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第98話 出撃

 アレイン平野に位置するレギオンの街には、防衛設備として街の一部が街に偽装した防衛兵器がある。

 街並みを作る建造物の数々、その一つ一つは一般的な建材に見せかけた防壁であり、その内側には数々の兵器類を搭載している。

 正式名称「正体無き硝煙の街(リゲイン)」。

 それらは効果覿面(てきめん)に活用されるべく、すべての建造物が街の土台部分から敷かれた軌道レールによって可動し、街の形や通路が入れ替わるのだ。


 その日、レギオンが有角人種の国、アーバンクレイヴへと向かう日。


 正体無き硝煙の街(リゲイン)は夥しい数の艤装街を区画ブロックごとに可動させ、街の一角に通路を集める。

 建造物が立ち退いた余白のマスに、一本の線が現れる。

 それは外へ向け開かれ、レギオンの地下設備であり本拠地、インテグラル・レギオンに格納されてあったアザールシップと従属船をの数々を地上へと浮上させる通路、その開口部であった。


 街の中から突如として巨大な浮遊船団が姿を現したのだ。


 アザールシップの船長は船首に立ち、高らかに告げた。


 「「アザールシップ、発進!!目的地はアーバンクレイヴ!!!」」


 大きな甲板に並ぶ戦いへ赴く者たちはその声に続き次々に叫ぶ。

 凄まじい熱気が船全体に伝播し共鳴する。


 広い蒼穹を征く空中船団は、かくして魔女の待つ城へと向かう。


 その船団に、追従する光が一つ。

 

  光が尾を引き飛行するそれは、脚部を反動推進ブースターと変化させたヌルと、そのヌルの両腕に抱えられたアルナレイトであった。


 「「ゃっぱこええええっ!!!!」」


 命綱もなしに両腕で抱えられたアルナレイトは、雲の上を飛行するヌルにしがみついていた。


 「暴れるな、落ちるぞ」

 「ひぃいいいいい!!!」

 

 その様子を確かめに来たユウトは、背中から猛禽の物とも異なる、鱗の生えた、しかし異様な翼から光を放出しながら並行飛行する。


 「あっははは!なっさけねえなぁ!」

 「仕方ないだろ!!!ってヌル!!もうちょっとしっかり持ってくれ!」

 「暴れるなと言ってるだろう。落とすぞ」

 「なんでそんな落ち着けるんだ!!??」

 

 高度は1万9000m。地面が霞み雲海が眼下にあり空が青く澄み渡る。

 落下すれば死は免れない高度だ。


 「そりゃあ落ちたら痛いだろうけど、死ぬわけじゃねぇしな」

 「ああ。同感だ」

 「なわけねぇだろうがァぁぁぁぁっ!!」


 ユウトとヌルにとっては、この高度からの自由落下はあくまでも痛いだけ。ダメージ足りえない。

 

 「んじゃ、俺は船に戻ってるぜ」

 「ああ。そうしてくれ」

 「ひぎゃあああああああ!!」


 大声で叫ぶアルナレイトを他所に、ユウトは光を放出して加速し、ジェット機のように船へと飛んで行った。


 それから数時間後、アーバンクレイヴを目視可能な距離まで入ったため、光歪曲隠蔽術式を展開し船の姿を隠すと、イオラの索敵から得ていた地形情報をもとに部隊を陣形に展開した。

 

