共食いの気がしちゃってさー。あはは』
あははじゃないよ、まったく。
「て、天使? その人、もしかして、今も生きてるの? どこにいるの? その人も背中に羽が生えてたの?」
勢い込んで聞くと、母は何でもない事のようにいう。
『はえてたわよ。普段はしまってたけど。まさか今頃になって空に羽が生えてくるなんてびっくりねー。でも、彼がどこにいるのかは知らなーい。空がお腹にいるうちにジョーハツしちゃったからね! 大丈夫よ、羽しまっとけば普通に生活できるから。あ、ダーリン、モーニン! 空、またねー』
無情にもガチャン、と電話は切れた。
酷い。
ひどすぎる。
だーりんもーにん?
母よ、いつから外人になったんだ。娘のピンチよりダーリンですか。まあ、そりゃあ、恋人と上手くいけばいいと応援もしたけれど、しましたけれど、でもちょっと。
よく考えてみたら、私は父のことをまるで知らない。
パパは遠いお空に飛んで行っちゃったのよ。
昔から母はそういっていた。母は一切、父の話をしなかった。
だから、私は死んじゃって天国にいるのだ、と勝手に解釈していたのだ。
普通、そう思うでしょ?
まさか、本当にお空を飛んでいたとは。
もしかして、自分はハーフなのでは、と思ったことは何度かあった。日本人顔で、母親に似ているが、髪の色や目の色が茶色い。特に後ろから見たときの髪のふわふわ加減と頭の形は欧米系っぽくみえるらしい。あくまで後ろ姿限定だけど。それにしても、母が惚れっぽいのは知っていたが、相手が外人ではなく、人外だったとは。
しかもジョーハツっていったい…。
これからどうなるのだ、私。