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世界樹の御子  作者: 現野翔子


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不明の目的地

《林檎》視点

 一晩のお礼はこの大陸にない肉と野菜にした。別れを惜しむように抱き締めてくれる人もいたが、私たちには目的がある。この旅が終われば《果実姫》にも彼らのことを共有し、溶け込めそうな希望者をこちらに送り込もう。私と緋炎も子どもたちが大きくなったら来られる。飛鳥は樹の傍に置くため、樹次第になる。リーベは王国に燐と共に帰るだろう。気性穏やかで魔術言語でしか話せない場所に飛び込む勇気があり、新たな言語を学ぶ意欲のある者。選定には苦労しそうだ。ここは帰ってから《果実姫》とも相談して決めよう。

 大きく体調を崩すことなく、大陸奥地へと進んでいく。どこが中心部分なのかも明確には分かっていない。長い旅路になるかと思われた時、シュテルンが先導を始めた。人の姿を持っていると報告を受けている。それ以外の素性は全くの不明。それなのに燐は強い信頼を示している。この旅に出た理由も天啓。力の出し惜しみは言った記憶があるが、その時は堪えた様子なく、言った直後に動き始めたわけではない。シュテルンはこの大陸について何か知っているのかもしれない。燐の天啓も彼女と出会ったことをきっかけに降りたと言っていた。彼女について行ってみる価値はある。移動しつつ瘴気の濃い中心部を探れば良いのだ。

「シュテルンは不思議。他人の感じがしないの。」

 知花も何故か親しみを覚えている。燐もそれを肯定した。髪や瞳の色は異なり、背格好も異なる。細身で小柄であることは共通だが、その中でも知花は特に小さく、樹によると燐よりもシュテルンは小さいそうだ。雰囲気も知花は彩羽学校にいた頃より大人びたとは言え子どもの雰囲気で、燐は導師という称号の似合うどこか厳格な雰囲気を滲ませ、シュテルンは気ままな老婆の雰囲気を纏う。知花と燐に共通する部分は召喚されたことと召喚される以前の記憶が曖昧である点。それ以上に同じ部分は見つからない。シュテルンに関しては人型での会話の機会が少なかったようで、樹からもあまり情報は引き出せなかった。

 シュテルンの後を追い、休憩させてもらい、何日、何ヶ月経っただろう。誰も大きな怪我や病気をすることなく順調に進んでいるが終わりは見えない。旅慣れない花梨や樹はそろそろ疲弊し始めた。戦いの場に身を置く覚悟のある者はまだ問題なく、二人の様子を気に掛ける余裕もある。まだ花梨は自分がお姉さんだから、責任のある立場だからと知花や樹を気に掛けることで自分を奮い立たせることもできているが、樹は常に守られる立場だったからか既に飛鳥と光に頼り切りになっている。戦闘が重なれば二人も樹に付きっきりで励ますことも難しくなるだろう。その時が問題だ。なるべくどちらかは余力のある状態にしておきたい。そんな樹も誰かが怪我をすれば魔術で治癒してくれる。自分の役割を全うしようという意識はあり、帰ろうとは言い出していない。この大地にも生命が息づいている。浄化を焦る必要はないが、本人の意欲のあるうちは見守ることに徹しよう。浄化されずともここに移住する選択肢もあるのだ。

 風景がまた一段と暗くなる。生き物の気配も減った。いる場合も攻撃されることは少なく、されても動きが緩慢。大きな目は少ない光を求めてのことだろうか。逆に全く目が見えない生き物もいる。群れはなくなり、一体一体が独立して草を食んでいる。植物も鋭さを増し、あるいは触れるだけで溶けるような軟さで、極端だ。シュテルンも体をドロドロの植物の汁で濡らしながら進んでいく。衣服に染み込む不快感に耐えながらの時間は長く続けられない。小まめに休息を取り、魔術でなるべくその感触を消していく。そしてまた行き先も分からないままシュテルンについて行く。何回も繰り返し、シュテルンについて行くという判断が合っているのか不安になり始めた頃、一段と植物が黒と灰色に覆われる。点々と存在する深い緑と紫だけが見える色だ。視界が全て灰に覆われた場所で、ようやく枯れたような色の地脈花が見えた。こんな場所にも魔力は満ちているのだ。

「お疲れ様、御子様御一行。」

 灰と茶色の混ざった地脈花の上にちょこんと乗ったシュテルンは人型に変える。全員に疲れが見える中、彼女だけ元気そうだ。彼女はここに案内したかった。理由はこれからだろうか。そう言葉を待つが何も言ってくれない。不思議な沈黙の後、ようやく質問をしてくれた。

