表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の御子  作者: 現野翔子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/84

避難先

《紅炎》視点

 果穂が転移術を発動する。転移術ならもう自分だけの魔力で発動できるだろう。そう思ってはいるもののやはり心配で、何本か魔力補給用の果汁を置いてきた。彼女も持っているだろうが、大丈夫と取り出す様子がなかったため、一葉様に預けて来たのだ。何かあれば一葉様が彼女を支えてくれる。そう信じ、俺は彼女の信頼に応え、大空さんと共に公国へと転移させてもらった。皇子の侍従が不法入国したとならないよう、犬の姿で。

 転移先は銀世界。防寒着を十分に用意したとは言え、この中に長時間寝かせておくわけにはいかない。しかし意識のない彼を小さな犬の体で移動させられるわけもない。転移で意識を失ったならしばらく起きないだろう。目覚めるまで待っているわけにもいかない。その間に死んでしまうかもしれない。果穂は町の近くを狙ってくれた。なんとか人に訴えかけ、この場まで連れ戻ることが最も早く彼を暖かく安全な場所に移動させる手段だ。

 短い足で必死に斜面を駆け下りる。一刻も早く誰か人間を連れ戻りたい。そう急げばすぐ町の影が見えた。国境近くだからだろうか、町が防壁にぐるりと囲まれ、出入り口が制限されている。少なくとも見えている側はそうで、唯一見える入口には門番が立っている。彼らに言っても来てもらえるだろうか。それも言葉ではなく動きで訴えなければならない。いや、来てもらえるまで動き続けるのだ。そう彼らの足元に突撃する。

「うわっ!なんだ、こいつ。雪に紛れて驚かすなんて、やんちゃな奴だな。」

「本当だよ。全く飼い主は何をしているんだか。」

 気付いてはもらえた。足元をぐるぐると回り、町の外から二人を伺い、必死に訴える。最初は遊んでほしいと思っているだけと受け取られたが、何度も繰り返すうち、他に伝えたいことがあると読み取ってくれた。しかし二人しかいない門番のうち一人がどれだけの時間になるか分からないのに持ち場を離れるわけにはいかない。そう人を呼んでくると言ってくれた。勿論、犬の俺が言葉を理解したような動きをするわけにはいかず、訴えるふりを続ける。体力を温存しつつ動き続ければ、大陸の人らしい大柄で筋肉質な男性がやってきた。彼なら大空さんのことも軽々と持ち上げられるだろう。そう案内を始めた。

 どこかに誘導していることには気付いてくれた。彼は俺の後に付いてきてくれている。何度も振り向きながらそれを確かめ、大空さんを寝かせている場所まで連れて行く。

「人?おい、大丈夫か!しっかりしろ!なるほど、だから必死だったのか。」

 色を無くした大空さんに急いで自分の上着を被せ、保護してくれる。これでもう俺にできることはした。後は大空さんの無事を祈り、保護してくれた彼らの慈悲に縋るだけだ。御子であることを伝える術はない。本人が目覚めれば言えるかもしれないが、御子であることを理由に大変な目に遭って来た彼だ。自ら御子と名乗るようなことはしないかもしれない。

 彼らの仮眠室を貸してもらい、大空さんは寝かせられる。しかしその身に身分を証明するような物は何も無い。手がかりはたった一匹の小さな白い犬だけ。それも国境地帯に倒れていた人間だ。警戒されても文句は言えない。しかし彼の容態が思わしくないためか、それとも小柄なためか、心配する人こそいるものの、敵対的な警戒心は見えない。

「この辺の子じゃないよなぁ。一応迷子の一覧に入れて、親が見たら分かるようにだけしておくか。施設でもこの体調の子を受け入れる余裕なんてあるかどうか。」

「国境付近での発見だ。上にも報告しないと。」

 枕元で相談されていても起きる様子はない。顔色には赤みが差してきており、このまま死んでしまう不安は消えた。彼らの上官、さらに上層部と報告が上がって行けば、俺が人間の姿に変化せずとも事態を把握してもらえるかもしれない。目が覚めれば適性属性の話もするだろう。きっとどこか落ち着ける場所を用意してもらえる。

