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世界樹の御子  作者: 現野翔子


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皇国での合流

《実樹》視点

 公国での最後の時間を過ごし、皇国へ向けて出立する。大公様もエリアスも覚悟を決めてくれた。西の大陸の存在自体初耳だ。そこに向かうと言われても判断が難しかったのだろう。俺が向かっても良いという意思を示し、導師がこれは導師である自分と御子である俺の使命だと強く訴えたから、決断を下してくださった。護衛には飛鳥と光さんが出される。導師が伴ってきたリーベとシュテルンも元々公国の人間であり、頼りになる人たちだ。むしろ王国がこの人員でよく認めてくれた。

「王国では導師の権威が絶大よ。基本はその時代、その土地の人間が治めるべきだと思って黙っているけれど、今回は例外。何より世界の危機に力を出し惜しみしているなんて言われて黙っていられないわ。」

 召喚術禁止を訴えた時同様、導師は自分の権威を利用し、国を離れること、リーベとシュテルンのみを供とすることの両方の希望を叶えた。大公様やエリアス、ロスヴィータとしばらく会えなくなるため寂しいが、久しぶりに会えたリーベと一緒に過ごせることは嬉しい。彼女ももう一人前の武人で、騎士としての礼儀作法も学んだ。頼もしい護衛の一員だ。シュテルンは戦う力を持っているのだろうか。持っているなら人の姿で同行してもらったほうが移動時の飛鳥たちの負担は減る。しかし理由は後ほど、と導師から人型にならないことを告げられた。

 皇国には船旅で向かう。リーベにとっては初めての海だ。俺や飛鳥、光さんにとっては懐かしい海。泳いで遊ぶ時間はないだろうが、潮風を楽しみ、海の幸を食べる時間くらいなら得られるだろう。皇国料理を十分に味わってほしい。船の上では酔わない程度に食事の量も抑え、皇国に到着してからが本番だ。しかしリーベは初めての船でも酔わないのか、元気そうに通常通りの量を食べている。何度も港に寄り、食事一回分だけの滞在でも各地の食堂でしっかり腹を満たした。体を鍛えていると維持にも栄養が多く必要なのだろうが、それにしてもよく食べる。俺より少し大きい程度の体格なのに倍以上の量だ。

「まだ大きくなるつもりだからね。飛鳥や光と同じくらい強くなるんだから。お母様が二人と同じくらい私を頼りにしてくれるように。」

 痩せ細った少女はどこにもいない。立派で逞しい武人だ。頼りにしていると伝えれば嬉しそうにする。皇国に着けば早速皇帝への面会だ。御子と導師の名のおかげか、速やかな対応が行われた。導師も簡潔に説明するが、突然西の大陸の存在を聞かされれば驚きもする。詳細を求められればその説明も行い、続けても皇国からも御子の身を守るための護衛や、十分な情報を持ち帰るための少人数の派遣を要請した。人員の選定には少し時間が必要。そんな返答を受け入れ、しばし導師は離れでの滞在となった。

 選定した人員の返事や集合のために時間が必要。つまり少しだけ皇国で休む時間がある。久しぶりに俺も両親や妹に会えるということだ。うっかり御子や大公妃の話をしてしまわないよう注意が必要だが、《天空の安らぎ》は元々地下の秘密の会合を開くための場所と聞いた。秘密を守る部屋は十分にあるそうだ。両親が常に着けていた水色のピアスは《秋風》の配下の証、俺が《果実姫》の配下であることは見れば分かる。妹の陽菜は今どうしているのだろう。

「お母様のお父様とお母様と妹君ってことは、私のお爺様とお婆様と叔母様ってことね。楽しみ!」

 自分の息子が母親になっているなんて聞けば驚くだろう。大公妃という話を既に知っているなら心の準備はできているだろうか。それでも娘が一緒にくればまた違った感想を抱くかもしれない。今回は皇国に来るにあたって大公妃という立場もそのままのため、女性の姿のまま。すっかり慣れた大公妃や母としての言動は彼らにどう見えるのだろう。