「まずはここに来た目的を教えて。」

 シュテルンの案内で辿り着いた。いや、これはここに来た理由だ。目的は瘴気の浄化を効率よく効果的に行うため。樹が少し弱ってきているため、素早い浄化は難しいかもしれない。しかし西の大陸からの浄化では一向に改善の兆しが見えず、世界樹からの浄化は危険がすぎる。瘴気に飲み込まれている場所の浄化を行えば、全体の浄化もできるようになると期待しての行動だ。瘴気について何か判明すればという思いもある。

 燐は天啓という言葉をまた口にした。シュテルンを真っ直ぐ見つめ、貴女からの天啓だ、と。触れた瞬間に感じたその感覚を強めたものは私がかつて伝えた、導師は何でもできるのに瘴気の浄化はしない、力を出し惜しみしているという言葉。そのために御子を連れて動こうと、自分にできる何かをしようとしてくれた。本当に瘴気を浄化する力はなかったが、浄化のためにできることをした。御子の身を守り、浄化の成果の見える場所に連れていく。それが彼女のなりの答えだった。

「この世界樹の化身よ、あなたはどう考えているの?」

 知花は首を傾げている。少し大人になってきたとはいえ、まだ難しいことは分からないようだ。それでも純粋な心を伝えてくれる。

「苦しいのが消えたらいいなって思ったの。みんなの心配が無くなったらいいなって。樹にも抱っこしてもらえたらいいなって。瘴気がなくなったら樹に触れても苦しめなくて済むでしょ?」

 無邪気に甘える子どもに見えて、気も遣っていた。他の一人一人にもシュテルンは思いを聞いていく。樹は燐に説得された、御子の務め、心穏やかに大公殿下と過ごすため、と控えめな理由を語った。光と飛鳥はその護衛、リーベは燐の護衛。花梨も知花の付き添いと世界樹のため、万城目の役割と強い目をした。緋炎は私の護衛のつもりだったらしい。私に護衛なんて必要ないことを知っているはずなのに、魔力を使いすぎた時のことをまだ覚えているのだろう。魔術偏重にならない。そう意識して鍛え直した。長く無理できない、一人の体ではなかった。だから自分の身を守ることの重要性も知った。もう私を止めてくれる人なんていなくとも自分で限界を超える前に止められる。

「うん、合格。残念だけど浄化の力は誰にでも与えられるわけじゃない。この力を受け止められる人にだけ授けるね。」

 胎生の人間は力に耐えられない。現状確実に除外できる人間は飛鳥のみ。樹生と明らかなのは私、緋炎、光、知花。リーベ、花梨、燐は不明だ。召喚された燐も樹生に近いと見て良いか。

「花梨もいけるよ。魔力も属性もたくさん受け入れられるし、適任だね。魔術が得意な樹生の人なら概ね良いね。」

 魔術の天才と言われる花梨は養子。引き取られる以前について私はよく知らない。孤児だったなら地脈花に生まれ、保護された可能性もある。丸とは実の兄妹という話も聞いた覚えがあるが、同じ場所で発見されたため血縁と思われたのかもしれない。そうなれば二人とも樹生だ。

 私も魔術は得意だ。緋炎も魔力感知能力に長ける。光も戦闘中に剣術と魔術を併用できる程度には不得手ではない。

「緋炎と光は実力不足。果穂の体は大きな魔力に耐えられないよ。樹以上に臥せって暮らすことになる。」

 思い当たる節はある。花梨は転移酔いこそするが、魔力を大量に消費したからといって疲弊することはあまりない。私は何度も魔力不足を起こし、緋炎に補充してもらっている。まだ臥せって暮らすわけにはいかない。子どもの相手もしたい、子育てにはお金もかかる。子どもの手が離れたなら緋炎と仲良く暮らしたい。《果実姫》の補佐の仕事だってまだあるのだ。この大陸への移住に関しても話し合い、誰かを送り出せるなら交流に手も貸したい。

 結局シュテルンに選ばれた人は燐、知花、花梨の三人だけ。シュテルンに呼ばれ、樹は隣に立つ。求められて手を繋げば、他三人も選ばれし者のようにシュテルンと樹の前に跪き、三人の頭上に手が翳される。何か力を与えられていることが視覚からも分かるほど神々しい光がそれぞれに吸い込まれていった。

「瘴気は形を変えた魔力。疲れた後に力がみなぎるの。だからここじゃないとできなかった。四人ともゆっくり休んで。一回休めば今まで通りだから大丈夫。さ、帰ろう。帰りは私が世界樹まで送ってあげる。」

