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花と音楽のカフェ巡り~記憶を紡ぐ異世界巡礼~  作者: 雨音トキ


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第9章 エデンヴェールへの道

クリスタリアでの2週間が過ぎた夜。

アリアは塔の部屋で、花図譜を開いていた。

暖炉の火が、ページを照らしている。

セラフィナは隣で眠っている。穏やかな寝息が、静かな部屋に響いていた。

アリアはフロリアのページから、順にめくっていった。

春風のワルツ。大漁行進曲。収穫の讃歌。

三つの楽譜が、完璧に刻まれている。

そして、クリスタリアのページ。

氷花のスケッチはあるが、楽譜はまだ空白のままだった。

「まだ、時間がかかりそうね」

リリィが肩に止まった。

「ええ。でも、少しずつ進んでいます」

アリアはページをめくり続けた。

残りの8つの街。

すべて、空白の五線譜が待っている。

そして――

最後のページに辿り着いた時。

不思議なことが起きた。

ページが、淡く光り始めた。

「これは……」

光が強くなる。

そして、新しい地図が浮かび上がってきた。

12の都市を示す円形の地図。

でも、今まで見たものと少し違う。

中央に、新しい印が現れていた。

「エデンヴェール……」

アリアは息を呑んだ。

「中心都市……」

地図の真ん中に、小さな星のような印。

そこから、12の都市へと線が伸びている。

まるで、すべての街を繋ぐ中心点のように。

「リリィ、これは……」

「エデンヴェールよ」

リリィの声が、真剣だった。

「すべての季節が交わる場所」

「すべての季節が……」

アリアは地図を見つめた。

エデンヴェールは、12の都市のちょうど中心に位置していた。

春夏秋冬、どの季節にも属さない。

いや、すべての季節を内包している場所。

「ここに行けるんですか?」

「ええ。でも……」

リリィは少し躊躇した。

「普通の旅人は、エデンヴェールに辿り着けない」

「どうして?」

「花守りだけが見つけられる場所だから」

リリィは地図の中心を指差した。

「この印が現れたということは……あなたが、花守りとして認められたということよ」

アリアは胸が高鳴った。

「そこには、何があるんですか?」

「先代の花守りの記憶が残っているはず」

リリィの声が沈んだ。

「30年前、戦争が起きた時……先代はエデンヴェールにいた」

「エデンヴェールに……」

「ええ。そこで、何かを残したはずなの。次の花守りのために」

アリアは花図譜を閉じた。

「行きたいです」

「でも、クリスタリアは……」

「セラフィナさんには、少し待ってもらいます」

アリアはセラフィナの寝顔を見た。

「彼女も、きっとわかってくれるはず」

リリィは頷いた。

「わかったわ。でも、エデンヴェールへの道は……険しいわよ」

「大丈夫です」

アリアは微笑んだ。

「今まで、たくさんの街を巡ってきました。きっと、辿り着けます」

――――

翌朝、アリアはセラフィナに事情を話した。

セラフィナは少し寂しそうだったが、理解してくれた。

紙に書く。

『行ってきてください。私は、ここで氷花の世話を続けています』

「ありがとう。すぐに戻ってきます」

アリアはセラフィナを抱きしめた。

塔を出て、広場を横切る。

雪は相変わらず降り続けていたが、アリアの心は温かかった。

街の門をくぐろうとした時――

「待って!」

声が聞こえた。

振り返ると、一人の若い男性が走ってきた。

「あなた、旅の方ですよね」

「はい」

「あなたに手紙です」

男性は手紙を差し出した。

「手紙……?」

「フロリアのセレスさんから」

アリアは驚いた。

「セレスさんから……?」

「ええ。旅人の伝言ネットワークで回ってきたんです。あなた宛ての手紙が」

アリアは手紙を受け取った。

封筒には、確かに自分の名前が書かれている。

「ありがとうございます」

男性は去っていった。

アリアは手紙を開けた。

――――

『アリア様

セレスとエリオです。