 飛鳥も実家に一時帰省し、合流するまでの供は光さんとなった。彼にとっても久々の皇国だが、彼の故郷は地下。特別な感慨はなさそうだ。今回はリーベと光さん、俺の三人で実家に向かう。数日前に約束を取り付けたため、今日は店を閉めてくれた。仮にも飲食店のため、シュテルンは導師と共にお留守番だ。人型になれば良いだけなのだが、やはり人型になる気はないらしい。

 今回の再会は無事が分かりきっている、嫁に行った娘と同じような感覚のため、以前ほど感極まった様子はなかった。会わない間に両親は少し老け、妹は大人になった。俺の娘だとリーベを紹介すると驚く様子にはどこか誇らしい気持ちになる。実家にいた頃も取り立てて運動が得意でなかった俺の娘が立派な武人の風格を醸し出しているのだ。どうやったのかと思うことだろう。ほぼ飛鳥と光さんのおかげだが、俺の応援も役に立っていたと思いたい。

「お兄ちゃんがお姉ちゃんになってるだけでも驚くのに、私とちょっとしか変わらない娘がいるなんてもっと驚くに決まってるよ!私も叔母ちゃんかぁ。このちっちゃいのと、おっきいリーベちゃんが従姉妹になるんだもんね。」

 陽菜も良い人を見つけたようで、優しい雰囲気の男性を夫だと紹介してくれた。その人との間に産まれた子が抱っこしている赤ん坊。既に首は座っているがまだ小さい。妹もこの前母親になっていたようだ。それなら俺たちの両親は四人の孫がいる祖父母ということになる。エリアスとロスヴィータの二人にも会わせてあげられる機会はあるだろうか。

 両親も会ったことのない孫の風格に少し放心していたが、意識を取り戻してどこか納得したような表情を浮かべた。初めて会うリーベのことも可愛い孫だと言い、俺の幼い頃の話を始めようとする。それを遮れば、俺にも真剣な話だと前置きして、また別の話を始めた。

「旅行中の地脈花が花開いてね、その中に赤子がいたの。それが樹、貴方だったのよ。だから何があっても納得ね。」

 地脈花は稀に蕾のような形状を取り、それが開いた時、赤ん坊が現れる。樹生と呼ばれるそれはどの程度の数存在するのか分からないが、地上では極稀に発見されるそうだ。人に気付かれずに死んでいる場合もあるのかなど分からない部分も多い。俺は運良く両親が発見し、当時子のなかった彼らの下で育てられた。幸い容姿もかけ離れておらず、一定期間母が身を隠したことで実子ではないのではと周囲に思われることもなかったそうだ。地脈花の奇跡なのか、産んでいないはずの母からも母乳が出たことで、乳母なども必要なくなり、さらに疑いの芽は消えた。

「失礼、《天空の安らぎ》のご夫婦。そのような話をするなら、もっと人数を絞っていただけないか。」

 今回は俺の帰省であり、光さんは護衛を兼ねた同行者。基本的に口を挟むことはないと事前に聞いていたが、この話は許容範囲外だったようだ。陽菜も夫も水色のピアスを着けているため、既に地下の一員だ。この場で秘密の話を聞かせられない相手はリーベとまた母乳を飲んでいるような赤ん坊。話してしまっても良いだろう。しかし咳払いで俺のその提案も遮られてしまう。リーベには教えてはいけないらしい。これは大公様にも一部教えてしまっていることを隠したほうが良さそうだ。

 結局大した秘密の話はなく、互いの近況報告に終始した。両親もとても喜び、驚きはしたが受け入れてくれた。子育ての相談は妹にされたが上手く答えられなかった。そもそも俺にはある程度育ってから親子になったエリアスとベータ、それから乳母に頼ったロスヴィータしかいない。自分で産み、侍女や侍従、乳母のいない状態の子育ては分からない。家事は全くなく、俺の体調に無理がないよう周囲が気を付けてくれる中での子育てだった。

 実家への帰省は昼間だけ。夜には一ノ瀬邸の離れへと戻る。導師も同じ場所での滞在だ。一華様と一葉様にも明日会える。リーベももう一緒に眠る年齢ではないため、久しぶりの一人の寝床だ。公国に行ってからは目の見えなかった俺のために光さんや飛鳥が横についていた。結婚してからはずっと大公様と一緒だ。リーベを引き取ってすぐはリーベも一緒で、ロスヴィータが来てからはロスヴィータが一緒だった。彩羽学校に通っていた頃は一人で眠るなんて当たり前だったのに今は特別なことのような気がしている。そういえば入学前は妹が一緒に眠っていた。三十年を超えた俺の人生の中で、一人で眠った時期のほうが少ないなんて、よく考えると不思議な気分だ。


