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花の怒りん

 選択芸術の後、廊下を歩いていると濡れた形跡のある五十川吟香の弟・心白(しんぱく)と万城目家の天才・花梨がいた。花梨は怖くない抗議の声を心白に上げているが、他の学生たちはいつものことと気にした素振りもない。どちらかと言えばただ水で濡れただけの花梨より黒く汚れている心白のほうが被害は大きく見えるが、その点への言及もない。

「なんで筆で反撃すんの!墨は取れないんだよ!?」

「先に水かけてきたのは心白でしょ?」

 そっと緋炎から状況を聞くと、書道の授業終わり、道具を片付ける際に心白が花梨に水を掛けたことが発端らしい。よく花梨の字は書道らしからぬ可愛さだとか揶揄って喧嘩しており、それが今日は口喧嘩でなくなっただけ。そうなった時の花梨の反撃が激しいのもいつものことだとか。時折バチバチと雷撃のようなものまで見えている。そういえば花梨の適性は雷属性だった。こうして詠唱もなく感情に任せて魔力を未だに発生させられる点も天才と言われる所以だ。扱いきれていない点を未熟と評される場合もある。

 花梨に頼みたいことがある。世界樹に研究所にいた謎の少女、知花を連れていきたい。世界樹に帰るという発言から世界樹の化身の疑いが生まれた。行ったところで確かめられるか不明だが、何か分かる可能性はある。お礼は何が良いだろう。お金で買える物なら花梨も手に入れられる。俺からは彼女に何を贈れるだろう。魔珠なら喜んでもらえるだろうか。今持っている魔珠の扱いは俺に委ねられた。同じ皇国の人間、それも重要な役割を担っている家の子なら大きな問題にはならないだろう。

 会話に割り込む形で花梨にお願いすると、内容をよく聞かないまま了承を返される。お姉さんやお兄さんに心配されるという話も納得だ。先にお礼を渡されれば何をさせられるのかと警戒するだろうか。

「心白にお仕置きしてみるね。えい!」

 えい、の声と同時に先程の雷撃より遥かに大きい、目に見えるほどの雷が大きな音と共に心白の体のすぐ傍に落ちる。床は黒焦げで穴も空いた。明日以降の授業は別教室を使うのだろうか、それとも修理されるまで壊れた床の上で授業を行うのだろうか。

「あっぶねえ!花梨?こんなの当たったら俺死んじゃう!ねえ!聞いてる!?」

「ごめんね、こんなに威力が上がるなんて。でも心白なら大丈夫。きっと何しても死なない。」

「そんなことないから気を付けて!?よく分からない魔術とか俺で試すのやめて、本当に。」

 これはこれで仲が良いのだろう。放課後もよく一緒に過ごしていると聞く。幼い頃から互いの家に滞在するような間柄で、学校にいる間もずっと一緒にいようとするほどだ。

 落雷の音を聞きつけてか、教室を出ていったはずの一部の学生や先生が戻ってきた。一瞬見ただけでは何が起きたか分からないだろうと思いきや、学生たちは何かを察したように心白と花梨を見るとまた去って行った。戻って来なかった学生は二人が残っていることから事態を察したのかもしれない。先生も二人が原因だと知っているかのように迷いなくこちらに近づき、二人に質問した。素直に事実を答えた花梨は怒られてしまっているが、素直に謝っている。よく実験台にしているようなことを心白は言っていたが、花梨には反省の気持ちも一応あるらしい。

「それで、あなたはそれを見て何をしていたの?」

 先生の矛先が俺に変わる。魔珠を贈り、効果の実演を眺めていただけ。特に何もしていない。花梨と心白は言い合いこそしていたが、互いに大怪我を負うようなことはしない。止める必要などなかった。花梨も俺は紅い宝珠をくれただけと庇ってくれる。

