言い伝えと、知らない場所。
ルアラスは不思議な節回しで話し出す。
「昔、ある村に愛らしい少女あり──」
──少女は紅と蒼、二つの色の瞳を持ちて、その力を示す。
だが瞳のせいで少女は一人になり、いつも一匹の白猫と過ごすこととなった。そしてある時緑の洞窟へと誘われる。黒い靄を纏った少年に出会い、少女が黒い鎖に触れると、すぐにそれは輝き、消え去った。そして洞窟から出ようとしたところ、目の前に壁が立ち塞がる。その時に光の精現れ、外に出ること叶う。その時光の巫女は楽園へと導かれん──
「と、これは伝説の一節なんだけど、こんな感じで続いていくんだよね」
「よくわからないところが何箇所か......」
「ああ、これは僕の推測なんだけど、黒い靄とか鎖とか言ってるのは何かの魔法で、光の精は光の妖精かな。でも緑の洞窟と楽園はなんのことか分からない。それと、この少女が最初の光の巫女だったと言われているんだ」
「へえー。......ってことは、ただの言い伝えじゃなくて本当の話!?」
「そうなるかもしれない」
「それなら何か残されてる資料とかがあるかも」
例えば、古記録みたいなのとか? 何か伝えられてるものはないのかな。だって光の巫女って貴重なんでしょ? そんなに重要な人のことを記録してないってことはないんじゃない?
そう伝えると、やはり思い当たることがあったらしく、ルアラスは答える。
「うーん、おそらくだけど、確かそれらしいものがありそうなところに心当たりがある」
「えっ、どこどこ?」
「......ごめん。やっぱりダメだ。危険な場所だから行くのはやめた方がいい」
「なんで〜? 日々この森を駆け回ってるおかげで私強いよ?」
「そうかもしれないけど......」
「剣も魔法も使えるし」
そう言っても一向に首を縦に振らないルアラスさん。
危険ってだけでここまで行かせないようにするなんて。納得いく理由を聞かせて欲しい。
「話を出したのはそっちなんだからさ。どうして行かせてくれないのか教えてよ」
「実は」
「──その場所っていうのは、遠いお山の向こう側」
「アルテア!? 話聞いてたの?」
「こんなところで話してたら丸聞こえだよ」
あ、そりゃそうか。こちらは開けたリビングでしたね。
心なしか、周りが静かな気がする。みんな聞いてたのかな?
「その場所はわたしも知ってる」
「遠い山......、前にうっすら見たような見てないような......。全然知らない」
「それだけ遠いんだよ。危険、遠い、あるか分からない。それでもいくの?」
「楽しそうだと思うよ? 探検でしょ」
そう言うと、アルテアはため息をついた。
「まったく、好奇心旺盛なのもいいけど程々にしてよね。......仕方ない。今回は行ってもいいよ」
「やった〜!」
「──本当ですか? やめておいた方がいいと思うのですが......」
「そのかわりにわたしもついていくし、他の誰かも連れていくこと」
「誰でもいいの?」
「ある程度は」
「そ、れ、な、ら」
誰を呼ぶかはもう決まっている。私がいちばん仲の良い、リルだ。
絶対にいた方が楽しい。
「リル〜! いる?」
「......能力は安心だけどふわっとしてるからそこは少し不安」
と、誰かがつぶやいた。
「そこはしょうがない」
「──は〜い。呼んだかな〜?」
パッとその場にリルが現れた。噂をすればってやつ?
「うん、呼んだよ。えっとね、一緒に冒険しない?」
「冒険?」
リルはイマイチよくわかっていないらしい。冒険は冒険だ。
「詳しくはアルテアさんから〜……どうぞ!」
「省略しすぎてるし人任せ......。簡単に説明すると、北の山脈の向こう側に行くんだけど、危険だから誰かも一緒に行くって話になって、それですずがリルを選んだから一緒に冒険するってなったの」
さすがアルテア。わかりやすい。
「そういうことね〜。わかった〜」
「了承も得られたし、早速準備しないと!」
「早いって。もう少し説明させて」
せっかくいく準備をしようとしたのにルアラスに止められた。
「今から行くのは、この森をずっと北に行くと見えてくる山脈の向こう側だ。だから気候も違うし景色も違う。北に向かうから、進むにつれて徐々に気温が下がるかもしれないことも考えて、動いて欲しい」
寒さ対策をしろと。でももう夏だよね。
「夏だからって薄着で行かないでね」
ルアラスがこっちを見て言ってくる。
「寒いからね」
言い聞かせるように言ってくる。




