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死をも恐れぬ愚者の行い

 一日では回り切れない彩羽の町も、一度では満足してもらえない読み聞かせも、知花は楽しんでくれた。校内の探索だって一緒に歌うことだってした。果穂さんと一緒に勉強することもあった。そうこうしているうちに冬休みも終わり、果穂さんも次の定期試験にやる気を見せている。

 三学期の始まった今日は一葉が知花の傍にいてくれる。俺もたまには勉強に努めよう。そう図書館で調べ事に励んでいると、初めて聞く警報が鳴り響いた。続く放送は屋内への退避と戸締りを呼び掛ける。理由は分からない。ただ指示だけを繰り返している。

「何?何があったの?」

 ざわざわと不安な声が広がる。その疑問に答えられる人はいない。緊迫感のある声だけが五回、六回と繰り返されている。図書館は元々締め切られており、空調は全て魔術による管理だ。戸締まりは出入り口以外必要ない。何のための指示なのかはまだ分からない。追加の放送はあるだろうか。

 こっそりと戸を開け、外を眺めると既に騒がしい。見たこともない生き物が闊歩している。骨が剥き出しの鳥、太すぎる腕を持つ猿。一撃でも食らえば死ぬだろう。緊迫感のある放送はあれが理由か。不安を煽るようなことは言いたくないが、事実を隠して良いものか。迷っている時点で外の様子を見ていない他の学生に不安を伝染させてしまっているような気もする。俺もあの動物を撃退するために外に出るべきか否か、それも迷うところだ。

 迷っている間に新しい情報のある放送が始まった。研究者と先生方への指示だ。戦闘や治癒が可能な人は救助のため町へ向かうように、と連絡される。俺も見たあの動物たちだろう。ここにいても問題は解決しない。人命救助が最優先、学生たちも多くはいずれ守る側になる人間だ。自分の不安軽減のために救助の遅れを生じさせるような行動は許されない。むしろ救助に協力できる立場だ。

 再び戸を静かに開ける。まだあの動物たちは獲物を探すように彷徨いている。目的地は職員室。奴らに見つからないよう息を潜め、足音にも気を付け、木々の影に隠れ進む。その道中、また放送が入った。三種類目の放送は彩羽在籍三年以上の魔術実技や武術実技の成績優秀者に呼び掛けている。強制ではないようだが、それでも協力してほしいとの呼びかけだ。危険度の高い物が多く召喚され、召喚者の制御を離れてしまったとして、討伐の援護を頼んでいる。音の反応してあの動物たちは威嚇の声や音を上げた。武器を持っていない今、見つかっても対抗できない。

 緊張感に溢れる時間は無事に過ぎ、職員室に辿り着く。閑散とした職員室にいる数少ない先生を捕まえ、説明を求める。先程の放送にあったように、彩羽研究所で召喚が行われ、それは失敗し、術式が暴走し、研究所から学校敷地内に、そして町へと逃げ出しているという。召喚を実行した具体的な人数はまだ把握できていない、召喚された物の数も把握できていない。その調査よりも先に召喚物の討伐と非戦闘要員の避難を急いでいる。

 話は聞けた。俺も武術には自信があると救助活動への参加を希望する。しかし認めてもらえない。それなら俺一人でも向かおう。武器は自室にある。そこまでは魔術だけで耐えることが必要だ。術式は職員室で借りた物で用意した。炎は目立つが、熱で混乱させて追い払うくらいなら居場所もばれにくいだろう。気合は十分、警戒心も十分、準備は最低限。あと少し、寮まで戻るだけだ。

 入口の獣を掻い潜り、何とか自室の武器を手にする。鞘を手に、抜身で戸の前に立つ。息を合わせて戸を開いてもらい、目の前の召喚物に相対する。俺が出ると同時に閉めてもらう手筈だ。そう戦い始めると聞き覚えのある声がした。