 数日後、導師の求めに対する返事が得られた。同行者は万城目花梨、並びに世界樹の化身たる万城目知花。大人数で向かうことも危険に繋がり、導師の目の届かない、管理できない人数にはしたくないという要望のため、たった二人が選定された。それも皇国内において独自の立場を持つ万城目家、特に世界樹の管理や信仰の部分を一手に担う花梨様が選ばれている。欲を出す部分ではないと受け取ってくださったのだろう。知花も世界樹の化身であり、世俗の権力からは離れた存在だ。久々の再会にも喜び、しかし触れないよう気遣ってくださった。その存在の特殊性か、俺の記憶から外見に変化はない。雰囲気が少し大人になられただろうか。代わりに飛鳥には抱き着き、再会を喜んだ。まだ子どもの部分は十分残っていそうだ。導師とはどこかで会ったことがあるのか、じっと見つめている。

「初めまして、化身様。星合(ほしあい)(りん)と申します。」

 見たことのないほどの低姿勢で導師は挨拶をする。知花もその対応を嫌がり、花梨たちと同じようにすることをねだった。万城目家の末っ子の立場を気に入っているようで、花梨様と仲良く手を繋いでいる。

「旅の間は心白は会えないもんね。私が独り占めしちゃお!」

 花梨様は五十川家の心白様と結婚され、仕事の補佐を頼んでいるそうだ。そのため、花梨の抜けた穴を埋めるためにも彼は留守番だ。花梨様はお寂しいのではないだろうか。

「まだ子どもが小さく、あの子だけを残していくわけにはいかないのです。剣術を得意とされる方が既に複数同行されるという話ですし、魔術を得意とする私が同行すれば十分でしょう。彼は魔術も苦手ですからね。」

 幼い子どもを残してきている点は俺も同じ。気になることも、一緒に行くより預けて行ったほうが良いという感覚も分かる。旅の間に子どもの話も聞かせていただけるだろうか。そんなことを考えている間も知花はシュテルンを凝視している。猫など珍しくないだろうに、目を離さない。中身が人間であることなど知らないだろうに、言葉の通じる人間を相手にしているかのように話しかける。

 万城目家の当主と後継ぎ娘の結子様にも挨拶をし、いざ出発だ。行き先はまず世界樹の島。そこで導師から話したいことがあるそうだ。移動手段は転移。導師、知花が負担の少ない転移術を使用でき、花梨様もご自分だけなら強い転移酔いを起こすことなく転移できるそうだ。そのため三つの組に分かれて転移する。瘴気関連の安全のため、俺と知花は別組だ。

 導師よる転移術は快適だった。少し走った程度の疲労感があるだけで、体調不良にはならなかった。それなのに酷く心配した光さんは俺に膝枕で休息を取らせる。続いて知花による術で転移してきた飛鳥とリーベも元気そうで、お一人での転移を行った花梨様も少し座って休憩すれば良い程度だ。それは良かったのだが、不思議な人物が先に待ち構えていた。

「お久しぶりです、御子様。御子姫様、とお呼びしましょうか。」

「また一段とお美しくなられましたね。」

 林果穂と紅井緋炎だ。それぞれ二条領主の専属侍女、一ノ瀬一葉様の専属侍従を務めている。今回同行する一員には選ばれていない。確かに時属性を扱える果穂はいると心強いかもしれないが、その属性は基本的に伏せていると聞いている。どう同行に漕ぎ着けたのだろう。疑問が顔に出たのか、唇の前で人差し指を立て、秘密、と少女のような仕草をする。彼女ももう三十歳のはずだが、若々しい言動のままだ。

