幕間 『神託の男神(アポロン)』
「・・・では報告をお願いしようか」
「はい。本日0920、『災厄』出現。当初搭乗予定だった植村中尉は自宅待機中であり、『災厄』出現地点から、基地へ帰投してからの出撃よりも途中での合流が合理的と判断され、その旨通達されました。しかし移動途中植村中尉は『事故』により負傷。『災厄』がプロメテウスへと向かったために出撃班は退避、プロメテウスは無人のまま放置されました。そして0931。プロメテウスは搭乗者確認による起動スタンバイ状態へ移行しました」
「『彼』が乗ったためだね?」
「はい。神成勇人自宅は現場付近であり、彼の行動理念より、搭乗は予測された通りでした」
「それについては少々疑問があるのだが。・・・彼は、何故乗ったのかね? 普通に考えれば自殺行為であるとしか思えんのだが」
「彼の性質については報告書が提出されているはずです。困っている人がいれば助ける。自分に出来ることがあればやる。・・・本当のところ、こちらから働きかけるつもりでした。まさか何もしないうちから乗るとは思っていませんでしたが」
「・・・あれかね、彼はバカなのかね?」
「はい、その通りですが。それについても報告書に記載されているはずです」
「・・・いや、わかってはいるのだが。正直ここまでとは思わなかった。彼で、本当に大丈夫なのかね?」
「では、こちらからお聞きします。この計画に必要なのは、周囲の状況を読んで上手く立ちまわれる賢い人間ですか? それとも、周囲に影響されずに真っ直ぐ突き進むバカですか?」
「・・・だが、彼を見る限り、その舵取りは簡単なものではないだろう。君に勤まるかね?」
「問題ありません」
「信じよう。続けてくれたまえ」
「はい。その後、神成勇人の同意により彼をプロメテウス操縦者として登録、プロメテウス再起動しました。直後『災厄』と再交戦、0946これを撃破。現在、神成勇人およびプロメテウスは基地へ向かっているところです」
「ふむ。・・・彼があれに乗ったことについて、不審に感じるものはいるかね?」
「現在のところ、いません。・・・彼の操縦技術についての疑問は皆が感じているようですが」
「それについては止むを得まい。いきなり死なれでもしたらそれこそ取り返しがつかんからな」
「はい」
「それから、最後の『絶望』の通信だが。彼女がわざわざ姿を見せたというのは、一体どういうつもりなのかね?」
「おそらく、勝利という希望に水を差すことで絶望の種を植えつけるつもりだったのだと推測します」
「それはいいが、その行為は未来予測には含まれて居ないと思ったが」
「運命の女神のつむぐ糸ですら厳密に定められたものではなく、その範囲内での自由はあります。まして神ならざる我々の予測に誤差があるのは止むを得ません。それに、このことについては別段大きな事項ではないと考えます」
「ふむ、確かにその通りかもしれん。だが、だからこそ言っておく。計画の可否は君次第だ。戦闘が始まってしまえば、現場にいるものにしか誤差の修正はできないのだからな」
「はい、心得ています。・・・そろそろ、よろしいでしょうか。『彼』を出迎えねばなりませんので」
「そうだな。詳しい報告は、後日文章にて提出してくれ。彼によろしく頼むよ。やる気を出して貰うために、出来るだけ丁重に迎えてやりたまえ。・・・では、今日はここまでだ」