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世界樹の御子  作者: 現野翔子


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令嬢としての茶会

《実樹》視点

 十分な作戦を立てられないまま、茶会当日になってしまった。服は用意できている。結局大公妃の時と雰囲気が大きく異なる服装にした。近い雰囲気だと同一人物と気付かれる危険があるためだ。相手を夢中にさせるため積極的になるなら、それに相応しい服装にしたいという思惑もある。露出度をあまりに高めることは抵抗があり、拒否させてもらった。それでも今までに比べると鮮烈な色合いであり、体型を強調するような服装だ。

 緊張しつつ、指定の場所へ向かう。茶会の会場は貸し切った小さな喫茶店。参加者は俺、ベルンハルト兄様、ジークムント。自信満々な女性を演じ、魅力的に見える礼をする。これはベルンハルト兄様にも確認してもらい、何度も練習した。俺の礼を受けるジークムント様の態度は貴公子そのもの。ジークリンデ様への物言いなどは何だったのか問い詰めたくもあるが、ベアタはジークムント様ともジークリンデ様とも面識がない。樹と同一人物であることを隠すなら、これは黙っておくべきことだ。

 美しい俺と話せるなんて幸運という褒め言葉とそんな俺に特定の相手が未だにいないなんて何か致命的な問題点でも抱えているのかという侮辱の並ぶ挨拶を聞き、早速親しくなるための時間を始める。侮辱の部分は聞かなかったことにしよう。それとも体調の問題で人と会うことが難しかったという言い訳をしようか。これから色んな人と出会う予定であり、手始めにこの前の夜会に出席した。早速侯爵家の素敵な人と出会えて幸運だというお世辞でも言っておこう。彼の言葉の一部を借りる返事だが、上辺だけの褒め言葉とは思わなかったのか、それとも演技がお上手なのか、良い反応だ。この調子なら大公妃に夢中という噂についても確かめられるかもしれない。あくまで噂という建前で尋ねよう。彼の伯母様から聞いたと言ってしまうと話が逸れてしまうかもしれない。

「お恥ずかしながら一目惚れしてしまって。諦めるべきということは、頭では理解できていたのですが、なかなか難しくて。今日貴女にお会いできて良かった。許される相手でもこれだけ魅力的な方がおられると知れた。」

 第一関門は突破と考えて良いだろう。彼の関心がベアタに向いている。どちらも取ろうとする人間でなければこれで樹としては安全になる。ただし帰るまでに冷たくしすぎてはベアタともっと親しくなろうと思ってもらえない。まだ油断はできない。みだりに触れられないように気を付けつつ、特別な相手になれるように距離を縮める。軽い女だとも思われないように、集中して挑む必要のある手強い相手だと思わせるように。同時に本気になれば落とせる程度だと思ってもらえるように。特別な相手ではないが、友人として親しくなる意思は見せよう。

 隣に座って良いかと許可を求める。椅子を隣に置くだけのため、体が触れることはない。それでもより近い場所になり、胸元も見ようと思えば見られる距離感。あからさまに覗き込まないだけの良識はお持ちのようだ。それでも視線は感じる。これを隠すだけの器用さを持っていないから次期侯爵という立場にもかかわらず、そして本人も相手を求めておいでなのに見つかっていないのは何故だろう。

「君も不思議な雰囲気を持っているね。引き込まれてしまいそうだ。」

 口説き始めたか。これに簡単に応じてはいけない。継続して意識してもらうために、可能性とまだ落ちていないという感覚を抱いてほしい。君もという言葉はまだ大公妃と比べているのだろうか。言葉の一つ一つから彼の状態を探っていかなければならない。加減を間違えれば面倒なことになるだろう。

 机の上に乗せた手に彼の手が近づく。まだ受け入れない。さり気なくその手を避け、大公妃のことを尋ねる。あくまで噂として、あくまで共通の話題として。嫉妬のように思われることは不本意だ。彼に想いを寄せているとは思われたくない。あちらの心をこちらに向けるため、こちらはただほんの少しの興味を見せる程度に留めたい。

「とても美しく、愛らしい方だ。熱い瞳を俺にも向けてくださったなら、と空想したことがあるよ。もっとも、その目は大公殿下にしか向いておられないが。その点も理想の女性だ。」

