鏡の中の決闘
鏡の中では奴がこちらを睨みつけている。
ふん、馬鹿めが。
さっきは危ないところだったがもうこっちは仮眠を十分取ったし
何より秘策がある。
大丈夫。勝つのは俺だ。
そっちは絶対に渡さねぇ!
中山はそう心の中で叫んだ。
自分と同じ顔をした奴が不気味にニヤリと笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・
魔の刻。
それは約500年の周期ごとに訪れる。
そして世界の空間を歪ませるのだ。
空間が歪み、本来は決して繋がることのない世界が繋がった。
鏡の世界である。
今まで自分と同じ動きをする制約に捕らわれていた奴らが
それから開放されたのだ…!
チェンジ!
そうどちらかが叫ぶとお互いの世界が入れ替わる。
ただしこれを叫ぶと鏡の人物と本人がともに
声も出せないほどの極度の疲労が襲ってきて
1、2分動けなくなる。
どういったメカニズムなのかはわからないが…。
・・・・・・・・・・・・・・・
一体何回チェンジをしただろうか…。
叫ぶたびに訪れる疲労で山中はクタクタだった。
時計を見る…20時を回ろうとしている。
500年前の資料からするとこの魔の刻は24時間丁度で終わるとされている。
あと4時間耐えることが出来ればこの苦しみからも解放されるのだ。
中山は考える。
チェンジを叫ぶと1、2分の硬直状態がある。
つまりその1、2分の間に24時間を経過してしまえば
こちらの勝ちである。
そのためには24時間経過する1分前に自分が鏡の世界にいることが必要となる。
23時59分に鏡の世界でチェンジを叫んだもの。
それがこの戦いの勝利者なのだ。
ふと中山は鏡の中を見た。
中に奴の姿はいない。
━━━もし奴が同じことを考えていたとしたら?
そんな不安が中山の頭をよぎる。
23時59分に確実に鏡の中にいる方法を考える。
58分にこちらからチェンジをしかける…。
いや、駄目だ。危険すぎる。
今までの硬直時間は大体1分だがたまに長い時で2分近くかかる時があった。
58分にこちらからあちらへ行くのは自殺行為。
57分では?
硬直が2分で切れた場合は即チェンジでこちらに戻ってくれば良い。
これは問題ない。
1分で切れた場合は…?
58分に硬直が途切れ59分まで待てば良い…。
でも待てよ。
59分になる前に奴がチェンジをしてきたら…?
最悪59分台で奴が鏡の世界で硬直がとける可能性がある。
…確実ではない。
どうしたものか…
ふと時計を見る。
中山はニヤリと笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・
決戦の時に備え中山は仮眠をとることにした。
肝心な時に動けないのは危険だからである。
二時間ほど仮眠を取ろう…。
中山は目覚ましのタイマーを22時にセットする。
喉が渇いて水を飲みに行きたかったが
魔の刻の影響の一つなのか
部屋の入り口の近くに見えない壁ができていて
部屋から出られないのであきらめた。
トイレなどは部屋の隅で済まし
おいてあった部屋用の香水をぶっ掛けて消臭を試みてはいたが
においが薄れることはなかった。
早く掃除がしたいな。
・・・・・・・・・・・・・・・
ゴゴ…
ズズズ…
不穏な音でふと中山は目を覚ました。
時計を見る。
1時…。
?!
1時!!!!?
中山は冷静になって時計を見直す。
確かにアナログ式の時計は普段の1時の位置にハリがきてはいるが
数字が鏡文字になっていた。
いつのまに…!!!
眠っている間に奴がチェンジをしていたのか!
…ということは今は23時。
妙だ。
確か寝る前にタイマーは22時にセットしておいたはずなのに…。
そうか!
奴はオレが寝ている隙にタイマーを止めたんだ。
向こう(鏡の世界)とこちらのものは生物以外は対応しているから…
向こうでタイマーをきればこっちもきれたってわけか。
危うく鏡の世界で寝過ごすところだった…。
周囲を見渡すといろんな物が壊されている。
俺が寝ている間に奴が色々壊したのだろうか。
チクショウ。好き勝手にやりやがって!
鏡の中では奴がこちらを睨みつけている。
ふん、馬鹿めが。
さっきは危ないところだったがもうこっちは仮眠を十分取ったし
何より秘策がある。
大丈夫。勝つのは俺だ。
そっちは絶対に渡さねぇ!