あなたが去ってから、花時計亭は毎日賑わっています。

音楽を聴きに来るお客様が増えて、僕は毎晩ピアノを弾いています。

父も喜んでいます。

あなたのおかげです。

本当に、ありがとうございました。

どうか、旅の無事を。

そして、他の街でも、誰かの幸せを届けてあげてください。

セレス&エリオ』

――――

アリアは涙が溢れそうになった。

「セレスさん……エリオさん……」

リリィが肩に止まった。

「嬉しい手紙ね」

「ええ……」

アリアは手紙を大切に鞄にしまった。

門を出ようとすると、また声がかかった。

「ちょっと待って!」

今度は、商人風の男性だった。

「これも、あなた宛てです」

また手紙だった。

差出人は――サンフィーノのマリナ。

アリアは驚いて開けた。

――――

『アリアさん

元気にしていますか? マリナです。

あなたが去ってから、港は活気に溢れています。

毎日大漁で、祭りも定期的に開催されるようになりました。

タオ親方も元気です。若い漁師たちに、毎日太鼓を教えています。

波音亭も繁盛しています。

父の料理を、たくさんのお客様に出せて、幸せです。

すべて、あなたのおかげです。

本当に、ありがとうございました。

また、いつでもサンフィーノに来てください。

美味しい料理でお待ちしています。

マリナ』

――――

アリアは手紙を胸に抱いた。

温かい。

人々の想いが、紙を通して伝わってくる。

「もう一通あります」

別の旅人が、手紙を渡してきた。

アンバーレイからだった。

リーゼとエマの連名。

――――

『アリア様

お元気ですか? リーゼとエマです。

統合された黄金テラスは、毎日満席です。

私たちの栗のタルトとモンブランが人気で、村の外からもお客様が来てくださいます。

収穫祭も大成功でした。

私たちが一緒に歌うことで、村全体がまた一つになりました。

すべて、あなたが取り戻してくれた音楽のおかげです。

私たちは、もう離れません。

姉妹で、ずっと一緒にこのカフェを続けていきます。

本当に、ありがとうございました。

また会える日を楽しみにしています。

リーゼ&エマ』

――――

アリアは三通の手紙を見つめた。

どれも、温かい言葉で溢れていた。

感謝の言葉。

幸せの報告。

そして、再会を願う想い。

「みんな……」

アリアの目から、涙が流れた。

「幸せになってくれたんですね……」

リリィが優しく囁いた。

「あなたが届けた音楽が、人々を幸せにしたのよ」

「私じゃないです」

アリアは首を振った。

「音楽が、人々を繋いだんです。私は……ただ、手助けしただけ」

「謙虚ね」

リリィが微笑んだ。

「でも、その手助けがなければ、何も始まらなかった」

アリアは手紙を大切に鞄にしまった。

「この手紙、エデンヴェールに持っていきます」

「どうして?」

「先代の花守りに、見せたいんです」

アリアは空を見上げた。

「あなたの想いは、ちゃんと受け継がれていますって」

リリィの目が潤んだ。

「そうね……きっと、喜んでくれるわ」

アリアは歩き始めた。

雪の街を抜け、季節の境界線へ。

手紙の温もりが、胸の中にある。

セレス、エリオ、マリナ、タオ、リーゼ、エマ。

そして、セラフィナ。

みんなの笑顔が、心に浮かぶ。

「私は、幸せ者ですね」

アリアが呟いた。

「こんなに素敵な人たちに出会えて」

「あなたが、素敵だからよ」

リリィが答えた。

「素敵な人は、素敵な人を引き寄せるの」

アリアは微笑んだ。

季節の境界線が見えてきた。

冬から――どこへ向かうのか。

エデンヴェール。

すべての季節が交わる場所。

先代の花守りが待つ場所。

「行きましょう、リリィ」

「ええ」

二人は境界線に向かって歩いた。

光が満ちる。

視界が白くなる。

そして――

景色が変わった。

雪も、緑も、紅葉も、桜もない。

不思議な場所だった。

空は虹色に輝き、大地は柔らかな光を放っている。

遠くに、一つの建物が見えた。

巨大な、花の形をした建物。

「あれが……」

「エデンヴェールの中心、花の図書館よ」

リリィが囁いた。

「先代の花守りが、最後にいた場所」