「危険な行為だと止めるべきだったわね。それと、こんな危険な物をどこで入手したの?」

 気軽に学校に持って来るような物ではない。そう危険な理由や未知の物のへの警戒についての様々を十分近くも聞かされ、ようやく解放してもらえそうになる。校長先生からも許可は貰ったのに、と口を挟めば余計に長引く。分かっていても黙っていられず、さらに十分追加だ。花梨と心白の執り成しもあってそれ以上の追加はなくようやく本当に解放だ。これでやっと花梨への本題に入れる。俺がしたかった話は魔珠のことではない。世界樹の島に行けるのか、あるいは知花を連れて行ってもらえるのか、だ。

 うんうんと花梨は相変わらずにこやかな笑顔で聞いてくれている。心白も花梨向けの話だと時間を譲ってくれた。しかしすぐに解決することではない。世界樹の島は厳重に管理されている。花梨だけでは決められないため、父親に相談すると一度保留になった。その代わりなのか、花梨は世界樹やそれに纏わる物語を聞かせてくれる。

 その昔、この世界には何もなかった。いや、この世界そのものが存在しなかった。親たる世界樹から種子が流れ着き、芽吹いた時がこの世界の始まりだ。小さな芽は世界を魔力で満たし、様々な魔術が発生し、生命で溢れる場所にした。大樹となって生命を支え育む。今もなお世界樹は魔力を生み出し続け、ありとあらゆる生命が存在できる世界を支え続けている。

 世界樹も生命の一つ。親たる世界樹から生まれ、子たる種子を育む。時には病に侵され、時には眠る。自然の営みの中にあり、生命たる世界樹にも死は訪れる。それが寿命によるものなら避けられない。一方で病が原因なら先延ばしにできる。

「世界樹の病の元となる瘴気。それらの原因は人の強すぎる感情や悲しみ、戦争とも言われているの。」

 ただしまだこれと断定できるものは何もなく、幾つもの説だけが唱えられている。そのうちの一つが人間の悪意や悲しみ、それらを生み出す戦乱だ。特に今、何年も前から続く大陸での戦争が今、世界樹を弱らせていると言うのだ。

「もちろんそれを癒やしてきた者もいる。それが世界樹の癒やし手とも世界樹の御子(みこ)とも呼ばれる人。」

 噂にある世界樹の化身を生み出す実験は、御子を生み出す意図もあるのかもしれない。探して見つけるよりも安定して世界樹を癒せるようになる。もっとも事はそう単純ではなく、過去にも行われたことのあるらしい実験が身を結んだという記録はない。御子は突然その場に現れるか、その力に目覚めるという奇跡に頼っている。

 世界樹特化の治癒能力は聖属性とも呼ばれる。しかし他の属性と異なり、その現象を真似して発動することはできない。瘴気の浄化はどう頑張っても、どんなに優れた術士でも達成できない。適性属性が変わることも本来なく、それなのに聖属性のみがある日突然目覚めるという特殊性からも、世界樹の加護を得たなどの言われ方をする。

「私も御子について勉強はしてるんだけど、浄化の術は使えないんだよね。どんなに祈っても届かないの。」

 世界樹の魔力は地脈を通じて世界を巡る。魔力の滞留している場所、魔力濃度の高い所に御子は生まれるとも言われる。探し出すための手掛かりはあるが、そういった場所も少なくない。その上いるとも限らない。結局、奇跡に賭けるしかないのだ。


 花梨の相談の成果は一週間程度で出るものではない。返事が得られるまでは勉強に打ち込む時間だ。その授業の合間にも当然遊ぶ時間はある。今日一番楽しみな授業は音楽。それが終わって自由時間の始まりなのだが、俺以外にも授業後の片付けが苦手な人がいるようで、楽譜が床に落とされたままになっていた。これは誰の物だろう。誰かに踏まれてしまったのか、既に破れてしまっている。せめて拾って机に置いてあげよう。そうしていると万城目(まる)、花梨の兄に話しかけられた。