 人前でそんな目を向けていただろうか。そのような関係だと思われているからそう見えただけ、という可能性もある。ここは追求しても碌な話が聞けなさそうだ。その代わり大公妃に関する印象や素敵だと思う点を尋ねるが、あまり具体的な話は出てこない。抽象的な話が中心になっているのは彼自身が大公妃と関わりを持っていないからだろう。それもそのはずだ。何度か会ったことがあるだけで、俺自身が彼との交流を拒んでいる。大公様も俺に貴族との広い交流を望んでいない。ジークリンデ様関連でシュプリンガー家にも興味はあるが、親しくしたいという意味ではない。そんな関係性なのに個人的で具体的な話など出てくるはずがない。彼が大公妃に抱いている感情はただの憧れ、もしくは勝手な理想を大公妃に見ているだけだ。俺自身を見て惹かれたわけではない。男性の姿で表に出ている時も大公妃と名乗っていた。仮面を被った自分でしか彼に会っていない。それなのに理想の女性、と言っている点からも相手をよく見ていないことが分かる。妃という言葉に惑わされているだけだ。

 隣に座って、少しだけ彼のほうを見るよう意識する。こちらを見てはいるが、熱い瞳ではない。いきなりそんな瞳で見つめられても怖いだけだ。少しずつ友人のように距離を縮めよう。上手くいけばジークリンデ様のことも聞けるかもしれない。相手のことを聞くなら自分のことも話さなければならない。既に大公妃関連を聞いた。次は俺のことを話そう。もちろんバルシュミーデ家に来てからのことを元気になってからのこととして話す。雪解け祭りのこと、この前の夜会のこと。二人の兄様のことも父様と母様のことも欠かせない。特に今も同席しているベルンハルト兄様について。夜会にも一緒に参加した。隣にいてくれるだけで安心、と付け加えればお兄ちゃん大好きな少し実年齢よりも幼い内面の少女に見えるだろう。大人に見える服装にしているのにこの態度は背伸びしているように感じさせるだろうか。しかしそれがジークムント様にとって興味を失う理由にはならなかったようで、良い態度で話を聞いてくださっている。

「君の愛情を一身に受ける相手が羨ましいよ。一緒に成長できる喜びも得られそうだ。」

 この感性を持っていながら何故相手を見つけられていないのか。未熟な人間と一緒に成長する意識があるなら一緒にいたいと思う人もいそうなものだが、口先だけなのだろうか。相手を探しているというのも見せかけだけなのかもしれない。貴族の第一子なら結婚するよう求められているだけで、本人の意識はしたいというよりもしなければならないというだけの可能性もある。まだこの話をするほど親しくはない。今聞いてもただの余計なお世話になる。次は大公妃関連ではなく、単に彼の好みの女性について尋ねてみよう。こちらからの意識も読み取ってもらえるかもしれない。

「愛らしく、柔らかな人が良いな。気の強い人は妹だけで十分さ。ある程度賢さも必要だ。楽しい会話には教養も必要だろう?かといって他愛ない会話をしたいのに小難しいことを毎回言われても疲れてしまう。良い塩梅で答えてくれる人が良い。」

 その良い塩梅が難しい。今は他愛ない会話の時間だが、互いを見極める時間でもある。馬鹿には見えないように、堅苦しい人間にも思われないように。愛想良く笑い、機嫌良く会話する。気を遣いながらの会話をしつつ、強い緊張を悟らせないように。一時のことと割り切らなければ負担なだけだ。長くともバルシュミーデ家にいる間だけ。その間の辛抱だ。

 会話自体は上手くいった。手紙の約束もできた。問題は大公邸に戻った後。ベアタと大公妃が同一人物だと知られると非常に面倒なことになる。大公妃が本当は自分を想っていると勘違いされるとむしろ面倒事が悪化するだろう。隠し続けるにもベアタが手紙の返事をし続けることは難しい。バルシュミーデ邸ならともかく、手紙の行き先が大公邸だと知られる危険がある。ベアタからの返事がないとなればまた大公妃に興味が戻ってしまうかもしれない。それは後から考えれば良いか。大公様にも相談して解決に向けて動こう。大公妃への興味もほんの少しだけなら上手く対処できるだろう。