「緋炎、左!」

「了解。」

 二人とも動きに無駄がない。的確に容赦なく殺している。ここにいる召喚物が細剣も効きそうな、血肉の通っていそうな獣で良かった。全身骨なら何もできなさそうだ。そんな彼らに加勢し、男子寮周辺の獣を一層する。幸いこちらには骨の鳥はいないようだ。猿のような召喚物が何体も倒されたのを見てか、距離を取っている。緋炎も果穂さんも地面に術式を描き、何かが触れれば発動する魔術を仕込んでいる。これで人間が被害に遭わないと良いが、対策は取っているのだろうか。

「身長と体重から判断するようにしてるから、一部すり抜ける化け物がいるかも、ってところですね。見えている範囲なら対処できます。」

 人を巻き込まないようにはしてくれている。それならこの周辺からは一度離れても良いだろう。次は女子寮付近だ。果穂さんが来ているということは既に解決済みだろうか。

「探索から帰ってきたらこんなことになってて。まだ確認してないんです。知花ちゃんと一葉様は大丈夫でしょうか。」

 術式も詠唱もなく転移できた知花なら自力で撃退できそうだが、他は分からない。ここと同じような対策は取ったほうが良いだろう。そう女子寮へと急げば、既に誰かが戦っているようだった。こちらは骨の鳥が飛んでおり、幾つか骨が散らばってもいる。二人とも小柄だが、一人はその体躯に見合わない大槌を振り下ろした。より小さいほうの彼女は怒ったように杖を振り回している。

「きゃあ!もう、何なの?」

「悲鳴上げてるわりにやってんだよなぁ、この人。」

 彼女の悲鳴と同時に雷撃が幾つも落ち、直撃した鳥は撃ち落とされる。再び飛び立とうとするそれらを彼が潰す。近づかなくとも分かる、この雷撃は花梨のものだ。癇癪のような声も発動の合図となり、次々と雷が落とされる。こんなに連発しては早々に疲れてしまうのではないだろうか。

 思考する前に加勢だ。骨に俺たちの刃や炎がどこまで通用するのか分からないが、花梨や心白に標的が移らないようにするだけでも協力しよう。ここは男子寮のように地面への仕掛けでは不十分だ。どうにか対策をしたいが、果穂さんの魔術は二人に見られる危険があるため使えない。解決策も思いつかないまま、加勢が必要ないくらいに骨の鳥は数を減らした。

「後は俺らがやっとくんで任せてください。」

「主に私が頑張ります。まだまだ全然余裕ですから。」

 中には一羽たりとも侵入させていない。中にいるはずの知花と一葉も無事だ。図書館付近は司書もいるが、そちらにも寄る。校舎にも寄る。研究所は彩羽の町に救助に向かえるくらいのため、必要ないだろう。次は彩羽の町か。そう向かおうとすればその前に味方識別紋を俺に刻みたいと提案された。緋炎からの味方識別紋を刻んでいれば、彼の炎に包まれても俺の体は燃えない。俺からの味方識別紋を刻んでいれば、緋炎も果穂さんも俺の炎で燃えない。あるとないとでは戦いやすさが段違いだ。そう互いの味方識別紋を刻み、気を取り直して彩羽の町へと向かった。俺も実家で簡単に教わったことはあるが、それは俺が将来的に領主軍で働く予定があるからだ。彼らはどこで味方識別紋を習ったのだろう。

 戦う準備は整った。どんな危険があるか分からないため、三人ともいつでも振るえるよう身構えたままの移動だ。校門への道中にも獣と骨が入り混じり、簡単には通れそうにない。幸い人がいないため、果穂さんも魔術も用いた全力の戦闘ができる。彼女の細剣は骨など相手にすれば簡単に折れてしまうだろう。俺たちが前に出て奴らを仕留め、あるいは時間を稼ぎ、彼女の魔術を頼りにする。彼女は時空を操る。自在にとはいかないが、敵の骨を砕く程度なら余裕を持って成し遂げた。肉のあるものには俺たちの刃が襲う。時折緋炎の詠唱の声と爆発音も聞こえた。

「爆破なら火属性でも骨を粉々にできますよ!」

 助言を受けてもすぐ実行できるようなことではない。血肉のある獣だっているのだ。骨だっている。のんびり術式を描く時間など与えてもらえない。だから俺は獣の腱を狙い、首を狙う。太い首を独力で斬り落とすことは難しい。動きを鈍らせることができれば、徐々にでも仕留められる。そんなつもりだったのだが、不意に自分の力ではない勢いが加わり、刃が深く食い込んだ。骨で止まったが絶命はした。返り血も今は気にしている場合ではない。

