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世界樹の御子  作者: 現野翔子


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魔力風の夜会

《実樹》視点

 夜会への招待状が届いた。そう聞かされるが、参加するわけもない。それなのにオスカーさんは国境の町での開催だと重ねて俺の参加を求めた。その場にパートナーとして隣に立つは国王の騎士であるフェリクス様の予定であることも伝えられる。丁重な扱いをするためか、監視するためか。フェリクス様個人を信頼する理由があっても、その主の意図が分からない以上、全幅の信頼を寄せるわけにもいかない。俺の参加を強いる理由を明かさないオスカーさんにも疑念はある。

「夜会後は王国に戻って来ることはない。公国への帰還が叶う。どうか聞き入れてはくれないか。」

 それなら夜会の開催場所まで同行するだけで参加はしない。そんな選択肢もあるはずなのに参加が求められる。国王からの求めだとも言われる。断りにくい理由だけ増やされていく。そんなにも出てほしいのなら出てあげるが、ドレスなど持っていない。今着ている服だってオスカーさんが用意してくれた物だ。

「ドレスを始めとした必要な物はフェリクスが用意する。ほら、もうそのために来られているんだ。」

 玄関を開けるとその言葉通りフェリクス様が待っておられた。夜会用のドレスや宝石などは安くない。それを全て買ってもらう形になってしまう。何かお礼をできれば良いが、まだ加護を与える力は不十分で、狙った人に瞬時には与えられない。できるようになったら公国に招けるだろうか。

 帰ってからのことやお礼のことよりもその夜会に向けての準備が先決。他のことは準備を済ませてからでも良い。今日はドレス類の用意のためにフェリクス様のお屋敷に連れられる。まだ俺はフェリクス様との夜会出席に了承していない。それなのにダンスの練習やフェリクス様と本当に何度も踊れるのかという確認も必要だ、やることは多いと説明される。飛鳥となら何の不安もないのだが、と渋れば、そちらも伴って良いと許可が得られる。それなら是非向かいたい。公国に真っ直ぐ帰る道があるなら、そのほうが良い。俺は早く大公邸に帰りたい。

「夜から過ごす場所のことなんだが、オスカーの家とフィヒター公爵家の屋敷とどっちが良い?俺も長期休みを取らせていただいたから、傍にいることはできる。」

 安全面を考えるなら騎士の個人宅より公爵邸になる。親しさならフェリクス様よりオスカーさんだ。飛鳥も一緒であることを考えるなら、帰還までずっとオスカーさんの家でお世話になるには負担も大きそうだ。公爵邸のほうが気を遣わずに滞在できるか。飛鳥にも相談すれば、彼は迷わずフィヒター公爵邸を選んだ。やはり安全面を重視するならそうなるだろう。俺もそれに賛同し、ちょうど来られた商人の方に服や装飾品の一覧を見せていただく。

 大公邸でも様々な衣服を用意していただいたが、自分で選ぶことはなかった。大公様か光さんの感性で選ばれており、その日どれを着るかも決めてもらっていた。どう選んだものか。

「好きな色で構わない。お勧めを聞くという手もある。」

 俺に似合う色を商人さんに選んでもらっても良い。折角なら飛鳥に選んでもらおうか。いつもは大公様か光さんが選んでくれていた。飛鳥はどういったものを似合うと思ってくれるのだろう。期待しつつ待っていると、あまり気合を入れずに、派手でない物を選んでくれた。俺の服装には興味がないのかもしれない。今の俺に本当に似合う服なのだろうか。不安になり、フェリクス様にも確認する。

「ああ、心配要らない。見れば皆、君の愛くるしさに気付くだろう。」

 親しくない人から見ても似合っているなら心配は要らないだろう。次は飛鳥の装飾品だ。紅いお揃いのピアスを常に着けているため、他の装飾品を選ぶ。色、形と選択肢も豊富。今のピアスを着けたままでも良い物を、と伝え、そこから選択肢を絞っていく。色は何故か深い緑を勧められているが、彼の持ち物にそのような色合いの物はない。

