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第94話 姿見えぬ会敵

 ヌルが報告してくれた、カクテル・ガールマンに次ぐ新たな訪問者。

 それは奇しくも、以前アレクを森の中で追放し、その命を絶とうとしたも同然の者達だった。


 彼らは、冒険者パーティ。名をエリミネイト。

 リーダーのカロライン。その他3人で構成されるパーティだった。

 彼らを冒険者ギルドへ突き出した時、エスティエットの話では


 「おそらく地下牢に禁固され、ギルドの発行する贖罪事項を満たせば謹慎が解かれます」


 とのことだった。

 贖罪事項とはギルドが独自に設定した目標で、かなり厳しい条件となっているがそれを満たせば、また冒険者として活動することが許されるというものらしい。

 最短でも半年近く時間がかかることから、彼らがなぜこの場にいるのかなんとなく察しがついた。


 とはいえ本人たちの口から話を聞くのが一番だ。

 もっとも、理外権能が通じる彼ら相手には、その記憶を〔解析〕すれば俺には隠し事などできないのだ。


 俺は最近イオラやミタラに師事して彼らの技術を教えてもらっている。

 今回カロラインを騙して奇襲に成功したのは、イオラの技術を真似したからだった。

 

 残る三人はサービスと称した食事の中に麻痺毒を混入させてもらった。


 意識を失った四人を拘束し、インテグラル・レギオンの地下牢へと閉じ込めた。

 

 この世界では対象の状態を監視する魔術やスキルがあるとのことなので、その対策として、本来科学技術ではどうしようもないはずのスキルや魔力に対して、効果を発揮する機巧種(エクス・マキナ)の技術を用いて「スキル無効化空間」「魔術無効化空間」を同時に展開し、彼らから情報が漏れる心配を無くしてから尋問することにした。


 地下牢に向かう通路で鎖につながれた4人の騒ぐ声が聞こえたが、俺の足音が近づいてくるにつれ声は収まっていく。


 「………なあ、アルナレイト。

 会ってほしい人がいるって言ってたけど、まさかあいつらじゃないよな?」


 俺はこの尋問にアレクを連れて来た。

 もちろん嫌がらせなどではない。アレクは一時とはいえ彼らと命を預け合った仲なのだ。

 言葉の仕草や反応で嘘か本当か見分けてもらおうと思った次第だ。


 「感がいいな。その通りだよ」


 理外権能を使えばその必要もないのだが、俺としてはこんなやつらにいちいち理外権能を使いたくない。


 「……お前ら……なにやってんだ」


 通路を曲がってすぐの地下牢にいる4人を見たアレクは顔を顰めてそう言った。


 「こっちとしてはいろいろと忙しいんでな。

 お前らに割いている時間はあまりない。なので、さっさとお前らの目的を言え。

 さもなくば……わかるよな?」


 俺は当時の記憶を思い出す。

 アレクを縛り付け、殺そうとしたあの時の光景を。

 丹田あたりに生じる怒りの感情。それをすべて殺意に変えて眼光に宿らせ、4人を見つめる。

 にらみつけたりはしない。それは怒りに他ならない。

 己の殺意の炎を相手の心に火をつける。


 「「「「ひ、ひぃ……!」」」」


 あっけなく恐怖に心が支配される4人。

 やはりこいつらは大した玉じゃない。そんな奴らが仲間の命を葬れるとは正直思えないが、環境は人を変える。時と流れはそれほど大きな力を持つ。


 アルナレイトが4人を殺意で振るい上がらせた時、アレクはその冷酷な殺意に、目の前の男が本当にアルナレイトなのかわからなくなるほど、雰囲気が変わったのを感じた。


 (……これが、敵に殺意を向けるときのアルナレイト……なのか)


 冷酷無比にして無情。ただただ殺意を放ち、敵を圧する。

 アレクがこれまで会ってきた存在の中で、一番の恐ろしさを放つ者であった。


 「わ……わかった、だからその目をやめてくれ……!頼むよ!」

 「う、えぐぅぅ……ひぃ……」

 「……ッ……!」


 アルナレイトの殺意に当てられた者達は皆、体を震わせている。

 冷徹な殺意は恐怖という名の冷気を帯びた鋭い針となって肉体の芯にまで深く突き刺さって心身共に深いところから体を震わせているのだ。

 

 「言っておくが嘘は通用しない。

 それにお前らの大元に連絡が取れないように細工もさせてもらった。

 ただ真実を話すことだけが、お前らの生き残る道と知れ」

 「……ああ。俺達の目的は……―――――――――

 ―――――――――魔物の村の調査だ」


 アレクはアルナレイトが話していたことを思い出す。


 (確か、ここレギオンから遠くない場所に”知性ある魔物の群れ”を村として認識させる、という話をしていたな……。

 その作戦が功を奏したというワケなのか……?