「この前は僕の妹がごめんね、と言いたいところだけど、その前に一体何をしているのかお聞きしてもよろしいですか。」

 この一週間でもう花梨による落雷事件は広まっている。小さな雷撃や口論はよくあることでも、あの規模の、教室を壊すほどの雷は珍しい。音と目撃した学生の話だけで広まるには十分だった。しかしそれよりも重視することとは何だろう。丸の視線の先は俺の手だ。破れた楽譜を持つ、俺の手。もしかして俺が破ったと疑われているのか。丸の楽譜なのかもしれない。そう言い訳しようとすると、焦って言葉が出てこない。

「はいはい、なるほど、そうですね。お覚悟はよろしいですか。」

 丸を中心に水が放射される。花梨の雷とは異なり、直撃しても傷みもないほど安全で、床や壁に穴が空くこともない。一方で楽譜や教科書はずぶ濡れになり、楽器にも水が入り込む。人も服も水浸し。一度寮に戻って温かいお風呂に入ろう。その前に丸の怒りを何とか凌がなければ。巻き込んでしまった他の学生にも謝罪するが、みんな気にしないでと言ってくれる。一部は俺が破ったわけではないと見てくれていた人もおり、丸にも証言してくれた。

 先生の指示で掃除が始められる。原因の丸と俺、それから果穂さん含む一部有志が協力者だ。果穂さんも全身濡れ鼠で、いつも元気そうにしている彼女でも風邪を引いてしまわないか心配になる。彼女は自分の魔術で服を乾かすこともできない。ほんの少し透けてしまっているようにも見える。驚かせたことももう一度謝罪し、服を着たまま乾かすこともできると提案する。

「ありがとうございます。お願いしても良いですか?」

 火属性魔術によって乾かすため、風属性魔術による場合とは異なり火傷させないよう細心の注意を払う必要がある。その分、体が冷えてしまうことは避けられる。術式を描き、魔術を発動する。温かいという言葉も添えたお礼をもらい、掃除に俺たちも参加する。紙類は丁寧に扱い、乾かしてもう一度使えるようにする。楽器も材質によっては使える。買い替えるにしても次が届くまでの間は使われるだろう。それでも処分される物もあるため、しばらくの間は授業で使える楽器が減りそうだ。乾かす役割は品質の低下を避けるため、もっと熟練者が担ってくれる。今は移動させるだけだ。床に溜まった水も水属性を適性とする人が中心となって建物の外へと流し、他が濡れた壁や窓、戸を拭く。床を最後に、先生が掃除の終了を宣言した。しかし俺たちはそのまま解放とはいかない。

「万城目丸、十六夜飛鳥、事情聴取のため職員室へ来なさい。林果穂、彼らの言い分に間違いがないか確認したい。君も来てくれるか。」

 またお説教と反省文だろうか。話が長くなりそうだと面倒に思うが、俺たちに拒否権は認められていない。果穂さんは俺たちの証言に食い違いがないか確かめるための証人になっているため拒否できるようだが、同行してくれた。

 職員室ではまず丸が怒られた。備品を破損したのだから当然だ。俺は親切に拾い上げただけのため、叱責は免れた。丸が勘違いしただけと認めてもらえたのだ。果穂さんの証言でもそれが確かめられ、ようやく俺と果穂さんは解放だ。大きく伸びをし、緊張した体を解きほぐす。

「そんなに長くなかったですよ。職員室、よっぽど苦手なんですね。」

 職員室が、というよりお説教されている雰囲気が苦手だ。一挙手一投足を見られているような気がして、一つ間違えばお説教の時間が延ばされるような気がして。そんなことよりも果穂さんに怪我はないだろうか。丸の怒りは花梨の怒りと違って直接的な殺傷力はないが、滑って転ぶことならある。怪我がないならそのほうが良い。領主家に連なる子でない場合、ただでさえ疎外感を覚えやすかったり見下されたりすることがある。こうした事故に巻き込まれて学校が嫌になってしまったら寂しい。