アリアは建物に向かって歩き始めた。

胸の中に、三通の手紙。

そして、花図譜。

先代に会える。

その期待と、少しの不安を抱きながら。

アリアは、エデンヴェールへと足を踏み入れた。

すべての季節が交わる場所。

新しい物語が、始まろうとしていた。


花の図書館は、想像以上に大きかった。

近づくにつれて、その壮大さが明らかになる。

五層の花びらが重なるように建てられた建物。

壁は透き通った白い石で、内部の光が外に漏れている。

入口は大きなアーチになっていて、花の蔓が絡まっていた。

「すごい……」

アリアは立ち尽くした。

「ここが、エデンヴェール……」

「ええ。花守りの聖地よ」

リリィが囁いた。

アリアはアーチをくぐった。

扉はない。開かれたまま、訪れる者を待っている。

中に入ると――

息を呑んだ。

円形の巨大なホール。

天井は高く、ドーム状になっている。

そして、壁一面に、本棚が並んでいた。

いや、本棚ではない。

花図譜だ。

何百冊もの花図譜が、壁を埋め尽くしている。

「これは……」

アリアはゆっくりと歩いた。

一番近くの棚に手を伸ばす。

古い花図譜を取り出した。

革の表紙は色褪せ、金の文字はかすれている。

でも、大切に保管されていたことがわかる。

ページを開くと――

12の都市の地図。

そして、楽譜。

完璧に埋められた、12の音楽。

「これは……誰かの花図譜……」

「歴代の花守りの記録よ」

リリィが説明した。

「何代も前から、花守りはこの世界を巡ってきた。そして、集めた記憶をここに残してきたの」

アリアは別の花図譜を手に取った。

これも、12の音楽が完璧に記録されている。

さらに別の一冊。

これも同じ。

「みんな……12の音楽を集めたんですね……」

「ええ。それが、花守りの役目だから」

アリアは棚を見上げた。

何百冊もの花図譜。

つまり、何百代もの花守りが、この世界を守ってきた。

「私は……その一人なんですね……」

「そうよ」

リリィが肩に止まった。

「あなたは、長い歴史の一部。でも、とても大切な一部」

アリアは花図譜を戻し、さらに奥へと進んだ。

棚は続いている。

古いものから、新しいものへ。

革の色が、徐々に明るくなっていく。

保存状態も、良くなっていく。

そして――

ある場所で、棚が途切れた。

最後の花図譜。

アリアはそれを手に取った。

表紙には、文字が刻まれている。

『第327代花守り エレナ』

「エレナ……」

アリアは呟いた。

「先代の花守り……」

ページを開く。

12の都市の地図。

そして――

楽譜のページ。

でも、すべてが埋まっているわけではなかった。

フロリアのページには、春風のワルツの楽譜。

サンフィーノのページには、大漁行進曲の楽譜。

アンバーレイのページには、収穫の讃歌の楽譜。

クリスタリアのページには……空白の五線譜。

「三つだけ……」

アリアの声が震えた。

「先代は、三つしか集められなかった……」

残りの8つの都市は、すべて空白だった。

「戦争が……始まってしまったから」

リリィが静かに言った。

「エレナは、必死で音楽を集めようとした。でも、戦火が広がるのが早すぎた」

アリアはページを見つめた。

エレナの筆跡。

丁寧に、美しく書かれた楽譜。

でも、途中で終わっている。

最後のページに、小さな文字があった。

『ごめんなさい。私には、完成させることができませんでした。でも、いつか次の花守りが現れることを信じています。その方に、託します。この世界の未来を』

アリアの目から、涙が溢れた。

「エレナさん……」

花図譜を胸に抱く。

30年前、エレナはここにいた。

必死で、世界を救おうとしていた。

でも、間に合わなかった。

「私に……託してくれたんですね……」

アリアは花図譜を棚に戻した。

エレナの隣に、自分の花図譜を置く日が来る。

その時、自分はどこまで集められているだろう。

12全部、集められるだろうか。

「アリア」

リリィが呼びかけた。

「中央の花壇を見て」

アリアは顔を上げた。

ホールの中央に、円形の花壇があった。

今まで気づかなかった。

