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世界樹の御子  作者: 現野翔子


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違法召喚の犯人

《林檎》視点

 あの場所については異形出現の原因も判明し、解決もした。残りの召喚物に関しては領主軍か自警団に任せられる。花様と春仁様への報告も済ませ、召喚主不明の召喚物が出現している他の地点に関しても同様の方法で解決できるだろうと、手筈を整えておられる。一葉様にも花様から連絡すると仰っていた。他領地で同様の問題が発生していても共有しておけば、迅速な解決が可能だ。

 次に私が任された仕事は犯人の捜索。召喚術式を描いた人物がいる。手掛かりはあの場にあった召喚術式だけ。解読すれば適性属性や術式を作る際の癖などは読み取れる。運が良ければ召喚物が出現しなくなったことを知った犯人が術式の修復に戻ってくるかもしれない。領主軍にも協力を仰ぎ、あの術式周辺の召喚物は討伐してもらった。迅速な情報共有のため、今回は正式に緋炎も同行している。召喚物を意図的に大量発生させ、周辺住民の安全を脅かしたのだ。一領地の問題だからと放置はできない。それほどの実力者を野放しにすることは皇国全体の安全にも繋がる。そういうことらしい。

 今回は場所が分かっており、危険性もある程度分かっている。私と緋炎の二人で向かう理由は、二条領内であること、皇国全体の安全にも繋がりかねない事態であることの二つだ。地上での地位はそれぞれ侍女と侍従。戦闘の専門家ではないため、周囲からは心配の残る組み合わせに見えるかもしれない。先程から巡回や術式の監視を担ってくれている領主軍兵士からそんな視線を向けられている。気にしていても仕事は進まない。そう術式に意識を向けた。

 術式は前回見た通り召喚術式。人が四つん這いになるくらいの大きさの動物と指定されている。ただしただの家畜や野生動物が召喚されることのないように、一定範囲よりも遠い距離にいる動物、との限定もされている。西の大陸最西端からでも動物が召喚されることはない。術式は風属性による発動を想定して記述されている。地水火風の四属性が適性の人間は多い。人物を特定する役には立たなさそうだ。魔術を用いれば魔力の質を図ることもできる。そう緋炎に覚えてもらうが、この人物を特定することは難しいだろう。虱潰しに探しても時間がかかるだけになるかもしれない。今のところ見張ってくれている兵士たちも不審人物は見かけていないと言う。これは捜査が難航しそうだ。

「何度も発動するなんて、どんだけ魔力消費したんだろうな。発動した人死んでんじゃねえの。」

 魔力を溜めておける石、魔力蓄積石もあるが、それを幾つ使ったのか分からないほど転がっている。こちらは販売している物や魔力充填屋もあるため、感じ取っても参考にもならないかもしれない。それでも手掛かりの不足する今、協力者に繋がりうる物は少しでも欲しい。そう緋炎に魔力を感じ取ってもらう。

「これが手掛かりになれば良いけど、どうして、何のために、って感じもあるよな。」

 二条領が召喚物で溢れ、領民に被害が出て、得をする人物。恨みのある人物だろうか。花様や春仁様のやり方が気に食わない人間は多そうだ。婚姻、代替わりの際は非常に強引な手段を用いた。その上、専属侍女としてただ彩羽学校で出会っただけの人間を雇っている。その専属侍女は一葉皇子の専属侍従と友人である点も知られているだろうか。その専属侍従もただの学生だったのに突然抜擢されている。学校で皇子や花様との接点があったとはいえ、職務としての実績は皆無。列挙すれば不審に見える点は多い。その二人が調査のために行動を共にしている点も隠さずにいれば、次の行動が見られるかもしれない。

 結論を出すには情報が少なすぎる。どれも推測とも言えない空想程度の根拠しかない。今後の調査の方針については花様たちに相談して決めていただこう。今日のところは術式から何か得られないか、というだけだった。簡単に修復されないよう、術式を完全に消し、報告に戻った。花様への報告は私一人で行う。まだ完全に緋炎が調査に参加したという形にはしたくない。個人的に同行してもらったことにするのだ。そんな報告の内容は大したものではない。召喚術式によって召喚物が呼び出されていた、その術式は風属性による記述だった。それだけだ。

「ご苦労だったわね。あんな危険な任務、侍女の仕事ではないのだけれど。」

 そんなことを言いつつ、関係あるかもしれないとして花様宛ての手紙を見せてくれた。それは花様の祖父からの手紙。内容は散々だ。言葉遣いこそ一見丁寧だが、彼女のことを馬鹿にした内容になっている。最初に触れられる話題は最近の異形出現に関して。異形が民の安全を脅かしていることは確かで、それを花様は解決するため動かなければならない。その主張は正しいのだが、異形出現の原因として挙げているものには何の根拠も関連もない。春仁様のような怪しい男と結婚するから、人生経験豊富な自分の言うことを聞かないから、目先の利益に釣られるから。権力欲に取り憑かれたと花様を批判している。それが春仁様の入れ知恵だと非難している。得体の知れない男に心を許してはいけない、食い物にされるぞ、と強い言葉が並ぶ。前領主は春仁様がよほど気に食わないらしい。