「だから私にだけ優しく声を掛けてくださったんですね。ありがとうございます。」

 同じ授業を受けている他の子は領主家に連なる家、もしくは特別な地位にある万城目家の子だけだ。果穂さんはあまり気にしていないようだが、少しでも過ごしやすい環境にしてあげたい。一葉がよく声を掛けているため下手な扱いはされないかもしれないが、それがむしろ反感を買う理由にもなる。俺ならその点は軽減できるだろう。

 二人で食堂に向かうと、着くなり花梨に丸の所在を尋ねられた。他の学生から俺たち三人が職員室に連行されたことは聞いていたようだ。丸だけが戻っていない理由は反省文のため。内容も余す所なく伝えれば、落胆している様子を見せるが、その理由は話したいことが今すぐ話せないからというだけだ。彼が反省文の刑に処されている理由も何も興味はないらしい。

「転移術はみんな使いたいでしょう?術式をちょっと描いてみたんです。」

 一朝一夕に描ける術式ではない。それも時属性ではなく他の属性で使うなら、一工夫も二工夫も必要になる。花梨が使うなら雷属性になるが、どう調整するつもりなのだろう。驚いているとまだ完成していない、これから先生に術式を確認してもらうつもり、と安心させるように言う。未完成でも描いてみれるほど術式への理解が深い。これが彼女の注目される理由だろう。感情に任せて魔力を爆発させるだけでは天才と呼ばれない。

 花梨の考えた術式を果穂さんと二人見せてもらう。雷属性の爆発的な力で一瞬にして場所を移動させる。俺には本当にこれが可能なのか分からないが、確認した先生によると現状では意図しない場所に転移してしまう危険性が残っているそうだ。つまり転移自体はできる仕上がりになっている。転移先の座標の指定が重要になりそうだ。距離と方向の指定でどうにかならないだろうか。両方の意識を同時に行い、花梨と息も合わせる。難しそうだ。しかし果穂さんは花梨が動力、俺ともう一人が距離と方向をそれぞれ担当すれば可能と、複数人での魔術発動における困難を無視した発言をした。助言自体はおかしくない。属性不明でも任意の、彼女は火属性の組で術式の授業を受けている。これは樹さんも同じことをしているため何ら不自然ではない。魔術の難易度を無視している点も自分が使わないからと言い訳できるだろう。花梨も特に何も感じた様子なく、花梨の雷属性と丸の水属性に俺の火属性を加えてこの術式は完成する、先生にもその点を含めて再び相談すると決定した。

 昼食を取りながらの案を受けて、花梨は改良を加えた術式を手に職員室へと向かった。戻ってきた彼女からは良い報告を受けられ、早速試してみたいと上機嫌だ。先生から出された条件も必ず花梨が中心となって発動することというもので難しくない。この条件を出されるほど、先生からも花梨は厚い信頼を受けている。一緒に戻ってきた丸も我が事のように嬉しそうだ。ただし今すぐという花梨の発言にはおにぎりだけでも食べたいと待ったをかける。今まで昼食を取れていないのに一緒に転移しろなんて花梨は意外と人使いが荒い。

「術式は大きく描くので、広くて他に人のいない場所が良いです。良い場所知りませんか。」

 それならと果穂さんが秘密基地に案内してくれる。丸が食事を貰っている間に、俺たちは術式の準備だ。適性属性が不明ということになっている果穂さんは描けないが、術式の見本と見比べなら間違いがないか確認してくれる。描く役割は俺と花梨だ。線の一本でも間違えれば海上に転移してしまう危険があるため、慎重に慎重を重ねる。魔術文字の部分は特に重要だ。描くことや書くことに必死になりすぎては必要な魔力が不足する。全ての文字、全ての線に十分な魔力を込めて書き終えた所で食堂でおにぎりを貰ってきた丸も合流した。四人揃ったなら出発だ。込められた二人の魔力を辿るようにさらに魔力を込め、刻んだ意味を頭に浮かべ、求める現象を具体的に想像する。