近づいていく。

花壇には、色とりどりの花が咲いていた。

春夏秋冬、すべての季節の花が、一つの場所に。

桜、ひまわり、秋桜、氷花。

そして、見たこともない花々。

「これは……」

「12の都市すべての花が、ここに集まっているの」

リリィが説明した。

「これが、エデンヴェールの心臓部」

アリアは花壇の縁にしゃがんだ。

花々が、風もないのに揺れている。

まるで、生きているかのように。

「触れてみて」

リリィが囁いた。

「きっと、エレナの記憶が残っているわ」

アリアは右手を掲げた。

花の紋章が、淡く光る。

そして、花壇の中央の土に触れた。

瞬間――

光が爆発した。

視界が真っ白になる。

そして、映像が流れ始めた。

――――

同じホール。

でも、もっと明るく、温かかった。

一人の女性が、花壇の前に立っていた。

30代くらい。長い黒髪、優しい目元。

白いローブを着ている。

エレナだ。

彼女は花図譜を開いていた。

三つの楽譜が記録されている。

「まだ、三つだけ……」

エレナの声が聞こえた。

疲れた声だった。

「戦争が……止まらない……」

彼女は花壇を見つめた。

「このままでは、世界が……」

窓の外から、遠くに煙が見えた。

戦火だ。

エレナは花図譜を閉じた。

「もう……時間がない」

彼女は花壇に手を置いた。

「次の花守りへ……」

光が、エレナの手から花壇に流れ込む。

「私が集めた三つの音楽を、託します」

「そして……新しい記憶を、集めてください」

エレナの目から、涙が流れた。

「私が果たせなかった願いを、叶えてください」

光が強くなる。

映像が揺らぎ始めた。

そして――

エレナが、こちらを向いた。

まるで、アリアを見ているかのように。

エレナの声が、直接アリアに語りかけてきた。

「新しい花守り……あなたに、本当のことを話させて」

――――

映像が変わった。

エレナが、より鮮明に見える。

「私は、30年間花守りとして生きた。12の都市を何度も巡り、記憶を集め、音楽を蘇らせた。でも……最後まで、一つのことを理解できなかった」

風が吹いた。

花々が揺れる。

「花守りの真の使命を」

アリアは息を呑んだ。

「そう。私は長い間、勘違いしていた。花守りの役目は、失われた記憶を取り戻すことだと思っていた」

「違うんですか?」

アリアが声に出すと、エレナは微笑んだ。

「ええ。それは、ただの手段に過ぎない」

エレナの表情が、少し悲しげになった。

「本当の使命は……新しい幸福を、人々と共に創ること」

アリアは黙って聞いていた。

「私は、過去ばかりを見ていた。失われたものを取り戻すことに必死で、新しいものを創ることを忘れていた」

花壇の花々が、一斉に輝いた。

「人々も同じだった。戦争で失ったものに執着して、前に進めなくなっていた。あの頃は良かった、昔に戻りたい……そればかり言っていた」

「でも……過去を思い出すことは、大切ですよね?」

「もちろん」

エレナの声が優しくなった。

「過去は、未来への道標。忘れてはいけない。でも……執着してもいけない」

アリアは、その言葉の意味を考えた。

「過去への執着が、世界を停滞させていたの」

エレナが続けた。

「人々は、失ったものを嘆くばかりで、新しい幸せを創ろうとしなかった。私も、失われた記憶を取り戻すことに必死で、人々の今を見ていなかった」

「戦争が起きた時、私は12の音楽を集めることに焦った。急いで、急いで……でも、それは間違いだった」

「どうして……」

「花守りの歌は、ただ音楽を集めれば完成するものじゃない。人々の想いが、一つにならなければ意味がないの」

エレナの声が震えた。

「私は、それに気づくのが遅すぎた」

アリアは花壇に手を置いた。

温かい。

「でも、あなたは違う」

エレナの声が、明るくなった。

「あなたは、ちゃんと人々と向き合っている。過去を取り戻すだけじゃなく、新しい未来を一緒に創っている」

「新しい……未来……」

「そう。フロリアで、父と息子が新しい関係を築いた。サンフィーノで、若い世代が新しい祭りを始めた。アンバーレイで、姉妹が新しいカフェを開いた」

エレナの声が、嬉しそうだった。