 しばし眠っている大空さんを見守り、彼らが部屋を出た後も傍に居続けた。必死に人を呼べた賢い犬なのだ。目を覚ました時に人を呼べてもおかしくない。そんな心積もりで傍にいたはずなのに、いつの間にか眠ってしまっていた。大空さんが俺を撫でる感触で目が覚め、初めて気付く。もう他の人は来ただろうか。それを彼に確かめることもできない。やはり犬の体はもどかしい。追いかける手を置き去りに、俺は部屋を後にした。

 動きで彼らに訴えれば、今度はすぐに飼い主の状態に変化があったと察してくれる。正確には飼い主でないが、そこは良いだろう。手の空いている人が大空さんの眠る部屋に向かい、容態を確かめてくれる。色々と事情も聞かれるが、大空さんは言葉に詰まる。王国から来たと知られると危険かもしれない、俺が人間であることは伏せてほしい。この二点を意識してくれているのだろう。そんな沈黙を彼らは大空さんの理解不足と判断してくれた。ただの体調不良とは思えないほどの衰弱状態は、俺たちが保護した時より改善しているとは言え、目は見えないままのため、現状認識に影響を与えると受け取ってくれたのだろう。大空さんに同情的な態度を見せる彼らは現状を説明してくれる。ここは王国に最も近い公国の町、国境警備隊の仮眠室。そう話を聞いているうちに話す内容を決められたのか、自己紹介を行う。しかしやはり御子であることは言わない。どんな目に遭うか分からないから隠しておきたいのだろう。

「君は自分がどこにいたのかも分からないのか。手掛かりになりそうな情報は何か覚えているかい?」

「いえ、全く。部屋で眠っていて、目覚めたらここにいて。この子だけです、共通するところは。」

 名前しか分からない状況で、これ以上手の打ちようがない。大空さんにはピアスの意味も再召喚を防ぐことしか教えておらず、その他の情報も限定的。ほとんど行き当たりばったりの、先の決まらない日々の始まりだ。


 数日後、何もできないと嘆く大空さんの所にまた様子見に来てくれた人がいる。しかし今までとは様子が異なる。紙を何枚か持っており、大切な話がある、と寝台に腰掛けた。大空さんも畏まった様子で姿勢を正し、真剣に話を聞こうとする。

「君の行き先が決まった。もう少し国境から離れた孤児院だ。良い世話係が何人もいる場所だから、安心すると良い。君と同じように身寄りのない子の集まっている場所だから、仲良くなれるかもしれないな。」

「身寄りのない子、ですか?孤児院?え、あ、そういえば年齢言うの忘れてました。あの、俺、もう二十歳みたいなんです。」

 驚きに言葉を失われる。確かに小柄で弱っている大空さんは人間状態の俺より小さく幼く見える。それでも孤児院に入れられるほどかと言われると少々疑問だ。公国の人から見ると親の庇護を必要とする小さな子どもになるのだろうか。小さな白い犬を抱き締めている姿も、満足に説明できなかった部分も、幼さを強調してしまったのかもしれない。行方不明になった頃からずっと監禁されていたとすれば、精神年齢は確かに実年齢より幼いのだろう。傷つき、その頃より幼い言動になっている可能性すらある。それでも幼い子どもと言えるほどの印象は受けない。

 事実を知り、孤児院には入れられないと判断されるが、それならばどうするかという問題が生ずる。目が見えなければできることは限られる。一人で生計を立てるにも仕事があるかどうか、雇ってくれる所があるかどうかすら分からないのだ。

「君の適性属性は何だ?」

 俺を抱きしめる腕に力が入る。この年齢で自分の適性属性を知らないはずがない。この状況で隠し通せるわけもない。果穂が学校で隠したこととは事情が異なるのだ。大空さんの沈黙にも彼は質問を重ねる。大人なら質問の意味が分かるはず、今までどうやって生活してきたのかという問いに答えられるはず。それにも答えられない点が不信感を招いた。

「そんなにも孤児院に行きたくないか、自分の年齢を偽るほど。いつまでもここで君の面倒を見るわけにはいかない。聞き分けてくれ。」

 答えなかったからか、年齢を嘘だと思われた。身分を証明する物もないのだから仕方ないか。結局孤児院に行くことには変わらない。安全であるならそれも構わないだろう。しかし本人は嫌だったのか、手を震わせながら自分の適性属性を告げた。

