第6話 再戦:冒険者が“面倒”をぶつけてくる
オーク定義した直人、侵入者も学習している。ゴブリン隊も今回は苦戦必至。更なる改善を迫られるが、現実zoomも黙っていない。益々慌ただしくなる状況を切り抜けようと様々に思考する。
冒険者パーティが進む。
ゴブリン隊は前回より“丁寧に”牽制する。
だが今回は、冒険者が準備してきた。
神官が範囲の光を放つ。
「浄化!」
スケルトンが出た瞬間、骨が白く光って崩れる。
魔法使いが淡々。
「アンデッド対策、通る」
弓手が結界糸を張り直す。
「分断されない。次は“誘導”もさせない」
剣士が叫ぶ。
「さあ来い、丁寧ゴブリン! 今日は俺たちの勝ちだ!」
神官が即ツッコむ。
「やめて、その言葉、呪いだから!」
直人は歯を食いしばる。
「スケルトンが溶ける。結界糸で分断も効かない。ゴブリンのHP…」
ログを見る。
ゴブリンHP平均:76% → 71% → 68%
ミリアが囁く。
「T3、行きます?♡」
「まだ。必要条件をチェック」
直人は冷たく読み上げる。
(1) 60%下回る見込み…ない。
(2) 深層へ進む意思…ある。
(3) スケルトンが溶ける…該当。
(4) 炎上度…」
掲示板ログがチラつく。
『また来たらしいw』
『管理者の性格が悪い』
『でも殺してこないから逆に腹立つ』
直人は即断。
「炎上度、中。ギリ許容。……でも(1)が未達。オークは出さない」
ミリアが頬を膨らませる。
「ケチ」
「ケチでいい。安易にオークを出すと、次は“対オーク対策”で来る」
「学習合戦ですね♡」
「嬉しそうに言うな」
・直人、別解で“学習”を取りにいく
直人は戦闘を“勝ち”に寄せない。
寄せると泥沼になる。現実で学んでいる。
「ミリア。戦闘じゃない。運用で折る」
「どうやって?」
「面倒を最大化する」
直人はコンソールで、巡回ログから侵入者の癖を抽出した。
剣士は前に出る。神官は守りに寄る。魔法使いは詠唱位置が固定。
弓手は結界糸の再設置で足が止まる。
「よし。殺さず、削る。時間を奪う。集中力を奪う。回復資源を奪う」
ゴブリン隊に命令が飛ぶ。
またダンジョンに”呪文”が響き渡る。
“戦う”ではなく、“付き合う”。
牽制→撤退
矢→遮蔽物
罠は発動させず“解除作業”だけ増やす配置
回復を吐かせる小ダメージの連続
結果、冒険者パーティは勝てないわけじゃない。
ただ、進まない。妙に疲れる。やたらと時間が溶ける。
剣士が叫ぶ。
「くっそ! なんだこのダンジョン、じわじわ嫌だ!」
神官が半泣き。
「お願い…普通に殴って…」
弓手が呻く。
「結界糸…張り替え…何度目だ!?…」
魔法使いが淡々と結論。
「撤退が合理的」
撤退。
今日も、撤退。
ログが出る。
結果:侵入者撤退(2回目)
ゴブリン生存率:100%
侵入者資源消費:回復×3、浄化×2、結界糸×多数
評価:A++(※ミリア基準)
ミリアが唇を尖らせる。
「Sじゃない…」
直人は言う。
「Sの定義は“現場無傷で相手を学習させる”。達成した。俺基準ではS」
ミリアが一瞬だけ黙って、そしてにやっと笑う。
「直人さま、今の…自分で自分を褒めましたね?」
「褒めてない」
「承認欲求、動きました♡」
現実:トラブル対応、さらにややこしい化
Zoomで営業が言う。
「顧客が“暫定対応じゃなく恒久対応を今日中に”って」
法務が言う。
「“今日中に恒久”は約束できません。言い方を定義しましょう」
経営層が言う。
「でも顧客の機嫌は取れ」
直人は静かに息を吐く。
「では提案します。
“今日中に影響を止める”(暫定)を約束し、
恒久対応は“いつまでに何を直すか”を文書化して合意を取る」
リーダーが頷く。
営業が救われた顔をする。
法務が「それなら」と言う。
経営層が言った。
「佐倉くん、頼む」
――ピロン。
その瞬間、直人のSlackに個別DMが飛ぶ。
妻:今日、ひな熱っぽいみたい。
娘:パパ まおうごっこ きて
直人の胸が、少しだけ痛む。
“いい人”の部分が、戻ってくる。
ミリアが、珍しく声を落として言った。
「直人さま、現実の方が…大事ですよね」
直人は短く答える。
「大事だ。だから、両方終わらせる」
そして、乾いた声になる。
「定義して下さい。今日の俺の“勝ち”は何だ」
ミリアが、柔らかく笑った。
「家族に間に合って、世界も落とさないこと。
それ、Sですよ」
直人は一瞬だけ固まって、すぐに視線を戻した。
褒められると、止まれなくなるから。
直人は、冒険者パーティ撤退ログを閉じたところで、ふと“嫌な未来”を見た。
(このままだと、現場=ゴブリンに寄りすぎる)
(俺が「すみません」って言うたび増えるのに、運用を載せるのは無理だ)
(しかも現実が燃えるほど、こっちが夜になるんだろ?)
ミリアが隣で、にこにこしている。
推しの顔で、最悪のことを言いそうな口だ。
「直人さま、次は中ボス……♡」
「その前に。別動隊を定義する」
「別動隊?」
「ゴブリンの負荷を下げる。戦闘じゃなく、運用の分業。
……出せる駒、他にいるだろ」
ミリアが、わざとらしく目を丸くした。
「わあ。管理者、ちゃんと“組織化”し始めました♡」
直人はコンソールに新規ドキュメントを作る。
タイトルは勝手に豪華に飾られた。
【標準運用】別動隊:ゴースト&ゴーレム運用定義 v1.0
「やめろ。勝手にフォントを荘厳にするな」
「雰囲気は大事です♡ 魔王っぽく」
「魔王って言うな」
(第7話に続く)
別動隊組織化し、ゴブリンの”離職”を引き留めようとする直人。次に現れるは「中ボス」達。しかし、問題はそれだけでは無い。さらに煮詰まってゆく。




