第9話 魔王はいる(勇者パーティ再登場)
魔王の存在を疑う勇者パーティ。「防戦」する直人は、ミリアに煽られながら、zoom共々格闘する。そんな中、勇者パーティが二度目の来訪する。
掲示板は、だいたい負け犬の遠吠えでできている。
そして、たまに——本物の情報が混ざる。
【冒険者掲示板:ダンジョン情報共有】
『丁寧ゴブリンのとこ、また撤退した』
『罠が理不尽じゃないのに腹立つ』
『持ち帰り箱に道具吸われたんだが?』
『あそこ、絶対“魔王”いる。見てる』
『妄想乙』
『妄想じゃない。合図の呪文で盤面が変わる。返答が速い。指示がある』
——そのスレを、四人組が無言で見下ろしていた。
勇者と呼ばれる男は、軽く息を吐く。
鎧は派手じゃない。剣も飾り気がない。
だが、無駄が無い。無駄がない者は、強い。
「結論から言う」
勇者は言った。声は低く、断定だった。
「このダンジョンには、魔王がいる」
同行の三人が頷く。
彼らは“勇者パーティ”と呼ばれるが、雰囲気は冒険者より職人に近い。
後衛の戦術家が、掲示板のログを指でなぞった。
「増援のタイミングが一定。罠の配置が“こちらの癖”に合わせて変わっている。
偶然ではありません」
聖職者が眉をひそめる。
「アンデッド対策を当てた瞬間、骨の壁が引いた。……反応が速すぎる」
斥候が短く言う。
「見られてる。足音が消える場所がある。ゴーストだ」
勇者は、最後の投稿を読み上げた。
『合図の呪文で盤面が変わる。返答が速い。指示がある』
「盤面を動かす指示。——魔王の指図だ」
勇者は淡々と言った。
「生きてるダンジョンじゃない。統制されたダンジョン”だ」
戦術家が小さく笑う。
「管理者、ですね」
勇者は首を横に振る。
「彼らはそう呼ばない。管理者という概念はない。だが——」
「魔王なら、わかる」
聖職者が静かに続けた。
「意思がある。意地がある。嫌がらせが上手い」
斥候が画面を閉じる。
「一回目は偵察。二回目で確証。三回目で首を取る」
勇者が頷いた。
「二回目で“魔王の癖”を掴む」
戦術家が淡々と確認する。
「呪文のパターン、増援の条件、撤退の誘導。……全部、読みます」
聖職者が肩をすくめた。
「魔王は、殺しに来ないらしい。逆に怖い」
勇者は短く言った。
「殺さないのは優しさじゃない。——来ても無駄だと学習させているだけだ」
それは、宣戦布告に近かった。
一方その頃。
魔王と呼ばれている男は、同じ“宣戦布告”を別の形で食らっていた。
画面左:緊急Zoom。
画面右:ダンジョンの監視。
耳:ミリアの囁き。
胃:終わりが近い。
「佐倉さん、すみません。至急これ、説明できます?」
Zoomで経営層が“怖い笑顔”を向ける。
直人は反射で口を開きかけて、ギリギリ止めた。
(すみませんって言うとゴブリン増える)
(今日はもう増えたくない)
ミリアが隣で、幸せそうに囁く。
「直人さま、今の我慢、えらいです♡ でも、言ったら増えます♡」
「黙れ」
「ミュート押すと加速します♡」
「黙れ!」
直人はZoomをミュートした。
——その瞬間。
ダンジョン側の映像が、なめらかに動き出す。
松明の火が揺れ、影が濃くなる。
“夜”が来る。会議が長いほど、こちらは夜になる。最悪の仕様だ。
ミリアが嬉しそうに言う。
「ほら♡ 夜です♡」
「雰囲気で世界を回すな」
そして、その“夜”の入口に、四つの影が現れた。
侵入者反応。
ただの冒険者の足取りじゃない。迷いがない。
侵入者反応:あり(大)
種別:不明(※統制・練度 高)
備考:会話が少ない/動きが速い/隊列が崩れない
ミリアが声を弾ませる。
「来ました♡ 中ボス♡」
直人は椅子の背に沈み、乾いた声になった。
「……まず、相手の目的を定義して」
ミリアが、推しの顔で、最悪の微笑みを返す。
「直人さま。相手は“魔王”を取りに来ました♡」
「魔王はいつだって”取り”に行く相手だ」
勇者パーティは、入口で立ち止まった。
剣士もいない。軽口もない。
彼らの目は、通路ではなく“空気”を見ている。
戦術家が、床の小さな違和感を指差した。
「罠じゃない。——誘導だ」
斥候が壁に手を当てる。
「……ここ、見られてる。ゴーストがいる」
聖職者が低く祈る。
「目を隠す祝福を」
勇者が短く言った。
「魔王は、見ている。なら——見えないところで動く」
四人が同時に、足音を消す。
動きが、揃いすぎている。
直人の背筋が冷えた。
(やばい)
(こいつら、会社のプロジェクトチームみたいに動く)
ミリアが囁く。
「直人さま。あなたの敵は、あなたに似てます♡」
「最悪」
直人はキーボードに指を置き、コンソールを開いた。
ISSUEを切る。
ISSUE-010:侵入者(練度高)対応
目的:被害最小/情報取得/“魔王の癖”を悟らせない
方針:ゴブリンを前に出さない/別動隊優先/フロアボス温存
ミリアがすかさず言う。
「オーク出します?」
「出さない。ミノタウロスも早出ししない」
「ケチ♡」
「ケチでいい」
直人は短く命令した。
「ゴースト。監視。ゴーレム。封鎖準備。ゴブリンは——」
その時、Zoomがミュート解除を要求してきた。
画面左で、経営層が言う。
「佐倉くん、今、説明してくれ」
直人の喉が反射で動く。
「すみません——」
ミリアがぱあっと笑う。
「はい♡ ゴブリン増殖、確定♡」
直人が叫ぶ。
「確定するなァ!!」
ダンジョン側で、通路の影から、ゴブリンが一匹、ぬっと出た。
そして、もう一匹。
そして、もう一匹。
勇者パーティは立ち止まった。
戦術家が低く言う。
「……増援条件を踏んだな」
聖職者が呟く。
「魔王が……反応した」
勇者が、確信の声で言った。
「魔王はいる」
その瞬間、直人の背後の空気が、ひやりと冷えた気がした。
ミリアが、笑う。
「直人さま。あなた、いま“魔王の呪文”を唱えました♡」
直人は乾いた声で返した。
「……定義して下さい。俺の人生の難易度」
ミリアが微笑む。
「Sです♡」
(第10話に続く)
zoomもダンジョンも強敵と戦う直人。勇者戦は続く。
本作、あと数話で大分世界が変わります。それまでを急ぎ投稿いたします。
何話か同じような場面ですが、「ターニングポイント」は別途お知らせさせて頂きます。
現在集中して書いてます。