「聖属性?ここでは判別できない。確かにそれが本当なら孤児院行きにはならないが、そんなにも嫌か。私も幼い頃はそこで育った。そんなに嫌がられると少々複雑だな。確かに贅沢はできないが、愛情を持って接してくれる人はいる。悪いところではないのだがな。」

 本物の御子なら疑い、確かめることもせず孤児院に送った彼が悪者になる。まさか調べることもしないなんてことはないだろう。そう思いつつ肝を冷やして次の言葉を待っていると、確かめてほしいと重ねて言う大空さんの必死さに負けたのか、その機会は設けると口約束ではあるがしてくれた。

 まだこの場所で待機だ。付き添う人がいなければ大空さんは散歩することも食事を取ることも難しい。一日、二日と過ぎるほどに不安は増し、手間を掛けさせていると彼も気になってしまうのか食欲も落ちている。ただでさえ弱っているのに十分な食事も取れないなんてより体調が悪くなってしまう。心配しても犬の身では慰めることしかできない。人間の姿に変化してしまいたい気持ちもあるが、それでは一葉様に迷惑がかかってしまう。不法入国として捕まってしまえば大空さんの傍にいてあげることもできない。ここはグッと我慢だ。


 次の予定が決まった。いや、予定というより行動の開始だ。聖属性か否かを確かめるために、別の町に移動させられる。ここよりも大きく、判別具のある場所だとか。その町からの迎えの一人が片耳に紅いピアスを着けた男性だ。皇国生まれであることは大空さんも開示したため、同じ皇国出身の彼が主に大空さんの傍につく人として選ばれた。小原(おはら)(ひかる)と名乗った彼が《果実姫》の配下、果穂の信頼する人。彼も俺が彼女の配下であると気付いた。互いのことは知らなくとも、互いに認識できる。

 体が弱ってしまっている大空さんのために日程も緩く組まれ、歩いて移動する際には目の見えない彼のために小原さんが抱き上げてくれる。俺はその足元に追従し、馬車に同乗する。どこに行くのか説明されても見えない彼は不安に包まれおり、心細そうに自分の手を握りしめた。その手は震えており、小原さんも不安を軽減させるように声を掛ける。緊張で休めないかと思えば意識を失うように眠り、睡眠時間もまばらだ。やはり食事は喉を通らないようで、食べなければといけないことは分かっていると言いつつ、一口飲み込むことにも疲れてしまう。心配する声色や手付きから悪い人ではないと分かっても、安心して身を委ねられるほどでもない。この様子では俺が人の姿に転じても結果は同じだろう。

 落ち着かない移動の時間は終わり、質素な個室に案内される。通常来客を迎えるような場所ではないのだろうそこに水晶玉のような物が一つ。これが聖属性判別具だ。手を誘導され、指示されるままに大空さんは魔力を込める。淡く優しい光が判別具から発せられ、ふわりと溶けるように消え去った。どことなく周囲の空気も軽くなったような気がする。

「はい、聖属性を確認できましたので、大公殿下に連絡を入れます。しばらくこちらでお休みください。」

 小原さんに案内され、少し良い部屋に入っていく。もう安心して良いだろうか。いやどこにいても御子は本来丁重に扱われるはず。それなのに千秋先生の下でも神殿でも神殿派貴族の下でも大変な目に遭っている。大公に連絡してもらえるからと安全になるとは限らない。それでも疑うだけの情報もない。警戒はしつつ、一度会ってみると良いだろう。

 御子扱いになったため、より一層丁重な扱いとなった。急な予定となるため数日待ってほしいと言われ、何を待っているのか分からないまま日々を過ごす。そして来客があると呼び出された先に待っていた人物は大きな体に厳しい瞳を持った男性。そんな彼が大空さんの目の前に跪けば、小原さんも驚く。殿下、という言葉はまさか彼がエーデルシュタイン大公その人なのか。それがこの態度は確かに驚く。

