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世界樹の御子  作者: 現野翔子


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侍女としての始まり

《林檎》視点

 無事卒業し、いよいよ侍女としての仕事が始まる。その前に地下でも会ってほしい、と《鬼火》に頼まれ、待ち合わせる。既に採用は決まっているが、今後の円滑な関係を築くためにも地下でも会うのだ。二条花一郎とは学校で交流があったが、《花》と《林檎》としては初対面。どこまで私の秘密を開示したものか。地下の人間として、時属性は開示しても良いか。《鬼火》も私の属性は知っており、《花》の心を支えてほしいとの想いから私に侍女を頼んでいる。それならば彼女からの深い信頼は必要不可欠。地下での立場と合わせて、彼女にはある程度教えよう。

 今は結婚してから少し時間も経っている。その間にも少しは安心できる環境に近づいたことだろう。それでもまだ邸内には彼女の祖父母も彼らの選んだ使用人も残っている。今までは学校で過ごす時間が多かったため然程気にせずに過ごせていたが、これからはそうもいかない。昼間は彼女も春仁さんもそれぞれの仕事で忙しくなる。祖父母の強い締め付けから解放され、休息の時間も得られるとはいえ、まだまだ彼女の居場所は足りない。それを増やすための私だ。そのことを彼女も認識しているのか、《鬼火》の信頼する人だからか、既に少し信頼しているような態度で話し始めてくれた。

「《林檎》、なんだね。ある程度は《鬼火》から聞いてるよ。」

 おそらく地下での立場を簡単に説明してくれている。そう判断し、説明を大幅に省略する。おおよそ地上での関係となる彼女には私の詳しい地下での人間関係など不要だろう。むしろ地上で態度に出してしまわないために教えないほうが良いかもしれない。そう伝えた上で、時属性のことだけ教える。

「え!?そっか、だから適性属性不明だったんだ。」

 あまりに利用して周囲に気付かれる危険は冒せない。その点を理解してもらい、基本的には魔術に頼らない活動を担うことも了承してもらう。勿論、命に危機に瀕した場合はその限りでない。今は一人で転移術も発動できるが、基本的に人前では使わないことも理解していただく。

 その他、最低限伝えることだけを伝え、雑談を始める。ここからは互いに信頼を得るための時間だ。そのつもりだったのだが、彼女は学校で見たことないほど気を緩めている。

「お気に入りの喫茶店があるんだ。連れて行ってあげる。娘さんが給仕してくれる時もあるんだけど、とっても可愛いんだよ。」

 喫茶店《天空の安らぎ》の娘、つまり御子の妹。御子は在学中に行方不明になって以降、未だ見つかっていない。その妹も大変心配していることだろう。捜索は飛鳥様も加わって続けられているが進展はない。再びの召喚も不発に終わったと聞く。召喚対策も行われたのかもしれない。その《花》お気に入りの喫茶店にも三人で行ってみよう。秘密の会合のためでない訪問はまた違った景色を見せてくれるかもしれない。

「え、待って。一回屋敷に戻って、護衛を付けないと。」

「俺と彼女がいれば十分だ。何も心配しなくて良い。」

 《鬼火》と私の判断は一致する。護衛の戦力は十分だ。私の実力は彼女も聞いているのだろう。視線は腰の細剣に向かった。しかしどこか表情は硬い。体も強張っている。《鬼火》が微かに震えるその体を支え、安心させるように抱き締めた。

「貴女も、人を殺すんですか。」

 これには答えられない。知らないほうが良いこともある。きっと何も知らない誰かが《鬼火》の妻に手を出し、それを彼が排除した。ただそれだけだ。誰かの大切な者に手を出せば殺される。そんな常識も地下での生活が長くならないだろう《花》に教える必要はない。彼女自身は下位者でもある。他の上位者の大切な人に手を出さなければ問題ない。機会もないだろう彼女は知らなくとも危険もない。そう答えることは避け、微笑みだけを返した。

 追求はされなかったため、三人で彼女お勧めの喫茶店《天空の安らぎ》へ向かう。ここが地下民御用達の店でもあることは伝えていないのだろうか。店の中には何枚もの絵が飾られており、何故か客の一部はその絵を指し、花一郎様に向けて褒め言葉を投げかける。彼女もそれを嬉しそうに受け取った。