 展開された部隊は、


 包囲網形成と第三勢力による妨害を阻止するユウト。

 王城の上空にて光素の結界を形成した。


 バルブゼス、アルナレイト、ゼディアスの元傭兵に加え、五栄角たちは王城へ突入する白兵戦部隊。


 ミタラ、ヌル、イオラはニーアを仕留めるべく王城を一望できる位置に撃滅級兵器を設置し、イオラはその位置に面する森からの襲撃に備えた警戒態勢を取る。


 エスティエット、レアン、レグシズはバルブゼスの白兵戦部隊のバックアップ。


 今回の作戦に参加していないものは全員がレギオンの街の護衛にあたっており、レギオンを攻められたとしても挟撃を取れるようになっている。


 城下町と王城は切り出されたような山にあり、王城は断崖絶壁の上に立っているので、城下町からの侵入経路以外は不可能だった。

 理外権能で通路を作ってもよかったが、何千mとある階段を理外権能で作るのは精神力の大きな消耗になるので避けたい。

 魔術は感知される可能性があるし、何よりエスティエットの少ない魔力量を消耗したくはないし、策戦を大幅に変えるのは危険すぎる。

 ゲームのRTA(リアルタイムアタック)だってぶっつけ本番のオリジナルチャートで行くのは危ない……。

 それが現実ともなれば、なおのことだ。


 部隊展開中、アルナレイトはそんなことを考えていたのだった。


 ………


 ……


 …


 全員に事前に手渡された通信装置から、アルナレイトより作戦の開始が告げられる。


 【各部隊に告ぐ。これより白兵戦部隊は城下町への侵攻を開始する。

 ユウト、異常があれば適宜報告してくれ】

 【あいよ。王城を見下ろしていて気付いたんだが、イオラの情報通り霧のようなものが出ているみたいだ。

 索敵系魔術は一切効果がない。霧からはやべえ気配はしないが、一応気をつけろよ】

 【ああ。了解した】


 イオラ、ヴェリアス、フェリフィスの先遣隊を放っておいたのだが、彼らの情報には外部からの索敵魔術、スキルを無効化する霧があるとの情報があった。


 一度目の調査の時には無かった紫色の霧。ヘッドギア越しには見えているが、それがどういうものなのか。


 俺は城下町と王城を覆う霧を〔解析〕した。


 〔解析:強欲・瘴気煙霧(マモンズミアズマ)

 ・意志抵抗(レジスト)力が低いものに生命体の三大欲求を暴走させる効果をそれぞれ付与されている煙霧〕


 と情報が出てきた。

 理外の力で消し去ることはできるが、それはあくまで俺の体に触れる部分の霧だけであり、すべてを消すことはできない上、消すことで何が起こるかわからない以上消すべきではない。


 俺は隣にいるバルブゼスと傭兵たちを静止させその霧の中へと一歩を踏み出す。


 俺のヘッドギア……多機能補助情報端末(アウル・スティルグ)にヌルから全部隊への通信が入る。


 【こちらでも霧の解析が完了した。

 その霧には意志抵抗レジスト力が低いものに生命体の三大欲求を暴走させる効果をそれぞれ付与されている。

 精神を蝕み肉体に影響を及ぼす”精神浸食性”を確認した。

 気を強く持っていてもおそらく霧の中に居れるのは二時間が限界。

 よって作戦可能時間は二時間程度だろう……だが】

 【【了解!】】

 【おいまて、まだ続きが………】


 ヌルの情報を全員が共有したところで、バルブゼス達が煙霧の中に入ってきた。

 

 「うっわ……いやな気配がビンビンしやがるぜ……」

 

 バルブゼスはああ言っているが、俺は理外の力を持っているので体に触れる部分の煙霧とその効果を消し去っているので、何も感じられない。


 「体調が悪くなったらすぐに言ってくれよ。理外の力なら治療できるかもしれない」

 「その時は頼む。んで、どうする?

 流石に王城までの道のりをたった2時間なんて無理に決まってる。俺達はアルナレイトで回復できるが、団長達は持たないかもしれない」

 

 そう考えているところに、エスティエットから通信が入る。


 【バルブゼス、アルナレイトさん、聞こえていますか?