 延々と悪口が続く中、興味深い文章が現れる。召喚術式を壊しても一時的なもの、犯人を捕らえなければ再び描き直されるだけで解決とは言えない、というものだ。術式を壊すと伝えたのだろうか。その後はまた、だから幼いうちに継ぐべきではないとか、素質だけで二条領主は務まらないとか、恋に盲目になるほどお前は愚かだったのかとか、花様への悪意が詰まっている。

「伝えていないのよ、それが。祖父の適性属性も風だったわ。いや、でも、まさか。」

 仮にその人が召喚物を発生させようと企んでいたとしても、自分だけで術式を描き、召喚術を発動したとは考えにくい。協力者が必要なはずだ。指示を出したと考えるほうが自然だろう。召喚物がいなかったとしても、あの場所まで老骨が向かうには厳しいはずだ。それとも自分からの脅しと示すために同じ属性の人間に依頼したのだろうか。

 手紙の最後には、再教育をする、と書かれていた。二条領内の別邸からすぐに向かうとあり、到着予定は今夜。準備をしておきなさい、と一方的な通知だ。この手紙が着いたのは今朝という話のため、返事など最初から待つつもりもない。勝手な爺だ。自分の命令が全て通った頃から変わったとまだ理解できないのか。変化に対応できないのだろう。

「魔力の質を、確かめてほしいの。」

 覚悟を決めた顔で私に頼む。体内にある魔力を気付かれずに調べることはできない。魔術を使ってもらえれば、あるいは術式に魔力を込めてもらえれば、気付かれずに魔力を調べられる。その現場には緋炎が必要だ。

 急な頼み事であり、前二条領主の不興を買う恐れもある。既に実権はない人だが、敵対するには恐れを抱く人がいてもおかしくない。だからか花様は緋炎も泊まれるようにする、なるべく便宜を図る、だからどうか、と頼み込む。協力させなさいと私に命じてしまえば良いものを頼み事という形を取った。これが彼女なりの甘え方なのかもしれない。あるいは地下では私も部下ではないと認識しているからか。いずれにせよ、取るべき行動は一つ。急ぎ緋炎を連れてきて、魔力の調査をさせることだ。勿論、花様にも補助していただく。前二条領主の爺に魔術を発動させるためには彼女の協力も必要不可欠だ。

 緋炎の傍になら転移術で移動できる。しかし今どこにいるかも分からない、宿に向かっている最中かもしれない緋炎の前に私が現れても、移動の痕跡なく彼が二条家に出現しても、連絡を取る手段がないはずなのに突然彼が二条家に向かい始めても不自然。今できる最速は馬を駆けさせることだ。そう花様に私でも扱える気性が穏やかで人見知りのしない馬を貸していただき、走らせ続ける。そう遠くはないが、馬に慣れていない私には少々負担だ。自分で走っても変わらないかもしれない速度だが、往復することを考えるとこちらのほうが早いだろう。

「何々?果穂も会いたくなった?」

「ふざけてんの?」

 軽い会話をしている余裕はない。いつ前領主が到着するか分からないのだ。そう今日の仕事は終わったと宿で寛いでいた緋炎に事情を説明し、同行してもらう。帰りは馬も彼に操ってもらう。二人分の体重は重いだろうが、この太く付いた農作業もできそうな筋肉なら、きっと力強く走ってくれる。着くまでに簡単な説明はしておきたかったのだが、揺れる馬上では難しそうだ。

 理由は分からないながらも急いでいることは察してくれたようで、緋炎は無理させない範囲で馬を急かしてくれた。重くなっているはずなのに行きよりも早く到着し、馬を厩舎に預けて説明していると、春仁様が来られた。今、花様が一人で前二条領主の対応をされていると言う。ここからが問題だ。どう前領主に魔術を使わせようか。花様と前領主は折り合いが良くない。可愛い孫の可愛いお願い事にはならないだろう。何かの理由が必要だが、危険な理由にすれば攻撃する材料を与えることになる。誰かが襲撃して、身を守るために魔術を使わせる、なんて花様の過失を増やすだけだ。人柄でも分かっていれば何か思いつけたかもしれないのに、知っている可能性のある花様はここにいない。花様の侍女である私が襲撃すれば、花様自身の見る目が疑われる。一葉様の侍従である緋炎が襲撃すれば、それもまた問題になる。