「果穂と緋炎の子はどうしたの?まだ学校に行く年齢じゃないし、一杯いたよね。」

「二条邸や一ノ瀬邸、兄に分けて預けました。一箇所に何人も預けては大変ですからね。」

 一体何人産んだのだろう。相変わらず元気な様子で、むしろ以前より大人の美しさを持っており、子育てに追われる奥様には見えない。侍女という立場なら俺と同じ環境ではないはずだ。小柄だがとても体力のある方なのだろうか。緋炎のほうも元気そうで、飛鳥との再会を喜んでいる。小声で俺について尋ねているが聞こえており、見惚れそうなくらいとの褒め言葉を認識できた。あまりこちらばかり見つめていると奥様に怒られるのではないだろうか。

 一頻り話して満足した果穂は緋炎を見て、案の定拳骨を落とす。しかし緋炎は悪びれることなく反論している。怒っていても怖くないなんて言えば余計怒らせるだけだというのに、一体何をしているのだろう。それに激しい拳を向ける果穂も子どものようだ。

「相変わらずだな。学生時代から変わらない。」

「お母様とそんなに変わらない年だよね?なんか私の友達と同じ感じだわ。」

 飛鳥は少し呆れた様子だが、リーベは親しみを感じている様子だ。仲良くできそうなら良かった。この先何ヶ月にも渡って共に野営をすることになる。過ごしやすい関係性になってほしい。

 果穂と緋炎の口論に終わりが見えないため、導師がご自分の話を始めた。よく二人も導師の前で好き勝手普段通りに振る舞えるものだ。少しは気を遣わなくては、のような意識が生まれないのだろうか。普段は侍女や侍従として仕事をしているなら礼儀作法に則った行動もできるはずだ。ここでは気にする人など見ていないから良い、という度胸のある考えなのだろうか。

「花梨と知花、リーベは初耳の話になるわ。心して聞いて頂戴。」

 そうして始められた説明は地下に関するもの。一瞬果穂が反対するように口を挟むが、強い口調の導師に口を噤んだ。西の大陸に行くなら地下の説明は不要のはず。教える相手は慎重に。そんな説明を俺は受けており、実際導師《公爵》も王家の人々には教えていない。それなのに長く一緒にいるわけではない三人には教える。俺としては一つ緊張の要因が減るため有り難いが、少し不思議だ。

「一蓮托生よ。この先何ヶ月、何年過ごすことになるか分からない。私はみんなと仲良くなりたいわ。だから燐と呼んで頂戴。それと、私の秘密も聞いてほしいの。」

 千年の昔、大陸を滅亡の危機から救い、ローデンヴァルト王国を建国した功績から導師と呼ばれるようになった星合燐は、寿命を迎えることなく今も生きている。その理由は心臓に埋まった命の珠、魔珠にある。幾多の命を凝縮させたその宝石の命の年数だけ、彼女は生きる。そのために体力も魔力も治癒能力も尋常ではない。危機に陥った際の治癒の順番は最後で良い、と他を優先するように言う。そして地下のこと。《公爵》という名の上位者であるが、配下はいない。しかし彼女は自身の両耳にあるピアスと同色のピアスを花梨様と知花に着けた。

「《雷精》、《小精》、受け取ってくれるかしら。」

「ありがとうございます、《公爵》。」

「《小精》って名前も可愛いね。」

 敬語は不要、導師という呼び方もしなくて良いとの発言を受けて、地上では燐、地下では《公爵》と呼ぶことになる。西の大陸ではどちらでも良いだろう。雷属性が適性で、魔術の天才である花梨様には《雷精》、小さな女の子のような知花には《小精》。それぞれ似合った名だ。リーベとシュテルンには《林檎》から紅いピアスが渡された。

「名前は《実樹》が着けてあげて。」

 以前も一度考え、迷ったものだ。今はもう決められた。《氷愛》。氷属性が適性で、強く愛らしい彼女によく合った名前だろう。リーベも喜び、初めて名付けた時のような笑顔を浮かべてくれる。シュテルンにまで渡すなんて、人の姿を持っていると知っているのだろうか。こちらの名前は正直全く考えていなかった。聖域と俗称された地脈花にいた。単純に《星》でも良いだろうか。鳴き声は認めてくれているような気がする。こういう時こそ人の姿に戻ってほしいのだが、全くその気はなさそうだ。それなら《星》にしてしまおう。

 話すべきことはこれで終わり。そう燐が締めると、今度は緋炎が自分の秘密を見てほしい、と転移術の準備を始めた。

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