第7話 一度目は偵察
ゴースト&ゴーレムの定義を終えた直人、しかし、盤面は停滞を許さない。ダンジョンも現実も。
直人は、まず現実の会議を“無難に”片付けた。
無難というのは、謝らず、約束せず、しかし空気は壊さないという、社会人の最難関スキルである。
「ご不便をおかけしています。影響停止を優先し、原因は確定次第、文面で共有します」
短く、固く、逃げ道を残す。
画面の向こうで営業が泣きそうに頷き、法務が無言で救ってくれる。
――そこで、直人はもう一つの画面を見る。
ダンジョン側は夜だった。
静かな闇の中、侵入者が四つ、同じ間隔で進んでくる。
勇者パーティ。初手から“偵察”の動き。
ミリアが涼しい顔で言った。
「来ましたね♡ 中ボスの皆さま♡」
直人は低く返す。
「褒めてる場合じゃない。今日は情報を渡さない」
「無理です♡」
「即答するな」
偵察は“戦わない”で始まる
勇者たちは戦わない。
まず“反応”を見る。
戦術家が床に白い粉を撒く。粉は一定方向へ流れた。
「導線がある。……整っているな」
斥候が壁に手を当てる。
「見られてる。ゴースト系だ」
聖職者が小さく祈る。
「目隠しの祝福」
勇者が短くまとめる。
「魔王はいる。だが、いま触ってない」
直人は歯を食いしばる。
(触ってないのに魔王扱いされるの、納得いかない)
ミリアが囁く。
「黙ってるほど、魔王っぽいですよ♡」
「沈黙がいいんだ。現実でも・・・」
直人は“見せない対応”に切り替える
直人はコマンドを短く打つ。
ゴースト:距離を取りつつ監視
ゴーレム:封鎖待機
ゴブリン:表に出さない(手続きに乗らない相手には逆効果)
「受付しないの?」とミリア。
「しない。あいつらは“規約を踏まない”」
「勇者さん、規約より目的ですからね♡」
「そういうのが一番厄介なんだよ」
勇者パーティが、わざと“困った顔”の札を置いた。
『苦情:導線が分かりにくい』
『要望:最短で核心へ』
直人の仕事脳が一瞬、反応しかける。
(直したい)
ミリアが即座に釘を刺す。
「直人さま、今“改善したい”って顔しました♡」
「顔を監視するな」
直人は“無言で”盤面をいじる。
札はゴーストに回収させ、導線は「最短に見える遠回り」にだけ調整する。
攻撃しない。言葉も出さない。
勇者側が止まる。
戦術家が小さく息を吐く。
「……反応した。だが呪文が聞こえない」
斥候が低く言う。
「魔王、黙って触った」
勇者が断言する。
「引き金は別にある」
直人は眉間を押さえた。
(やめろ、学習するな)
引き金は“困りごと”だった
勇者パーティは次の一手を打つ。
わざと松明を倒し、火が壁を舐める程度の“事故”を起こす。
戦術家の声が冷たい。
「人は、“困りごと”に反応する」
勇者が続ける。
「魔王も同じだ。管理する者なら、放置できない」
直人の背筋が冷えた。
(それ、俺の弱点だ)
ミリアが楽しそうに囁く。
「直人さま、いい人ですね♡」
「褒めるな、弱点だ」
火が広がりそうになる。
神官が小さく祈って鎮火を試みるが、わざと“間に合わない”程度に抑えている。
つまり――直人に反応させるための火だ。
直人は耐えきれず、口を開いた。
「……危険だ。対応――」
その瞬間、大きな呪文とも咆哮とも言える声がダンジョンに響き渡る。
盤面が動いた。
ゴーレムが通路の一部を閉じ、火の流れを遮る。
ゴーストが空気を攪拌して煙を押し戻す。
火は止まる。
勇者パーティが、確信する。
戦術家が低く言った。
「呪文を吐いた」
聖職者が頷く。
「魔王語だ」
斥候が笑う。
「引き金、取れた」
勇者がまとめる。
「一度目は偵察。魔王の癖は掴んだ」
侵入者は整然と撤退した。
勝負をしに来たのではない。情報を取りに来たのだ。
直人は椅子の背に沈む。
「……学習された」
ミリアが嬉しそうに拍手する。
「おめでとうございます♡ ちゃんと“魔王”になりました♡」
「ほめる所が違う。魔王じゃないし」
(第8話に続く)
「物見」だった勇者パーティ。お互いに相手の探り合いだが、直人は次第に追い詰められてゆく。
この作品、本話時点でまだ設定上半日も経っていません。もうしばらくPC前でゴタゴタしますが、その後は別の展開となります。是非お楽しみください。




