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真冬に起きた大事件

作者: 春咲菜花

私、春咲菜花は親友である野山菜緒と一緒に外で遊んでいた。

その日は極寒で、最低気温は10℃を下回っていた。

私達の服装、半袖しか選択肢のない体操服、クソダサいペラペラのジャージ。

以上。

風は強く、南極かと錯覚してしまいそうになる。

そんな日に、マフラーすらしてないアホな私達に起きた悲劇とも言える物語。


◇◆◇


「菜花!公園で相談聞いて!」


私はめちゃくちゃ寒い日に、わざわざ自転車に乗ってうちに来た菜緒を見て、開けたドアを閉めようかと思った。

菜緒はなぜ正気を保ってるのだろう。

バカは風邪ひかないとは本当だったのか?


「菜花!行くぞ!」

「菜緒は私を殺す気なの?」

「そんなつもりはまったくないけど?」


菜緒は知っているはずだ。

私は現在菜緒が来ているような上着、ウインドブレーカーを持っていないことを。

それはなぜか。

母と姉のせいである。


「え?ウインドブレーカー?いらないでしょ」

「私の時はなしで過ごせた」


この二言により、中学校生活の冬はニワトリ肌で過ごすことが決定した。

友達に何度「菜花の足やば」と半笑いで言われたことか。


「そんなあったか装備で私の前に現れるな。相談に乗って欲しいなら、そのウィンブレを脱ぐか、私に寄越すかしろ」

「私の家に来るって選択肢は?」

「ない。遠い」

「着替えるのは?」

「……めんどくさい」

「お前、今ちょっと『菜緒だからいいか』って思っただろ」

「この間、菜緒にやられたことをそっくりそのまま返しただけだよ。文句は過去の自分へ」


菜緒が渋い顔をする。

いやぁ、仕返しとは私も性格が悪いもんだ。

でも、夏くらいに菜緒と遊んだときやられたことを今でも根に持っているんだ。

私、根に持つタイプだからね。


◇◆◇


メッセージアプリに届いた一通のメッセージ。


『菜花、今日は遊ぶのやめなーい?』

『何かあった?』


その日は駄菓子屋にお菓子を買いに行って、そのまま公園で遊ぶ約束をしていた。

急用なら許せた。

でも、菜緒はこう言った。


『汗だくだからちょっと今日は行きたくない』

『ん?用事とかは?』

『え?ないよ?』

『着替えればいいんじゃないの?』

『めんどくさいんだよねー。まあ、菜花はどうせいつもヒマだろうし、また今度にしよ!』

『ほう?』


◇◆◇


その後、私は菜緒の連絡先をブロックして、スクショを撮った。

そして、菜緒と連絡先を交換している友達に送った。


『菜緒にこれ送って。それと伝言も。解除して欲しくば土下座しに来い』


菜緒には「新手の脅しで草」と笑われた。


「あの時は本当に申し訳ないと思ってるよ〜!菜花がスクショ送った子には『オメーが全部わりーよ』って言われたんだよ!?私可哀想っ!」


私は菜緒に冷ややかな視線を向けた。

菜緒はそれに気づいて、すぐに焦り始めた。


「ジョークだよジョーク!あー!もう分かったよ!私もウィンブレを脱ぐから!それでいい!?」

「よろしい」


菜緒はウィンブレを脱いで、私に渡した。

家に置いとけってことかな。

私は家の中に菜緒のウィンブレを放り投げて、家の裏にある小さな公園に向かった。


「で、相談って何?」

「えっと、一つは好きぴの話で、もう一つは嫌いな人達の話」

「いつも通りで草」

「内容は違うから」


私達は学校や公園によくある、タイヤの遊具に向かい合わせで座った。

菜緒は体操服のポケットから私の好物である金平糖の袋を取り出した。


「はい、お駄賃」

「ご苦労」


いつも通り、ふざけたやり取りだけど、菜緒といるのは本当に楽しい。