「お迎えが遅くなり申し訳ございません、御子様。」

 エーレンフリート・エーデルシュタインは確かに学校で習った現大公の名だ。まさか大公本人が迎えに来るなんて。周囲の驚きを余所に、大公邸に招くと言ってくださった。王国でも離宮にいる間は安全だった。そのためだろうか、それとも今後の見通しが立ったからだろうか、大空さんの体からは力が抜けた。しかし次の瞬間、あれ、と声を上げ、大公邸、と小さく繰り返す。

「エーデルシュタイン公国の、大公様、ですか?え、そんな、俺なんかに」

「御子様は世界で最も尊重されるべきお方です。」

 力強い明言を受けても大公という立場の人間から礼を尽くされることに抵抗があるようだ。御子は聖属性に目覚めただけの一般人のこともある。それをよく分かっているのか、大空さんが気を遣い過ぎてしまわない話し方に変えてくださる。悪い人ではなさそうだ。しかしその犬も連れて行くのかと尋ね、大空さんの不安をもたらす。その様子が幼さを見せるのだろう、大公の瞳は優しいものに緩まり、大空さんを見つめた。俺だけ置き去りにされても捨てられても困る。そう大空さんに擦り寄り、離れる気がないことを訴えた。同時にこれから小原さんも共にいられるよう、俺は懐いている様子を見せる。大公が到着するまでの数日、小原さんは大空さんの面倒もだが、俺の面倒も見てくれていた。懐いていても何らおかしな点はない。

 俺も連れて行くことを決めてくれた大公に小原さんは大空さんのことを伝えていく。世話をし、話をしているうちに知ったことは多い。俺からは何も伝えられていないが、必要な情報は伝わった。そんな様子から小原さんが御子のことをある程度理解していること、御子が小原さんをある程度信頼していることが見て取れたからか、大公は小原さんを御子の傍に付けることを決めてくれた。

 早速とばかりに移動は開始される。もちろん、大空さんの体調を確かめてからの話だ。大公の乗って来た馬車に同乗し、通常なら一緒に乗ることがないだろう小原さんも御子の精神の安定のためという理由で同乗が許された。小原さんも大公と接することはなかったのだろう、とても緊張した様子だ。その上、大空さんが眠ったことを確かめ、大公は小原さんに答えにくい質問を繰り出す。

「御子に関して、他にも何か知っているか。その犬についてもよく聞かせてほしい。」

 片耳の紅いピアスに大公は目敏く気付いた。他にも多くが着けているピアスだが、おそらく公国内には少ない。他で見ない物を揃って着けているとなると関係があると思われてもおかしくはないのかもしれない。俺の扱いを《林檎》から聞けていれば何らかの言い訳もできたかもしれないが、きっと話す時間などなかった。地上で果穂のペットという扱いになっているかどうかが分からない以上、小原さんからは何も言えない。偶然という苦しい主張をするだけだ。それが真実なのか見極めるような沈黙を経て、大公は追求しないことを選んでくれた。小原さんが御子の面倒を見ることにも、俺がその傍にいて良いことにも変わりない。

 今後への一瞬の不安もなくなり、新しい生活の拠点へと案内される。大空さんも改めて医師に診てもらい、同時に俺の身も清められた。人間の時よりもよほど上質な石鹸で体を洗われ、肌触りの良い柔らかな布で体を吹かれる。魔術まで用いて完全に乾かされ、診察だけで疲れてしまったのか再び眠った大空さんの傍に降ろされた。こちらも身を清められており、服装が変わっている。薬の匂いもする。犬の俺に気遣ったわけではないだろうが、あまり目立たない香りだ。目の見えない御子も匂いに敏感になっているため、配慮してくれたのだろう。緩い服から覗き見える骨の浮いた体は、如何にこれまでの生活が彼の体に負担を掛けていたのかを示している。ゆっくり休めるよう、公国での滞在が恒久的なものとなるよう一葉様も手を尽くすと言ってくださった。今はそれを信じて御子を見守るという俺の仕事を果たそう。