 だが、まさか魔物の村の調査に来たのがこいつらだったとは………)


 「では、この街に立ち寄ったのは?」

 「アリアロス大森林を抜けて、俺たちは疲弊しきっていた。

 だからこの街を見つけたときは喜んだんだ。

 休息もとれるし何より、このあたりに魔物の村があるっていう話だったから、その調査拠点として利用させてもらおうと思ったんだ……。

 まあ実際は………お前たちのクモの巣だったわけだが」

 

 (どうやら彼らはこの街の調査に訪れたわけではないらしい。

 であれば、こんな拷問まがいのことをする必要はないのでは……。

 いやまてよ……もしかして、アルナレイトは……)


 アレクはレギオンに来てからのアルナレイトを見ていて思ったことがある。

 それは、アルナレイトは仲間をとても大切にしているということだった。

 それも只大切にしているわけではなく、度が過ぎているほどに、と感じた。

 まるで自分の命よりも大切にしているかのような印象を受けたのだが、今の行動の理由にも結び付いていた。


 (……まさか、エリミネイトが俺に復讐しに来たと、そう思ったからこうして拷問にかけたのか……?

 俺の身を……案じてくれている、と?)


 アルナレイトは敵対者に容赦しない。だが、仲間にはとても優しい。

 当たり前のことのように思えるかもしれないが、アレクがエリミネイトに居たときは全くそうではなかったのだ。

 彼らはアレクに魔物の攻撃を押し付け、そして自分たちは連携も取らずに後方支援だけだった、なんてことはざらに起きていた。


 (……そうだったんだ。アルナレイトは俺のことを、ちゃんと仲間と思ってくれているのか)


 アレクはアルナレイトに置いて行かれたあの時、新しく得た仲間にすら裏切られた気持ちだった。

 だが、それは違った。アルナレイトは自分から誘えなかっただけで、ついてきて欲しかったのだ。


 (なんだよそれ……嬉しいじゃねえか、ちくしょう……!

 なんで俺はまだ、アルナレイトを疑ってたんだ………!)


 アルナレイトの行動の裏にあるものを理解したアレクは、アルナレイトが今彼らに殺意を向けているのは、仲間であるアレクをこれ以上害させないため。つまり、自分のことを心配しての行動だということを知って、胸の内が熱くなった。


 (……決めた……俺なんかが力になれるのかはわからないが、アルナレイトの目的に協力したい……!

 俺のことを大事に思ってくれる奴のために、微力でも尽くしたい……!)


 そう決意を表明するアレクを他所に、話は進んでいく。


 「これは確かな筋からの情報提供だが、お前らはアレクを追放した罪を罰され、謹慎中だったはずだ。

 なのになぜ、依頼を受けられた?」

 「それには込み入った事情があるんだ……。

 ギルドが示す贖罪事項には、ギルドのために貢献することという項目が近年追加された。

 用はギルドのから直々の依頼が来るんだ。その依頼を達成すると、晴れて謹慎は解かれる。

 俺達が魔物の村の調査なんて言う危険窮まる依頼を受けていたのは、ギルドの依頼だったんだよ」

 「そうか。その依頼をお前たちにした人物の名前は?」

 「……いや、依頼書にはギルド本部からとしか書かれていなかった………。

 お偉い様からの依頼ではあると思われるが…………それ以上はわからない」

 「お前ら以外にこの依頼を受けた奴はいるのか?」

 「それも不明だ………」

 

 冒険者ギルド、その本部が直々に依頼してくるということは、本部まで魔物の村の情報はわたっているということだろう。無論それを騙っている可能性もあるが、なんにせよ、冒険者がやってきた時点で周辺国に魔物の村の存在は認知されたといっていいだろう。

