第5話(Part 1) 再戦(オーク定義)
管理者としての直人が「定義」されていた。その仕様に理不尽さを感じつつ、推しの圧力に負けて、更なるダンジョン改善に向かう。
その時、侵入者ログが、また点いた。
侵入者反応:あり(中)
種別:冒険者パーティ(標準)
備考:前回と同一(※対策あり)
「……来た」
直人が言うと、ミリアは嬉しそうに笑った。
「再来店です♡ リピーター!」
「客扱いするな。対策してくるってことは、面倒が増える」
――ピロン。
現実のSlackも、同時に鳴った。
「佐倉さん、顧客が“直らないなら全社停止”って…」
「経営層も入った緊急Zoom、今から」
「あと法務も同席するらしいです」
直人は静かに天を仰いだ。
(現実も再挑戦してくる)
(しかも対策=“偉い人投入”)
「今、現実が一番重いんだが?」
ミリアが微笑む。煽る目だ。
「だからこそ、ダンジョンも“再挑戦”してきます♡」
「やめろ、連動すな」
ミリアが耳元で囁く。
「直人さま、今日こそSですね」
「Sの定義をくれ。俺は今“生存”が目標」
冒険者パーティ、対策してくる
監視映像。例の四人が入ってくる。だが、前回と違う。
剣士は胸を張って言った。
「前回は油断した! 今回は“管理者対策”済みだ!」
弓手が頷く。
「分断対策、索敵強化、撤退ルート確保」
神官が胃を押さえながら続ける。
「あと…“会議”への耐性も…」
魔法使いが淡々と補足する。
「対ゴブリン:長期戦想定。対スケルトン:範囲浄化。対隔離:結界糸」
直人は嫌な汗をかく。
対策が、ちゃんと嫌だ。
ミリアが煽る。
「直人さま、相手が“学習”しましたね♡」
「学習するな。俺の世界だけで十分だ」
パーティは入るなり、糸のような光を通路に張った。
“結界糸”。一定距離が離れると切れる。つまり分断防止。
弓手が言う。
「これで隔離されても引っ張り戻せる」
剣士がニヤリ。
「次は財布を取られないぞ!」
神官が泣き声で止める。
「“財布を取られない”が目標なの、人生としてどうなの…」
直人は冷たく結論を出した。
「対策されるのは当然。じゃあ、こちらも“運用”を上げる」
ミリアが拍手。
「上司〜♡」
現実:緊急Zoomがややこしい化
「佐倉さん、入れます?」
Zoomの画面に、見慣れない顔が増える。経営層、営業、法務。
空気が、ダンジョンより重い。
リーダーが言う。
「今日中に復旧。顧客が全社停止を示唆」
営業が言う。
「とにかく“直った”って言える状態に」
法務が言う。
「“言える”ではなく、事実として直っている必要があります」
経営層が言う。
「あと、再発したら契約切られる。対外説明も要る」
直人は一拍だけ黙り、そして言った。
「目的が三つ混ざってます。優先順位を定義して下さい」
一瞬、沈黙。
経営層が微笑んだ。怖いタイプの微笑みだ。
「佐倉くん、今この場で“定義”してくれ」
(現実でミリアみたいなこと言うな)
直人は腹を括った。
「最優先:顧客停止回避=可用性回復(暫定可)
次点:根本原因の切り分け(ログ・再現手順)
同時に:対外説明用の事実整理(言い訳禁止)」
法務が頷く。営業がほっとする。経営層が言う。
「よし。やれ」
直人の目が乾いた。
ここからは、二世界同時インシデント対応だ。
ダンジョン:バックアップ定義を v1.1 に更新
直人はダンジョンコンソールに新規更新を叩き込む。
【標準運用】戦闘バックアップ定義 v1.1(改)
更新理由:侵入者が対策して再侵入(分断対策・浄化範囲・結界糸)
ミリアが覗き込む。
「オーク、出します?」
直人は即答する。
「出さない。まず許可基準を厳格化する」
「え〜」
「“え〜”じゃない。オークは火力が高い=副作用が大きい」
直人は箇条書きで“オーク投入許可”を固める。
オーク投入の許可基準(v1.1)
前提:スケルトン投入(T2)済み、かつ効果不足
必要条件(全て満たす)
ゴブリン生存率見込みが 60%を下回る
侵入者が深層へ進む意思(撤退兆候なし)
侵入者が強装備/範囲魔法/対アンデッド対策でスケルトンが溶ける
オーク投入による“評判悪化”が許容範囲(掲示板炎上度:中以下)
禁止条件(1つでも該当で不可)
侵入者が撤退可能な状況(出口が機能している)
戦場が狭く、オークが暴れて味方を巻き込む
ミリアがテンションで出したがっている(※重要)
ミリアが即ツッコむ。
「最後、私への当てつけですよね?」
「違う。リスク管理だ」
「私、リスクなんだ」
「うん」
ミリアは一瞬むっとして、すぐ笑う。
「最高。ドライ♡」
直人は最後に太字で追加した。
成功の定義(追記)
“勝利”ではなく侵入者の学習:「ここは割に合わない」を持ち帰らせる。
現場の自尊心を傷つけない(※重要:離職防止)
「離職防止って何だよ」
直人は言いながら、なぜか納得していた。現場は辞める。どの世界でも。
(第5話 Part 2に続く)
いよいよオーク戦?現実のzoomもややこしいことに。二正面作戦は直人の精神を蝕んでゆく。