 他に用事があると部屋を出ていた小原さんが戻ってきた。用事は済んだのだろうか。彼も大空さんが起きた時に備えて傍にいるのだろう。起きたら紐を引っ張って呼び鈴を鳴らしてほしいと伝えても、上手く紐を掴めないかもしれない。こうして誰かが常に傍にいるしかないのだ。俺が鳴らすことも可能だが、毎回起きた時に鳴らしては俺の正体が怪しまれる。ただの犬にできる程度のことなら任されよう。

 ただ待っているというのも暇なものだ。それは小原さんも同じはずなのだが、騎士としての任務を続けて来た彼にとってはなんてことないのだろうか。それとも御子の傍に仕えること自体が名誉だという感覚が養われているのだろうか。ずっと大空さんの寝顔を見つめている。可愛いという呟きは気の所為だろう。大陸の人間からは小柄な少女に見えたとしても、小原さんも皇国の人間だ。身を清めた彼は男性であると確信できる物も見ている。頬に手を伸ばそうとして引っ込めたのも見間違いだ。そうしているうちに大空さんが目を覚まし、寝台の上を這う手が俺を探す。その手の行き先にこの身を滑り込ませれば安心したように抱き寄せた。何も見えない今、見知った生き物の柔らかな感触が心の平穏を保つために必要なのだろう。

「御子様、おはようございます。」

 小原さんが声をかけると、驚いたように体を震わせ、すぐに力を抜く。食欲がなくても少しでも食事を取るように、と小原さんが食べさせる姿勢を取った。その必要性は大空さんにも理解できたようで、大人しく従っている。完全に介護だが、小原さんは楽しそうにニコニコとその手から食事を取る大空さんを見つめる。小原さんは皇国の人にしては大きいため、大空さんに小動物のような愛らしさを感じているのだろうか。一口、また一口と食べる様子は一時的に身を寄せていた場所とは異なり順調なもので、食欲は戻っているようだ。この様子なら次第に体調も快方へ向かうだろう。

 食事が終わればまず現在地の説明、と小原さんは地図を広げる。見えないのにと思いつつ様子を窺っていると、大空さんの手を取り、地図の上をなぞらせ始めた。この辺りが皇国、この範囲が大陸、その中のこの範囲がエーデルシュタイン公国、その中の都がここ。丁寧な説明だが、流石に公国の位置なら彩羽学校に通っていたため大空さんにも分かる。

 続いて今後の予定、と話し始めようとした時、大空さんが小さく欠伸をした。今日の説明はここまでだ。大空さんの体調はまだ戻っていない。少しずつこの場所での生活を教えていくことになる。その間に目も見えるようになってくれると良いが、そうでなくとも小原さんや大公が彼の面倒を見てくれる。御子は何にも代えられない宝だ。


 毎日少しずつ説明がされていく。その間にも大空さんの体調は改善していく。説明の間に質問する余裕まで出てきた。その中には辛い現実を示さなければならないこともある。皇国の家族の下に戻れるのか。大空さんにとっては最も気になることだろう。しかしこれには良い返事をしてあげられない。御子が公国にいることに大きな意味がある。一葉様と皇帝との話し合いの結果、皇国に戻れることになっても、家族と一緒にただの民として生きることはできない。生活の拠点が世界樹の下か、どこか領主の邸宅に置かれ、家族に会える機会は限られる。御子の安全を優先すると、皇都の真ん中にある《天空の安らぎ》には帰せない。

 小原さんも少なくともすぐには帰れない旨を伝える。ただ、大公に伝えれば皇国に連絡を取ってもらうことは可能であることも同時に教え、不安を軽減してあげている。行方不明になった当時も心構えをする時間などなく、それからずっと監禁、暴力的な扱いを受けていたなら今冷静に話せているだけで気丈な人と言える。家族に会えない寂しさを訴える程度許容されて然るべきだ。しかしそれを表に出そうとはせず、代わりに卒業したら従者になると約束した十六夜飛鳥の名を出した。卒業後は捜索隊に加えられているため、御子発見の報が届けばすぐさまこちらに来ることも可能だろう。そのことを知らない小原さんは小さな子を慰めるようにその人のことも伝えると頭を撫でた。大空さんに拒む様子はない。今はそういった触れ合いを必要とする時期なのかもしれない。俺も小原さんがいる時は休ませてもらおう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