「援護しました。体ではなく刃に干渉していますので安心してください。次、行きましょう。」

 果穂さんの説明を受け、彩羽の町へと向かう。見かけるたび倒すよりは町に行ったほうが良いだろう。そう先を急ぐ。しかし生きた人間の姿は見当たらない。家屋は崩れ、獣の死体は転がり、骨の残骸は散らばる。絵本を見た本屋も昼食を取った定食屋も看板が落ちてしまっている。今町を彩るものは血の色だけだ。人の遺体も見えないことは安心して良いだろうか。襲って来ない獣が食べている肉は同じ獣の肉なのだろうか。救援に来たはずの先生方はどこに行ってしまったのだろう。もしかして手遅れなのだろうか。いや、救援があってこの惨状なら、ここを離れて港町に避難しているはずだ。無事な人もいるはず。ここには自警団もあるのだ。学生に撃退できる程度の獣や骨、彼らが何もできず殺されたわけはない。それなら港町方面には戦力が多い。俺たちが向かうべきは散り散りになって逸れてしまった人がいるかもしれない、町から離れる丘方面だ。こちらには召喚物の死体もない。倒せる人員はこちらに行っていない。それなのに血の痕跡は残っている。誰かが逃げたか、何かを追ったか。

 山と呼ぶほどもない丘を登っていく。木々も密集しているわけではなく、所々見える星空も鮮明だ。下草を踏みつけ、時に足を取られつつ、斜面を行く。血痕も既に消えており、死体も遺体もなかった。止血できたのだろうか。無事な誰かが見つかってくれと祈りながらの移動した先には、木の幹に手をつき、立ち尽くす少年がいた。

「大丈夫ですか。お怪我はありませんか。」

 戸惑った表情で緋炎の質問にも答えられない彼は樹さんだ。召喚物と呟く声は何も理解していない。事故発生時に学外にいたなら放送も聞こえていない。お出かけ中なら誰かと一緒にいそうなものだが、何をしていたのだろう。

「風香先生と、一緒に、いたんだけど。」

 よく風香先生の召喚物と交流するとも聞いている。今日もその日だったのかもしれない。いや、それなら風香先生が彼を守るはずだ。町を歩いていたのか。他の島民を守ることも意識すれば樹さんだけをずっと見ているわけにもいかない。その一瞬に召喚物に追われ、逸れてしまったのかもしれない。逸れた状況はどうあれ、ここは危険だ。学校に戻れば風香先生も樹さんを探しやすい。他にも戦える学生もいるため、一緒に戻るほうが安全だ。

 慎重に、大胆に、なるべく召喚物を避けての移動は上手く行き、何度か戦闘はあったものの無事に樹さんを守りきって彩羽学校の敷地内に到着する。有志が撃退したのか、既に多くの召喚物は倒されており、俺たちが出発した時より危険は少ない。研究所に近づくにつれて死体は増え、生温い空気が漂い始める。この前修理されたはずの窓もまた割れている。嫌な臭いもする。研究所では嗅いだことのない臭いだ。

「樹さんは風香先生の召喚物とよく触れ合ってるんですよね。なのに今回の召喚物は分からなかったんですか?」

「風香先生の召喚物はあんなに怖くなかったから。みんな優しいし、暖かいし。」

 姿形も異なるなら今後の交流にも支障はなさそうだ。召喚物との戦闘の度に怯えてはいたが、学内に入った所から落ち着き始めた。もっと慣れた安全な場所ならもっと安心できるだろう。事故に備えて研究所は頑丈に作られている。そこから召喚物が逃げ出したなら安全とは言い難いかもしれないが、俺たちよりも風香先生のほうが安全な場所は把握しているだろう。

 研究所には基本的に立入禁止だが、今は異常事態だ。安全確認のために入ることは許容してもらえるだろう。そう数歩入ると、上階から風香先生が降りてきた。いつもは整っている服装も今は乱れており、珍しい姿だ。