 術式の魔力は意思を持ったように動き始め、世界樹は俺たちの願いに応えた。視界が歪み、目が回った時のように眩み、胃と肺が捻れるような不快感と息苦しさが襲う。やっとの呼吸で入り込む空気が美味しい。吐き気も収まり、視界も透き通り、森と海岸に気付く。ここが世界樹の島なのだろうか。既に果穂さんは気が付いており、花梨と丸の様子を見てくれている。まだ二人とも意識がないが、呼吸と脈は正常だ。自然と目覚めるまで待ったほうが良いだろう。

「転移酔いですね。酷くても死ぬことはないので安心して大丈夫です。」

 死ぬとすれば転移先が危険な場合だ。転移酔いが原因で死ぬ事例はほとんど見られない。幼い子どもや老人、小柄な人ほど症状が重く出やすいという話も聞いたことがある。花梨は四人の中で最も幼く、丸も年齢こそ果穂さんと同じだが体は小さい。そのせいだろう。

 様子を見守っているうちに丸も目を覚ました。まだ体調は悪そうで、昼食を取る気分にはならないと横になっている。空腹状態だと転移酔いが激しくなることもあるのだろうか。無理させて悪化しても困るため、二人にはここで休んでいてもらおう。その間に俺はこの島の探索をしたい。世界樹の島はどんなものなのだろう。

 木々の緑、隙間から覗く青い空、小鳥の声に小動物の足音。進むほどに時間から切り離されているような感覚を抱く。次第に木々の雰囲気も変わっていった。どこか夢見心地の足を進め、清浄な空気に包まれているような感覚を深める。花梨や丸ならこれが世界樹の空気なのか分かるのだろう。ここが世界樹なら知花も連れて来られる。後は彼女をどう研究所から連れ出すかだ。

 進むほどに立ち入ることが躊躇われる空気になっていく。果穂さんも俺同様この空気を感じているようで、僅かに緊張しているようだ。互いに指摘の言葉は飲み込み、吸い寄せられるように先へと進んでいく。現れた樹皮の壁はとてつもない巨木の幹だ。

「飛鳥様、あっちに何かあります。」

 木造で可愛らしい大きさの小屋だ。日々手入れされているのか、朽ちた様子も古ぼけた様子もない。鍵も掛けられていない。日頃から人の出入りがあるのだろうか、埃も無く、布団も畳まれた状態で管理されている。風呂も問題なく使えそうだ。着替えさえ持っていればここで一泊できるだろう。住むための場所ではないのか、台所はなく、食料も置かれていない。世界樹に参拝する人のための場所だろうか。現在世界樹近辺の立ち入りは制限されているが、かつては定期船が運行していた。今も一部は行き来しているのかもしれない。

 小屋の中も外も見て回り、後から来た丸、花梨と合流する。眠って体調が戻ったようで、花梨の顔色も悪くない。丸も食事を取って元気になっている。そんな二人に少し見て回った成果を伝えるとあちらからも良い報告があった。世界樹の島を狙っての転移は成功だ。彼らも頻繁にこの島に来ているわけではないようで、世界樹の方向を感慨深げに眺めている。壁のように見えるほど大きな幹を持ち、天辺の見えない大樹は世界を支える樹と言われても信じられる風格を持つ。彼らの家族が管理する物のため、俺たちよりもずっと多くを聞いていることだろう。この清浄で神秘的な空気も、知識と合わせてもっと深く感じているのかもしれない。

「なんだか思ったより元気なさそう。瘴気のせいって噂は本当なのかもね。」

「御子がいないのにどうやって瘴気のせいって知ったんですか?」

 世界樹の瘴気を浄化できる人物は御子のみだが、瘴気の存在を感じ取ることは他の人にもできる。敏感な人なら瘴気に侵された地で体調を崩し、鈍感な人でも世界全体が瘴気に満たされれば生きられない。だからこそ人々は瘴気浄化の法を模索している。尤もその成果は未だなく、研究が続けられている。並行して御子の捜索も行われているが見つかっていない。

 御子と世界樹に関する説明を少しだけ聞き、帰還の準備に取り掛かる。次は知花も一緒に来られるだろうか。

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