「おや、勘違いでしたかな。彼女の瞳と同じ色になりますよ。」

 夫婦や恋人なら互いの髪や瞳の色を意識する場合もある。思い返せばドレスの装飾には随所に黒い刺繍が施されており、装飾品も漆黒の宝石だった。飛鳥の髪と瞳は黒だ。何事もないふりをして、自分の色を俺に身に着けさせようとしていたのだろうか、それとも俺の好みに合わせてくれただけか。その表情からは窺えない。何となくその色にすればと言えば、それならと候補の中から一つを選んだ。彼はどういうつもりで俺の物と自分の物を選んだのだろう。

 収穫を得て、今日の仕事は終了とフェリクス様はお茶に連れ出してくださる。甘い物が好きなら気に入るだろうと連れて行ってくださった店は可愛い菓子の並ぶ喫茶店。雰囲気も良く、菓子の種類も多い。

「好きなだけ頼むと良い。」

 そんなことを言われても食べられる量には限りがある。何のお返しもできる予定のない今、言葉のままに甘えてしまうことにも躊躇する。躊躇はするが、美味しそうな菓子を食べない選択肢はなく、宝石のように美しい果実のケーキ、宝果ケーキを頼む。何種類もの果実が練り込まれた生地にさらに果実が挟み込まれた贅沢な一品だ。遣われている果実の種類は季節や日によって異なっているそうで、何度食べても新鮮に楽しめるそうだ。

 注文した品が届くまでの時間も絵と実際の違いを想像するのに忙しい。今日はどんな果実が入っているのだろう、生地と果実はどう調節されているのだろう。

「素材にも拘られていて、《豊穣天使》の果実も一部使われているんだ。」

 最上級品と言われるその果実は味に見合った価格をしており、日常的に食べられる物ではない。それを使った菓子なら極上の一品になっているだろう。さらに楽しみになってきた。そんな期待の高まりに応えるように、宝果ケーキは届けられた。宝石のような彩りが目も楽しませてくれる。

「本日の宝果ケーキは、東洋皇国《豊穣天使》のさくらんぼ・桜姫(さくらひめ)、苺・雪解(ゆきどけ)を使用しております。」

 それぞれ調理せずとも絶品の果実だ。一度ずつだが口にしたことがある。そしてやはり思う点が、皇国は大陸で本当に「東洋皇国」と呼ばれているのだという点。「皇国」だけだと国としての固有名詞を持っていないように感じられるそうだ。大陸の国はローデンヴァルト王国、エーデルシュタイン公国とその支配する家の名称が国名に付けられている。西部の山岳地帯もそれぞれの部族の名を冠して誰の勢力であるかが明示される。南の海洋連盟に関しても連盟を構成する国の名称は存在し、連盟という一つの国家が存在するわけではない。そのため「皇国」のみを国家名とすることに違和感を覚えるのだろう。

 何はともあれケーキだ。宝石のような果実を口に含み、広がる甘みを堪能する。思わず声が漏れ出てしまうほどの美味しさだ。果実単体でも素晴らしく美味しいのだから、調理すればより美味しいに決まっている。もしかして《林檎》に頼めばもっと頻繁に食べられるのだろうか。いや、これはたまの贅沢に食べる味。貪欲になってはいけない。一瞬気を引き締め、甘味に頬が緩む。こんなに美味しいケーキを奢ってもらったのだ。今度の夜会はフェリクス様とも一緒に踊り、可愛い女の子を演じてあげよう。


 一ヶ月も待つことなく、夜会の日を迎える。着替えを済ませた飛鳥を見れば、どこの貴公子かと思うような大人の男性がいた。紅い衣装に黒い髪と瞳が映える。互いの裸を見たことのある仲なのに、何故か見知らぬ男性と話しているような気分にも陥る。俺の専属として行動している時も格好良いが、今はその時より気品に溢れており、これも領主の第二子だったと思い出される風格だ。夜会の衣装にほとんど隠れたその体が筋肉質で、俺など簡単に抱え上げられることも知っている。貴族の令嬢たちも彼に見惚れてしまうだろうか。どんなに願っても飛鳥は俺の専属。一緒に公国に帰るため、彼女たちの傍に留まることはあり得ない。俺の物だということを俺の瞳の色の宝石が主張している。