「で、どうしたの?」

「好きぴに告った」

「思ったよりガチ相談でウケる」

「ウケんな」


だって、今までずっと「好きぴは背中で語るタイプだと思う」やら「やっぱりストーカーとかやりたくなる」やらしょーもない相談しかされてなかったのに。

それが急に告白ときたか。


「で、なんだって?」

「…………フラれた。校外に彼女いるらしい」

「おぉう……」


いきなり空気が重くなる。

菜緒の顔がメンヘラに見えるのが気のせい?。


「やっぱりストーカーしとくべきだった」

「恐ろしいこと言いなさんな。とっとと切り替えて、次の恋でも探せ」

「あ、別に未練はないよ?ただ……」

「ただ?」

「あの野郎、私が告ったこと広めやがった」

「クソ男じゃねぇか」


まだ、「女子に告られた」とかならまだわかる。

でも、菜緒の言い方からして「菜緒が俺に告った」みたいに広められたんだろう。

みなさん覚えておきましょう。

こう言う男は将来独身です。


「あのクソ男、調子乗りやがって」

「菜緒ちゃんこわーい」

「菜花、今私イライラしてるから変なこと言わないでね。殴るよ」

「お前私の座右の銘忘れたか?」


菜緒は頑張って思い出そうと、頭をブンブン振っている。

絶対に意味がないのに。


「あっ、やられたらやり返す」

「惜しい。『やられたらやり返す、やり返されても文句言わないけどやり返す、やられる前にやる』だよ」

「なげーよ」


菜緒は笑いながら言った。


「やっぱり菜緒はしけた顔よりも爆笑してる顔の方が顔に合ってるよ」

「褒めてるの?貶してるの?」

「適当」


菜緒から複雑な表情を向けられてるのは気のせいだ。

私は顔に合った選択のほうがいいよねって言っただけだもん。


「ちなみに菜緒の座右の銘は?」

「『今北産業』だけど?」

「なんで」

「分からん」


菜緒と私はしばらくツボにハマって会話すらできなかった。

菜緒たまに天然っぽいところあるんだよな。

ようやくツボから抜け出せたとき、先に菜緒が口を開いた。


「私の友達の座右の銘の方がやばいよ」

「なに?」

「『俺の友達亜熱帯』」


私達はまた腹を抱えて笑った。

もうやめてほしい。

腹筋がバキバキになってまうやろ。

目からうっすら涙が浮かぶほど笑った私達は、体勢を直した。


「面白いこと言うなよマジでさ」

「菜花のツボが浅いんだよ」

「おめーもだろ!!」


私は普段ボケに回ることが多い。

友達がたまにボケに回って私にツッコみをさせるけど、それ以外は私がボケだ。

しかし、菜緒は私のボケを超える。

私にずっとツッコミをさせるのは菜緒だけだ。


「じゃあ、嫌いな人達の話ね」

「はいはい」


菜緒はクラスにできがちなグループのうちの一つから嫌がらせを受けている。

机の上に大量の消しカスをぶちまけられたり、掃除の時に集めたゴミをちらけられたり、筆箱の中身を全部出されたりなどなど。

理由は菜緒がそいつらと仲のいい子と、修学旅行の班になったのが原因らしい。

ちなみに、菜緒はさっき挙げた嫌がらせをやり返している。

菜緒が三日分の授業で出た消しカスと、そいつらの消しカスを全部集めてリーダー格の女子の机にぶちまける。

掃除中にぶちまけられたゴミはもう一度集めてリーダー格の女子の机の周りにぶちまける。

筆箱の中身を出されたら、全員の筆箱の中身をリーダー格の机の上に混ぜてぶちまける。

だから嫌がらせの連鎖が終わらないんだよ。

そう思うけど言わないでおく。


「あのクソ女、嫌がらせの原因になった子に絶縁されてました〜!!」


嬉しそうに言う菜緒は、腹黒という他ないだろう。

私はさぞかしどうでもよさそうな目で、菜緒を見た。


「全く、人の不幸で喜ぶなんていい性格してるね」

