第二章 第6話 地下2階層(そしてLv2)
初めて増築をして、B2が出来る。しかし、それに連れて魔王の業務は忙しい。フロアボス雇用。そして視察。モンスター配置etc. しかし、その前に。
「候補はいる」
デーモンロードが言った瞬間、直人の胃が重くなった。
候補がいる=面接が始まる。
現実でも嫌いな単語だ。面接。
(またドラゴンみたいなのが来るのか)
直人は玉座の間の端で腕を組む。座らない。絶対に座らない。
「……誰だ」
「二名」
デーモンロードは淡々と言う。
「アークデーモンと、サラマンダー」
ミリアが横で、待ってましたとばかりに囁く。
「強そう♡」
直人が睨む。
「“強そう”で採用はしない」
「はい♡ “強い”で採用しましょう♡」
「そういうことじゃない」
背後で、シズクが冷たく言った。
「両方採用してください」
直人は振り向く。
「まだ面接してない」
「異界の魔王さまは戦えないので」
「そこを殴らないで」
「殴っていません。評価です」
直人は息を吐いた。
いいとこ取りなのが自分の癖だ。
「……条件がある」
直人はデーモンロードに言う。
「最下層はお前だ。そこは動かさない」
デーモンロードが口角を上げた。
「最下層守護。いい響きだ」
「響きじゃなくて責任だ」
「責任は嫌いじゃない」
直人は続けた。
「二人は、もう一階層増やした時に両方採用する」
ミリアが拍手しかけて、直人の視線で止まる。
「採用計画♡」
「まだ地獄の始まりだ」
直人は【階層管理】を開く。
昨夜増築した地下二階層目が、ちょうど“形”になりかけていた。
【現在階層:2(地下二階層)】
【増築:+1階層】
注意:1日あたりの増築上限:1階層
直人は画面を睨む。
(1日1階層縛り。つまり今日の“5分”をどこで捻出するか)
現実でミュートを押せば、こっちが1日進む。
その1日で、階層を1つ増やせる。
数字が少ないほど嫌だ。現実の沈黙が資材になる。
直人は自分の喉を押さえるように呟いた。
「……会議が怖い」
ミリアが楽しそうに言いかけた。
「会議で夜に――」
直人が即切る。
「廃止」
ミリアが露骨に不満な顔になる。
「……は~い♡」
直人はクリックした。
【増築:+1階層】実行。
床が低く震えた。
遠くで岩が削れる音がして、空気が少しだけ重くなる。
【増築進行:開始】
必要時間:1日
上限:本日は残り0回
「……よし」
直人は小さく拳を握った。
これで、採用枠が増える。
シズクが横で淡々と告げる。
「壊さないでください」
「増築しただけだろ」
「異界の魔王さまは破壊が標準です」
増築が走っている間、魔王の杖のUIがチカ、と明滅した。
嫌な感じの明滅だ。
ミリアが、珍しく先に言う。
「直人さま♡ ステータスが更新されます♡」
相変わらず探るような目つきだ
「再起動でもしろと」
「New直人さま♡」
直人の目の前に、簡素な表示が出た。
【魔王ステータス(抜粋)】
Lv:2
時間加速:上昇(ミュート連動)
復活:延長
直人は眉を寄せる。
「……Lv2」
ミリアが頷く。
「地下二階層が成立したので♡」
直人は即座に現実の癖で計算する。
頭の中に、メモ帳が立ち上がる。
Lv1:ミュート5分=1日
Lv2:……?
「どれだけ上がる」
ミリアが、わざと“限定”して答える。
「体感で分かるくらいは上がります♡」
「限定説明すぎる」
「全部言うと、直人さまが計算地獄になります♡」
「もうなってる」
直人は復活の行を見る。
「復活の延長、って」
ミリアがニヤッとする。
「魔力が増える代わりに、死んだ時のペナルティが増えます♡」
直人は歯を食いしばる。
「……具体は」
ミリアは笑うだけだ。
シズクが代わりに冷たく言った。
「異界の魔王さま。死なないでください。以上です」
「それは説明じゃない」
「最も重要な仕様説明です」
直人は息を吐く。
限定でいい。全部は要らない。
要るのは判断材料だけだ。
(Lvが上がる=ミュートの威力が増える)
(Lvが上がる=死んだ時の復帰が遠のく)
結論:軽々しく上げるな。でも上げないと現実が危ない。
最悪のトレードオフ。
ミリアが甘い声で囁く。
「魔王さま♡ いい顔してます♡」
直人は黙ったまま睨む。
B2は“生まれたて”の匂いがした。
湿り気、新しい岩肌、薄い魔素の膜。
迷宮化を入れる前の、まっさらな空間――まだ何も置いていない。
直人は足元を確かめ、壁を見上げる。
「……本当に“何もない”な」
ミリアが指で岩肌を撫でる。
「白紙♡」
「レストランでも作るか」
シズクが淡々と告げる。
「レストランを配置する前に、まずB1を固めてください」
シズクに軽口は通じないらしい。
「分かってる。だから視察――」
その言葉が途切れた。
魔王の杖のUIとは違う、魔王の“気づき”が刺さる。
脳内に、短い通知だけが落ちる。
【インシデント検知】
発生階層:B1
種別:侵入(複数)
直人は反射で息を吐いた。
「……来たか」
ミリアが、にやりと笑う。
「イベント♡」
「喜ぶな。仕事だ」
直人は即座に確認する。
侵入者はB1にいる。
そして――重要なのはここだ。
「B1ボス討伐が、B2到達の条件だ」
シズクが頷く。
「正解です。よって対応はB1のみ」
直人は歯を食いしばる。
「B2はまだ空っぽ。ここで迎撃できない」
ミリアが残念そうに口を尖らせる。
「えー、せっかく新フロアなのに♡」
「お披露目は化粧直しが終わってからだ」
直人は一瞬だけ、B2の“何もない”空間を見回した。
まっさらなフロア。
何もない。守る場所じゃない。
守るべきは――入口のB1。
直人は低い声で命じた。
「戻る。」
ミリアが嬉しそうに並ぶ。
「はい♡ 魔王さま♡」
シズクが即答する。
「承知しました」
直人が踵を返した瞬間、B2の階段口(上り)が、淡く光った。
“条件ロック”の表示。
【アクセス制限】
B2到達条件:B1ボス討伐
状態:未達
直人は舌打ちした。
「……ロックは動いてる。よし」
シズクが淡々と言う。
「ロックはありますが、止めるのはB1の現場です」
直人は一度だけ頷いた。
「分かってる。現場だ」
B1魔王部屋へ戻る途中、空気が違った。
湿り気の匂いに、人の汗と油の匂いが混じっている。
松明の煙。金属音。足音。
――侵入者パーティ。
魔王部屋に戻る。
UIで侵入者が追える。
冒険者が呟く
「前とルートが違う」
直人は小さく息を吸って吐いた。
そして低い声で言った。
「デーモンロード。B1の“ボス”として、止めろ」
ミリアが囁く。
「最下層守護、いまはB1が最下層♡」
シズクが一歩前に出る。
「異界の魔王さま。お手並み拝見いたします」
直人は口角だけで笑いそうになって失敗した。
笑えない。
でも、やるしかない。
松明の光が近づく。
四つ。パーティだ。
直人は拳を握る。
「……ここで全て止める」
(つづく)
まだ以前と同じB1だけの段階で来訪者。しかし、今回は違う。体制は出来つつある。お手並み拝見の侵入者対応。