「やっぱり似合ってる。ベアタに似合うのは淡い色だけじゃない。」

 大公邸で着ていたより少し大人の装いの俺も褒めてくれる。光さんも同じ皇国出身のはずなのに、飛鳥のほうがより俺に近い視点を持つ、寄り添ってくれる相手だ。身分を考えれば小原光さんのほうが近かったはず。幼い頃からの交流の結果だろうか。

 互いに見つめていると、用意はできたかとフェリクス様も迎えに来られる。こちらは深紅の髪と瞳に漆黒の衣装と、飛鳥と正反対の色を身に着けている。引き締まった体は服越しにも分かるほど鍛え上げられており、彼らに挟まれれば俺がより小さくか弱い少女に見えてしまいそうだ。

「よく似合っているよ。さあ、行こうか。今日の君は二人を、いや、会場のもう一人を加えた三人を独り占めできる。」

 基本的には男女一組となって夜会に参加する。御子であることを隠すならどちらかとしか行けないはずだ。それなのにフェリクス様は気にすることはないと言う。俺が二人を伴って入場する予定まで教えられる。会場の人々からはどんな目で見られることだろう。嫌な緊張感が芽生えていることにフェリクス様は気付かず、馬車に乗せてくださる。飛鳥は何か知っているのか、大丈夫と俺に軽く触れるだけ。今日は髪が崩れないよう、いつもより触れる手が控えめだ。見ることのない態度に不思議なものを見る目をしてしまうが、苦情が来る前に目を逸らす。

 会場に到着する。入場順は爵位の低い順からになる。御子と大公妃という立場を隠した俺たちはフェリクス様の公爵家嫡子という立場に準じた順番で、王族の一つ前、つまり最後のほうだ。既に入場されている侯爵家の方などの挨拶を受け、王族の入場時には俺たちから挨拶に向かう。王妃はフェリクス様の妹君フローラ様。薔薇のような美しさをお持ちで、当然だが彩羽で見た記憶より随分大人の女性になられている。俺より年下とは思えないほどだ。

 俺と飛鳥の正体が不明のためか、注目を浴びている。その中で管弦楽に合わせて踊らなければならない。緊張で足が縺れてしまわないか心配だが、飛鳥の手を取って中央付近についていく。ここまで来たらやるしかない。

「大丈夫、俺が支えるから。練習の時だって大丈夫だっただろ?」

 足は縺れたが、飛鳥は踊らせてくれた。踏んでしまっても涼しい顔をしてくれていた。それなら今も心配することはない。そう気分の赴くままに足を動かす。飛鳥の手に従えば体が軽くなったように飛び跳ねる。着地点など気にする必要はない。飛鳥の足に着地してしまっても良い。足に視線を感じるが、それも気にしない。飛鳥かフェリクス様の傍にいれば危険なことなど何もないだろう。

 一曲終わり、次はフェリクス様。こちらはこちらで心配要らない。彼の手に従えば足を踏んでしまうことなどないのだから。踊る時間も案外心地良い。たまには女の子のふりをして楽しんでも良いかもしれない。そんな現実逃避の時間は意外なお知らせによって夢見心地の時間へと変貌する。

「エーデルシュタイン大公のご入場です。」

 ここは国境付近とは言え王国内。敵国内に大公様が来るなんて信じられない。同伴者もおらず大公様が一人で堂々と入場された。夜会の最中に走ってはいけない。入場中の人間に近づいてはいけない。そんな簡単な決まり事さえ忘れ、足は自然に動く。大公様も挨拶の順番などという王国内の決まり事など知ったことかという態度で真っ直ぐ俺に向かって歩いてくれる。こうして大公様が来られ、俺が御子と明らかにするから二人を伴っての入場が認められたのだろう。

「御子、我が妃よ、迎えが遅くなってすまない。飛鳥、異国の地での護衛、ご苦労だった。君も、私の妃が世話になったな。」

 迎えに来たと手を伸ばしてくださる。その手を俺が取ればここからは大公妃としての時間だ。大公様への挨拶のため集う貴族たちの相手をし、ダンスをする。その間にも俺や大公様への誘いはあるが、全て断った。今はそれが許される時だ。事故で離れてしまったのだから、片時も離れたくないという我が儘は聞き入れられる。飛鳥への誘いは断る口実がないのか、困ったように対応を続けていた。大公様とのダンスは飛鳥とのダンスと異なり、地に足の着いた動きだ。飛び跳ねることはないが、ふわふわと体はいつの間にか動いている。