 それに、冒険者に依頼を出したやつが頭の回らない人物でもない限り、今後第二、第三の冒険者がやってくるはずだ。まさかたった一つのプランで物事を進めようとは思わないだろう。

 何か重大な物事を進めるにはセカンドプランを用意するのは当たり前だ。

 

 「……ふむ。そういえば、お前らは冒険者ギルドの中でどのくらいの階級なんだ?」


 たしか冒険者ギルドには、依頼の危険度と冒険者の能力を見極め、安全に依頼をこなせるだけの指標が存在していたはず。

 冒険者には全二十四階級が存在するらしく、最高位の冒険者にもなればいわゆる”勇者”とまで言われるほどの強さを誇るらしい。

 階級の名前は冒険者の身分証となるプレートに用いられる材質の硬度で決まっているらしい。


 第一階級には、

 銅級(ブロンズ)鉄級(アイアン)白銀級(シルバリック)黄金級(ゴールデン)白金級(プラチナム)金剛級(ダイアモンド)までが存在しているらしい。


 第四階級まで存在し、それぞれ六つの等級が存在している。

 最高位の冒険者には原無概鋼(ハヴィルニウム)という聞いたことのない金属の名前の階級が与えられる。

 過去にも現在にもたった一人だけがその階級に至ったらしい。伝説と語り継がれる冒険者が存在するらしい。

 

 「………俺たちは白銀級(シルバリック)の冒険者だ」

 「オレは鉄級(アイアン)だが、エリミネイトは基本白銀級(シルバリック)で構成されている中堅どころの冒険者だったから」


 全二十四階級の冒険者の内、最底辺といってもいい三等級の冒険者だけがここに派遣されるわけはない。

 であれば、今後このレギオンにやってくるであろう冒険者はそれ以上の実力者の可能性が高い。


 「なるほど。わかった。

 お前らはあくまで魔物の村の件でこの街に訪れただけの冒険者で、アレクの情報を追ってきたというワケではないのだな?」

 「ああ!信じてくれ!」

 

 カロラインの言うことは〔解析〕の権能の反応を見ても噓偽りはなかった。

 

 「お前の発言は真実のようだ」

 「よかった………これで解放される………!」

 「何を言ってるんだ?」

 「え?」


 何がどうあれ、俺がここで彼らを拷問にかけたのは事実だ。

 冒険者ギルドに戻り次第、彼らはこの街に調査隊を派遣するように要請するだろう。

 もしギルド本部から調査隊が来れば、対処しきれるかわからない。


 今のうちに口封じをしておくべきだろう。


 「……!?

 待ってくれ!頼む!ギルドに帰ってもここで起きたことには絶対に他言しない!」

 「お前がそうだとしても、帰った後に心変わりするかもしれない」

 「神に誓う!絶対に俺は他言しない!」

 「そうか。だとしても他の奴らは?」

 「あいつらにも誓わせる!だから……頼むよ……!!

 殺さないでくれ!お願いだ……!!」

 「……ふむ。それをどう証明する?」

 「……それは……!」

 「なあ、アルナレイト」

 

 俺は抜刀しようとしていた刀をアレクに止められる。


 「一応はさ、元は仲間だったんだ………。

 目の前で死ぬところは見たくない」

 「そうだったな。配慮が足りずすまない。アレクは外へ出ていてくれ」

 「待ってくれ!頼むからさ!」

 「死にたくない!嫌だッ!!!」

 「アレクにしたことは本当に申し訳ないと思ってる!でも俺達だって仕方なかったんだ!」

 

 カロラインの声に俺は、腹の裡側にパチッと火花が瞬く。


 「――――仕方――――なかった?」

 「「「―――――――ひぃ”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”ッ”ッ”ッ!!!!」」」 


 汚い、濁音混じりの悲鳴が薄暗い地下牢の中でただ反響する。

 遠く遠くまで響くその音は、しかしこの場にいる誰以外にも伝わることはない。


 「しまった。いつがしかの殺意が無意識に漏れていたようだ」


 漂う刺激臭。汚物をまき散らすエリミネイトの面々。


 「とはいえ聞き流せないな。仕方ないとはどういうことか話せ」

 「――――――――俺たちは唆されたんだ……あの男に」

 「……あの男?」

 「ああ……あんな化け物みたいな魔力量と威圧感に脅されちゃ、従う他なかったんだ!」

 「助かりたいがための妄言か」

 