中山はそう心の中で叫んだ。
自分と同じ顔をした奴が不気味にニヤリと笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・
時計を見る。
ぱっとみ0時6分に見えるが23時54分。
オレが目を覚ました23時からは奴もオレも一回もチェンジをしていない。
奴にも考えがあってのことなのかそれとも単に疲れているのかはオレにもわからない。
オレは今鏡の世界にいる。
“59分”にこちら側からチェンジを唱えればこちらの勝ちだ。
時計はカチリ、カチリと音を奏でている。
自分の心臓の鼓動も段々と早くなる。
…もう少しだ…?!
そう思った次の瞬間「チェンジ」という言葉が響き渡った!
自分の声と同じだが、これは自分が発したものではなく奴が発した言葉だ。
周囲のものが歪んで見える。
ぐらぐらと。本棚がありえないくらい歪んでいる。
眩暈がする。吐き気がする…。
そしてものすごい疲労感。
体が酷くだるい。
腕を動かせるどころか息をするのがやっとだ。
今日一日で何度も体験してきたがこれはもう体験したくないと中山は思った。
でも中山の計算上少なくとも後二回は体験することになるので
憂鬱な気分になっていった。
時計を見る。
23時58分。
文字盤はひっくり返ってないから間違いなく23時58分。
59分に鏡の世界でチェンジをしたものが勝者。
中山は鏡の中の奴を見た。
奴は自分と同じように倒れているがこちらをみて不気味にニヤリと笑う。
オレ、あいつと同じ顔なんだよな。
中山はなんだかやるせない気持ちになった。
・・・・・・・・・・・・・・・
時計を見る。59分。
チェンジ!
すかさず声が響き渡る。
奴の声だ。
奴も同じことを考えていたのは確かだった。
世界が歪む。
頭痛吐き気、疲労感が襲い掛かる…。
世界が入れ替わっていく…。
時計の秒針が逆周りにカチリと動く。
中山は動けない。
秒針が左回りにまたカチリと動く。
中山は動けない。
残り10秒で0時だ。
中山は動けない。
残り5秒。4。
まだ中山は動けない!
3、2、1…!!
中山から疲労感が収まった。
鏡の向こうの奴は勝ち誇ったように笑っている。
時計は0時を過ぎていた…。
・・・・・・・・・・・・・・
中山はゆらりと立ち上がる。
鏡の奴が驚いた表情でこちらを見る。
きっと0時を過ぎたのに勝手に動きだしたオレを見て驚いているのだろう。
馬鹿め!
お前は敗者だ!
勝ったのはオレなんだよ!
中山はあの時細工をした。
タイマーをかけるときに時計を二分進ませておいたのだ。
だから今実際の時間はまだ23時59分。
最低1分は続くであろうチェンジの疲労を考えると
次がラスト。
オレはもとの世界に戻り、奴が鏡の世界に戻る。
オレは思いっきり叫んだ。
チェンジ!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・
頭痛吐き気に襲われつつ横にある時計を見る。
秒針は右回り。
あと30秒ほどで0時2分になる。
二分進ませたのだから、0時になるわけだ。
体はまだ動かない。
動くと困るのだが…。
ふと時計の文字盤を見ると妙な違和感を感じた。
今まで暗くてよく気付かなかったが数字が歪んでいる。
これは…!!
文字盤は良く見ると手書きのものだった。
暗いところで見ても気付かないくらいうまく描かれた…。
さらに良く見ると時計には壊したような跡があった。
まさか…!
そう。
奴の方が一枚上手だった。
オレが仮眠を取っている間に奴がしていた細工は
目覚ましを止めただけではなかったのだ。
部屋の家具の配置を左右対称にし
出来ないものは破壊。
それで目覚めた後は部屋の色々な物が壊れていたわけだ。
そして極めつけは時計。
おそらく分解し、針が逆に回るよう組み替えたのだろう。
オレが最後に何かやるのを予想してこんなことを…。
時は0時を告げた。
はじめまして。オレガノと申すものです。
右も左もわからぬまま書き上げた駄文ですが如何でしたでしょうか。
名字を左右対象なのを選んで最後で一ひねりとして
使おうと思ってましたが
主人公が設定上動けなくなっちゃってて使えませんでした。
わかりにくい表現等多かったとは思いますが
ここまで読んでくださってどうもありがとうございました。