「菜花こそニヤニヤしてるじゃーん?そんなに私があいつらに勝ったのが嬉しい?」

「どーでもいいけど、スカッとしたかも」


私はニヤリと笑って菜緒に言った。

菜緒もまたニヤリと笑った。


「腹黒」

「菜花に言われたくないなぁ」

「じゃあ腹黒仲間だ。共に腹を黒くしてゆこう」

「おめーは塗るとこねーだろ」

「お前よりはあるしぃー」


私達は互いの腹の黒さに爆笑した。

私も菜緒も、お互いを親友だと言えるほど仲がいい。

しかし、それが時には気まずさを生み出す。


◇◆◇


「あれ?菜緒じゃん」

「菜花!!」


散歩をしていたら、立ち寄った公園で偶然菜緒と会った。

菜緒はぱあっと笑顔になり、私の元へ駆け寄ってきた。


「奇遇だね!私達運命の糸で繋がってるんじゃなーい?」

「変なこと言うな気持ち悪い。……ところで、あの人達は?」

「ん?一緒に遊んでいたクラスメイト」


クラスメイトと遊ぶことあるんだ。

私は基本的に友達としか遊ばないから、意外だった。


「菜緒ちゃんってば、私達のことクラスメイトだなんて冷たいんじゃない?」

「そうだよー、私達友達でしょ?」

「え?私達って友達だったの?」


その場が凍りついた。

菜緒がクラスメイトと称した人達は、信じられないと言う顔で止まっている。

カオスだ……。

マジでこいつやりやがったな。


「な、菜緒ちゃん……?そっちの人は……どんな関係……?」

「ん?親友だよ?」


いっそう空気が重くなる。

こいつマジでやってんな。


「あ、もうこんな時間。それじゃあ私このあと用事あるから!ごめんね菜緒、菜緒のお友達、私はこれで帰るね!」

「え?菜花!?ちょっと待ってよ!この人達別に友達じゃないよー!?」


余計なこと言うな!!

菜緒と一緒にいた人達からしたら、私は重い空気から逃げ出したように見えるだろう。

でも、仕方がない。

事実なのだから。


◇◆◇


「あれは地獄だったな……」

「何の話?」

「何でもない。で、話はそれだけ?寒いから帰りたいんだけど」

「それはお互い様でしょ。……菜花、睨めっこしない?」


急な申し出に、私は固まった。

なぜに?


「はーい、にーらめっこしーましょ、わーらうとまけよ、あっぷぷっぷー」


私は真顔で挑戦、菜緒は本気の変顔で挑戦。

どっちが勝つのか……。

ん?

菜緒の唇がなんか赤くなっている。

さっきまで普通だったけどな。

赤くなっているところから、血が出てきた。

え?

菜緒もそれに気づいて、「え?」と唇を触って言った。


「……血が出てる…」

「ぶふっ」


あ、笑っちゃった。

でも無理だ。

これで笑わないなんて。


「あははははっ!」

「おまっ、わろとんちゃうぞ!!」

「む、無理!!」

「やめ、こっちも笑えてくるでしょ!口痛いから笑わせるな!!」


菜緒の声なんて耳に届くはずもなく、私は腹を抱えて笑った。

菜緒もそれに釣られて笑い始めた。

しばらくすると、何だか口が痛い気がしてきて、唇を触った。

血がついた。


「お前のせいで私の口まで血だらけなんだけど!」

「知るかよ!!だはははは!!」


◇◆◇


翌日、私と菜緒は風邪を引いた。

風邪を引いたことにより、前日の行為を深く反省できた。

外で長話、睨めっこ、爆笑はしないほうがいいこと、薄着でマフラーもつけないまま外に出るのはやめよう。

冬に菜緒と遊ぶのはやめよう。

そうでもしなければ、私の唇はどれだけ保湿しても血まみれになることでしょう。

みなさんもアホな友達と外で薄着のまま長時間話すことだけはしないように。

唇が血まみれになりますよ。

みなさんが唇を血で赤く染めないことを願っています。

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