 それができるなら最初からやってほしかった。シュテルンは何てことのないことのように転移術を発動し、何の違和感もないまま新緑に包まれる。転移酔いもほとんどない。花梨も少し目眩がする程度で、一人で座っていられる。

「試練だよ。きちんとこの世界の人が動こうとしてるのか。燐だってもうこの世界で生きてるんだから、この世界の子なんだ。頑張ってるし、仲良くしようとしてるし、道案内して短縮しちゃったけどいいよね。」

 一年以上掛かるものと思っていた旅が数ヶ月で終わってしまった。これで終わりかという呆気なさが強い。早く子どもに会えることは嬉しい。みんな各々の場所に帰る。もっと長期の休みになる想定で花様も一葉も休みをくれている。久しぶりに緋炎と二人で旅行に行っても、子どもたちを連れて旅行に行っても良い。もう少しすれば子どもたちも勉強に忙しくなる。今が最後の機会かもしれない。

 飛鳥も樹も久しぶりに帰省できる。知花が自力で浄化できるようになったなら、樹との交流もしやすくなっただろう。リーベも母親との時間を大事にしていた。安全で平和な時間を少しだけ提供してあげられる。万城目家もそれには協力するだろう。光も久々に《果実姫》や《果実婆》に会うだろうか。燐も王国から浄化するのだろう。シュテルンはどうするのだろう。もう猫の姿に戻り、樹の足の上に乗っている。リーベと一緒にいたと思うが、樹と一緒に帰るのだろうか。

「樹の実家には行けないから、一ノ瀬邸に来てもらう形かな。一葉様にお願いしないと。」

 緋炎はもう仕事のことを考えている。護衛を兼ねているなら光と飛鳥が同時に樹の傍を離れることはない。皇都にいる間は飛鳥にお願いし、光を地下に連れ込もう。シュテルンによる転移は非常に快適だったが、樹も少し疲れている。今夜はここで休み、明日それぞれの場所に移動だ。シュテルンはもう送り届けてくれるつもりがないようで、樹に寄り添って眠る姿勢を見せている。樹も眠そうに飛鳥に凭れかかっている。彼は早く公国に帰りたいだろう。私も子どもたちに会いたい。明日、緋炎と手分けして会いに行き、皇都の地下に大集合しよう。


 皇国の人々とは今後も会う機会があるだろう。飛鳥と光とも地下を通じて会える。樹はなかなか地下に降りられないため、もう会うことはないかもしれない。燐は自由にどこだって行ける。リーベは王国だ。次に会う機会がないかもしれないと思いつつ、またねと挨拶して別れる。最初に会いに行くのはまだ幼児の九番目と十番目の双子に六歳になった三番目と四番目の双子。全員分まとめていなかった時の誕生日のお祝いをしてあげよう。久しぶりに家族全員で集まってのお祝いだ。

 皇都の屋敷には花様も春仁様もおられた。屋敷の者たちにも改めてお礼を行うつもりだが、まずは彼らに帰還の挨拶と礼をしたい。ただの侍女の子どもを預かり、帰って来なかった場合にも働き口の紹介などを行うと言ってくださっていたのだ。一年足らずで帰還できたため就職の心配は要らなくなったが、子どもの心配を最小限に出掛けられたのは彼らのおかげだ。

「良いのよ、あなたたちには沢山助けられたもの。子どもがたくさんいると賑やかで嬉しいわ。うちの子たちも喜んでいるもの。」

 十人の子どもを全員学校に通わせられるほどお金はない。あくまで私と緋炎の給料は侍女と侍従としてのものだ。一葉からの支援を含めてもあまり大々的にはできない額だ。一時の私の行動があるため、子どもが一葉との子と疑われる危険がある。《果実姫》の一員としての仕事もあるが《豊穣天使》の従業員ではないため、お金ではなく物や必要な時に手を貸してもらえるという形になっている。花様の子や皇女殿下の子と特に親しい子だけを同じ学校の同じ学年に通わせる形になるだろう。

「あら、それだったら一緒に来てくれる子はもちろん私たちから出すわよ。一華様にも伝えれば同じようにしてくださるわ。そうだ、私からお手紙を出すわね。良いでしょう?」

 支援を受けられる子が二人ずつなら残り六人分の学費を稼げば良い。全員が勉強好きとも限らない。苦手な子は地下でその子に合った仕事を見つけられる。とはいえやはり学費を多く稼ぐ必要はある。その前に再会と誕生日のお祝いだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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