「ああ、樹、良かった。どこに行っていたんだ。」

「ごめんなさい、怖くて逃げてたら帰り道が分からなくなっちゃって。飛鳥様たちが送ってくれたんです。」

 お礼に、と風香先生は自分の研究所に招いてくれる。しかしそこに至る廊下にも骨や肉が落ちており、血の海も広がっていた。尋常でない様子の廊下を何の説明もなく行く風香先生の後に続く。緋炎も果穂さんもこういった経験があるのか、何ら動じた様子がない。それとも召喚物との戦闘で感覚が麻痺してしまったのだろうか。緊張や警戒は感じられるが、それだけだ。一方の樹さんはそれどころではなく、ずっと口と鼻を手で覆い、顔色悪そうにしている。体を支えてあげなければ肉片や骨に躓いてしまいそうだ。いっそ目を瞑っていてくれても良い。こういった光景に拒否反応を示すことも自然なことだ。

 風香先生の研究室に着けば、樹さんの体から力が抜ける。支えてなんとか倒れることを防ぐが、限界を超えてしまったのか意識がない。医者かせめて医務室の先生を呼びたいが、風香先生は大したことではないような反応を見せている。

「ああ、またか。」

 彼に一瞥くれるだけで何事もなかったかのようにお茶を淹れ始める。そして何食わぬ顔で今回の騒動について説明を始めた。

 今回の騒動は召喚物が暴走した結果。その危険は求める物が強いほど、数が多いほど高まる。どこにも存在しない物を求めていた場合は召喚自体も失敗に終わる。今回のように無理をし、十分な魔力を供給してしまっていれば術式が暴走し、望んでいないほど召喚物を大量に呼び寄せてしまう。召喚術式を描く場合、そうならないよう停止するための文言も記述する。それを怠っているのだろうとの推測だ。

 現在の召喚は過去の研究の積み重ねの上に成り立っている。その過程では今回のように術式が暴走することもあった。その反省を活かして、事故を起こさないよう対策を取っている。風香先生に研究室にも召喚術式は幾つもあるが、魔力が込められていないか、込められている物は術式が一部欠けている。

「千秋先生以外にも色々召喚されている人っているんですか?」

 召喚術の授業は風香先生が受け持っている。風香先生以外にも召喚の研究者はいるが、他の召喚物は見たことがない。安全のため学生には会わせないのだろうか。

 無制限に召喚できるわけではないなど召喚関係の法律について授業の復習や予習をしていると、樹さんが目を覚ました。どこにいるのか忘れてしまったのか、現状を確認している。ここは風香先生の研究室、召喚物が入って来ないからと安心させた。

「あの子たちも召喚されて驚いてるとか苦しいとかなのかも。俺もそうだから。」

「樹、口を閉じなさい。」

 人間の召喚は固く禁じられている。そして風香先生が慌てて黙らせた。皇都にいる頃も入学してからも樹さんは元気そうで、苦しんでいる様子はなかった。最近体調を崩している。風香先生が召喚し、体調を崩すようになったのだとしたら、どうして召喚したのだろう。どういった条件での召喚を行ったのか。人間の召喚を特別に許可されたのか、違法に召喚したのか。それも気になるところだ。

 真正面から尋ねても風香先生が黙らせるだけ。そう口を噤むが、緋炎はそう思わなかったのか素早く尋ねた。案の定風香先生は答えさせないよう自分が話を始める。後で樹さんに聞こうと企んでいると、緋炎に隠れてこっそり果穂さんが樹さんに質問していた。召喚されたのか、と。

「前に属性不明だって言ったよね。聖属性だから判別できなかっただけみたいなんだ。だから、御子の召喚で俺が召喚されちゃったみたい。」

 小さな秘密を共有するように重大な機密を話した。御子なら万城目家への報告が必要だ。世界樹や御子は万城目家の管轄になる。千秋家の風香先生だけが抱えていて良い問題ではないだろう。俺たちに言えないことは理解できるが、それが樹さんに伝わっていない。御子への態度も問題だ。倒れてしまいそうな状況なら支えてやるとか水を飲めるようにするとか、肌掛けを用意してやるとか、色々と彼のためにできることはある。教師と研究者の仕事で忙しく対応が難しいなら、それこそ万城目家から誰かを派遣してもらうか、少なくとも相談して人員を確保する必要がある。御子のためなら喜んで協力する人も多い。授業時間外なら俺だって協力できる。

