第11話 現実の勇者たちは手強い。
冒険者パーティも狡猾だが、現実も優しくない。そしてついに顧客直接対応に。
直人は、まず“自分の口”が最大の脆弱性だと理解した。
現実で「すみません」と言う。
→ ダンジョンでゴブリンが増える。
現実で「持ち帰ります」と言う。
→ ダンジョンに持ち帰り箱が増える。
ミュートを押す。
→ ダンジョン側が加速、会議が長いほど夜が深くなる。
(つまり俺は——喋ると増えるタイプの魔王)
ミリアが、推しの顔でにっこりした。
「直人さま、口が呪いです♡」
「誰がこんな呪いかけたんだよ!」
Zoomの画面では、経営層が口を開いた。
「佐倉くん、顧客には“まず謝罪”だ。分かるね?」
直人の喉が反射で動く。
(謝罪=ゴブリン)
(だめだ)
直人はミュートを押して、チャットに打った。
直人:謝罪文は作成します(責任認定は避け、影響と対策を明記)
直人:口頭は誤解が出るので文面化します
経営層が怖い笑顔で言う。
「口頭で言え」
法務が助け舟を出す。
「録画中です。文面化は合理的です」
直人は、ギリギリで“別の言葉”にすり替えた。
「……ご迷惑をおかけしています」
ミリアが隣で拍手した。
「おお〜♡ 回避♡」
「拍手すな」
ダンジョン側、
侵入者——勇者パーティは、暗闇の手前で立ち止まっていた。
動きが少ない。呼吸も少ない。
“待っている”というより、“測っている”。
勇者が短く言う。
「……魔王が“闇”を濃くしてる。闇は味方にもなる」
直人は眉間を押さえた。
(勝手に全部、魔王のせいにされてる)
ミリアが嬉しそうに囁く。
「直人さま、演出うまいですね♡」
「俺は何もしてない」
「してない」が通じない相手ほど、厄介なものはない。
戦術家が、床に小さな粉を撒いた。
白い粉は風もないのに、一定方向へ流れる。
「空気が動く」
聖職者が頷く。
「罠ではない。これは“導線”だ」
斥候が足を止める。
「……誘導してる。魔王が誘ってるのか?」
斥候が数歩前に出て探りを入れて来る。
粉の行方を松明で調べている。
彼らは“理由”を探しに来ている。
”条件”を試している。
直人が一番嫌いなタイプの監査だ。
いつだって連中は、粗を探しに来る。
全く生産性の無い連中だ。
直人、別動隊を投入する(戦わず、見せない)
直人はコンソールを叩いた。
「ゴースト。監視。ゴーレム。封鎖準備。ゴブリンは表に出すな」
ミリアが首を傾げる。
「え〜。受付しないんですか?」
「しない。手続きに乗らない相手だ」
ゴーストは、壁の中を滑りながら距離を取る。
ゴーレムは、廊下の奥で“動く壁”の位置につく。
勇者パーティは、それにすら気づきかける。
斥候が小声で言う。
「見られてる。けど、位置が曖昧だ。特定できない。」
褒めるな。こっちは褒められると止まれなくなる。
直人は自分に言い聞かせた。
(冷静に。オークは出さない。ミノタウロスは温存)
Zoom側:言わせたい人たち vs 言いたくない直人
現実のZoomでは、違う“勇者パーティ”が直人を囲んでいた。
営業が言う。
「顧客、まず謝罪の一言がほしいって」
法務が言う。
「“申し訳ございません”は責任認定に繋がる可能性があります」
経営層が言う。
「いや、気持ちは必要だろ」
直人は、喉元まで来た“すみません”を、歯で噛んで止めた。
代わりに、薄い言葉を選ぶ。
「……遺憾です」
ミリアが横で吹いた。
「遺憾w」
「笑うな!」
経営層が眉をひそめる。
「遺憾は政治だ」
(それはそう)
直人は別解を出す。
「“ご不便をおかけしています”にします。
責任認定は避けますが、影響と対策は明確に書きます」
経営層が「よし」と言う。
直人は、勝った。
少なくとも現実では。
現実の勇者たちは手強い。
ダンジョンでは、
勇者パーティは、わざと“困った顔”をして見せた。
そして、通路の真ん中に——小さな札を置いた。
『苦情:導線が分かりにくい』
『要望:分かりやすくしてほしい』
直人は目を疑った。
(レビュー!?)
(掲示板の次はカスタマーサポートかよ!)
ミリアが嬉しそうに囁く。
「来ました♡ “魔王への問い合わせ”♡」
「ふざけんな!魔王はカスタマーサービスじゃない!」
「あっ、違う、魔王じゃない。」
「うふっ、自分から魔王だって♡」
「だから違うって」
勇者は、あくまで淡々と、空気に向けて言った。
「魔王よ。こちらは迷っている。導線を示せ」
(こいつら……)
(“直したくなる欲”を刺激してる)
直人の胸の奥の、仕事スイッチがカチッと入った。
「要件が曖昧だ。『迷ってる』の定義が——」
ミリアが両手で口を塞ぐジェスチャーをした。
「だめ♡ それ言うと盤面触ります♡」
直人は歯を食いしばる。
(言うな)
(言うと改善が走る)
(改善が走ると“魔王の呪文”を見られる)
しかし“困ってる事”を見ると、直したくなる。
直人の悪い癖だ。
直人は、口ではなく手で“定義”した。
コンソールで、自動運用ルールを一段だけ上げる。
ゴースト:侵入者の“挑発札”を回収
ゴーストが壁から腕だけ出し、札をスッと消す。
勇者パーティの目が細くなる。
戦術家が低く言う。
「……反応した。だが言葉は聞こえない」
勇者が断言する。
「言葉は“引き金”ではない。“癖”だ。別の引き金がある」
(やめろ、分析するな)
直人は内心で叫びながら、現実側のZoomに戻る。
Zoom:ついに来る「すみません」の罠
営業が言う。
「顧客から“まず一言で謝ってくれ”って。電話繋ぎます」
直人は目を剥いた。
(電話!?)
(口頭!?)
(ミュートできない!?)
経営層が言う。
「佐倉くん、頼む。君が一番、説明がうまい」
広報が言う。
「“すみません”だけでも…」
法務が言う。
「言い方、気をつけて」
直人は冷や汗を流しながら、頭の中で“禁止ワード”を赤く光らせた。
すみません、申し訳、持ち帰ります——全部だめ。
電話が繋がる。
顧客の声が刺さる。
「で、結局どうなるんですか? まず謝ってくださいよ」
直人の口が勝手に動きかける。
「すみ——」
ミリアが、ダンジョン側から幸せそうに囁いた。
「言ったら増えます♡」
直人はギリギリで言い換えた。
「ご迷惑をおかけしております。現在、影響停止を最優先で対応中です。」
「こちらといたしましても、今回の件は非常に遺憾です。謝罪は無いのですか?」
謝罪・・・ゴブリン・・・
「恐れ入ります。最善の努力をお約束させて頂きます。」
言えた。回避した。
直人は心の中でガッツポーズした。
(第12話に続く)
いよいよPCでは最終盤に入ります。次回仕事のまとめに入ります。ダンジョンは?