 帰宅後、ジークムント様への手紙を書く。こちらが茶会に招かれた立場だ。その礼と楽しい時間だったという感想と、次への期待と。シュプリンガー邸への訪問は敵陣へ突っ込むようなもので避けたいが、かといってバルシュミーデ邸への招待は俺が大公邸へ戻った後の断り文句に困ることになる。そもそも次への期待を書くべきではないか。そうなると文面に困る。興味をこちらに引き寄せつつ、直接会う機会は少なくする。加減の難しいことだ。シュプリンガー領とバルシュミーデ領は隣接していない。頻繁には会えないと言うこともできる。色んな人とこれから出会うと言っているベアタなら婚約の話もすぐには出ない。まだ拒める期間だ。それが過ぎる頃には大公邸に帰れている。時間を稼ぎつつ、ジークムント様から大公妃への興味の程度を確かめよう。ベアタとして話した感覚ではすぐに大公妃への興味を失う程度だった。他からも話を聞ければきっと上手く片付く問題だ。


 手紙を出し、返事を待つ。その間にジークムント様の気を惹くための策を考える。不足していた容姿などに関する好みの情報収集をしよう。会う回数は控えめに、こちらを意識させる。しばらくこの近辺に滞在するというお話のため、装飾品を見て回ることも考えに入れよう。偶然会う機会も得られるかもしれない。人から人への噂話も侮れない、らしい。そのためかベルンハルト兄様は道端でジークムント様のためのお洒落という言葉を発した。ジークムント様がどのような女性を好むのかは分からないが、そのあたりを考えながら選ぶだけでも想っている雰囲気は出せるだろう。

 ベアタは可愛い女の子だ。その女の子に似合う淡く可愛い服をベルンハルト兄様は幾つも選んでくださるが、少々抵抗のある物も含まれる。全身にフリルの付いた桃色の服は幼すぎないだろうか。純粋に着たいと思えない。フリルがもっと控えめで、一部に桃色が入っているくらいなら許容範囲だが、全身が可愛い色合いにされているのは抵抗がある。可愛くとも水色や黄緑色くらいなら着てあげても良い。今はベルンハルト兄様の気に入る服ではなく、ジークムント様が気に入りそうな服を探しているのだ。彼はどのような女性を好むのか、まだ分からない。あまりに幼くなっては恋愛感情を向けるような相手として見てもらえないのではないだろうか。もっと大人っぽい、色っぽい服装のほうが思わせぶりだ。大公妃として出た時も色っぽい服装はしていない。両方見ている人でも気付かないだろう。かといって露出度の高すぎる服は着たくない。良い塩梅の物を選ぼう。

「色気が出過ぎじゃないか?君が魅力的になりすぎる。」

 心配しすぎだ。大公様から預かっているという点も過剰に守ろうという意識になってしまう理由の一つだろうか。周りからは体の弱かった妹を溺愛している兄に見えることだろう。魅力的に見えないように行動するなんて悪い兄様だ。それも妹自身は魅力的に見えるようにと頑張っているのに、それを邪魔するなんて。ここは妹らしく抗議を入れよう。

 謝罪を受け、何着か購入してもらう。今度ジークムント様に会う時にその中から選ぶ。その前にベルノルト兄様やユリア姉様に見てもらおう。魅力的に可愛く美しく、露出度は控えめに、性的な部分も少なめに。良い塩梅を相談したい。この短期間でジークムント様の興味が大公妃からベアタに移るように、それほどまでに魅力的に映るように。

 屋敷にて早速着替え、二人の帰りを待ってお披露目する。色はベルンハルト兄様お勧めの桃色が随所に入った物で、全体的に白く清純な雰囲気を醸し出す。同時に体の線が出る形状で、ほんの少しの色気を見せる。動きによってはもっと強調できるだろう。ひらひらとする部分を捲れば、貴方にだけ見せてあげるとも言える。上手く実行できるだろうか。ジークムント様の態度によっては危険な煽りになってしまうかもしれない。

「とても素敵よ。思わず抱き締めたくなっちゃうくらい愛らしいわ。」

「ひらひらする動きはやめたほうが良いだろうな。寝室に連れ込まれてしまう。」

 ベルノルト兄様から見てそれほど危険ならやめておこう。深い仲にはなりたくない。意識をこちらに向けて、大公妃への興味を失わせたいだけなのだ。次に会う機会があればお洒落をして会う、極力手紙のやり取りに留める。作戦は十分だ。

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