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龍神の嫁は身代わりの下女でした  作者: 青空一夏


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5

「……どうされたのですか? その子」

「下界の森で迷子になっていた。川に落ちて弱っていたからな。放っておけなかった」

 雪乃は目を丸くした。龍神が“子犬”を拾ってくる場面など、想像もしなかったからだ。

「私が留守の間、一人では寂しかろうと思ってな。この子なら……少しは役に立つだろう」

 そう言って差し出された子犬は、トテトテと雪乃の側に寄り、しっぽを揺らした。


 雪乃がそっと撫でると、子犬は気持ちよさそうに目を細める。龍神も手を添えて撫でた。その瞬間——淡い光の粒がふわりと弾けて子犬の中へ消えていく。

「え……? いまの光りは……?」

 雪乃が思わず手を止めると、龍神はニコリと笑う。

「私の“気”だ。それをこいつに取り込ませた」

「気を……取り込むんですか?」

「そうだ。万が一の時に、雪乃を守れるようにしてやった。つまり……番犬にもなる」

 そう言われて見れば、子犬の体躯はひとまわり大きくなり、黒かった瞳は龍神と同じ銀色に変わっていた。


(龍神様の力で、子犬まで強くなってしまうの……? 不思議)

 だが雪乃はそんなことより、自分の寂しさを気にかけてくれた龍神の気持ちが胸に染みて、心がポカポカと温かくなるのだった。


 夜になると、雪乃の前に龍人たちが並び、手を握られたり頭を撫でられたりするのが恒例行事になった。それだけでも龍たちは安心して安らかに眠ることができた。

「こんな素晴らしい方が嫁いでこられて本当に嬉しいです」

「雪乃様は、私たちの宝です」

 口々に龍人たちは、感謝の言葉を口にするのだった。




 ◆◇◆




 一方その頃、下界では騒ぎが起きていた。

「うわぁ! 早瀬川が氾濫したぞ、逃げろー!」

 慌てふためく村人たちの中で、組頭の与助が叫ぶ。

「これは龍神様のお怒りだぁ! きっと、庄屋の娘がお気に召さなかったに違いない。甘やかされ放題に育った梨花様のことだ。当然といえば当然だろう?」

 村人たちは黙って頷いた。梨花は美貌に恵まれていたが、性格は傲慢。——それは村中の共通認識だった。


「他に見目麗しく性格の穏やかな娘を差し出せば、怒りも鎮まるはずだ!」

 与助が自信満々に決めつける。庄屋も娘を甘やかしてきた負い目から強く否定できない。村人たちとの話し合いはそのまま与助に押し切られた。白無垢を着せられた娘たちが急遽集められ、拝殿へと送り込まれたのだった。


 しかし本当のところ——昨晩、早瀬川のせきを壊して水を流したのは与助だった。“龍神の怒り”という方便の下、娘たちを都に売り飛ばそうと目論んだのだ。


 拝殿では娘たちが震えながら龍神を待っていた。そこへ与助と手下たちが、土足のまま畳を踏み鳴らして乱入する。

「ほう……見目の良い娘が揃ってるじゃねぇか」

 与助はいやらしく口元を歪めた。

「都に送り込めば、いい金になるってもんだ」


 手が伸びたその瞬間——

 ごうッ!

 頭上の天窓が白く光り、龍神が雪乃を背に乗せて降り立つ。畳の上に着地した瞬間、与助たちは尻餅をつき、娘たちは息を呑んだ。凄烈な気配に空気が震え、川面は怒りに呼応するように荒れ狂う。


 水が堤を越え、人家に迫ろうとしたその刹那——

「龍神様、お鎮まりください! 村が流されてしまいます」

 雪乃が必死に呼びかけた。その声は祈りのように澄み、荒れ狂う水はぴたりと止んだ。

「しかし……腹が立つではないか! 雪乃は私の唯一無二だ。それなのに村人どもは、私が雪乃に満足していないと勝手に邪推し、別の花嫁を差し出そうとした。そこの与助に騙されたとしても……これは雪乃への侮辱だ!」

(え? 怒ってる理由そこなんだ? ……私を否定されたみたいで怒ったの?

そんな理由で川を氾濫させるほど……?)

 龍神の愛を感じるとともに、思わず雪乃は呆れてしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
この分だと1話目に出てきた「若様」も与吉らの同類では?
いやいやいや、そこは神様として「ようもわが名を騙って悪行を!」じゃなきゃダメでしょ。
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