「私が描いたの。こっそりここのお店の人に見せたらね、飾って良いかって聞いてくれて。」

 美しい風景画だ。緑豊かな土地は二条領に実在する土地だろうか。花一郎様は絵が得意なのか。あまり芸術的なものに触れている印象を受けていなかったが、意外だ。

「ありがとう。でも、名前は花って呼んでほしいな。」

 曽祖父と同じであることを生まれた時から求められ、名前もそこから取って付けられた。自分を押し潰すための名前。そうも感じられるそれを彼女は好まない。これからは春仁さん、いや地上では春仁様と呼ぶべきだろう彼の次に信頼される人になる必要があるのだ。彼女のことは花様もしくはご主人様と呼ぶことにしよう。

 私も来ている店ではあるが、彼女が気に入っている店でもある。そう素敵な店だと褒める。私も本当にそう思ってはいるのだ。それ以上に秘密の会話もできる良い店だと思っているだけ。その点は伏せれば、花様は嬉しそうに笑ってくれた。

 そんな会話をしていると、《天空の安らぎ》の主人が奥から出てきてくれた。一見穏やかだが、疲れているようでもある。子が心配で眠れないのだろうか。しかしそのことには触れず、花様は娘さんがいないのか尋ねた。

「学校が始まっていますから。二人とも、学校にいるはずですよ。」

 二人とも、ではないがそう言うことは抵抗があるのだろう。通えていたなら大空樹さんは既に卒業している年齢だ。それとも他の客に心配をかけないためだろうか。追求することはやめ、菓子を注文する。当然自分たちで支払いをするつもりで選んでいたのだが、周囲の客が奢ってくれると言い始めた。花様の絵がとても気に入っているから、とのことだ。卒業祝いも兼ねてお友達も一緒に、と言ってくれた。私の卒業祝いにもなるとお礼を言い、有り難く受け取る。ついでにお勧めも尋ね、交流の機会を得た。

 そんな新鮮な交流をしていると、三人で来ることは珍しい、とも言われる。護衛は彼女の立場ならいつもいるはずだが、見えない場所にいたのだろうか。彼女が二条花一郎であることは知られているため、結婚と代替わりもあっという間に知れ渡っている。急な話ではあり、実際強引な手法で漕ぎ着けたものだ。それでも明るい表情になったとここの人たちは彼女に言ってあげている。味方なんていないと言っていたが、きちんと彼女のことを思ってくれる人が皇都にもいるではないか。

「素敵な出会いがあったようで何よりです。良いお顔をされておいでですよ。」

 結婚前より表情は明るくなった。特に今は作り笑顔でもなく、柔らかな表情だ。公的な場では取り繕えるだろう。今までずっと気を張っておられたのだ。それでは長く続かないから、自宅をきちんと安らげる場所にしよう。

 体調面も優れないように以前は見えていたのだろう店主は花様の体調を気にかける。花様も結婚してからは春仁様が気にかけているからか、随分調子が良いらしい。休むことと遊ぶことも覚えるよう言い聞かせていると春仁様からは共有されている。

「領主様になられたら、わざわざ作らないと遊ぶ時間もありませんか。私共と比べるものでもないでしょうけど、私が貴女の年齢の頃なんて、何も考えず友人と遊んでばかりでしたよ。」

 自分の配下たちがこう言ってくれたなら嬉しいが、花様はこれをどう感じるのだろう。喜んでいるというよりも気を引き締めている表情に見える。彼女はこれから治めていく。私も長く上位者の隣にいるわけではないが、先代を褒められても嬉しい。周囲の味方を認識していないから、彼女自身が最も上に立たなければならないから、私よりも大きな覚悟を必要とするのだろう。

 彼女にとっての息抜きの時間、大切な夫とこれから味方になる予定の侍女との時間。それらを終えて、屋敷に戻る。ここから春仁様は別行動だ。少し外へ出る用事があるという。実際に私と花様がどう会話するのか、どう関わるのかをその目で確かめておきたかったのだろう。そして先程の時間で穏やかに交流でき、この後も安心して任せられると判断してもらえた。