 刀を引き抜く。刃を見せつけられた彼らは目を見開き牢獄の隅へと一目散に逃げだす。


 「待ってくれ、アルナレイト!」

 「……すまない。どうも今日は気が回らないらしい。

 2、3分くらいなら堪えられる。今のうちに……」

 「違う、アルナレイト。

 俺はカロラインの言葉が嘘のように思えないんだ」

 「なんだって?」


 アレクはカロラインの言葉を思い出す。


 「……俺たちはお前の命より、俺たちの命を選んだ。

 こうなるのは定めだったんだ、そう言ってたんだ。

 もしかすると。こいつらは本当に脅されているのかもしれない」

 「だが、こういっちゃ悪いが、高階級の冒険者ではないお前を裏切らせて殺させる目的はなんだ?」

 「解析、してみてくれよ。それですべてはっきりするんだろ」

 「そうだな」


 俺はカロラインの言葉の真偽を〔解析〕したが、結果は真実だった。

 つまり、彼等は本当に何者かに脅されてあの時、アレクを追放して、その上殺害しようと思っていたということになる。


 「カロライン。お前達を脅した男の名前は?」

 「そんなの知るわけない!」

 「……ふむ」


 何者かに脅されたアレク追放。

 何か裏がありそうだ。


 「だが、拷問監禁してしまった以上はもうお前たちを出すわけにはいかない」

 「そんな……!」

 「じゃあな。せいぜい己の運の悪さを呪え」

 「クソ!ふざけんなよ!!」


 俺は四人に手を翳し〔分解〕と唱えた。


 ◆◆◆


 仄かな明かりが宵闇を押しやり、ベッドの上を暖かな光が照らす。


 「ふぅ……っ、そこそこ、いいね」

 「そうでしょうか……あまり慣れていなくて……」

 「本当?すっごく上手だよ……ルナ」

 「フフ、そういっていただけると大変うれしく思います」


 (てっきり久々に腰を軽くできると思ったが、これはこれでいいな……)

 

 装備を外したカロラインは湯浴みを終えると、そのままベッドに寝転がった。

 そうするとルナが「仰向けに」というのでいう通りに従うと、のままルナの背中が手に触れる。

 すると、凝り固まった全身を揉みほぐし始めた。


 「こんなに硬くして……相当お疲れのようですね」

 「……でもこのまま、眠れそうだよ……っ……」


 (たしか、人体の構造的にはこのあたりに疲労が蓄積するはず)


 ルナに扮したアルナレイトは、最近になって妙な感覚を得ていた。

 それは、相手に触れるなり、見るなりすれば、構造がなんとなくわかるというものだった。

 見るより触れる方が弱点がよくわかる。それがなぜ今になってそうなったのかはわからないが、得た感覚を生かして、カロラインの体をもみほぐしていた。


 (……今のところ異常はないようだ)


 アルナレイトは冒険者パーティエリミネイトに理外権能を使用した。

 彼らの記憶、アルナレイトに襲われ地下に監禁された記憶を〔分解〕したのだ。

 その後即座に宿屋へ体を〔再構築〕したが、記憶障害になったり恐怖を思い出したりということはなさそうだった。


 「……すぅ……すぅ」


 構造を理解し徐々に疲労回復のつぼをついてやると、カロラインは寝息を立てて眠り始めた。


 「おやすみなさい……冒険者様」


 睡眠直後は記憶がないことが多いらしいが、一応最後まで役割を演じる(ロールプレイする)


 部屋から出て、一応宿屋の主人としての仕事を終わらせる。

 そのあとは複雑に入り組む通路を進み、体をインテグラル・レギオン内の自室に〔分解〕〔再構築〕の瞬間移動を行う。


 「……アレクを狙った人物の狙いはなんだ……」


 カロラインからの言葉が耳から離れない。

 なぜアレクを狙った。その理由は、目的は。そうすることで何に影響を及ぼすのか。


 その可能性を何度も何度も思考し続けているうちに、俺はいつしか眠りについていた。


 何かを見落としていると、気づくこともなく。

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