 対策も作戦も何もないまま、お茶する二人を眺める。前領主の表情は分からないが、花様の表情は暗い。やはり二人で話すことは苦手のようだ。報告と称して乗り込もうか。春仁様ならそれも許されるが、私たちでは許されない。一体どうしたものか。見守ることしかできないのか。やきもきしていると、春仁様が私たちに共有することなく屋敷に入っていく。少しして二人がお茶をする部屋に現れた。何を話しているか分からないが、花様の表情は明るくなった。身振り手振り何かを説明している。一瞬、春仁様がこちらを見た。

「緋炎、準備して。」

 上手く誘導できるのか分からないが、何かするつもりではいる。失敗したならまたの機会に作戦を立てよう。いつ作れるか分からないまたの機会だ。できればこの機会に解析したい。そう見張っていると、春仁様が紙を持ってきた。前領主が受け取り、何かを書いている。術式であることを期待し、魔力の性質を感じ取る魔術を発動した。私の目には何も見えないが、緋炎には何か感じられているのだろうか。逸る気持ちを抑え、成果を待つ。魔術として可視の部分は私にも見えるはず。しかし変化はない。屋内で大規模な魔術や危険の伴う魔術は使えない。それとも魔術ではなく何か別のことをしているのだろうか。

 不安と期待が半分ずつ。そう見守っていると緋炎がにんまりと笑った。

「当たり。あの魔力蓄積石と一緒だ。召喚術式のほうとは違うけど、まさか本当に本人が魔力込めてるとは。」

 問題は証拠をどう扱うか。魔力の質が一致している証拠は緋炎の証言のみ。一葉様の専属侍従でもたった一人の証言では不十分。その上、召喚術式本体の魔力は一致しない。魔力蓄積石を奪われた、騙されて充填を行った、など幾らでも言い訳は可能だ。あの手紙の件も合わせて彼と断定できる程度。私たちは確信が持てても表立っての処罰に足る証拠と言えるかは怪しい。それでも花様が自分の祖父を軟禁する分には十分だろう。しかし事を表に出すことは難しい。前領主が現領主を貶めるため自分たちの領地に召喚物を解き放った、なんて言えるわけがない。領内が混乱に陥ることだろう。

 処遇に関しては花様に一任される。私達にできることはこれを報告すること。春仁様には身振り手振りで伝えられた。それを受けてか、春仁様はこちらに来られる。良い報告ができると同時に残念な結果を知らせなければならない。魔力の性質を調べることはできた、魔力蓄積石のものと前領主のものは一致した。一致しなかったのなら全く別の犯人がいるか、指示を出したか。その辺りを探らなければならないため、解決は遠のいたことだろう。それでも自分の祖父が領民を危険に晒し、自分の足を引っ張ったと聞かされる時、花様はどう感じられるだろう。

 今から伝え、捕らえる。そう私たちも二人が会話している部屋に向かった。やはり室内の空気は張り詰めている。前領主と現領主の時間を邪魔するなどあり得ない。それなのに現領主の伴侶に過ぎない人が侍女と他家の侍従を連れてきた。前領主の視線は鋭い。私たちの緊張や警戒を感じ取ったのか、さらに圧を掛けられる。それにも怯まず、春仁様は花様に報告を始めた。魔力を確かめた人物も皇子の専属侍従と紹介されれば、いくら前領主と言えど偽りの証拠や勘違いなどといった反論もできない。その代わり言い訳を始めた。

「娘ではなく孫娘だ。何かが起きてから教えながら覚えさせれば良いなどと言ってられん。早く一人前にしなければならん。この子には素質があると言われ続けた。それに驕り、自分の力を過信させてはならん。正しい認識とやり方を教えてやらねばならんのだ。」

 領地経営や家臣としての仕事は算数と異なり、唯一の答えがあるわけではない。自己認識に関しても前領主から見た花様だけが本当の花様というわけでも、彼女の実力というわけでもない。前領主のやり方や見方が全て正しいわけでもないだろう。確かに前領主が知っており、花様が知らないことは多いだろう。それが数十年分の蓄積だ。一方で花様が知っていて前領主が知らないこともある。地下の世界に関してがその代表だ。これからも教える予定はない。地下と地上。その違いを知っている彼女は、自分の立場や権力について、前領主よりよほど考える機会を得ている。下の立場から見る支配者を彼女は忘れないだろう。前領主の評判は良くも悪くもない程度に聞いている。取り立てて何もないということは領民が大きな不満を抱えていないということ、良い領主ということだ。だからといって彼と同じになる必要はない。

 自分の行動を正当化しようとする前領主だが、そんなものに今の花様は屈しない。大きな声で言われても同じだ。もう彼の支配下にいた子どもではなく領主として立っている一人前の大人なのだから。

「離れで隠居していなさい。自領民を危険に晒すなど言語道断。処刑されないだけ有り難く思いなさい。」

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