「私も少し仕事をするわ。一緒に執務室に来て頂戴。」

 二条家当主の執務室だ。今は名目上花様の執務室になるが、実質春仁様の執務室になっているとか。今の花様には見せたくない手紙などもあるそうだ。味方が他にいないと感じている花様は柔らかい心をされている、と春仁様は思っている。そのため彼が一度目を通し、彼女に見せても良いと判断したもの、あるいは二条当主本人の目を通す必要のある物を彼女に見せている状態だ。在学中は彼女から権限の委譲を受け、当主代理という立場で仕事をしていた。これからは花様自身が当主として立つ必要がある。

 覚悟を決め、花様も執務室に足を踏み入れる。今までも入っていたはずなのだが、春仁様と一緒かどうかは大きな違いだ。私は初めて入るが、意外にもこの部屋は散らかっている。いや、書類の山の数が多いだけだろうか。床には落ちていないが、小さな書類の山が幾つもある上、池のように机の上に広げられている。

「何、これ。」

 そう花様が手に取った一枚は彼女への婚約申込み書だ。既に結婚している人に対してこんな話は失礼過ぎる。これは春仁様を二条当主の伴侶として認めていないという表明だ。次に花様が私に見せた物は彼女の祖父母からの手紙。既に封の開けられていたそれは花様が確認する前に春仁様が内容を確認していたのだろう。今朝でも時間があったはずなのに花様に渡せなかったはずがない。見せないほうが良いと判断し、そのまま置いていたようだ。

 表面上、花様への心配が綴られているその手紙。しかしその心配の内容は花様が春仁様に騙されている、早く目を覚ませ、といった内容のもの。商会での手柄のため、二条家を利用しているとの主張が見えた。花様のことは当主の器とも評しているが、まだ磨かれきっていないとも綴られている。非常に厄介な手紙だ。素直に引退してくれれば良いものを、まだ実権を握りたいらしい。

 私が読み切ったことを確認した花様は感想を求める。冷静を装ってはいるが、その声には怒りが滲む。当然だろう、彼女の愛する夫への侮辱が綴られているのだ。そもそも春仁様には商会での手柄に固執する理由がない。彼の所属していた《春一番》商会も二条家に頼らずとも十分な勢力を築けている。悪名を買う危険を冒す必要などない。ただ力になり、覚えを目出度くするだけで良い。今回の結婚も花様から望まれたことだ。

 安心したように花様は次の手紙を手に取られる。今度は一華殿下からの物だが、こちらも彼女の身の安全を気にかけていた。騙されている、ではなく、脅されている、という心配になっている。いずれにせよ、彼女の本心に反した結婚ではないかと疑っているのだ。

「一華殿下ですら、信じてくれないんだよ。」

 親しい友人だと聞いている。それでも春仁様との婚姻には疑問を呈される。それは婚姻の儀、代替わりの儀のために脅迫したことが原因だろう。その点についても文には記されているが、花様にとってそれは寂しさを軽減する理由にはならないようだ。

 他にも花様は書類や手紙を確認していく。その中には花様に関する、春仁様による手書きの物もあった。そこには「旅行」の二文字。確かに花様と春仁様の新婚旅行はまだだ。

「果穂は聞いてた?」

 私は花様の侍女だ。きっと花様が相談されると同時に、あるいは花様から聞くことになる。悪い話ではないため、楽しみに待っていると良い。旅行先には私も仕事として同行するかもしれない。花様が当主になったことは知られているが、他家の人間と遭遇したなら嫌味として次期当主と呼ばれることもあり得る。後ろから応援の雰囲気を出し、堂々と彼女が答えられるように背中を支えてあげよう。

「楽しみだね。」

 この笑顔は春仁様への信頼の証だ。他の書類は、と自分の執務室のはずなのに他人の部屋を探るような花様は入口からの物音に身を硬くした。勿論その音は春仁様が扉を開けたことによるもので、何も緊張することはない。ここは彼女の執務室だ。

 春仁様は俯く花様にゆっくりと近づき、彼女の頭を撫でた。

「ただいま。」

 そんな声も優しいものだ。身構えていた彼女も力を抜く。きっと今までは一人で執務室に入っていなかったのだろう。入った時はまだ祖父が当主だったのかもしれない。彼女が当主なのだから誰に憚ることなく執務室に入れば良い。ここは春仁様ではなく花様の執務室だ。しかしそれを伝えるべきは今ではない。そう私は部屋を出た。

 きっと中では旅行に関して話していることだろう。それを一番に話すべきは夫婦の間であり、侍女の私は後で良い。花様は甘え足りないところがあると春仁様は言っていた。私がいては素直に甘えにくいだろう。

