闇魔法とは、一体……?
今あったことが現実だとどうしても思えなくて、茫然としてしまう。
でも、今見聞きしたことが本当にあったことでなければ、私は何を見ていたのだろう。話は今まで聞いたこともないし、考えたこともない。
「こっっっっっっわ!!!」
いや、いったん冷静になろう。深呼吸をして落ち着くんだ。大きく息を吸って……ゆっくりと吐く。もう一度吸って、息を吐く。
……これで少しは落ち着いた。
そうすると、周りも見えるようになり、さっきまで闇の妖精? に乗っ取られていた? らしいルアラスが横になっているのが見えた。
闇の妖精の気配も消えたし、もう害はないだろうと思いながら恐る恐る近づくと、ただすうすうと寝ているだけで、特によくないことにはなっていないようだったから、ひとまず安心だ。
なので、とりあえず引きずって──ルアラスごめん私には運ぶ力がない──ちゃんとしたところに寝かせ、念のため少し様子を見る。
やっぱりちゃんと重い武器を使う練習をしないと駄目か?
今はそんなことじゃない。
「ねえ、なんだったの、いまのやつ。あなたは、闇の妖精?」
答えないとわかっていても問いかけてしまう。そういえばリルとアルテアは?
私は、さっきもらった白い紙を見つめながら考える。
いつものルアラスとは全然気配も動きも口調も、何もが違った。整った外見以外。二重人格という可能性もあるけど、それにしては違い過ぎないか? さすがに魔力まで変わるとかはない。
本当は闇の妖精とか言ってる方が本当の人格? ルアラスと名乗るほうが闇の妖精? とかもありえる?
ただの紙を参考にってどういう意味? 暗号とか?
ものを創り出す魔法なんて、反則じゃないの。
闇の、妖精? ……よ~く考えてみると妖精ということは、何らかの属性に属している。それに則って考えると、闇の妖精だから、闇魔法に属するってこと。
「闇魔法? ……聞いたことがないよ……? 何それ」
誰にも聞いたことがないし、誰かがそれらしいものを使っているのも見たことがない。
はたしてそんなものが存在するのだろうか。
あいつが嘘を言っている可能性もあるんだけど……あの魔力量なら、ただものではないから、有力な妖精だったのならあり得ることなのかもしれない。
でもでも、もしかしたら魔力を偽装するとかっていうこともできる魔法とか道具があったりするのかもしれないと思うと……。
さっきの言葉を思い出すと、とにかく全てから疑問が浮かんでくる。
「ああぁぁ!! もうわかんないよぉ! 一人で考えるのには無理がある! 頭使い過ぎて眠くなってきた! この紙何なのよ!」
頭を抱えて愚痴っても、正解が見つかるはずもない。
可能性は無限大……。
とりあえず寝ようと思って元いた場所に戻ると、すぐに瞼が落ちた。
「──すずちゃーーーーん!」
「朝だよーーーー!!」
「いつまで寝てるのーーーー!!!」
「うるさい……」
布団にくるまって、手と枕で耳を塞いでも、私を起こそうとする声は聞こえてくる。
「二日半も寝てたんだから起きれるでしょ~!」
そう言ったってね、私、昨日夜更かししたうえ、闇の妖精とか名乗るやつと対峙してたんだよ……!
だからもう少し寝かせて……という私の願いも、そんなことがあったとは知る由もないリルとアルテアには通じず、布団をはがされてしまう。
「ま、まぶしい……。やめてぇ~」
「朝なんだからまぶしいのは当たり前!」
「ほら、あと少しで山脈に着くからがんばろ~」
「あとちょっとなんだから、もう少しくらいいいじゃん……!」
必死に掛け布団をつかむ私の抵抗も空しく、無理やり起こされて、寝ぼけているまま歩いていくことになった。
「ねむ~」
「すずったら、二日寝て、また寝たのに寝不足なの?」
「そうなのかも」
なんとか歩いてる状況だけど、時々何もないところでつまづいて転びそうになったり、頭が重くなって舟を漕いでいたりする。
でも、また寝る前にちゃんと確認しなければいけないことがある。
「ねえねえアルテアーちょっと聞きたいことがあるー」
「いいよ。なんでも聞いちゃって」
「闇魔法って」
「や、闇魔法!?」
「ななんで突然そんなことを!?」
「えーっと、とと、あーそう! 火魔法の反対が水魔法でしょ!? だから光魔法にも反対の闇魔法とかそんなのがあるのかなーって!」
その場で考えたにしては、我ながら上出来な言い訳だと思う。
闇魔法って言っただけで、私の言葉をさえぎって言葉を重ねているし、いつもアルテアが出さないような声で慌てて聞き返して、隣にいたリルも会話に混ざっている。
ここでうっかり闇の妖精に聞いたなんて言ったら、どんな大混乱が起こるか分からない。
どうにかしてごまかさないと!
「あ、ああ、そういうことね! えーっとね、それは」
「何の話してるの? とても慌ててる様子だけど」
ルアラスーーーーー!!!
せっかく聞けそうだったのに。もうちょっとだったのに。
「いや~何でもないよ~」
リルが慌ててごまかしちゃったじゃない!
「それならいいんだけど、もうすぐそこに見えてきれいだよ。山脈」
「ほわぁ~」
いつの間にか目の前に、冴えた青い空をバックにした立派な峰々が見えるようになっても、声を掛けられるまで気づかなかった。
それにしても大きいなー……。
「スマホで写真撮りたい……」
「すまほ?」
「あっいや! 何でもない!」
ルアラスに不思議そうな目で見られた。
スマホとかない世界でも頑張ってるけど、こういう時は欲しいと思っちゃうよ。
しばらく、この景色を目に焼き付けておこうと見上げたまま突っ立っていたので、そのことに気が付かなかった、もしくは動かな過ぎて諦めたさんにんに置いて行かれたことを察するのが遅れたけど、我に返ったときに急いで追いかけた。
実は、鈴さんは武器を軽量化するというズルをちょっぴりしていました。