 エスティエットです。

 既に先行している二人はたぶん、我々後方支援部隊を心配されていると思うので言っておきます。

 煙霧の効果を引き起こす魔力の働きを阻害する術式を編纂しましたので、半日近くは活動できます。

 アルナレイトさんはともかく、バルブゼス。皆さんにも術式情報を伝達しますので、展開のほどを】

 【おお!サンキュー。団長!】


 ヘッドギアを介した視界に魔力の線が浮かび上がり、複雑な魔法陣が浮かび上がる。

 この世界では魔術陣というらしいが、見た目は俺のイメージとほぼ同じ、光る線が円形になって、複雑な模様が走っている。


 【にしてもすごいですね……ヌルさんは。

 ほんの数秒で霧を構成する存在組成を解析して僕に情報を送ってきて、なおかつ阻害術式の編纂までお手伝いしてくださるなんて……】


 構築された術式は編纂者の精神の周囲に入り込もうとする有害効果の侵入を阻み、魔力を使って浄化する効果だそうだ。

 なんでもヌルは、俺のヘッドギアから成分を解析し、その情報をエスティエットへ送って、エスティエットに効果阻害術式を編纂するのを手伝ったらしい。


 【最後まで話は聞け。いいな?】

 【【……はぁい】】


 まるでお母さんに怒られるような返事を全員が返したところで、ようやく全員が王城への侵攻を開始したのだった。


 




 ~現在の状況~


 ・アルナレイトたち白兵戦部隊とエスティエットたち後方支援部隊は、城下町と王城を取り囲む有害な煙霧の効果を阻害する術式を用いて霧の有害効果を打ち消した。

 王城に向かうために通らなければならない城下町、その最初の道のりを踏み出した。


 ・ミタラ、イオラ、ヌルは王城を一望できる位置にて撃滅級兵器を展開し、その隙を伺っている。


 ・ユウトは光素結界を展開し、第三勢力の介入阻止および包囲網の形成を行っている。

 

 

 



 王城、玉座の間。這いつくばったロディナンティスの上に足を組んで座る、黒髪短髪、黒曜石のような二本の角を生やす女性の姿があった。鋭い眼光を宿し、その口元には妖しい笑みを浮かべている。


 そのものはニーア。軍師と呼ばれた者だったが、その実は異なる。


 ニーアの本当の名前は、ニーア・マモン(強欲)

 その名に罪の名を冠する、魔の存在である。


 魔に冠するニーア・マモンの前にひれ伏している、三人の騎士。


 「調子はどうや?」

 

 三人は顔を上げ、ニーアの言葉の意味を理解する。

 三人はニーアによって力を与えられ適応した、彼女の騎士なのである。


 「ええ。力が漲ってございます………!!」

 「本当に……今にもはじけ飛びそうなほどに……!!」

 「我々にこのような素晴らしき力を与えてくださり、ありがとうございます!」


 全員が再び深く頭を下げ、ありがとうございます!!と忠誠を誓う。


 「ええてええてそない気にせんでも。で、装備は馴染んだん?」

 「ええ。この装備はまるで肉体と一体化しているかのように感じます!」

 「つけていないと違和感を感じるほどですとも!」


 ニーアは三騎士が身に着けている装備にも力を与えており、強化しているのだ。

 元が帝国製の装備ということもあって、強化しやすく馴染みやすいものであった。


 「強欲の煙霧にそれぞれ効果を付与してるならもう気づいてるとおもうけど、カモがネギしょってきよったわ。

 ちょっと気性荒いカモやけど、アンタらならまあいけるやろ?」

 「ええ!無論でございます!!」

 「そぉけ。なら言って()ぃ……えーと」


 ニーアは頭を悩ませていると、手のひらに握りこぶしを軽く打ちつけ、思いついたように言う。


 「アンタら強欲の三騎士に命じる。阿呆共を打ち取れ!

 殺しも犯しも好きにしい!!」

 「「……!! はい!!」」 


 意気揚々に玉座の間から飛び出すように出ていった三人。

 惰眠の騎士、ドルノレド。不貞の騎士、フィゼン。過食の騎士、オーヴィマ。

 

 首都覆う強欲・瘴気煙霧(マモンズミアズマ)に欲求を暴走させる瘴気を与えている三人の騎士である。

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