 待つこと数十分。夕食を済ませたらまた春仁様の実家に向かうと告げられた。私も軽く食事を済ませ、出かける準備を整える。出かける準備、それは特別な一室ですぐに発動できる転移術式を用意することだ。術式自体は既に描かれているが、すぐに発動できる状態ではない。転移する対象を書き加え、魔力をじっくりと広げ、発動の一言で良いようにする作業が残っている。

 それらを済ませ、眠ってしまった花様を抱えた春仁様と共に転移する。この転移術式は私でなければ発動できない。鍵も掛けており、私か春仁様しか入れないようにしている。心配することは何もない。春仁様の腕の中で眠ったまま揺られる花様はこうしていると子どものようだ。お腹が膨れて眠ってしまったのだろう。眠っている彼女を起こさないよう、《鬼火》も何も話さない。ここではもう二条当主の伴侶と侍女ではない。上位者と中位者という違いこそあれど同じ地下人という立場だ。私としては気軽に話しやすい。そう気を緩めていると、彼女が寝起きの声を上げた。どこだか理解できていないだろう彼女に《鬼火》は名前を呼ばないよう伝える。瞬きをした彼女は次第に頭もはっきりしたのか、名前を呼んではいけない理由を理解する。ここはもう地下だ。彼女の夫は上位者《鬼火》であり、彼女が妻であることに変わりはないが、名前は《花》だ。私も彼女の侍女ではなく、《果実姫》の配下《林檎》。地上とは異なる態度も当然のものとなる。

 さらに道を進み、転送装置のある部屋に入る。こちらは私の転移術式よりも転移酔いをしやすい。その上、先程より転移の距離も長い。そのことを心配して、《鬼火》は《花》を抱き締めた。

「目を瞑って、深呼吸だ。」

 《花》は転移酔いしやすいのだろうか。気を付けてあげたいが、転送装置を使っての転移の場合は私の技術ではどうしようもない。転移の後に休ませてあげることくらいだ。そう《鬼火》の合図で転送装置を稼働させ、目的地へと転移する。私の軽い目眩はすぐに収まるが、《花》はそうではなさそうだ。呼吸は乱れ、手も震えている。《鬼火》に抱き締められたまま、自分からもしがみついた。

「《花》、吐くんだ。ゆっくり吐き出してごらん。吸わなくて良い。ほら、一、二、三。」

 その言葉に従い、《花》はゆっくりを息を吐き、すっと吸う。それでも苦しそうなまま。呼吸も上手くできないほど転移酔いを起こしてしまっている。《鬼火》はそれを支え、呼吸の仕方を教えてあげる。隣の部屋で休めるよう整えておこう。呼吸が落ち着いてから温かい湯を飲めば、もっと落ち着くだろう。そう湯を沸かしていると、支えられた《花》は腰掛ける。落ち着いた様子はない。姿勢を楽にしてあげるため、《鬼火》は膝枕で寝かせた。

 先に説明するべきだったか。地下の古い転送装置の中には酷く酔う物もある。酔い方には個人差があるが、距離も関係する。最初よりも酷く酔ってしまった理由はそれだろう。顔色は良くないが《鬼火》に撫でられているうち、徐々にそれも良くなっていく。そろそろ白湯も飲めるだろうか。差し出せば《鬼火》に飲ませてもらう形で、心も落ち着けている。元気いっぱいとはいかないが歩けそうだ。ここは少し頑張ってもらおう。

 《鬼火》が手を引き、目的の人物の待つ場所へ向かう。《春一番》商会会長《地底湖》の管轄、その名の由来でもある地底湖だ。その手前には二つの影があった。私たちを待ってくれており、遅いと文句を言っている。忙しい中、時間を作ってくれたらしい。待っていてくれた人物は《地底湖》と《豊穣天使》でも開発に協力してくれている《探偵》だ。そんな彼らに頼み事がある。

「《鬼火》自ら伴侶になって、侍女とか侍従を探してあげるくらいだもんねぇ。愛されてるねぇ。そんな人に俺がしてあげられることなんてあるかな〜?」

 何だかご機嫌な《地底湖》。良い交渉ができたのかもしれない。その上機嫌さによく知らないはずの《花》も不思議そうにしている。地上の二条家の評判を知っているのか、と暗に尋ね、続けて地下での評判も尋ねた。もっとも、それを教えてくれるほど機嫌が良いわけではないらしい。