「それが、本当の花守りの仕事。過去を思い出させながら、新しい幸福を創る手伝いをすること」

アリアは、胸が熱くなった。

そうか。

自分がやってきたことは、間違っていなかった。

「あなたに託したい。私が果たせなかった、本当の使命を」

「はい」

アリアは頷いた。

「記憶を取り戻してください。でも、それで終わりにしないで」

「終わりに……しない?」

「ええ。記憶を取り戻した後、人々が新しい一歩を踏み出せるように、導いてあげて」

エレナの声が、優しく包み込む。

「過去は、未来への糧。失われたものを嘆くためじゃなく、新しいものを創るための力にするの」

アリアは立ち上がった。

「わかりました」

「あなたなら、できる。私には見えているわ」

光が、さらに強くなった。

「あなたが集める12の音楽は、ただの記憶じゃない。新しい未来への希望になる」

アリアは花図譜を取り出した。

三つの音楽が記録されたページ。

「私の旅は……始まりに過ぎないんですね」

「そう」

エレナの声が微笑んでいるようだった。

「本当の旅は、12の音楽を集めた後に始まる。その時、あなたは何をするの?」

「何を……」

アリアは考えた。

12の音楽が揃った時。

花守りの歌が完成した時。

自分は、何をしたいのか。

「人々を……繋ぎたい。12の都市を、一つにしたい。でも、それは過去に戻すためじゃなく……新しい世界を、一緒に創るため」

「素晴らしい答えね」

エレナの声が、温かかった。

「それが、あなたの使命。そして、あなたの花守りの歌になる」

光が、花図譜を包んだ。

ページが、一つずつめくられていく。

フロリア、サンフィーノ、アンバーレイ。

三つの楽譜が輝く。

そして、空白のページも輝き始めた。

クリスタリア、そして残りの8つの街。

すべてが、淡い光を放っている。

「花図譜が……完全な形で、輝いている……」

「これは、可能性の光」

エレナが説明した。

「あなたが集めるであろう音楽。あなたが創るであろう未来。そのすべての可能性が、今、形になろうとしている」

花図譜全体が、虹色に輝いた。

美しかった。

まるで、生きているかのように。

「さあ、行きなさい。残りの街へ。そして、新しい未来を創りなさい」

「はい」

アリアは花図譜を胸に抱いた。

「ありがとうございます、エレナさん」

「いいえ。礼を言うのは、私の方よ。あなたが、私の夢を叶えてくれる。ありがとう、アリア」

光が消えた。

映像が終わり、現実に戻る。

――――

アリアは花壇の前で、膝をついていた。

涙が止まらなかった。

でも、それは悲しみの涙ではなかった。

決意の涙だった。

「リリィ」

「ええ、わかったわ」

リリィが肩に止まった。

「花守りの真の使命、理解したのね」

「はい。記憶を取り戻すだけじゃない。新しい幸福を、人々と共に創る」

「そうよ。それが、あなたの旅」

アリアは立ち上がった。

エレナの想い。

リリィの支え。

そして、出会った人々の笑顔。

すべてが、自分を支えてくれている。

「行きましょう」

アリアは出口に向かって歩き始めた。

「次の街へ」

「ええ」

リリィが飛んだ。

「まだ旅は続く」

アリアは振り返った。

花壇が、静かに輝いている。

エレナが残した、希望の光。

「また来ます」

アリアは呟いた。

「12の音楽を集めて、もう一度」

そして、ホールを後にした。

エデンヴェールの光の中を、歩いていく。

次の季節へ。

次の街へ。

次の音楽へ。

花守りの旅は、まだ半分も終わっていない。

でも、道は見えている。

エレナが示してくれた道を、アリアは進んでいく。

新しい記憶を集めながら。

新しい未来を創りながら。

虹色の空の下、アリアの姿が小さくなっていく。

花の図書館は、静かに彼女を見送っていた。

次に彼女がここに戻ってくる時。

きっと、花図譜は完成しているだろう。

そして、新しい歴史が刻まれるだろう。

それを、静かに待ちながら。

エデンヴェールは、時を超えて佇んでいた。


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