第17話 そして面接
何やら求人サイトがあるのか、スカウトメールが飛んで、候補者が面接に来る。直人は管理者として面接に臨む。
呼びかけに答えて来たのは2人(2匹)だった。
まずは1体目。
面接室に、巨大な影が現れる。
鱗、翼、金の目。ドラゴンだ。
ドラゴンは座らない。ホールから動かない。
机のある場所は天井に頭がつかえるからだ。
直人は即座に理解した。
(狭い)
ドラゴンが開口一番、言った。
「狭い」
直人は言い返す。
「……すみません」
ミリアが耳元で囁く。
「直人さま、“すみません”♡」
直人はハッとして口を閉じた。
「……いや、違う。狭いのは仕様だ」
ドラゴンは鼻を鳴らす。
「安い」
直人はホワイトボードを見る。
(名誉、昇進ポイント、時々肉)
「待遇の話なら、調整――」
ドラゴンが被せた。
「飯がまずい」
直人が固まる。
「……飯?」
ドラゴンは真顔で言った。
「焼けてない肉は嫌いだ。焦げも嫌いだ。骨は抜け。ソースは二種。あと、量が少ない」
ミリアが小声で言う。
「グルメクレームです♡」
直人は低い声。
「世界の最強生物が、社食に文句言うな」
ドラゴンは続ける。
「あと、空がない。飛べない」
「ここダンジョンだぞ」
「不満だ。辞退する」
淡々と、ドラゴンは姿を消した。
ホワイトボードに赤字で表示が出る。
【選考結果】ドラゴン:辞退(理由:狭い/安い/飯がまずい)
直人は机に額を当てた。
「何でダンジョンと分かってて来たんだ?」
「面接ってこういう地獄だったか」
ミリアが明るく頷く。
「はい♡ よくある♡」
「ない」
4 第二候補:デーモンロード
空気が変わった。
温度が、少し下がる。
影が、きれいに揃う。
次に現れたのは、背の高い男――いや、“男の形をしたもの”だった。
角、黒衣、静かな威圧。
目が笑っていない。
ミリアが楽しそうに言う。
「第二候補♡ デーモンロードさまです♡」
直人は囁く。
「“ロード”って、上位互換じゃないか」
「しかも、そのまんま『魔王』じゃないのか?」
「デーモンロードは“魔王”ではありません♡ この迷宮の“鍵”を持っていないので」
「採用できるのかよ」
デーモンロードは椅子に座り、指を組んだ。
「貴様が魔王か」
直人は即答した。
「違う」
ミリアが即答した。
「魔王です♡」
直人が睨む。
「やめろ」
デーモンロードは口角だけ上げた。
「ふむ。面接か」
直人は現実の言葉に寄せる。
「採用の一次です。条件は――」
デーモンロードが手を上げて遮る。
「条件など要らん」
直人が眉をひそめる。
「……では何を」
デーモンロードは淡々と言った。
「勝負だ。
貴様が私に勝てば、私は働く。
貴様が負ければ――私が魔王になる」
直人は一拍遅れて理解した。
「採用面接じゃない。乗っ取りだ」
ミリアが嬉しそうに拍手する。
「面接っぽいですね♡」
「どこがだ」
直人の脳が仕事モードに入る。
勝負を避けたい。
しかし避けると、園に開いた入口が広がる。
最悪だ。
直人は一度だけ、現実のミュート表示を確認した。
ミュートはON。時間は稼げる。
だが無限じゃない。
「勝負の定義は」
直人が言うと、ミリアが息を呑んだ。
デーモンロードの目が細くなる。
「ほう。定義を求めるか」
直人は続けた。
「殺し合いは却下。現実側に影響する」
ミリアが頷く。
「コンプラです♡」
直人が小声で言う。
「そこで使うな」
デーモンロードは笑った。
「ならば、支配だ。
この迷宮を、いかに早く“掌握”するか」
直人は即答した。
「KPIが嫌だ」
ミリアが囁く。
「直人さま、KPI好きなくせに♡」
「好きじゃない。慣れてるだけだ」
デーモンロードが言った。
「ルールは単純だ。
貴様は“管理者の杖”を使え。
私は素手で行く。
このフロアを、先に自分の色に染めた方が勝ちだ」
直人は嫌なことに気づく。
(杖がある=権限がある)
(権限を使う勝負=現実の仕事と同じ)
(俺が一番得意で、一番嫌いなやつ)
直人は低く言った。
「……わかった。勝負する」
ミリアが拍手する。
「魔王さま、宣戦布告です♡」
直人が睨む。
「煽るな」
デーモンロードは立ち上がり、薄く笑った。
「負ければ、貴様は“管理者”ではなくなる。
ただの人間に戻れ」
直人は、その言葉だけは許せなかった。
「……戻るのはいい。
だが娘の幼稚園に手を出すなら――勝負じゃ済まない」
一瞬、デーモンロードの空気が重くなる。
しかし次の瞬間、愉快そうに笑った。
「よい。怒りは強さだ」
ミリアが直人の耳元で囁く。
「直人さま、感情が燃料です♡」
「やめろ、燃やすな」
5 勝負開始
面接室が消え、迷宮フロアが“盤面”のように俯瞰表示される。
管理者の杖のUIが、勝負モードに変わった。
【対戦開始】
直人:管理者(杖あり)
デーモンロード:候補者(杖なし)
勝利条件:フロア掌握
禁止:現実側干渉(※努力目標)
直人は思わず呟く。
「努力目標って書くな」
ミリアが笑う。
「書きやすいので♡」
迷宮の奥で、デーモンロードがゆっくり歩き出す。
触れただけで影が伸び、空気が変わる。
“支配”が、始まっている。
直人は杖を握り直した。
修繕のための権限。
形状変更のための権限。
そして、現実を守るための権限。
「……やるぞ。迷宮を“管理”する」
ミリアが、最高に楽しそうに言った。
「はい♡ 魔王さま♡」
現実では、幼稚園の朝はまだ終わっていない。
その裏で、直人の“採用面接”は、勝負へ変わった。
次回、第18話。
デーモンロードとの“掌握戦”が、迷宮そのものを変形させていく。
(第18話に続く)
怪我療養中だったのですが、2月から仕事に復帰することになりまして、何とか本作「第一章」を終わらせようと思います。あと数話です。よろしくお願いいたします。