「結子様も大変心配されておいでですから、こちらに来ていただいても良いですか?呼んできますね。」

 返事を聞くことなく果穂さんは部屋を出ていく。次入るには風香先生の許可が必要なのだが、また無断で入るつもりだろうか。背中に向かって放たれる待ちなさいという声も無視している。やはり肝の座った人だ。その代わり緋炎が風香先生に追求する。樹さんが御子とはどういうことか。しかし答える必要も俺たちに教える必要もないため、誤魔化されてしまう。結子さんが来るまで俺たちにできることはない。たとえ学生でも御子に関しては万城目家が優先する。結子さんは樹さんとも同学年で、交流もある。樹さんも結子さんだから拒むということはないだろう。

 俺たちに退く意思がないこと、万城目家優先という主張に誤りがないことを風香先生は認めた上で、最優先は御子自身の意思と主張した。何よりも優先される尊いお人、それが御子様だ。樹さんがそうなるとは思っておらず、まだ実感もないが、形式上はそうなる。本人もよく分かっていないから風香先生の指示に従っているのだろう。今もどうしたいか尋ねられても答えられずにいる。

「不信心な輩は御子にだって危害を加える。彼の属性については公言しないように。」

 これは了承できる。同時に風香先生一人で対応するには限界があるため、協力者を募る必要性を訴える。納得してもらえる前に、果穂さんが結子さんを連れて戻ってきた。丁寧な態度と言葉で樹さんに御子の事実を確かめる。樹さんは風香先生を見るが、結子さんは重ねて樹さん本人が答えるよう求めた。

「はい、聖属性、御子だと、言われました。」

「父上に報告します。千秋風香殿もそれでよろしいですね。」

 渋々風香先生も受け入れる。御子を隠したかったのは何故だろう。瘴気を浄化できる人間が見つかったのなら喜び勇んで報告したっておかしくない。何か密かにしたいことでもあるのだろうか。御子を発見した経緯も曖昧にしか答えてくれない。隠そうとすればするほど心象は悪くなるが、それでも答える様子はない。結子さんも今の追求は諦めた。お父上に報告するならそちらからの追求があるだろう。その代わり、樹さんの今後の扱いについての相談を行う。ここでも御子様の意思が最優先であると強調された。

 全員に注目され、回答を待たれる樹さん。そのうち一人には御子様と傅く人もいるため、余計に頭が回らないのかもしれない。授業に出席する気があることは今の行動からも分かる。学費は現在千秋家による支援だが、御子となればどの家だって出すお金があるなら支援する。特に万城目家は御子を管轄に含めているため、多少無理してでも出すだろう。最悪足りなければ皇家からの支援も受けられる。十六夜家も臣民の例に漏れず世界樹を信仰しているため、俺から伝えれば支援してくれるだろう。風香先生を気にする必要はもうない。

「今、困っていないので、あの子たちにも会いたいので、えっと、現状維持、はどうですか?両親にも相談したいです。」

 支援の話は両親を通じて行われているはずだ。報告なくいきなりは難しいが、不可能ではない。樹さんが相談したいというなら待つことも簡単だ。結子さんも急かすことなく、ここでは保留を受け入れた。風香先生が安堵しているように見えるのは気の所為だろうか。

 重要な話が終わったことを感じ取ってか、果穂さんは秘密の等価交換と自身の属性を伝える。ここには風香先生も結子さんもいるのに言って良いのか。御子とその付き添いのような感覚だろうか。よく見ると風香先生も果穂さんもピアスを着けている。色こそ水色と赤色と異なるが、ピアス自体が珍しい。しかしそのことについては答えてくれない。たまたま、とだけ。そういえばどんな服装でもピアスだけはいつも同じ物。何か意味か思い出でもあるのだろうか。

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