私のせいじゃ、ないはず。
もう一度地面から飛んで、岩壁にピタッと張り付く。そしてさっきみたいにクナイを刺して、そこから跳びあがるのを繰り返して上がっていくと、意外に速く進んで、いちばん上についた。
「ふう」
そこで薬の効果も切れたようで、一気に疲労が私を襲う。それで座り込んだ私の服のポケットからポロッと落ちたのは、闇の妖精(?)からもらった白い紙。
紙がひらりと私が座るゴツゴツした岩についうたとき、途端に光を放ち、模様が浮き出てくる。
なに、突然。何か起こるの?
模様が紙に刻まれていくのと同時に地鳴りがして、地面が動いた。私のすぐ横にあった大きな滝が二つに分かれて下に道ができ、遠くの山も道が開かれた。
山脈を一直線に横断できるようになったらしい。
私がここまで登った意味は!?
でも上までこないといまの謎現象が起こらなかったと思えば、努力は無駄にはなっていない。
いったん下に下りて正面から見上げると、手前の一直線の道の両横には高いところから流れ落ちる滝があって水しぶきも飛んでくるのに、なぜか水が全部下の地面に吸い込まれるみたいに消えていっている。
その奥、もっと進んだところは曲がりくねっていて、よくわからない。
「すずちゃん、なにしたの……?」
アルテアが茫然と目の前を見上げながらつぶやく。
「私は別に何もしてない」
私じゃなくて白い紙がやった。なんて言えない。言ったら絶対にその出所を訊かれる。それを言ったら最後、どうなるのやら。
断じて私ではない。たぶん。
「すずちゃんが上に上って見えなくなったころに、ここが動き始めたんだよ~?」
「僕も、関係なしってことはないと思うな」
「い、いや、ほんとに知らないんだって」
「何かの魔法が作動したように感じるねぇ。本当になにもいじってない?」
私は全力で首を縦に振る。
隠し事はしたくないけど、最悪の場合、宇宙がなくなってしまうかもしれないくらい重要なこと。(だと思う。だって世界の秘密だ。)だから、まだ内緒。
「と、とりあえずこの道を進んでみよう! 案外簡単に進めるかもよ」
なんとか話題を無理やり変えて、また歩き始めることに成功。
まっすぐで長い道のりなので考え事をしても歩けると思うから、情報整理タイム。
まず、アルテアに闇魔法をのことを尋ねてみたとき。
あのアルテアとリルの慌てぶりから、闇魔法は実在すると考えられる。いまどうなのかというのは別として、過去に使われていた可能性はあるから、あのふたりはおそらく知っている。
でもそんなことを話してもいない私がなぜ知っているのか不思議に……いや、不思議に思っただけならあんな様子は見せないはず。闇の妖精は封印されたとか言っていたから、いまは禁じられているとかそれ系だろう。
光と並び立つものということで、その魔法が危険で強力な可能性は高い。私を危ない目に合わせたくない、と思っているであろうあのふたりなら、隠しているということもありえる。
だから、昨日のやつが本物かは分からないけれど、闇の妖精はどこかにいる。
でもこの考えは、まだまだ想像と推測ばかりのもの。断言はできない。
次、さっきの現象。
紙が地面に触れただけでなぜか光って、山が、この山脈が動いた。
それは、ただの偶然か、それともその時何かが起こったのか。私とその紙ではなく、下にいた3人かもしれないし、他のところから誰かが動かした可能性もある。
考えながら何気なくその問題の白紙を取り出すと、黒で変わった模様が描かれていた。さっき光ったときに刻まれたものだろうか。
それは、見ようと思えば何にでも見える、入り組んだ不思議な図だったが、よく見ると月、太陽、星が並んでいるようだった。そしてその下に、おそらく人間ひとり、そのまた下に様々な動物と続いているのだろうか。
そこまでは見えたものの、滝の横を通っているせいで水がしみてしまったのか、一部がぼやけて見えなくなってしまっていた。
でもたとえ見えたとしても絶対にこの図の意味は分からない。私には確信がある。参考って何よ。何時代の人が描いた絵よ……。解読なんてできないよ。
困った。
ひとまずこの紙はしまっておく。
はい、次。
──これからどうしようか問題。




