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13話:使い捨ての用兵


「またよろしくお願いします、中尉殿」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 騎士デラムに答礼をしながら、レフィは彼の背後に控える兵たちを見た。

 装備は整っているように見えない。ある者は手甲が無く、またある者は兜が無い。中には怪我をしたのか包帯を巻いた兵も見えた。

 彼らは皆一様に暗い表情を浮かべていた。死を待つ罪人とでも表現しようか。

 そんなどうにもならない絶望を孕んだ顔をしていた。


 兵士たちは運良くあのブレスから生き残れた者たちであり、また運悪くそれを咎められてしまった者たちでもあった。

 どうやって生き残ったのかは問題ではない。

 あの時死ぬはずだった彼らは、死ぬべき時に死ななかったという一点をもって逃亡の嫌疑をかけられてしまった。


 逃亡兵。


 兵士にとっては忌むべき汚名である。

 それは仲間を見捨て、己れを哀れんだ弱卒の証だ。


 人同士の戦争であれば即刻死罪とすらなるそれは、しかし逼迫した現状においては処分が保留されることが間々あった。

 仲間内で命を奪い合う余裕は無く、またそもそも逃げられることが少ないので逃亡か判断がつきにくく見逃されるのだ。

 ただ、今回はレフィたちに合わせて懲罰部隊を結成する形になったために、彼らは処分から逃れられなかった。


 そういう意味では、彼らを絶望の淵に叩き込んだのはレフィたちということにもなる。


(うーん、そんなつもりはなかったんだけど……)


 そこで1つ気付いたことがあった。


「デラム殿はどうしてこちらへ?」


 騎士デラムは逃亡兵でないはずだ。

 護衛としてレフィに付いていた彼は任務を果たしている。だと言うのに懲罰の対象となるのであれば、それは信賞必罰のシステムが瓦解したという事になってしまう。第四師団がそこまでダメになったと思えないし、そうなったとは考えたくなかった。

 つまり、レフィからすると彼がここに居る理由が無いということだ。


「……ははは。いや、中尉殿を護衛するのが任であったならば最後まで責任を持て、と言われてしまいましてな」


「あ、それは……。ご迷惑をおかけします」


 どうやら、理由はあったようだ。

 彼は被害者になる。レフィたちの。


 巻き込まれてしまったわけだ。


 そんな風に言われてしまえば嫌だとは言えまい。人としても騎士としてもだ。

 仮にレフィたちがむくつけき大男であったならば話は変わった可能性がある。だが、スティはともかくレフィの見た目は少女もいいところだ。それもかなりちみっこい。

 死地に向かうのを捨て置いては、帝国軍人として名が廃るというわけだ。


「ハハハッ! 頼りにしてるぞ、騎士殿!」


 なんでコイツは上機嫌なのだろう。

 少しは気を遣え、と大口を開けて笑うスティのことをレフィが睨め付けると、デラムは微力を尽くしますよと穏やかに答えた。

 器の大きな人だと感心して見ていると、彼の目は死んでいた。

 どうやら諦めているだけのようだった。





 デラムからすれば、終わったはずの仕事が蘇ってきているので歓迎は出来なかった。

 それが死地に赴くも同然となれば尚更だ。

 すぐにでも逃げ出したいが、セベルストルには妻と娘が居る。2人のことを思えば、問題の解決に向かうレフィとスティに協力をする以外の選択肢は無かった。



 デラムは騎士である。

 帝国から身分が保証され、軍ではそれなりに名の知られた男である。だが、地位自体はそこそこのものだった。

 偉くないわけではないが、便利遣いされてしまう程度である。


 そんな男の家族が、都市の危機で優先的に逃がしてもらえるとは考えられない。絶対に、高官とその家族の方が優先される。

 もしかすると、デラムだけは逃げられるかもしれない。これでも騎士だ。戦力として惜しまれたり、まだ使い道があると思われたりしていても不思議はない。

 しかし家族も一緒には無理だ。一度に転移できる人数の制限がある以上、取捨選択がなされるのは想像に難くない。と言うか、それが自然だ。

 そして、デラムの家族は外されてしまう側であろうことも確信が持てていた。




「それで、我々は何をすれば?」


「あんたにゃ、後ろの連中の指揮と退路の確保を頼みてぇ」


 レフィを置いてスティが話を進めるが、それは既に2人の間で取り決めたことだ。

 どうしたって、戦場での『主』はスティだ。レフィは良くて『補助』、もっと言えば『おまけ』に過ぎない。

 だからレフィは、判断から交渉や指揮、それから作戦そのものすらスティに一任した。

 全権委任。

 白紙の委任状を渡したのだ。いや、口頭でだが。

 スティはそれを受けて、腹を抱えて笑いながら勝利を約束した。彼の中では勝つ算段が組めているようであった。


「しかし……。ヴィヘイレンまでの道中は? 今は姿が見えませんが、竜擬きの襲撃もありましょう」


「あぁ。行きはこっちで受け持つから、帰りだけ頼むわ」


「それでは、さすがの貴方と言えど消耗が避けられないのでは?」


 レフィも同意見だった。なんなら、デラムはスティを持ち上げ過ぎな気もする。

 今だってこの男は、軽口を叩きながらヘラヘラとしているし。


「しかし散発的に襲い来る敵に対処しながら我々を守るなど……。確かに貴方は竜を複数同時に相手取れるほどです。それでも反対せざるを得ません」


(いや、そうだった)


 スティは竜に囲まれていようと勝てることを、昨日実際に目にしたばかりだと言うのにレフィはすっかり失念してしまっていた。

 本人は気にして見せないが、考えてみれば帝国にとって、いや人族全体で見ても大戦果だ。

 デラムが戦力として信を置くのも理解出来た。同時に、温存したくなる気持ちも。

 最大限の働きをしてもらおうと考えているのだろう。

 だが、スティも譲らない。


 彼が言うに、デラムや兵士たちに行きを任せないのは巻き込まないためだとのことだ。

 ヴィヘイレンの竜と対峙すれば、確実に周囲へ影響が出る。それから逃れるために離れて待機するのであれば、待機地点から竜の元まで結局最後は自力で進むことになる。また、竜と接敵してからでは待避が間に合わない。

 ならば、確認出来る敵影の無い内に素早く目標地点までの移動を済ませてしまうべきだ。

 スティはそう主張した。



 温存して速度を落とすか。

 速さをとって消耗を必要経費とするか。



 デラムとスティはそれを巡って意見を戦わせているわけだった。

 そして両者、平行線である。



 そうして、決着はレフィの手に委ねられた。

 こうならないようにスティに任せたはずなのに、と思わず溜め息が出た。


「デラム殿、ここはスティに任せてください」


「中尉殿」


「出来ると言うならやってもらいましょう。幸い、不可能ではないだろうと分かっているのですから」



 不承不承とした様子で、デラムは頷いた。

 話は終わりだ。


 これで作戦は決まり、行動に移す時が来た。




ご覧いただきありがとうございます。

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