 一方の《探偵》は侍女の打診をされたことがあるようで、別の形でなら交流も可能と提案している。

「たまの課外授業ならできるよ。そこの《鬼火》には内緒でちょっと危ない所にも連れて行ってあげる。」

「おい、ぽんこつ《探偵》。んなこと言うんだったら会わせねえぞ。」

「そんなこと言っていいんですか?《人形士》の所に案内しませんよ。」

 世界を周遊している《人形士》の居場所を把握している。確かに彼なら世界中のどこでも素敵な場所を案内してくれそうだ。そんな彼の下へ案内しないと言いつつ、おいでと先を歩いてくれる。行き先は転送装置のある場所。やはりこの近辺にはいない。

 《探偵》も転移酔いしやすい体質らしく、《花》と共に一休みしてから舗装のない道を進む。屈まなければ入れないような狭まった道。彼の家は知らなければ来ることのないような入り組んだ先にあった。だから誰も分からなかったのか。扉も小さなその家にいたのは一人と言うべきか、二人と言うべきか。《人形士》とその人形|《明星》は待ち構えていた。

「初めまして、お嬢さん。」

 夜明けの空の髪、海色の瞳、美しい騎士の所作、優しく甘い声。どれを取っても非の打ち所がない。唯一の欠点は彼が人形であること。《花》も人形と気付いているだろうに見惚れ、目が覚めたように《明星》と《人形士》を交互に見た。

「魔力で動かしてるんだよ。糸が細くてよく見えないでしょ?」

 噂に違わぬ繊細な魔力操作だ。人形が人間大なら気付かずに惚れてしまう人もいるかもしれない。さすがに表情が動かない点から気付かれるだろうか。それでも手足が自然に動く様は何度見ても感心する。初めて見た《花》は非常に驚き、説明されてもなお《明星》を見つめ続けた。

「君も練習すればできるようになるよ。一緒にお人形遊びができるかもね。」

「お人形遊びはしません。」

 随分と高度なお人形遊びだ。彼以外の誰ができるのだろう。《花》はお人形遊びなど子供っぽいと思ったのか即答した。魔力の扱いに長ける彼とお人形遊びに勤しむことは十分魔力操作の訓練になるだろうが、彼女はお気に召さなかったらしい。

 挨拶と短い交流が済めば、今夜は《鬼火》の家に宿泊だと《花》を連れ帰る。私も夕食を馳走になった後、《鬼火》は《花》に今日の挨拶の感想を求めた。

「私は《探偵》と一緒に勉強したい。あんまり外には遊びに行けなかったから。」

 先代の強い監視下では自由に遊びに出かけられなかったのだろう。現場に出ての勉強も従える立場には必要な学習だろうが、彼の教育方針は異なったようだ。地上の良家の子は身の安全のために単独での行動が許されない。その点を加味すれば致し方のないことなのかもしれないが、それを私よりもよく知っているはずの《花》が不満を述べている。しかし《探偵》は忙しい。定期的に勉強会を開くことは難しいだろう。その点は《鬼火》も把握しており、たまに相手してもらう程度に留めようと提案している。《探偵》の予定などを確認するのは私の役割になるだろう。それとも地下の住人であるため、別経由で連絡を取るのだろうか。

「《明星》もかっこよかった。あんな人が優しくしてくれたら好きになっちゃいそう。でも《人形士》の操る人形なんだよね。《人形士》は色んな所に行ってる人?《明星》みたいな人も見たことあるのかな。」

 世界中を旅している人だ。見識を広める、あるいはただ心と体を休めるための旅行でも良い、それらの旅先に適した場所を多く知っていることだろう。旅した先の話を聞くだけでもきっと面白い。狭い世界で生きてきた《花》にとっては得るものの多い会話となるかもしれない。こちらも機会があれば頼もうとの結論になる。あの場所も拠点の一つに過ぎないだろう。きっと連絡を付けるには《探偵》の力も必要だ。

 今日は顔合わせ。具体的な日程などに付いてはまた《鬼火》が考える。そう伝えられ、今日の仕事は終了だ。また明日以降は二条花一郎の侍女として、その傍に侍ることになる。

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