 踊り終われば、いつの間にか入場していた光さんにも挨拶する。特別に護衛としての同行が認められたそうだ。警備の騎士もおり、その中の一人であるオスカーさんの話を教えてくれた。当然だが家にいる時とは異なり、非常に引き締まった表情をしている。

「見惚れておられましたよ。警備失格ですね。」

 会場全体の安全のために動くなら、一人の参加者に注目してはいけない。帰還予定日は彼にも知らされたため、別れの挨拶をする時間はある。最後にしっかりお礼を言いたい。加護は願えば与えられるだろうか。大公様にも相談してから決めよう。無闇に与えてはいけないものかもしれない。ここでの相談は難しい。そう大公様に内緒話をしたいと伝えると、俺の手を引いて王様と話に向かった。

 王様は大公様より若そうだが、威圧感は強い。王妃のフローラ様は微笑んでくださるが、俺のことを覚えてくださっているだろうか。お二人共敵対しているような雰囲気はない。国同士は敵対していたはずだが、何らかの進展があったのだろう。大公様は堂々たる雰囲気で俺を連れ帰ると宣言した。予めこうすると話し合っていたのか、簡単に認めてくれる。俺も大公様と一緒にいたいと訴えた。御子からの訴えは無視できないだろう。そんな俺の読みは当たり、無事に夜会を抜け出せた。当然飛鳥と光さんも一緒だ。

 飛鳥からも転移してからの話をしてくれる。俺からは助けてくれた騎士たちのこと、特にお世話になったフェリクス様とオスカーさんにお礼がしたいことを伝える。加護は与えても良いだろうか。

「後日俺から礼をする。お前からは言葉に留めてくれ。加護は極力表に出したくない。」

 飛鳥と光さんになら良い、と許可は得られた。そのくらい限られた人間にしか教えてはいけない。加護を与えたこともないため、上手く与えられるのかも分からない。大公邸に帰ったら飛鳥で練習してみよう。


 帰還の日程も既に組まれており、夜会の翌日、すぐに公国へ向けて出立となった。飛鳥は驚いた様子がなかったため、いつの間にか聞いていたのだろう。馬車の中は俺と大公様の二人。変わりゆく風景と一見は変わらない空、よく見れば流れている雲。背の高い道草も徐々に乾いた背の低い草に変わっていく。まだ王国内なのに瞼も重くなってくる。見えたあの壁が関所だろうか。厳重な砦にもなっており、簡単には出入りできない。今は大公様の馬車に乗っているため、特別に通過できる。ここを通り抜ければようやく公国だ。

 魔力の奔流に巻き込まれたことが原因だと伝わっているからか、道中何度も休憩を挟んでくれた。馬車に乗っているのだからそんなに疲れないと言っても、だ。その上、馬車の中でも俺の体に負担がかからないよう、大公様は気遣ってくれた。

 そんな旅路を終え、大公様の屋敷の帰り着く。そこで大公様は新たな選択肢を提示してくれた。ここにいた時のように浄化を続け、御子として生きていくか、冒険者として世界中を巡るか。俺が一度転移してしまったのに再び地脈花に触れ、どこかに行こうとしているような動きを見せてしまったためか。前者は安全だが一部自由を失う、後者は全てが自分の意思で進んでいくが安全は確保できない。そんな言い方をされるが、失う自由なんて他国に旅行に行けない程度のもので、日常生活における制約はほとんどない。ドレスで大公様の隣に立つことだってどうしても嫌なら避けられる。そろそろドレスやスカートにも慣れてきた。このまま続けていれば違和感を覚えていたことを不思議に思うくらい馴染んでいくことだろう。何より後者を選んでは大公様と会う機会が大きく限られる。大公邸にいる時のように気軽に会うことはできなくなってしまうだろう。

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